「実のところね、処理能力を向上させる方法はあるんだ」
妖精はおれと琥珀の姫君の方を見上げる。
「ただ、ちょっとだけね、その……許可を取る必要があってね」
「陛下に、ですか?」
「いや、あたしの仲間に許可を取る」
義姉上が絶句する。
それはつまり、妖精たちへ許可を取るようななにか、ということだからだ。
そもそも
そんな彼女であっても権限が足りないようななにか。
それが必要なのだと告げられれば、そりゃあ二の句が継げなくても仕方がないだろう。
おれと琥珀の姫君は、事前に聞いていたんだけどね。
というか現状で素早く解析を終わらせるならそれしかないんじゃないの、と思っているんだけどね。
「いったいなにを要請しているのか、わたしが聞いてもいいものかな」
「構わないよ。きみも巻き込むつもりだからね」
ようやくわれに返った義姉上が妖精に訊ねたところ、そんな返事がきて……。
義姉上は、とてもとても嫌そうに顔をしかめた。
ぎろり、とおれたちの方を睨む。
「きみたちの入れ知恵だね」
「まあ、そうですね」
ここでしらばっくれても仕方がないので、素直にうなずく。
「抱き込むなら身内の方がいいですし。兄上には本当に申し訳ないですけど」
「わたしにも申し訳なく思ってくれないかな!」
だって……義姉上は……ほら、義姉上だし。
殿下って呼んでいた頃から迷惑をかけまくっていたわけだし。
いまさらかな、そういうのって……。
と素直に言ったら絶対に拳骨が飛んでくるので、隣の少女と視線を交わし合い、黙っていることにする。
はたして義姉上は、観念した様子で肩を落とした。
「で。なにをするつもりなんだい。どうせ巻き込まれることが確定なら、とことんまでやってやろうじゃないか」
「ようは、彼女ひとりでは処理能力が足りないわけです」
おれが
「だったら、妖精の数を増やして並列処理すればいい。そのために必要な魔法も、現在開発中です」
かたわらの少女がうなずく。
うん、魔法の開発に関しては相変わらず、琥珀の姫君に頼りきりだ。
「それは、つまり……」
「妖精たちの住処に乗り込んでいって、妖精たちを全員繋げてしまえば、理論上は最強の演算機が完成するわけです」
「とびきりの阿呆だな! 馬鹿なんだな、きみたち!」
盛大に罵倒された。
いやこう言葉にすると馬鹿みたいだけど、計算上はできると思うんだよね……。
すべては、神民たちのプロジェクトである創神計画に乗っかっているんだけど。
いろいろ調べてみたところ、機工人形と同じような入出力魔法で妖精の頭脳にもアクセスできちゃったんだ。
このあたりは妖精の身を守るためにも秘密にしなきゃいけない部分が多いんだけどね。
妖精たち自身のセキュリティをアップデートするためにも、彼らに一度会って……。
そのあたりを丁寧に説明する必要があるなーとは、思っていたのである。
なのでどのみち、一度は妖精たちの住んでいるところに行くことは決定事項であった。
みたいな話を、全部義姉上にぶちまけた。
もちろん、
すべて聞いた後。
義姉上は疲れた様子でその場にへたりこんだ。
「ねえ、それさあ。陛下はご存じなの?」
「妖精のセキュリティ関係については伝えてませんね。陛下に悪用されたら、わが国が全ての妖精を操ることができてしまいます」
「じゃあなんでわたしに伝えたんだい?」
「義姉上なら、陛下にも黙っていてくれるでしょう?」
「こんなこと伝えられるわけないじゃないか! 悪用するかどうかで言ったら悪用するよ、あのクソ親父は!」
でしょう?
だから義姉上を信頼しているわけですよ。
笑顔でそう伝えたところ、おれと琥珀の姫君の頭上に一発ずつ拳骨が落ちてきた。
ふたりして頭を押さえ、かがみこんで呻く。
まあ、この一発は必要経費と考えよう。
「陛下にはどういう風に伝えているんだい?」
「妖精たちとの共同プロジェクトで、妖精たちのところにある特別な魔道具を使って演算能力を一時的に強化、データをぶちこめるだけぶちこんで『相棒』により演算を行う、と」
「一応は、それっぽいカバーストーリーを考えたわけだね。次からは、先にわたしに相談したまえ。陛下を上手く欺くコツくらいなら、教えてあげてもいい」
「バレてますかね?」
「裏があるくらいは、そりゃ予想しているだろうさ。
それで失敗したら、隠し事を理由に処罰できるわけか。
うーん、汚い。
やっぱり、政治なんて関わるもんじゃないなあ。
なんか政治の方が勝手におれたちに寄って来るから仕方がない面が大きいんだけども。
「幸いにして、陛下は現在のところ、妖精とのつき合いを重視している。そのメリットが大きいからね。風向きが変わるまでは問題ないだろうさ」
「風向きが変わって切り捨てられる前になんとかしますよ」
「実際のところ、
「来年の春くらいには? たぶん? だったらいいな、と思っているけど?」
問題は、そう、妖精たちの時間感覚なんだよなあ。
彼女が言うには、無限の時間がある上位種らしく、時にひどくのんびりした対応をするらしい。
同族相手ならそれでいいけど、おれたちせかせか生きるヒトを相手にそういうのは、本当に勘弁して欲しいところである。
「ひどく不安を覚える言葉だね……」
「あたしが一度、戻って説得するのがいちばんかもしれない。だから王さまに暇乞いの相談をしているところなのさ」
「なるほど、ね。わたしを抱き込んできたのは、つまりその間、またこの馬鹿たちの面倒をわたしに……」
「他に適任者がいなくてねえ」
はっはっは、おれたちは別にわざわざ面倒を見てくれなくてもいいんだぜ。
と琥珀の姫君とふたり、胸を張って言ったところ、
「必要だろう?」
「……たいへん不本意だけど、きみの言う通りだね。この一年でだいぶヒトに詳しくなったじゃないか」
「ヒト全般に関してどれだけ詳しくなったかはともかく、そこのアホふたりのことには詳しくなってしまったよ」
さっきから馬鹿とかアホとか、ひどい言われようである。
心当たりはたくさんあるから、別に反論はしないけど。
今後も全力で振りまわしていくつもりだから、覚悟しておいて欲しい。
「見なよ、ふたりのこの笑顔。憎たらしいったらありゃしないね」
「あ、やっぱり腹を立てていいんだね。あたしもこの感情をどうしたものか困っていたんだよ」
「こういう相手は、一発二発、殴っていいんだ」
「そうか、覚えておくよ」
ふたりして、なんか納得してうなずき合っている。
なんでそんな苦労人たちが互いを分かり合うみたいな話になっているんですかねえ。
「幸いにして、夫はしばらくこの王都で仕事だ。
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