転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第29話 北方決戦都市編(6)

 ヒトの領域を守る戦いとは、すなわち王族の歴史でもある。

 全長十メートル以上の大型の魔物を単独で倒せる者は誰か、という話でもあった。

 

 おれも知識としては知っていた。

 二年前、殿下と兄上が魔物と戦うところを見ていたし、その手伝いもした。

 

 だが、本当の意味で王族の戦いぶりを見たのは。

 北方山脈からの大暴走(スタンピード)を相手にしたこの戦いが初めてであった。

 

 北方辺境伯の精鋭部隊が足止めし、殿下が一体ずつ大型を仕留めていく。

 おれたちと『相棒』もその手伝いこそすれど、殿下の圧倒的な打撃力なくして大型の討伐は難しいと痛感させられた。

 

 純粋に、火力が足りない。

 貧弱な武器や魔法では、その分厚い外皮を貫けない。

 

 魔物の攻撃を受け止めるだけの結界を張れない。

 避けるだけで、逃げるだけで精一杯になってしまう。

 

 パワー、機動力、そして防御力。

 そのすべてが足りない。

 

 殿下には、それがあった。

 膨大な魔力量にものを言わせて、他の全員で足止めした魔物たちを次々と仕留めていく。

 

 多少、危うい場面もあったが、それは彼女がまだ若い王族であるからだろう。

 本格的な大型の魔物との戦いは、まだ今日で二度目なのだから。

 

 その二度目でこれだけの戦果を挙げる王族も珍しい、とは後に知るんだけどね……。

 やっぱりこの人、王族でも相当な上澄みだよ……。

 

 魔力があってもそれを生かせないヤツだっているに違いないのだ。

 たとえば、ほら、ここにいる魔爵家なのに機工人形の魔力タンクにしかなってないガキどもとかさあ。

 

 なんて自虐は、さておき。

 最初の炎吹猛猪の討伐から三十分ほどで、すべての大型が討伐された。

 

 戦場全体を見渡せば、中型以下も、騎士団の他の者たちによって七割がた倒されている。

 機工人形の部隊は雲霞のごとく押し寄せる小型の群れをよく受け止め、地道に敵の戦力をすり減らしていた。

 

 決戦は、人類の勝利だ。

 あとは残った魔物を掃討するだけである。

 

「きみたちは壁の中に戻りたまえ。その機工人形、後ろの足を引きずっているじゃないか」

 

 殿下にそう言われ、おれたちはおとなしく『相棒』を下がらせた。

 実際に、激しい戦いでこの対魔物戦闘用ボディもぼろぼろだったのだ。

 

 収穫は大きかったが、いまは一刻も早くメンテナンスに入るべきだった。

 

 

        ※

 

 

 おれたちが下がってからしばらくして、壁の外で歓声が上がる。

 きっと、辺境伯閣下なり殿下なりが勝利の演説をしているのだろう。

 

「おれたちもあの歓声に混ざりたかったなあ」

 

「面倒ですわ、そのようなこと」

 

「疲れているね」

 

「ええ、少々。――戦場は、恐ろしいものでした」

 

「そうだね。家の人たちに守られて、魔物一体だけを相手にした時とは全然違った」

 

 『相棒』の点検をしながら、おれと琥珀の姫君は言葉を交わす。

 お互いに、ぐったりとしていて、もう宿舎に戻って眠りたいのだが……。

 

 せめて殿下に、ひとこと労りの言葉をかけたい。

 いや向こうからすれば余計なお世話かもしれないけどね。

 

「坊ちゃんたちの活躍、壁の上から見させて貰いましたよ。まだ学生だっていうのに、たいしたもんです」

 

 たまに、機工人形の技師たちが声をかけてくる。

 それらに相槌を打ちながら、『相棒』の修理をして待つことしばし。

 

「まだ宿舎に戻っていなかったのかい?」

 

 殿下が壁の内側に帰還した。

 さすがに、やつれきっているし、鎧もぼろぼろだ。

 

「本当にお疲れさまでした、殿下。だいぶ無茶をしましたね」

 

「ありがとう。でも、学生のきみたちほど無茶をしたわけじゃないさ」

 

「ここには兄上がいませんからね。兄上にかわって、せめて誰かが殿下を労わらないとと思って」

 

 琥珀の姫君も、殿下に優しい言葉をかけている。

 殿下は、「きみたちの誠意は受け取るよ」と目を細めた。

 

「それはそれとして、改めてその機工人形の機能については説明して貰おうか」

 

 ちっ、いい雰囲気でごまかされなかったか。

 

「まあ、それは明日でいい。今日は本当にお疲れさま。ゆっくり休みたまえ」

 

 そうさせてもらおう。

 おれたちはメイドモードに戻った『相棒』を連れて、宿舎である宿に向かった。

 

 ベッドに横たわると、一気に疲れが押し寄せてきて、泥のように眠った。

 夢も見なかった。

 

 気づくと朝日が昇っていた。

 

 

        ※

 

 

 翌日、おれたちは『相棒』の戦闘用ボディを軽く改造し、座席を前後にふたつ並べた。

 

「重量の方は問題なし、か。ただ、これだと鎧は着込めないな」

 

「もとより、最前線に出るためのボディではありません。わたくしたちを運ぶため、と割り切りましょう」

 

 ふたり乗りなら、守りに関してはどちらかの結界魔法で補うことが可能だ。

 大型を相手にするにはひどく心もとない守りだが……そもそも、このボディで大型を相手にすることなど本来は想定されていないのだから。

 

 昨日はね、殿下の援護をしないとマズそうだったからね。

 結果的に、総合的な被害は限りなく少なかった、と辺境伯閣下も喜んでいたという。

 

 それでも、騎士たちの屍は何人も荒野に転がった。

 それが、大型の魔物を討伐するということなのだ。

 

 普通の機工人形じゃ足止めの役目すら果たせない。

 一流の貴族たちが傷つき斃れながら時間を稼ぐしかないという、そんな絶望的な戦いである。

 

 いやほんと、大暴走(スタンピード)でもなければ、王族が王都から駆けつけるまで城塞に閉じこもって守りに徹するのが普通なんだよね。

 今回は地上に大型が四体もいて、しかも空中にも空鮫を始めとしたヤバい奴らがいて、中型、小型も多数であった。

 

 偶然、おれたちが実験に来ていなければ、なすすべもなく蹂躙されていたことだろう。

 過去、この城塞都市が出来てから大暴走(スタンピード)は二度、記録されているが、そのいずれにおいても大型四体などという大規模なものではなかったのだから。

 

 間違いなく、異常なことだ。

 北方山脈でなにかが起こっている。

 

 機工人形の技師たちによれば、さっそく明日にでも、偵察チームが北方山脈に派遣されるとのことであったが……。

 チームに混じる技師を、現在募集中であるとのことで。

 

「わたくしたちが参りましょう」

 

「そうだな。『相棒』に機材を詰め込めば、ついでに山岳踏破の試験にもなる」

 

 とうわけで、さっそくふたりで志願してみた。

 殿下が反対した。

 

「きみたちは学生なんだ。昨日は仕方がなかったにしても、専門外に顔を突っ込むのは大概にしたまえよ」

 

「必要なのは魔素の計測ができる技師で、必要に応じて前進基地(アウトポスト)の結界の修繕ですよね。たぶんおれたちが最適ですよ」

 

 正直、そこらの技師より手際がいい自信がある。

 というか手持ちの観測機器はおれたち自身で改造したものだから、観測性能でも彼らを上まわると思うんだ。

 

 そう、実際にデータを渡して説得した。

 殿下の弱点は、とっくにお見通しなのだ。

 

 この人、横暴な上司ではあるけど、データと論理で攻めるとめちゃくちゃ弱いんだよね。

 理屈を前に私情を挟めないという……いや、王族として実に正しい価値観なんだけども。

 

 今回も、そうだった。

 悲しそうな顔をして、「きみたちはどうしてそう、先を急ぎ過ぎるんだ」と愚痴はこぼせども、志願を却下しないことを約束してくれた。

 

「あとは偵察隊の方がどう考えるか、だ。こればかりは、わたしでも保証できかねるよ」

 

「それは、もちろん。先方が嫌がるようなら、諦めます」

 

 結論から言えば、偵察隊は大喜びで受け入れてくれた。

 彼らも昨日の『相棒』の活躍を見ていて、新型の機工人形に興味津々だったのである。

 

 加えて、魂狂いと人形狂いの秘蔵っ子ふたり、学院でも有名な理崩(ことわりくず)しと琥珀の姫君がどこまでのものかという点についても、である。

 なお、彼らの上司たる辺境伯閣下は……。

 

「学院を卒業後、ふたりともしばらくこっちで仕事をしないかね。両家には話を通すし、研究予算はたっぷり用意しよう」

 

 と望外の厚遇で引き抜きの話をされた。

 いまのところ、そのつもりはないと丁重に辞退したけど……。

 

「わたくしたちの卒業までに目標を達成できなかった場合の保険、できましたわね」

 

 おれとふたりきりになった時。

 そう言って、少女は微笑んだ。

 

 




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