転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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明日、エピローグを投稿してこの物語は完結となります。
どうか最後までおつきあいください。


第57話

 おれや琥珀の姫君が、家と国の庇護を離れて生きていけるのかと問われれば。

 それは、余裕でできる、が返事となる。

 

 しかし、家や国の庇護の下と同等の環境で研究できるのかと問われれば……。

 これは、否だ。

 

 学院の研究棟もそうだけど、王国そのものが最高の研究環境だからね。

 加えて、わが家も琥珀の姫君の実家も、常に技術の最先端を追い続けている家なわけだからね。

 

 人形狂いと魂狂いの星宿しが、ふたりでいるということ。

 その意味は、周囲が考える以上に重い。

 

 そもそも、王家がこの両家の接近を快く思っていない。

 そりゃあね。

 

 お互いの得意分野を掛け合わせてみたのが『相棒』なわけで。

 その圧倒的な性能を考えれば、王家の懸念も理解できてしまう。

 

 なので。

 『相棒』が完成した時点で、おれと琥珀の姫君は、よく話し合った。

 

 この先、どうやって自分たちの関係を認めさせるか。

 この時点ですでに、学院を卒業した後に別れるという選択はなくなっていた。

 

 互いの想いはいったん棚上げするとしても、研究の相性が良すぎるのだ。

 これ以上のパートナーは、今後一生、得られないだろう。

 

 問題は相性が良すぎて技術が発展しすぎることですらあって……。

 王家におれたちの関係を認めさせるには。

 

 ただ発明をすればいい。

 発見をすればいい。

 

 そんな、単純なものではない事態に陥ってしまっているのであった。

 故に。

 

 必然、王家と対等に扱われるようなポジションを得ることが必要となる。

 国と国との関係で、その間に入るようなポジション。

 

 そのうえで、関係する全員が利益を得るようなものでなくてはならない。

 なにせ、おれたちには武力がないのだから。

 

 この世界において、王家とは武力そのものだからね。

 妖精との間に入る、というのも案のひとつであった。

 

 故にこの点に関しては、呼煙公(こえんこう)に相談している。

 妖精の性質上、これは上手くいかないだろうというのが彼女の意見であり……。

 

 それはそれとして。

 おれたちの目指す方向性について、この妖精の理解を得ることができたのは僥倖であったと言える。

 

 義姉上に相談することだけは、できない。

 彼女は陛下の代理人として、おれたちに向き合っている。

 

 もちろん、兄上にも、父上にも、弟や妹にも言えない。

 ことは密かに、水面下で進める必要があった。

 

 誰にも気づかれないよう完璧なまでに必要なポジションをつくり。

 そこに素早くおれたちふたりの身を滑り込ませる。

 

 有無を言わせず、結果で納得させる。

 できるかできないかではなく、やるのだ。

 

 この旅は、その決意のもと始まったものであり……。

 そして、結果。

 

 義姉上は深い深いため息をつき……。

 

「仕方がない。陛下にはわたしから話そう」

 

 と請け負ってくれた。

 おれと琥珀の姫君は、無言でハイタッチする。

 

「きみたちが逃げ出そうとしたら半殺しにした後、連れ戻せって言われているんだけどねえ」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

「どうしても駄目なら片方は殺してもいいとも言われていたよ」

 

 殺すには、おれたちの才能は惜しい。

 だが他国に渡すくらいなら殺した方がいい。

 

 王ともなれば、それくらい腹をくくるのも理解できる。

 だからこそ、逃げるという選択はできなかった。

 

 やるなら正面からだ。

 相手にこれまで以上の利益を約束する以外の方法はない。

 

 妖精の後援を頼むのも、あくまでダメ押しのひとつにすぎない。

 重要なのは、この場限りの決別ではないのだ。

 

 この新しい関係が末永く続くことこそ、おれたちの願いなのだから。

 

「おまえはいつか、やらかすと思っていたよ」

 

 黙ってやりとりを聞いていたのだろう兄上の声が、『相棒』を通じて届く。

 少し疲れたような声色であった。

 

「あまり、ぼくの愛する妻を困らせないでくれ。それはそれとして……おめでとう。素直に祝福させて貰うとするよ」

 

「ありがとうございます、兄上。あと義姉上を困らせた件については、本当にごめんなさい。少しは悪いと思っているんです」

 

「少しじゃないだろう。もっと悪いと思え。深く反省しろ」

 

 義姉上の声は、ひどく不機嫌そうだった。

 無理もないので、あえて反論はしないでおく。

 

 兄上には、それからいくつか必要事項を伝えた。

 最後に、父上や母上、弟と妹への伝言を託す。

 

 兄上は、伝言については「自分で言いなさい」とメッセンジャー役を拒否した。

 

「この通信は、今後も使えるんだろう?」

 

「ええ、まあ、そうなんですが……」

 

「なら、なおさらだ。家と学院を行き来するよりも簡単なことだ。家族ともっと話をするように」

 

 そう言って、兄上は通信を切る。

 うーん、いつまで経っても兄上には敵わないなあ。

 

「それで、わたしはすぐに国へ戻ればいいのかな?」

 

「あ、それなんですけど、もう少し待ってくださいね。どうせなら、もっと成果を持ち帰って欲しいので」

 

「具体的に、どんな成果を出せる?」

 

「とりあえず、反神民派をもうちょっと追い詰めたいな……と。おそらく、奴らの中心は、眼帯の男のような原初の機工人形です。何体かの現在位置を突き止めます」

 

「どうやって?」

 

「さっき聖教の神々……観測者との交信中に、ノイズみたいなものが混ざっていたんですよ。おそらく、原初の機工人形が観測者にアクセスしていたんだと思います。これを妖精演算で解析させます」

 

 『相棒』にデータを打ち込んでいた琥珀の姫君が顔を上げた。

 

「演算を開始いたしますわ」

 

「頼んだ。これで、上手く相手の位置を逆探知できれば……」

 

「いや待て、よくわからない。観測者は、何故、反神民派に肩入れを?」

 

「肩入れ、とかじゃないんですよ。おそらく観測者は、正規の手順で要請されたら誰にでもデータを渡します。最初からそういう風につくられた存在なんです」

 

「意思を持った魔道具のようなものか」

 

 義姉上が、『相棒』をちらりと見る。

 たぶん当たらずといえども遠からず、といったところだろう。

 

「本来はそのはずなんです。聖教の神々として託宣なんて下している方がおかしい部分なんじゃないですか」

 

 何故、観測者が託宣という形でヒトを誘導していたのか。

 それについては、観測者自身に語る気がなさそうなので、推測するしかないのだが……。

 

 ひょっとしたら、反神民派だけに利用されているのが嫌になったのかもしれない。

 あるいはただの気まぐれかもしれないけれど。

 

 そのあたりも、これから調べていけばわかる……。

 のかなあ。

 

 創神計画の細部について、なんとか調べ出すことができないものか。

 

「それはそれとして、次は聖教の寺院にコンタクトしましょうか。託宣と似たような方法でコンタクトできるはずです。交信装置、修理した機工人形のひとつにつけておいたので」

 

「ちゃっかり、そんなことをしていたのか……」

 

「ひょっとしたら何かの役に立つかな、と」

 

 呆れかえる義姉上は、しかし「おまえのことだから、なにか余計な仕掛けをしているとは思ったが……」と呟いた。

 

「余計な仕掛けじゃありません。必要な用心ですよ」

 

「修理のついでに勝手に新しい機能をつける職人、どう思う?」

 

「こだわりと自意識が強いクソ野郎ですね」

 

「自分を客観的に見ることができて偉いじゃないか」

 

 ちくしょう、事実だから言い返すことができない。

 

「まあ、いい。聖国のことは気になっているからね。繋げてくれたまえ」

 

 かくしておれたちは、寺院にコンタクトを取り……。

 あれから二度ほど豪族が寺院に攻め込もうとして、それをことごとく退けたことを知った。

 

 他にもいろいろな報告があったのだけど、割愛する。

 数日が、忙しく過ぎた。

 

 

        ※

 

 

 成果を国に持ち帰った義姉上は、陛下に褒められたという。

 

「あいつら絶対にやらかすと思っていたけど、よくこの程度に留めた」

 

 とのお言葉を賜ったらしい。

 陛下のおれたちに対する信頼が厚くて涙が出そうになるね。

 

 で、しばらくは義姉上が聖教の寺院とのコンタクト役も兼任し、反神民派への包囲網を徐々に構築していくということになった。

 幸いにして、神王国に運び込まれようとしていた銃は、これを運んでいた部隊を襲撃、大量に鹵獲できたことだしね。

 

 ついでに、手が届く範囲の工場も潰しまくった。

 いくつかの工場は帝国の反乱側にあったりして、手が出せなかったけど……。

 

 陛下としては、旧皇家の生き残りの後ろ盾になって、帝国の奪還を進めていくとのこと。

 まあ、現状で反神民派に与している勢力なんてロクでもない連中なのは明らかだしなあ。

 

「銃の運び屋たちや工場の人員は、単純に利益を求めて集まった奴らが大半だった。反神民派は金でごろつきを集めることにしたみたいだな」

 

 義姉上は、王国が捕らえた反神民派たちを尋問した結果について教えてくれた。

 

「ただし、一部、本物もいた」

 

「本物の反神民派、ってことですか」

 

「ああ。機工人形じゃなくて、ヒトだ。結論から言えば、教会の裏部隊だな」

 

 うわー、わが国の教会かー。

 黒い噂はいくつもあったけど、反神民派に通じているって……どういうことなの。

 

「教会のすべてが、というわけではないようだ。むしろごく一部なんだが……代々、裏の教義みたいなのを伝えられている奴らがいるらしい」

 

 奴らを叩くいい機会だ、と前置きして、義姉上は言う。

 この人、本当に教会が嫌いだなあ。

 

「それが、反神民派の正体?」

 

「正体の一部、といったところか。神民の楔から逃れ、真のヒトを取り戻すことこそ使命である、とかお題目を掲げていたらしい」

 

 それで魔素が無くなったら、現在の文明の根幹が消えるんですが……。

 いやそうか。

 

「ひょっとして、昔のヒトが持っていた文明の手がかりが?」

 

「ああ、魔素をいっさい使わない銃器とかな」

 

 げっ、やっぱりあったか、そういうやつ。

 最終的には、いまの銃器も使いものにならなくなる。

 

 そのとき、魔素を使わない武器を握ったヤツが勝つことになるわけだ。

 そこまでの絵は、すでに描かれていたということである。

 

「起動前の蝕廊(しょくろう)もひとつだけだが、確保できた。研究棟で解析中だが、技術格差がありすぎてなにがなにやら、らしい」

 

「急に学院に帰りたくなりました」

 

「いつでも帰ってきていいぞ、とヌシの教授が言っていたぞ」

 

 琥珀の姫君が、おれの服の端を掴んで引っ張った。

 冗談だって、冗談。

 

「まあ、そっちは急がないので……おれたちが調べるにしても後まわしですね」

 

「いいのかい?」

 

「やりたいことがいっぱいあるんですよ」

 

 おれは眠い目をこすって、数日で戻ってきた義姉上に告げる。

 義姉上がいない間もいろいろ同時進行でやっていたんだからね。

 

「で、どこから話しましょうか」

 

「なるべく結論から頼む」

 

「では、聖国王家の生き残りの王子と王女ですが……」

 

「待て待て待て! まず生き残りがいるって話を聞いてないぞ! ここに来る前に寄ってきた寺院でも……」

 

「あ、ついさっき判明したので」

 

 そこから話さないと駄目か。

 おれは頭の中で話す順序を決める。

 

 そういえば、神民の遺跡をいくつか再起動できたって話はしなくていいかな?

 まあいいか。

 

 滔々と語るおれの話を聞いて、義姉上は何度も卒倒しそうになっていたが……。

 本当に、いつもお疲れ様である。

 

 おれと琥珀の姫君は、顔を見合わせ、笑いあった。

 ところで妖精の行動制約を解除するコードも見つけたんだけど、これどうしようね?

 

 




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