転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第55話 南方遠征編8

 聖教の神々にアクセスする。

 その方法は簡単で、しかし実行はとても難しいものである。

 

 聖教の神々の託宣を解析し、それを逆に辿る。

 

 ほら、簡単でしょう?

 でもって、とても困難でしょう?

 

 でもね。

 託宣の解析については琥珀の姫君がおおむねやってのけてしまっている。

 

 問題はその構造を逆に辿ることであって……。

 これに妖精演算を用いる。

 

 結果は、数分で出た。

 そうしてつくられた「聖教の神々にアクセスする魔法」を『相棒』に実行させる。

 

 聖教の神々からの返信は、即座だった。

 『相棒』が語り出す。

 

「彼らからの言葉は『待っていた。やってのけるなら貴方たちだと思っていた。歓迎する』です」

 

 その返事を聞いて、義姉上は腕組みしてドームの天井を見上げ、低く唸った。

 

「もう感情がぐちゃぐちゃで、わたしはいま、なにを言っていいかわからない……」

 

 素直に喜べばいいんじゃないかなあ。

 だって実験が成功したんだぜ。

 

「いや、これ実験成功とかそういうレベルじゃないからな! おまえたちは平然としているけど、これひとつ取っても歴史に残る偉業だ! 聖教の神々だぞ! それと会話したんだぞ! わかっているのか!」

 

「わたくしも驚いていますわよ。この方のたわごとを信じてはおりましたが、ここまであっさり成功するとは思ってもおりませんでした」

 

「いまたわごとって言った?」

 

「少なくとも、普通の方が聞いたら妄言と断じることでしょう。不服なようでしたら、この場で多数決をいたしましょうか」

 

「その勝負は勝てる気がしないから、しなくていい」

 

 なんせ、待ってましたとばかりに義姉上が片手を、呼煙公(こえんこう)が両手を上げたからね。

 しかも真顔である。

 

 女の子たちの団結力が辛い。

 と――『相棒』が更なる受信をしたと告げてきた。

 

「『茶番はそこまでに』と彼らは言ってきています」

 

「この場所を観察できるのか……いやそうか、ここって神民がつくった場所ってことか。だから観測装置がついている、と」

 

 たぶん、本来は別の目的に使われていたドームなのだろう。

 それをいまは、妖精たちが永眠者の墓所として利用しているだけなのだ。

 

「だったら、別に『相棒』を使わなくても、こちらの話は向こうに通じているのか? いや、違うな。この方法でアクセスしないと駄目なルールなんだ。あとまあ、たぶん映像だけで――いちおう、確認してみるか」

 

 何度か、やりとりを行なった。

 結果、やはり彼らはドームの天井付近にあるカメラ的な装置を通しておれたちを観察していたことが判明する。

 

 それより問題は、彼らがこちらに対して言葉を送る手段が、この通信以外に存在しないということであった。

 しかもこの通信、このドームの中だから、つまり稼働状態の神民の遺跡だからできたことであり……。

 

 以前訪れた寺院もそうだが、ああいった場所でなければ送受信が不可能である、という事実である。

 これはどうやら、聖教の神々と呼ばれる者たちが、彼らの創造主である神民によって与えられた制約のようであった。

 

 やっぱり、そういうものがあったのか。

 聖教の神々、明らかにもっと自由に託宣を授けたがっているフシがあったからなあ。

 

 というか聖教の神々という名前を使うのも本当は違うのだろう。

 なんて呼べばいいか、と訊ねてみたところ……。

 

「観測者と呼ぶがいい」

 

 という返事がきた。

 なるほど、観測者、ね。

 

 ますます情報観測衛星っぽいなあ、こいつの正体。

 いまのヒトの知識でそんな空に浮かぶモノのこと話すのもおかしいから、ここは黙っておくけど。

 

「では観測者、さっそくだけど、魔素枯渇問題を解決したい。あなたはおそらく、長年にわたり大陸の隅々まで観察していたはずだ。――そもそも、魔素の総量を増やす方法はないのか」

 

「ない」

 

「では、この世界の魔素を増やす方法はないか」

 

「他の世界から魔素を持ってくる他には、ない」

 

 おれは、やっぱりね、という顔をしていたようだ。

 義姉上が怪訝な表情になって「いまのやりとりは、なんなんだ」と訊ねてくる。

 

「ヒトと魔素と神民。この三つは、考えれば考えるほど噛み合わないんですよ、義姉上。だからまあ、そうなんじゃないかなあと思っていました」

 

「おまえの言っていることがまったくわからない。レベルを下げろ。大幅に。わたしでもわかるように」

 

「じゃあ、せっかくだから観測者に答え合わせをして貰いましょうか」

 

 というわけでおれは、観測者に対して「神民と魔素、この世界に最初に存在したのはどちら」と訊ねた。

 観測者の返事は「魔素」であった。

 

 神民とヒトは、ヒトの方が後なのは明らかだから、まあこれでよし。

 つまり……。

 

「最初、この世界には魔素があって、魔素が欲しい神民が移住してきた。でも神民はこの世界における魔素の枯渇を知って、別の世界へ去った。そんなところかな」

 

 呼煙公(こえんこう)が「きみは本当に、いったいなんなんだ。いまの会話にそんな情報なかっただろう」と呟く。

 どうやらおれの考えはほぼ正解らしい。

 

 つーか妖精はそのあたりの事情を知ってて、おれに知らせていなかったと。

 これも創造主から与えられた制約かな。

 

「で、ヒトの祖先は神民の後にこの世界にやってきたわけだ。ヒトにとって、魔素が溢れていた当時のこの世界は、相当暮らしにくかったんだろう。だから蝕廊(しょくろう)なんてものをつくった。でも結局、そちらの計画は断念された」

 

 予想のひとつではあったのだ。

 別の世界からの移住者その1が神民で、移住者その2がヒト。

 

 そして反神民派は、移住者その2がこの世界と全面的に対決するという、当初の路線の生き残り……なのかな。

 そういうことなら、つじつまは合うというものだ。

 

 で、神民の方は自分たちの世界移動技術をずっと保持していて……。

 この世界における魔素の終焉を知って、まだ魔素が豊富な別の世界に去って行った。

 

 ひょっとしたら、これまでもそうしてさまざまな世界を転々とするような人たちだったのかもしれない。

 いやこれたぶん、実際にそうだったんだな。

 

 つまり魔素イナゴ文明である。

 この名前はさすがに体裁が悪すぎるから黙っておこう……。

 

「で、でもだね、これじゃあ話が違うじゃないか。きみはさっき、観測者にアクセスすることで魔素の問題を解決する、と言っただろう? でも観測者からの返事によると、魔素は増やせない。この問題は解決できないってことだ」

 

「いや、これは問題の輪郭が浮かび上がったと言うんです。駄目なアプローチを早期に割り出しただけです」

 

 どうにか魔素をつくり出せないか。

 たぶん、簡単にできることなら観測者が託宣の形で提示していただろうから、それはきっと困難なことなのだろうとは思っていた。

 

 でも実際にそれが、無理、ということなら……。

 後はもう、考え方を変えるしかない。

 

「観測者、あなたは蝕廊(しょくろう)の作り方を知っているか」

 

「待て待て待て! さすがになにを考えている! あんな危険なものを!」

 

 待って義姉上、いま大事な話をしているから。

 と肩をいからせる彼女を手で制する。

 

 はたして、観測者からの返事は「できる」であった。

 やっぱりね、そういうことか。

 

「それは、いまのおれたちでつくれるもの?」

 

「理論上は可能だ」

 

「じゃあ、それを改造して、向こう側からこちら側に、ってこともできる?」

 

「理論上は可能だ」

 

「すまないが、一度、愚かなわたしでもわかるように整理してくれないか」

 

 義姉上、あなたは愚かじゃないですよ。

 いまのはさすがに、最短距離で飛ぶためにいろいろ省略したという自覚があるので。

 

「一から説明しましょう。義姉上、蝕廊(しょくろう)がこの世界から別の世界に魔素を送り出すための、ヒトがつくった環境改造装置というのは明らかですが……」

 

「明らかじゃない。全然一からじゃないじゃないか!」

 

 あれ?

 いやまあでも、そういうものなので……。

 

「では、そういうことで」

 

 おれがあっさりと説明を放棄したことで、義姉上はジト目になる。

 

「おまえのよくないところだ。まあ、いい。疑問はあとで改めて聞く。続けてくれ」

 

「では遠慮なく。ざっくり言うとですね。蝕廊(しょくろう)の機能を逆転させれば、魔素のある世界からこの世界に魔素を送り出すことができると思いませんか、って話なんです」

 

「それが……そんなことが可能なのか?」

 

「実際にそれをするには、いろいろ試行錯誤が必要でしょうけどね。魔素のある世界の場所とかもわかりませんし。そもそも世界と世界を繋げるってどういうことなのかも、おれはわかっていませんから」

 

「無責任だな!」

 

「いまおれたちがやるべきことは、今後の方策を定めることです。現在の蝕廊(しょくろう)の問題を解決したなら、時間は充分にあるんですから」

 

 それこそ、千年以上ね。

 後のことは、後の人たちに任せればいい。

 

 そこに関しては、無責任でもいいはずである。

 

「それで……いいのだろうか」

 

「何百年も先のことまで面倒を見きれませんよ。おれたちにできることは、こっちの方に行けば未来は明るい、と指し示すことくらいでしょう」

 

 そのためにも、この初動で方向を見誤ってはならないのだ。

 

「さて、次に観測者に聞くべきことですが……」

 




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