転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第24話 北方決戦都市編(1)

 三年生の夏の初め、前世で言えば六月に当たる時期。

 おれたちは、王国北部の城塞都市にやってきていた。

 

 『相棒』の実働データを取るためである。

 戦闘用のボディをさらに発展させ、魔物と戦うための大型のボディを作り上げたのだ。

 

 あくまでも身の丈120センチメートルの作業用のメイドボディが本体だ。

 それが大型戦闘用ボディを()()ことによって、『相棒』は魔物と戦うためのちからを得る。

 

 何故、こういった換装形式を取るのかと言えば、魂と機体が不可分であるからだ。

 手足を交換するくらいならなんでもない。

 

 しかし、胴体を流れる魔素オイルが途絶えると、機体に宿った魂もまた失われてしまう。

 普通は、用途ごとに機工人形をつくる。

 

 しかし『相棒』の魂である虹色のコア結晶は、現在たったひとつしか存在しなかった。

 一応、他の高濃度魔素地帯で同じような魔素吸引器を設置し、周囲の魔素を空のコア結晶に吸引してしまえば、第二の虹色のコア結晶を精製できる可能性はある。

 

 ただ、それによって起こり得る不測の事態がね……。

 ジャングルの地下に存在した不思議な空間も、崩落で失われてしまったしね。

 

 魔素の変化が空間にも作用することは、すでに研究によって明らかになっている。

 しかし、場合によってはその周辺に棲息する魔物たちが暴走し、大暴走(スタンピード)を起こす可能性があった。

 

 この魔物の大暴走(スタンピード)

 場合によっては小国のひとつやふたつ、簡単に滅ぶというおそろしいシロモノなのだ。

 

 なので、虹色のコア結晶の精製方法を公表するのも、タイミングを見計らってのこととなるだろう。

 これは機を見て殿下にも伝えてあり、彼女も納得済みであった。

 

 納得する前に、「報告と連絡と相談をしなさい。こっそりとんでもないものをつくるな」と叱られたんだけど。

 あと、「今回だけは陛下にも黙っておくけど、次はないからね」とも釘を刺されたんだけど。

 

「きみたちが安全と節度を守って研究するぶんには、わたしは何も言わないよ。言いたくないんだよ……」

 

 と、妙に苦い顔をしていたが……。

 ははは、心配しすぎですってば。

 

「陛下、わたしには荷が重かったかもしれません」

 

「やっぱり殿下、おれたちのお目付け役だったんですね」

 

「わかっていたなら、もう少しそれらしく振る舞いたまえよ」

 

 おれたちごときにお目付け役なんていらないと思うんだけどなあ。

 と、相方とふたりで首をかしげていたところ……。

 

「そういうところだよ、そういうところ!」

 

 と何故か怒り始めたので、この話は以後、蒸し返さないことにした。

 そんなわけで。

 

 はい、城塞都市には、おれと琥珀の姫君に加えて、お目付け役として殿下もついてきています。

 他に、殿下の護衛として腕利きの騎士が五人ばかり。

 

 本当は兄上もついて来たそうにしていたのだが……。

 生徒会の方が忙しいらしくて、泣く泣くおれたちを送り出す側にまわったという経緯がある。

 

 そういうわけで、おれたちは北方魔物領土群との最前線に近いこの城塞都市で……。

 現在、絶賛籠城戦に参加していたりする。

 

「ははは、これはわたしも想定していなかったなあ」

 

 都市を囲む壁の上で、眼下に蠢く膨大な量の魔物たちを眺めながら、殿下が乾いた笑い声をあげる。

 数千を数える魔物たち。

 

 大暴走(スタンピード)であった。

 うん、本当に、困ったねこれ。

 

 

        ※

 

 

 誓って言うが、今回おれたちは何もしていない。

 というか、この城塞都市について数日、軽く『相棒』の肩慣らしをしただけで、本格的なものはこれからだったのだ。

 

 まず城塞都市の更に北、無数の魔物が棲息する北方山脈に築かれたいくつかの前進基地(アウトポスト)との連絡が途絶えた。

 この時点で、城塞都市を治める北方辺境伯は緊急事態を宣言、偵察部隊を各地にばらまきながら、外部で活動している者たちを城塞内に呼び戻した。

 

 おれたちも、そのうちのひと組だ。

 北方辺境伯としては、殿下とおれたちにもっと後方の都市まで下がって貰いたかったようだが……。

 

 南方の街道に向かった隊商が、暴れ狂う魔物たちに襲撃され、多大な被害を出して城塞都市に逃げ帰ってきた。

 よって殿下脱出計画は破棄。

 

 おれたちは進退窮まった状態で、籠城に参加することとなってしまった。

 なお、王都へは、飛竜便での第一報を届け済みである。

 

 そしてこの飛竜便であるが……。

 王都から城塞都市に帰還する際、大暴走(スタンピード)中の飛行型魔物の襲撃を受けて墜落している。

 

 そう、魔物には空を飛ぶやつらもいるのだ。

 しかも大型のものともなれば、全長十メートル以上ともなる。

 

 いまやこの地の制空権は完全に失われていた。

 この世界、騎士や貴族でも飛行可能な人はそこそこいるんだけどね。

 

 単独で空を飛びながら全長五メートルの大鷲や全長十メートルの空鮫と切り結ぶのは、かなり厳しいらしい。

 ちなみに空鮫というのは、口の中に無数の魔物を溜め込んだ飛行空母のような魔物である。

 

 たまに単独でふらふら魔物たちの領域から出てきて、深く浸透し、無防備な町を襲うことから特に災獣と呼ばれ、忌み嫌われていた。

 いやほんと、厄介なんだよこの空鮫という魔物。

 

 口の中にいる魔物はせいぜいヒトと同じくらいのサイズの小型ばかりなんだけどね。

 小型とはいっても、こいつらは一体、一体が魔法を使う。

 

 魔法が使えないそこらの兵士が戦えば、非常に厳しい戦いとなるのだ。

 そんな魔物が、何十体もまとまって、ろくに貴族もいない町を襲う。

 

 そんな町にも、騎士のひとりやふたりはいて……。

 彼らが命懸けて二体、三体を仕留めても、その間に無数の無辜の民が犠牲になってしまう。

 

 特に大型の空鮫――記録にある中ではおよそ百年前に出現した全長三十メートルの個体――は、たったの一体の浸透により小国が数日で滅んでしまったりする。

 ここまでの個体ともなると、口の中に中型以上の魔物が共生していたりするからね……。

 

 本当に、空を飛ぶ魔物はヤバいのだ。

 そんな魔物が、現在、全長十メートル前後とはいえ、おれたちから三体も見える。

 

 他にも、全長五メートル前後の大鷲や赤鴉、全長三メートルくらいの羽根鼠など合わせて、いまのところ魔物たちの空中戦力は二十体ほど。

 いまのところ、城塞都市全体を覆う薄緑色の結界に阻まれて近づいて来られないが……。

 

 こいつらが一斉に空から襲ってきたら、都市はなすすべもなく蹂躙されてしまうだろう。

 

「結界を維持している魔術師たちは、どれくらい保つんだい?」

 

 現場の指揮官である北方辺境騎士団の騎士団長に、殿下が訊ねている。

 精悍な顔つきの男で外見年齢は四十歳前後、身の丈二メートルの大柄な人物だ。

 

 笑うと顔中の古傷が歪んで、まるですごんでいるように見える。

 先ほど、雑談の中で「わたしが笑うと孫が泣くんです……」としょげていたのが印象に残っていた。

 

 ちなみに、結界というのは現在、都市全体を覆っているドーム状の薄緑色の膜である。

 魔物たちを退ける性質を持つが、ヒトであれば出入り自由という優れものだ。

 

「あと二十時間は保ちますな」

 

「その前に何とかしないといけないわけかい。展望は?」

 

「飛竜便が撃墜されたせいで王都からの返信がなく、希望的観測でしかございませんが……」

 

「それで構わないよ」

 

「陛下が飛行部隊を先行させる決断をしてくだされば、間に合うでしょう。しかし、準備に時間が取られれば……」

 

「結界の維持が間に合わない、と」

 

 そうなれば、地上と空中から魔物が城塞都市に殺到する。

 空と地上、どちらかならばともかく……両方からともなれば、かなり厳しい戦いとなるだろう。

 

「陛下は、わたしがここにいることをご存じだ。お見捨てになるような方ではない」

 

 殿下は笑い、騎士団長の腰のあたりを叩いて彼を励ます。

 うん、最初は肩を叩こうとしたんだけど、ちょっと背の差がね……。

 

 殿下もそんなに背が低いわけじゃないんだけど。

 この男がでかすぎるのだ。

 

「なに。いざとなれば、わたしが出よう。こう見えても、学院では空中戦(ドッグファイト)の講義でトップだったんだよ」

 

「実に頼もしいことですな」

 

 騎士団長の言葉はお世辞ではない。

 本当に頼もしいことなのだ。

 

 なにせ、殿下は王族で、その魔力量は現在、この都市にいる者の中でもダントツで高いのだから。

 ただ殿下の場合、いかんせんまだ若い。

 

 空中戦(ドッグファイト)に至っては、一度も実戦を経験したことがない、と言っていたので……。

 いくら王族とはいえ、経験を積まなければその才は磨かれない。

 

 殿下自身、去年の大鰐との戦いの後、自分が急速に強くなった実感があるって言ってたからなあ。

 ちなみにこれは兄上もである。

 

 いまや最上級生である六年生でも、兄上に武芸では敵わないというから……。

 弟のおれとしても、実に鼻が高い。

 

 えっへん。

 それは、さておき。

 

「空中戦用の装備は、さすがに用意していなかったな」

 

「今回の試験の項目にはありませんでしたものね」

 

 おれと琥珀の姫君は、揃って落ち込んでいた。

 せっかく『相棒』のお披露目ができると思っていたのだが、さすがに空の戦場は、現段階で想定していなかったのである。

 

「空を飛ぶ訓練もさせておりませんでした。これは来年以降の課題だと……」

 

「できることは、せいぜい飛び道具で援護くらいか」

 

「用意しておきましょう」

 

 おれたちがこそこそ話をしていると、殿下がこちらに向き直る。

 

「もしかして、その試作機を出撃させるつもりなのかい?」

 

「そのつもりだったんですが……まずいですかね」

 

「戦力になるなら、わたしとしては断る理由がないね。ただ、他の騎士たちとの連携は難しいだろう?」

 

「そうですね。機工人形同士の連携すら、まだテストしていませんから」

 

「となると、投入する場面は一考する必要があるね」

 

 うん、そうなんだよねえ。

 もう少しテストが進んでいればよかったんだけど……。

 

「とりあえず、どれだけの戦力があるか教えてくれるかい? 今回ばかりは、隠し事はなしだ」

 

「まあ、そうなりますよね」

 

 わりとガチで命の危機である。

 こればかりは、致し方なしだ。

 

 おれと相方は、一度、顔を見合わせた後、語り出した。

 語るにつれて、殿下の顔がジト目になっていく。

 




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