転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第41話

 冬から春にかけて。

 『相棒』による魔素観測員となるための講義が、若者たちに対して続いた。

 

 おれと琥珀の姫君は、『相棒』のサポート用として旧式の機工人形に音声機能をつけたものを八体、用意した。

 これを従者(サーヴァント)として『相棒』に遠隔操作させ、若者たちのひとりひとりに指導を行なわせたのである。

 

 結果。

 21人の若者たちは、きめ細かい指導を受け、みるみる成長していった。

 

 一部、いろいろあって脱落した者もいたが……。

 たったの三か月で、新米の魔素測定員18人が完成したのである。

 

 彼らは護衛を伴い、意気揚々と各地へ、わが国だけでなく他国へも旅立っていった。

 あとは吉報を期待するだけである。

 

 その間にも、わが国と周辺国の情勢は動いていた。

 南方における四つ巴の争いは激しさを増し、平民が銃で騎士や貴族をひとり殺せば、その十倍、百倍の平民が貴族たちによって虐殺されているという。

 

 それでも平民たちは、なにかに突き動かされるように斃れた者の銃を取り、次の騎士や貴族を殺すために前進するのだった。

 わが国から派遣された貴族の部隊は、その渦中に巻き込まれ、たいへんな被害を出しているらしい。

 

 なんかこれ、おれが前世で知っている歴史の流れだ……。

 ただ前世のおれの世界と違って、この世界の貴族たちは銃弾一発くらいじゃ死なないわけだけども。

 

 伯爵以上ともなれば、銃弾程度は身体強化魔法で受け止めてしまうんだけども。

 なので。

 

 まだ身体強化魔法を使えない子どもから殺しましょうね。

 とかいうふざけた話になってきていて……。

 

 平民が貴族の屋敷を襲い、無力な使用人や子どもから虐殺していくとか。

 そんな、目を覆わんばかりの惨状が繰り広げられているとのことである。

 

 なおこれらの事実について、王国はその情報の大半を隠蔽、学院の生徒の耳に入らないようにしている。

 いろいろと刺激が強いからね……。

 

 おれは独自のルートから知ったけど。

 具体的には南方遠征についていった研究棟の人とか、機工人形の職人とか、そのあたりである。

 

 あとは、父上ね。

 うん、南方には機工人形も投入されているのだ。

 

 機工人形の装甲は魔物との戦いを想定したものだ。

 頑丈な魔物の甲殻が用いられていて、これは銃に対しても相応の防御力が認められた。

 

 機工人形を投入してから、騎士の犠牲はかなり減っているとのことである。

 ただこれ……絵面が完全に、他国のロボットが一般人を虐殺するディストピア社会っぽいやつなんだよな……。

 

 父上の話では、現地で働いていた機工人形の技師のうち結構な人数が精神を病んでしまったとのことである。

 そういった技師たちは早々に帰還し、替わりの人員が派遣されているとのことだが……。

 

 彼らもまた早晩精神をやられてしまうんじゃないか、と父上は戦々恐々としているとのこと。

 来年、学院に入る弟や、現在進行形で学院で頑張っている妹にはあまり聞かせたくない話である。

 

 父上と母上としては、おれにもそんな話は聞かせたくなかっただろうけどね。

 久しぶりに屋敷に戻ったら、ふたりとも頭を抱えていてさ……。

 

 おれが促したら、酒を入れながら、ぼそぼそと現地の惨状を語ってくれたのであった。

 分家の人たちも何人か南に行っていて、彼らの口からも悲惨な様子が伝わってきているとのことで……。

 

 うーん、他国の内戦に介入なんかするから……。

 完全にわが国の自業自得……。

 

 いや経緯からして仕方がないんだけどさ……。

 あのままじゃ貴族も収まりがつかなかっただろうし、それを強引に止めたら王家が舐められてしまっただろう。

 

 ふと、考える。

 奴ら、つまり反神民派は、いったいどこまでこの状況を想定していたのだろう、と。

 

 王国が南方の混乱に介入したそもそもの原因は、六か国同盟が王国に攻めてきたからである。

 その六か国同盟が脆くも敗退し、数千丁の銃が保全されたまま自国に戻って……。

 

 その結果、平民と貴族との間で泥沼の戦いが起こって。

 それに対して北と南から介入が起こって。

 

 そこまで想定できる者が反神民派にいたとしたら。

 それが、奴らの想定の内であるとしたら。

 

 その最終目標が、神民の血を引く王族や貴族の消滅、ひいては魔法文明の消滅であるとしたら……。

 現状は、はたして彼らの想定通りなのだろうか?

 

 この件について、呼煙公(こえんこう)にも訊ねてみたが、その返事は「わからない。全然ちっともヒトの争いは理解できない」とのことであった。

 くそっ、上位存在仕草をしやがって!

 

 実際に長命種ではあるし、たいていのことはヒトの上位互換でやれるのが妖精ではあるのだが。

 こういう相談には、とことん頼りにならない。

 

 うーん、こんなとき、義姉上と相談できたらなあ。

 義姉上と兄上は、いまも北方に出張中である。

 

 おそらく義姉上は蝕廊(しょくろう)の封じ込め措置について、いろいろ指揮を執っているのだろう。

 他の蝕廊(しょくろう)についても、呼煙公(こえんこう)から得た情報を基に封じ込める計画が動き出しているとのことである。

 

 ただ、やはり南の争いが周辺国との関係にも影響を与えていて……。

 国の枠を超えた協力体制の確立には、未だ時間がかかりそうである。

 

 やらなければいけないことがこんなにもわかっているというのに、なにも動けないとは……。

 じれったいことこの上ない。

 

 いまのおれにできることは、いまのうちに各地のバックグラウンド魔素を正確に測定。

 未だ発見できていない蝕廊(しょくろう)の位置を推定できるようにすることくらいだ。

 

 呼煙公(こえんこう)に言わせると、それは「本当にできるの? そんなすごいことができるなら、あたしたちのこれまでの努力っていったい……」とのことであるが……。

 うん、データを集めるってそういうことだからね。

 

 別にこれはおれがすごいわけじゃなくて、研究棟で積み重ねられてきた歴史があってこそなのだ。

 そこに妖精からの情報が加わったおかげなのである、と呼煙公(こえんこう)には説明した。

 

「きみの言うことは相変わらずよくわからないけど、きみたちヒトの叡智をもっと敬うべきという主張には理解を示すよ」

 

 この妖精、だいぶもってまわった言いまわしを覚えたなあ。

 陛下とよく話すらしいから、そのせいなんだろうか。

 

 

        ※

 

 

 春の中頃、前世で言えば五月の初めあたり。

 王国の外れの片田舎にて、平民が銃で騎士を殺す事件が起きた。

 

 普段からひどく素行の悪い騎士で、平民を暴力で虐げたり恐喝したりと問題を起こしまくった挙句……。

 平民の妻を襲って殺し、その夫に復讐されたという……。

 

 そんな、あまりにも救いようがない経緯である。

 なお、襲撃者とその周囲をいくら取り調べても、銃の入手経路は「酒場で知り合った男がくれた」という以上はわからなかった。

 

 王国では許可なき者の習得が禁止されている催眠系の魔法が使用された可能性。

 それが指摘され……。

 

 近々、専門の調査員が派遣されるという。

 そんなニュースが、王都に飛び込んできたのである。

 

 貴族界隈では、すぐに様々な議論が起きた。

 これは六か国同盟の陰謀である。

 

 ただちに苛烈な制裁を下すべきである。

 みたいな過激すぎる意見もあって……。

 

 いや過激というか珍妙というか。

 なにせ六か国同盟の国々って、内乱でもう実質的に機能していないんだよなあ。

 

 うちの国にちょっかいをかける元気なんて、もう完全にないはずである。

 

「この話で怪しむべきは、銃を渡したという男がどこの者か、ということじゃない。誰かが銃を流通させているという事実そのものだろう」

 

 みたいな話を、琥珀の姫君や呼煙公(こえんこう)の前で披露した。

 

「どうして、なのでしょうか」

 

 琥珀の姫君が、首を横に傾ける。

 

「あなたのお話は、時折、一足飛びに結論に達していて、わたくしでもついていけないときがございます。もう少し、段階を踏んでお話しください」

 

「六か国同盟で、いつまでも銃が使用されている事実が、まずおかしいんだ」

 

「それは……銃の維持管理の問題ですか?」

 

「うん、それもある。なんの技術もない平民が銃を撃つことはできても、メンテナンスをしなければ早晩壊れるだろう。銃弾は平民でもつくれるかもしれないが、銃は無理だ。きみもいっしょにあれを調べたから、それはわかるよね」

 

「ええ、もちろんです。構造上、壊れやすい部分はいくつもありました」

 

「内乱が始まってからもう半年以上が経っている。数千丁の銃がだんだん使えなくなっていっているはずなのに、平民と貴族の争いはいっそう激化しているらしい。貴族は、銃を見つけたら即座に破壊しているというのにね」

 

「それは……つまり、どこかの誰かが継続的に銃を提供している、ということでしょうか」

 

「どこかに工場があって、平民が自力で銃をつくっている可能性もあるけど……これは六か国同盟の基礎技術力を考えると望み薄かな。誰かがどこかで大量生産した銃を、ぽんぽん気前よく配っている、と考えた方が理に適っている」

 

「それは……非常によろしくないですわ」

 

 琥珀の姫君は、さすがに聡明だ、あっという間に状況を理解した。

 一方、呼煙公(こえんこう)は未だ、それがどれほどマズい事態なのか、よくわかっていない様子で、え、なに? と首をかしげている。

 

「きみたち、勝手に分かり合ったりしない。互いの愛を確かめ合うのは、あたしのいないところでやりたまえ」

 

「簡単に言うと、銃はこれから大陸中の平民の手に渡っていく。平民はどの国でも騎士を殺せるようになる。この流れは、すでに変えがたいものになりつつある」

 

「それは……争いが広がるのは好ましくないね。でも、そこまで問題なのかい?」

 

「思ったよりずっと早く、大陸の国々が滅ぶということだよ」

 

 おれの言葉に、呼煙公(こえんこう)は押し黙った。

 目をぱちくりさせている。

 

 触角が、ぴこぴこと左右に忙しく動いた。

 ひどく落ち着かないとき、彼女はこういう感じになる。

 

「この国が、かい?」

 

「この国は大国だ。滅ぶとしても最後の方じゃないかな。その前に、もっと体制が不安な国から崩壊する。この流れはもう止められない。それはわかっていたんだ。でも少なくとも、五十年くらいはなんとかなると思っていた。それまでになんとかすればいいかな、と漠然と考えていた」

 

「その未来予測も初耳なんだけど……そうもいかなくなった、と?」

 

「東の帝国、南の聖国、あと商国あたりは、今後二年か三年くらいが正念場になると思う」

 

 その言葉に、琥珀の姫君が息を呑む。

 彼女も、そこまで早いとは想定していなかったのだろう。

 

「たしかそのへんって、この国と同じくらいの強国だよね」

 

「でも、この国ほどしっかりまとまってないんだ。あちこちに火種がくすぶっていて、ひとつ火がつけば一気に燃え広がる」

 

「その火種が、銃だというのかい?」

 

「こういった国々では、貴族や騎士が平民をヒトとも思わず虐待するのってよくある話らしい」

 

 おれは、帝国の法律について簡単に語った。

 大陸東部で覇を唱える帝国においては、ちからこそ正義であり、ちからのない平民は貴族や騎士の気まぐれで殺される程度の存在であること。

 

 そもそも、わが国における平民たちは、かの国において奴隷階級であること。

 胸糞悪い話としては、騎士たちが平民の娘を大量に囲い、子を産ませ……。

 

 弱いながらも魔力があるその子らを奴隷兵として組織し、過酷な戦場に投入していること。

 かの国においては、奴隷兵は機工人形よりも安価な消耗品であること……。

 

「さっきの、騎士が殺された話で、そういったことを思い出したんだ」

 

 あとまあ、他の国でも、それぞれでひどい話があるんだけど……。

 ヒトの業を、目の前の妖精に対して一気に流し込むことはないだろう。

 

「ヒトはたくさん生まれるから、気軽に互いを殺すのだね」

 

 はたして、妖精の感想というのは、そんなものだった。

 うん、感覚が違いすぎて理解が難しいよね……。

 

「で、そんなところに銃を大量に投入するわけだ。いままでは反抗の手段がなかった人たちが貴族や騎士を殺せるようになる。それだけでも、だいぶ風向きが変わると思う」

 

「そんなにすぐ、反乱が起きるものかね?」

 

「すでに六か国同盟という実例がある。どれだけ情報を統制しても、噂は広がるものだ」

 

 その結果がどうなるのか。

 まあ、半年から一年もすればわかるんじゃないかなあ。

 

 




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