転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第39話

 おれたちが帰還する前に戦争は終わっており、六か国同盟の軍はそれぞれの自国に引き上げた後だった。

 結局、彼らは王都から出撃した本気の軍勢を相手に一戦もせず、逃げ帰っちゃったのである。

 

 事情を知らなければ、拍子抜けする結果だ。

 おれたちは、殿下から六か国同盟と蝕廊(しょくろう)を発生させた奴らとの繋がりについて説明を受けていたから、そのあたり理解できたけど。

 

 つまりまあ、おれたちの動きが早すぎたのだ。

 本来は、北で起きた大暴走(スタンピード)に王都からの応援が駆けつけるはずであり、彼らは浸透した魔物たちの退治に時間をかけるはずだった。

 

 おれたちは最速で大暴走(スタンピード)を収束させ、しかも蝕廊(しょくろう)まで発見、これの封じ込めを行なった。

 加えて。

 

 王都への帰還の際、奴らと六か国同盟の繋がりをつくるための部隊を潰してしまった。

 おかげで六か国同盟は切り札を失い……。

 

 これでは勝機がないと諦めて、さっさと軍を引き上げてしまったのである。

 

 反神民派。

 それが、今回、裏で糸を引いていた奴らの名前であるという。

 

 具体的な組織の構成とか、どういう人員がいるとか、そういうのは未だにさっぱりなんだけどね。

 その目的だけは、はっきりしている。

 

 神民の末裔が平民を支配する時代の終わりだ。

 まあつまり、王族や貴族、騎士たちが魔法という圧倒的に強力な武器を背景に支配者として君臨している現状の打破である。

 

 前世の歴史を知るおれからすれば、それはきっとフランス革命以上の血が流れる暴挙になるだろうと理解できる。

 その凄惨な闘争の後に明るい未来があるかどうかも、正直わからなかった。

 

 どっちにしろ、彼らが六か国同盟に渡した武器のひとつがアレなわけで……。

 アレはたしかに、前世においても象徴的なものであるわけだが……。

 

 銃。

 この世界において、それは主に魔道具の砲を小型化したものとして一般には理解されていた。

 

 六か国同盟に渡された銃は、魔素をほとんど使わない魔道具である。

 前世のおれが知る銃とは、構造がまるで違う。

 

 銃身に込められた魔力で銃弾を加速して発射する仕組みは、前世の銃より簡素と言えるだろう。

 この仕組みのおかげで、銃弾に関しては魔力をいっさい持たない者でも作成できるようだが……。

 

 反対に銃の本体をつくるためには、機工人形以上に繊細な技術が求められる。

 それでも銃の戦果は、はっきりと示された。

 

 平民たちが集団運用した銃部隊により、わが国の多くの騎士が倒され、貴族の軍が敗退したのである。

 これはきっと、歴史に残る決定的な出来事になるだろう。

 

 ただ、まあ。

 銃によって殺されたのはせいぜいが騎士級、男爵級の魔力量しか持たない者たちだけなんだよね。

 

 身体強化魔法を極めれば、銃弾くらい軽く跳ね返すのが、子爵級、伯爵級の魔力量なのである。

 銃だけでは、平民は高位貴族に敵わない。

 

 敵軍の死体から銃を手に入れ、解析したおれたちは、そう結論づけた。

 うん、大半の銃は六か国同盟に回収されたんだけど、見落としたものもあったのである。

 

 そうして回収されたものは研究棟にまわされ、おれも含めた研究者たちのおもちゃに……。

 違った、徹底的に解析され、模倣品がつくられ、そしておれの強い具申によって封印されることとなった。

 

「この道具が量産されて平民の手に渡ったら、大変なテロが起きますよ」

 

 先代の『相棒』を失った、あの王都のテロ。

 貴族たちも殺されたあの一件は、皆にとって未だ記憶に新しいものであった。

 

 故に、これに関する研究は厳重に秘匿され、研究棟の内部で更に別の隔離区画をつくった上で行なわれることとなった。

 なお、この銃を巡る研究におれと琥珀の姫君も誘われたのだが、そこは丁重に断っておく。

 

 ヒトがヒトを殺す研究にはあまり興味がない、と殿下に伝えた。

 殿下は「そうだろうね」としか言わなかった。

 

 そういうわけで。

 ひとまず、わが国において銃の扱いは、表向き封印して、裏で秘かに研究継続。

 

 そういうことになった。

 で、問題は殴って来るだけ殴ってきてその後逃げていった六か国同盟なんだが……。

 

 王国の貴族たちは声高に報復を主張した。

 王家としても腰を上げる他ない情勢になっていた。

 

「六か国同盟なんて、放っておけば勝手に滅ぶんじゃないですかね」

 

 おれは殿下にそう言ったのだが、そのときの彼女には、おれの言葉の意味がよくわからなかったようである。

 おれがどうして銃を大っぴらに開発しないように、と進言したのかもここに関わって来るんだけど……。

 

 答えは、わが国が本格的な出兵の準備をしている最中、今回の出来事から数か月後に明らかとなった。

 六か国同盟の各国で、内乱が発生したのである。

 

 各地で銃を手にした平民たちが蜂起し、貴族たちを襲い始めたのだ。

 戦火はまたたく間に、同盟に入っていない隣国にも飛び火した。

 

 わずかな間に、王国の南方にたくさんあった小国群はどこもかしこも革命の嵐となってしまった。

 この状況で、小国群の更に南にある聖国が、聖なる神々の名の下に介入を宣言し軍を派遣。

 

 聖国の国教である聖教と仲が悪いわが国の教会は、これに激怒した。

 かくして王国も、教会の要請に従い治安維持のため派兵を決定。

 

 かくして南方は、小国群の王族アンド貴族vs平民vs聖国vsわが国という……。

 救いようのない四つ巴の泥沼の戦争が始まってしまったのである。

 

 そんな中、年が明けた。

 おれは学院の四年生になった。

 

 今年、おれは十五歳になる。

 

「きみは、半年前にこの事態を予測していたのかい」

 

 兄上と殿下の結婚式にて。

 おれは花嫁姿の殿下にそう問われた。

 

「ここまでひどいことになるとは思っていませんでしたよ。わかっていたら、もう少しやりようもあった……かなあ? いや、無理ですかねやっぱり……」

 

 彼女は、腕組みして唸るおれに「少し安心したよ。きみがなんでも知っているわけではないのだとね」と笑いかけてくる。

 うーん、それ、どういう意味ですかね……?

 

 正直、今回の件に関して後手、後手にまわってしまっているんだけども。

 前世の歴史にあてはめれば、もうちょっと先のことを予測できた気はするんだけどね……。

 

 なんとも、ままならぬ。

 まあ、ともあれ彼女は学院を卒業した兄上と正式に婚姻を結び。

 

 王位継承権を失い、殿下と呼ばれることもなくなり……。

 おれの義理の姉となったのであった。

 

 で、だ。

 殿下改め義姉上となった彼女の最初の仕事は、兄上とふたりで北方辺境伯のもとへ向かい、半年前の大暴走(スタンピード)に関して、改めて諸々を調査することであった。

 

「わたしがいない間も、ちゃんとわきまえて学院生活を送りたまえ」

 

 そう釘を刺されて、兄上と共に旅立つ義姉上。

 その顔は、とても晴れ晴れとしていたんだけど……。

 

 きっと兄上と一緒にいられるのが嬉しいんだよね。

 

「いやあ、阿呆ふたりのお守り役から解放されて、本当にすがすがしい気分だよ!」

 

 

        ※

 

 

 義姉上に替わり、おれと琥珀の姫君の監視役となった人物がいる。

 それが、妖精の呼煙公(こえんこう)である。

 

「きみたちの王さまに、しばらくこの国で暮らさないかと言われてね。せっかくだから仕事も欲しいといったら、跳ねっ返りふたりの面倒を見てくれって言われてしまったんだ」

 

 そんなことをうそぶきながら、見た目だけなら十歳くらいの少女に見える人物は、寮の新たな管理人となった。

 ちなみに公の身分としては、遠い国のお姫さまであるらしい。

 

 実際に彼女の魔力量は王族級だから、それが一番、その存在をごまかすのに合理的なのだろう。

 帽子をかぶっていれば、触角もごまかせるしね。

 

 陛下の差配に驚きを隠せないおれと琥珀の姫君に対して、呼煙公(こえんこう)はニカっと笑う。

 

「知っているかい? 妖精は嘘や隠し事を見破ることができるんだ」

 

「わたくしたち、やましいところはなにもありませんわ」

 

「そうだそうだー」

 

「はい、嘘っ! ――ふうん、『相棒』の新機能がなんだって?」

 

 まずい。

 咄嗟にふたり、顔を見合わせる。

 

 そんなおれたちふたりの前に、なにがまずい? とばかりに妖精の顔が突き出される。

 

「白状しようか」

 

「正直、まだもう少しデータを取ってからにしたいんですが……」

 

「わかったよ、わたしも暇だからね、データ取りに参加してあげよう」

 

 寮の管理人の仕事は?

 と訊ねたところ、「きみの妹さんは優秀だねえ」と、わが妹にいろいろ押しつけたことが判明した。

 

 うん、妹はね、努力家だからこの一年でだいぶ頑張って、成績も学年でトップクラスまで行ってるんだよね。

 兄としては誇らしい限りである。

 

 そんな妹に対し甘言を弄して、自分の仕事を押しつける妖精がいるらしい。

 

「これも下兄さまのため、と伺いました! わたし、必ずやこの仕事に勝利してみせます!」

 

 とたいへん血気盛んに拳を握る妹に見送られ……。

 おれたちは学院の一角、旧校舎につくられた研究室に妖精を招くことになったのである。

 

「さて、ここなら落ちついて話ができるね」

 

 と研究室の扉を閉じた途端、呼煙公(こえんこう)は少し声を低くする。

 

「改めて、教えてくれないかい? きみたちが『相棒』と呼ぶ機工人形の、魂について」

 

「それを知ってどうするんですか」

 

「高度な演算装置をつくろうって言うんだろう? かつて神民が成し遂げた奇跡、創神の再現を」

 

 創神?

 なにそれ?

 

 おれと琥珀の姫君がきょとんとした顔になったのに気づき、呼煙公(こえんこう)はあれっと首をかしげる。

 

「違うの?」

 

「よく知りませんが、その創神というのには興味があります」

 

「ごめん、忘れて」

 

「興味があります。創神ってなんですか?」

 

「本当に忘れて欲しい」

 

 まあまあ、そう言わず。

 いまお茶を出しますから、ゆっくりしていってくださいな。

 




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