開拓地でスローライフを送りたい。   作:ごすろじ

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閑話。悪魔崇拝

 

 

 

王都は、熱病に浮かされていた。

 

公式発表は、簡潔なものだった。「王都地下にて非合法な集会を確認。騎士団による迅速な鎮圧の結果、多数の犯罪者を拘束した」。

 

 

だが、騎士団の功績を称える声など、どこからも聞こえてはこない。代わりに、人々が顔を寄せ合い、声を潜めて語るのは、全く別の物語だった。

 

 

「…聞いたか?捕まったのは、端っこの貴族様だけ。大物は一人もいなかったらしい」

「ああ。しかも現場は騎士団が踏み込む前に、もう滅茶苦茶だったって話だ」

 

 

鍛冶工場の休憩所。汗と鉄の匂いが立ち込める中、職人たちが黒ずんだパンを齧りながら噂を交わす。

 

 

「なんでも、天井が抜けて、"何か"が降ってきたんだと」

「"何か"って、なんだよ」

「…そりゃあ、決まってんだろ」

 

 

一人が、意味ありげにニヤリと笑う。その場の誰もが、同じ一つの名を思い浮かべていた。

 

 

王都最大の安酒場は、その夜、異様な熱気に包まれていた。カウンターでは、一人の男が、まるで見てきたかのように語っていた。彼は、奴隷オークション会場の後片付けに駆り出された掃除夫の弟だという触れ込みだった。

 

 

「兄貴が見たんだとよ!壁も床も、そこら中が血と瓦礫でぐっちゃぐちゃ。まるで巨人兵が暴れ回った後みたいだったって!」

 

 

ゴクリ、と周囲の男たちが唾を飲む音が聞こえる。

 

 

「手練れの傭兵どもが、武器も持ってねぇ相手に、手も足も出ずにボコボコ。それだけじゃねえ。あの闘技場の「鬼獣」までいたんだが…胸に拳一つ分の痣があるだけで、ピクリとも動かなかったそうだ。背中の壁は、巨人が通り抜けたみてえに、綺麗にブチ抜かれてたってよ!」

 

「あの巨体が…一撃だと…?」

「馬鹿な、あいつは飛竜だって素手で締め殺すって噂の化け物だぞ!」

 

 

どよめきが波のように広がる。人間の膂力で成し遂げられる所業ではない。誰もがそう直感した。

 

 

「…やっぱり、『山羊』だ」

 

 

誰かが、畏れと確信の入り混じった声で呟いた。その名を合図にしたかのように、堰を切ったように憶測が溢れ出す。

 

 

「金貸しに、悪徳商人、御貴族様…今度は奴隷オークションか。奴が狙うのは、俺たちから搾り取ってるクズどもだけだ」

 

「ああ。だが、やり方が人間じゃねえ。あれは悪魔だ。俺たちの怒りや憎しみを喰って、貴族どもを裁くために地獄から来たんだ」

 

 

「悪魔だって?冗談言え!」別の男が、興奮で顔を赤くして反論した。

 

「奴隷にされてたエルフのガキは、無傷で解放されたんだろ?悪魔がそんな慈悲深い真似をするかよ!あれは神の遣いだ!腐りきったこの街を浄化するために遣わされた、怒りの天使様よ!」

 

 

悪魔か、天使か。

議論は白熱するが、どちらの意見も、その存在が人知を超えたものであるという点では一致していた。彼らは、自分たちの理解の及ばない、圧倒的な力に魅了されていた。

 

 

「どっちでもいいさ」

 

 

一人の老婆が、皺だらけの手でエールを呷りながら、静かに言った。彼女の息子は、貴族の馬車に轢かれて死んだが、何の咎めもなかったという。

 

 

「神様だろうが悪魔様だろうが、私たちの溜飲を下げてくれるなら、どっちだっていい。教会に祈ったって、パンの一つも降ってきやせん。じゃが、『山羊様』は違う。あの方は、私たちの代わりに、あの偉そうな連中をぶん殴ってくれる」

 

 

『山羊様』。

いつからか、人々は畏敬の念を込めて、そう呼ぶようになっていた。

 

 

彼は、騎士物語に出てくるような、清廉潔白な英雄ではない。

むしろ、その逆だ。その手法は暴力的で、情け容赦がなく、破壊の痕跡は見る者に恐怖しか与えない。

 

 

だが、その暴力が、決して民衆に向けられることはない。

その牙は常に、民を虐げる権力者、法で裁かれぬ悪党にのみ向けられる。

 

 

正義ではない。しかし、民にとっては救いだった。

英雄ではない。だが、誰よりも頼れる存在だった。

 

 

その夜、王都のあちこちで、小さな変化が起きていた。

路地裏の壁には、誰が描いたのか、捻じくれた角を持つ山羊の顔が、いくつも落書きされた。

子供たちは、眠る前に母親にせがむ。「ねえ、今日は『山羊様』の話をして」

 

 

そして、若者たちは、虐げられた仲間を慰める時に、こう囁くようになった。

 

 

「心配するな。今にきっと、『山羊様』が来てくれるさ」

 

 

民衆の心に、新たな信仰が芽吹いた。

それは、教会が説くような清らかなものではない。もっと暗く、歪で、人間の欲望や復讐心に近い、生々しい感情。

王や神ではなく、正体不明の「悪魔」に救いを求める、倒錯した祈り。

 

 

王都の闇は、確実にその色を濃くしていた。

そうして、悪魔信仰などという協会真っ青な話に花を咲かせる民衆の前に一人の男が歩みを進める。

 

 

男はまるで上級貴族に仕える執事のように黒い燕尾服に身を包み、その歩み一つ一つが洗練されていた。

白と黒が混じり合う髪の下から覗く瞳はキレ長く、血のように赤く鋭利に輝いている。

 

男は整った顔に掛けられたモノクルを少し整え、民衆へと話しかけ話題の輪へと入り込む。

 

 

 

「失礼。今、悪魔と聞こえたのですが、お話を伺っても構いませんか」

 

 

 

 

 




民衆「悪魔ワッショイ」

カイル「なにそれ知らぁーーーーーーーーーん!!!私はメインな人達や神とか悪魔とか危ない人達と関わらず生活するんですーーー!!!」最近ちょっとなんか変な呼ばれ方し始めてると知った人

謎の執事みたいな人「悪魔ですか…ほぉ」ギュピ、ギュピ
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