転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第46話

 おれが町の工房で働いている間に年の瀬は慌ただしく過ぎ去り……。

 新年となって数日。

 

 ようやく王都に帰還することができた。

 兄上はまだ工房の監督のため向こうに残っているけど、おれは学院があるからね。

 

 そう、ことの始まりが疫病であり、機工人形の急な増産に対応するにはおれの手が必要だったということに納得してはいるのだが……。

 それはそれとして、おれはまだ学生なのである。

 

 というわけで王都への帰還後、休む間もなく、学院が始まる。

 今日からおれは、学院の五年生だ。

 

 今年で十六歳になるわけで、最上級生の席も見えてきた。

 あと二年で学院も卒業である。

 

 おれたちが自由に動ける時間は、そこまでであった。

 のんびりしているわけにはいかない。

 

 今年から学院に入学する弟と、学院の三年生になった妹を伴い、学院の門をくぐる。

 寮の前には、義姉上と琥珀の姫君が待っていた。

 

「工房でのお仕事は楽しかったかしら」

 

「やりがいのある仕事だったよ。でもきみとふたりでつくるものと違って、創造性はなかったな」

 

「そう。おかえりなさい」

 

 ぱーん、とハイタッチ。

 なんだこいつら、という目でおれたちを見ている義姉上。

 

 背中からもふたつ視線を感じるが、それは置いておいて……。

 

「さっそくだけど、『相棒』の医療棟でのデータを見たい」

 

「そう言うと思って、用意してあるわ。ロビーに積んである羊皮紙の束は、すべてあなたのためのものです」

 

 さすがだ、わが相方よ。

 おれは彼女に弟を紹介した後、うきうきした気分でロビーに向かった。

 

 置いていってすまん、弟。

 兄はちょっといまから真剣にデータを読み込まないといけないのだ。

 

「……下兄さんは、ここでも相変わらずなんですね、義姉上」

 

「さっそくわかってくれたようで嬉しいね」

 

「あれが下兄さんの勝利ですから!」

 

 皆がなにか言っているが、知ったことか。

 工房で作業しながらも、『相棒』の運用についてずっと気になっていたんだよ。

 

 なになに……ふうん、やっぱり器用さが少し足りないか。

 アームの仕様を根本的に変更する必要が……。

 

 ああでも、なんか想定外に上手く補助肢を使っているな?

 ほう、ふうむ……むむむ。

 

「おかえりなさい、マスター。……反応がありませんね」

 

 

        ※

 

 

 さて、新年一発目で、大陸中から凶報が入ってきていた。

 東の帝国と東南の商国で反乱が起こり、両国のトップが都を追われたというのである。

 

 現在、両国の都は賊軍に占拠されており……。

 各地で、未だに激しい戦いが続いているという。

 

 で、だ。

 この両国、わが国の王家と血縁関係にあるんだよね。

 

 当然のことではあった。

 血が濃くなりすぎないよう、しかし非常に高い魔力量は維持できるよう。

 

 そう心がけて婚姻していくと、必然的に大陸の強国同士、血縁で繋がっていってしまうのである。

 結果、どういうことが起きるか。

 

 ちょっと実家が危ないから親戚の家に家族を預けたりするような感覚で、亡命が連発するのだ。

 帝国の皇女さまが三人、商国の商王家からも数人、更にきなくさいことになっている他の国からも数件。

 

 この冬で、王家が匿った各国王族の数がすごいことになってしまったとのことで……。

 反乱が成功してしまった国からは引き渡しの要求がさかんに来ているとか。

 

 王都には、間者なんかも大量に入り込んでいるらしい。

 各国のスパイ同士の暗闘により、夜の治安が非常に悪化しているのだとか。

 

 へーたいへんですねー。

 とか思っていたら……。

 

 学院の寮にも、帝国の若い皇女がふたり、留学という名目で入ってきた。

 その上の皇女と下の皇女が、寮のロビーで、ふたりして掃除中の『相棒』を眺め、首をかしげている。

 

「王国では下女が足りず、機工人形に下女の真似をさせているのでしょうか」

 

「いいえお姉さま、高価な機工人形にあえて下女の真似をさせることで、王国流の華美を表現しているのではありませんか」

 

「なるほど、他国の文化といえども侮るべきではありませんね。使い捨ての奴隷などこの寮にはふさわしくないと申すわけですね」

 

 おまえらそういうところだぞ、そういうところ!

 ナチュラルに奴隷を使い捨てるとか、奴隷禁止のこの国で言わないでくれ。

 

 上がそんな思考だから、おまえら皇族、民にあっさりとそっぽを向かれるんだよ……。

 とは口に出さず。

 

 『相棒』はおれの私物で、学習型の機工人形であることを彼女たちに伝える。

 魂狂いと人形狂いの噂はさすがに帝国でも有名なようで……。

 

 次世代のプロトタイプをテストしているということなら余計なことは言わない、となんとか言質を取ることができた。

 そのついでに、いくつか気になったことを訊ねてみる。

 

「帝国では、どれほど銃が入ってきていますか」

 

「銃? あの平民が使う、汚らしい小筒ですか?」

 

 皇女たちが眉根を吊り上げて、不快そうな顔になる。

 まあ、この反応も無理はない。

 

「あれが千や二千なら、ものの数ではなかったのです。ですが反徒どもは、卑怯にも一万以上の小筒を揃えて、われらの騎士を皆殺しにしたのですよ」

 

 そうか、一万丁以上か。

 やっぱりこれ、そうとう組織的に銃を流通させているなあ。

 

 で、騎士や下級貴族が一掃されたところで反乱勢力の貴族が投入され、数の差で一気にまくられたとのことである。

 反乱の主体は、あくまでも民じゃなくて、王家に敵対的な上級貴族だったんだね。

 

 たぶん、この上級貴族たちの領土で、密かに銃の工房がつくられているのだろう。

 これ商国も同じだな。

 

 まずは地方の貴族が中央を裏切って、銃の工房を領地につくることを黙認する。

 ひょっとしたら自分から誘致したのかもしれない。

 

 で、充分な数が揃ったところで、中央に対して蜂起。

 上手くいけば旧勢力を駆逐して都を占拠、と。

 

 こうなると、その後の筋書きは……。

 銃をつくっているのは反神民派で、反乱勢力は利用されているだけなんだから、自ずと知れたものである。

 

 旧勢力も民に駆逐され、平民の国ができる、と。

 もちろんその前に、とてもたくさんの血が流れるだろう。

 

 ひょっとしたら、いくつかの土地では国というかたちそのものが消え去るかもしれない。

 あるいはヒトが全滅した土地が残るだけかもしれない。

 

 ――で、だ。

 この王国で、まだあまり銃が流通していないのは、その逆だからだ。

 

 工房をつくれるような、つまりは王国を平然と裏切れるような貴族があまりいない。

 まったくいないってことはないんだけど、たぶん実際に工房とかできたらすぐ王家にバレて制裁されるだろう。

 

 そもそも、六か国同盟との戦いで、銃というもののイメージが最初からかなり悪くなってしまっているのだ。

 わが国が最初に銃の被害に遭ったからね。

 

 そのおかげで、貴族たちが一枚岩となってまとまった。

 読み通り、しばらくはわが国が、大陸でいちばん安全な国になるかなあ。

 

 それも、いつまで保つかはわからないけど。

 いやー帝国と商国がこうも速攻で陥落するとは思っていなかったんだよね……。

 

 南で帝国と争っている聖国は、聖教がわりとしっかり引き締めているおかげか、だいぶ安定しているみたいだけど。

 この王国においても教会が人心の安定に寄与しているらしい、とは聞くので、やっぱりそのへんは重要なのかなあ。

 

 義姉上は教会が嫌いだし、おれもわりと好きじゃない方だけども。

 でもなあ、宗教勢力が弱い帝国と商国が真っ先に崩壊したのは、たぶん偶然じゃないんだよなあ。

 

 みたいなことを、つらつらと義姉上に話した。

 琥珀の姫君と共に、おれたちの研究室で。

 

 義姉上はおれの話を聞き終えると深く息を吐く。

 

「きみは本当に、いったいどこからその才覚を手に入れたんだい? 実際に、わたしの耳に入って来る情報とも一致する。どうも、宗教に関してはそういうことみたいだね」

 

 それから義姉上は、教会のコミュニティがしっかりしている町では銃があまり出まわらないようだ、という話をしてくれた。

 なるほどね……。

 

 わが家の領地の町では教会のコミュニティより工房内でのコミュニティの方が強い。

 そのへんがつけ入る隙になって眼帯の男が入りこめたのかな……。

 

 ただ結局のところ、うちの領地では平民と貴族に強い繋がりがあるから、致命的なことにならなかったというだけで。

 このへんは、ちょっとしたさじ加減でお互いの関係が変わってしまうわけで、いまのわが家の状態がずっと続くと考えるのは傲慢である。

 

 もっと根本的な治療が必要だろう。

 まあ、その根本的な治療って、けっこう荒療治になってしまうんだけど……。

 

「どのみち、いまのおれたちが手出しできることはありません。できることをしましょう」

 

「この状況で、できることがあるだけでも充分だと思うんだけどね」

 

「幸いにして、帝国と商国のデータが一気に手に入りました。あとは呼煙公(こえんこう)の帰還を待つだけです」

 

 亡命の対価として彼らが差し出したデータの中には、両国とその周辺国の土地に関する情報もあった。

 特に、どこでいつ大暴走(スタンピード)が起きたかは、各地の魔素と比較することで、蝕廊(しょくろう)の位置を推測する非常に貴重なデータとなる。

 

 義姉上には、そのあたりの情報をまるごと持って来て貰った。

 陛下が快く許したというのがちょっと不気味なんだが……。

 

 まあ、たぶん陛下もおれたちがなにをするかまではわかってないだろうしなあ。

 

「で、このデータでなにをするつもりなのかね」

 

「妖精を使ってどこまで処理能力が上がるか次第ですが……限定的な未来の予測もできないかな、と」

 

「予言のようなものかね」

 

 予言ねえ。

 聖教では寺院で予言を出したりしてるんだけど、あれっていったいどういうからくりなんだろうなあ。

 

 さて、どうなるかはわからないけども。

 現状でおれたちにできる準備は、すべてやるつもりである。

 

 かくして冬が過ぎ……。

 春が来る。

 

 呼煙公(こえんこう)が戻ってきたのは、前世で言う四月の終わりごろだった。

 ちょうどその頃。

 

 南方で帝国と争っていた聖国で有力な豪族たちによる反乱が起こった。

 聖王家が壊滅したという。

 

 




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