開拓地でスローライフを送りたい。   作:ごすろじ

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高評価、感想、謝字報告に毎度の感謝を申し上げます。
筆を動かす貴重な燃料となっています。


第十一話。婚約者ワカラセ

時が経ち、カイルは十歳になった。

表向きには、侯爵をはじめとする取り巻きの貴族たちに甘やかされ、日に日に傲慢さと未熟さを増していく「馬鹿王子」として、その評判は城内どころか、地方貴族にも知れ渡る所となった。

 

 

一方、夜な夜な森へ繰り出しては魔物を狩り、自室では骨と筋肉を砕いては再生させる常軌を逸した鍛錬を続け、極稀に裏のつく催しものに天井やら壁をぶっ壊し参加し続けた結果。

カイルの服の下には、凝縮されたワイヤーを束ねたような筋肉と、ゴリゴリの骨格で構成された肉体に進化していた。

 

人間のそれとは呼べない領域を超え、これから更に鍛えようと考えているのだから、頭が可怪しい。

怪しまれぬよう、夏でも冬でも関係なく着込んで隠しているが、高密度で圧縮された筋肉の筋とて骨がギチギチ犇めいている。

 

 

総体重は四百キロオーバー。

最早乗馬の授業など出来ないと悟ったカイルは、王子として施される様々な授業をブッチしまくり、父である王すらも呆れ返させる問題児と化していた。

第二王子派の貴族たちは、愚かな王子を更なる都合の良い傀儡とするべく、その怠惰を積極的に後押ししていた。

 

 

そうして過ごしていると、いつのまに兄ジュリアスからは愚弟呼びされるようになってしまったが、カイルにとっては計画が順調な証。

周囲の冷めた視線を心地よく浴びながら、毎日ご機嫌な毎日を送っていた。

 

 

そんなある日、国王に呼び出されたカイルは、兄ジュリアスと共に玉座の間にいた。

国王の口から告げられたのは、カイルにとって、ついに来た、という一言だった。

 

 

「カイル。そなたには知らせておらなんだが、そなたが産まれる以前より、王家と公爵家との約束事として結ばれた婚約者がおるのだ」

 

(ほほう。そんな感じで伝わるのか)

 

 

心臓が音を立てる。かろうじてある知識によれば、私の婚約者は、公爵令嬢スカーレット・エル・ヴァンディミオン。

今現在「狂犬姫」と呼ばれ。将来的にパーティー会場で私と男爵令嬢を文字通り「ブッ飛ばす」超人。

妹曰くスタープラチナ……恐ろしすぎる。

 

 

「相手は、ヴァンディミオン公爵が一人娘、スカーレット嬢だ。我が国の要である筆頭公爵家との結びつきは、王家にとって不可欠。これは政略結婚。心して臨め」

 

「公爵家ですか。王子である俺との婚約です、妥当な身分ですね」

 

「カイル。事実とは言え、そういった驕った発言は慎むべきだ。本心を隠さないことは美徳だが、些か晒すぎているな」

 

「ハッ、兄上。羨ましいのですか?俺に先に婚約者が用意されて」

 

(どうよ、この煽り。品性の欠片も無くて、しょうもなさすぎる)

 

「婚約者をもののように表現するのは褒められたことではないな。私は第一王子だ、婚約者はそう簡単に決められるものではない」

 

(皮肉…かな、これ。お前と違ってこっちは王位継承権第一位だから適当な奴なんて選べないんだよ、国益を考えて慎重に選んでんだボケ。ってことですね兄上。これは間違いない、かなり嫌われてるな)

 

「カイル。ジュリアスが正しい。そなたの婚約者は王国でも有数の名家の子女だ。契約とはいえ、王家に嫁いできてくれるのだから礼をつくして、無礼な振る舞いをしてはいけない」

 

(申し訳なさしかないな…。私は労働刑をかせられたアメイジングな開拓者にしかなれないのに。王族の婚約者になることを運命づけられているだなんて。王妃教育は過酷なものだと聞くし…上手く接していけるかなぁ…)

 

「……はい、父上」

 

カイルは父と兄に諌められ渋々といった様子で頷き、納得する。

だがその表情からは不満がありありと見て取れる、本当の意味で理解はしていないのだろうと国王は溜息を吐く。

 

 

「うむ、カイル。来週の王家主催の夜会にはスカーレット嬢も招待しておる、その際にきちんと挨拶してきなさい。以上だ、もう下がってよい」

 

「えぇ、父上。お任せください、王子として俺の婚約者とやらにしっかりと立場を理解させてみせます」

 

 

カイルのその発言に王は心配そうに顎を撫で、見送る。

ジュリアスは王と視線を合わせた後、苦笑いのようなものを零し、軽く会釈し下がった。

 

 

 

城の通路を歩きながらカイルは考え込む。

一つ…とても重要なことを忘れていた。

 

 

(…どんな態度とればいいか全然覚えてない……。え、えと…あれ?ま、まぁ…虐めればいいだけだし…虐めってどうやればいいんだ?髪をナイフで切り落とそうするのとかは覚えてるが…。そうじゃなく幼少期…。待て、そもそも私は貴族令嬢と正面切って話すのこれが初めてだぞ、いつもは適当に鼻を鳴らしておけば、兄上の所に皆集まっていってたし、夜会なんて椅子で爆睡しかしてないぞ)

 

 

ことここに至って思い出す。

鍛えるばかりで肝心のコミュニケーション方法を考えてすらいなかった。というか、自身が全く女慣れしていないという事実に。

筋金入りのマゾ野郎に誰かを虐げたり出来るのか…カイルは来週の夜会に胃を痛めながら参加する羽目となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎ去っていき、夜会当日。

国王主催の夜会は、パリスタン王国の虚飾が最も色濃く現れる場所だった。

 

 

きらびやかなシャンデリアの光が、貴族たちの装飾過多なドレスや、金銀細工のアクセサリーに乱反射し、視界のすべてが眩しく騒がしい。

この空間、この時間すべてが、権力と富の自慢のために構成されていた。

 

 

カイル・フォン・パリスタン、十歳。

第二王子でカイルは、夜会の主催者の一人として、最も華美な装飾が施された衣装に身を包んでいた。

焦げ茶色の髪は完璧に整えられ、口元には軽薄で傲慢な、テンプレート通りの王子の笑みを張り付けている。

 

 

(すんっごい悪趣味な服。これだけで王家の評判がガタ落ちするぞ。誰だぁ、このセンスで服作ったやつ。…って、私の要望で作って貰ったんだったか)

 

 

内心で毒づきながらも、カイルは自身の馬鹿王子としての役割を完璧に演じ続けた。

 

 

夜会が始まると同時に、侯爵を筆頭とする第二王子派の貴族たちが、まるで示し合わせたかのように、カイルの周りに群がってきた。

 

 

「おお、カイル王子!今宵も素晴らしい装いです!陛下以上に、この夜会を華やかに彩っておいでだ!」

 

 

侯爵は、心底感動したかのように両手を広げてみせる。その顔には、隠しきれない卑屈な喜びが滲んでいた。

 

「フン。当然だろう。この俺が着飾ってこそ、この夜会の価値があるというものだ」

 

 

カイルは、わざと傲慢に鼻を鳴らす。

 

 

「さようでございます!カイル様こそ、この国の希望の光。ジュリアス殿下のような理詰めで冷たいお方には、到底出せない覇気を感じます!」

 

(おい馬鹿、わざと聞こえるように言うな。兄上の派閥の貴族にガン睨みされて居心地が悪いわ。後なんだその説明口調みたいなセリフ、向こうに嫌味言いたくて仕方ないのか。付き合ってやらんぞ…今日はそれどころじゃないんだよ…)

 

「ははっ、俺の覇気…か。褒めても何も出ないぞ」

 

覇気…覇気ってなんだよ。

貴族たちはカイルの周りを固め、口々にジュリアスの欠点とカイルの美点を挙げ、ひたすらに持ち上げ続ける。

 

 

 

そんなカイルと悪徳貴族の一群から、一段離れた場所。

第一王子ジュリアスは、柔和な笑みを浮かべ、他国の使節団や、中立派の貴族たちと優雅に談笑していた。

 

彼の立ち居振る舞いは完璧で、夜会という空間そのものを支配しているかのような高貴なオーラを放っている。

 

 

カイルは、ちらりと兄の様子を盗み見る。

 

 

(相変わらず完璧だな、兄上。さす兄、やはり王は兄上で決まりです。全部ぶん投げさせて貰います)

 

 

ジュリアスは使節団との会話を終えると、優雅にグラスを傾ける。

そして、そのガラス玉のような冷ややかな視線を、一瞬だけカイルの方に向けた。

 

その瞳には、怒りも、軽蔑も、一切含まれていない。

ただ、「また、おかしなことをしているな」という、観察と呆れの感情だけが読み取れる。

 

 

ジュリアスは、カイルの背後にいる侯爵たちの表情を一瞥すると、すぐに視線を外し、次の挨拶の相手へと向かった。

 

 

(兄上の視線が鋭い。あれはきっと、完全に見切りをつけた上位者の視線。養豚場から出荷される豚を見るような目、に違いない)

 

 

カイルは内心で背筋を震わせながら、口元の笑みをさらに深くする。

その顔には、兄の視線に気づいていない、愚かで傲慢な王子の表情が張り付いている。

 

 

一通り周囲の太鼓持ちがワッショイした後、貴族たちが私から離れ、悪い顔でヒソヒソ話し合っている。

その輪の少し離れた場所には宰相もおり、目が合うと軽く会釈するだけでどこかに行ってしまう。

 

 

(思いっっっきり…舐められてる。我仮にも王族ぞ?黒幕とはいえ家臣のくせに、一度も挨拶にもこず後回しとか、コケにされ過ぎ…)

 

 

悪代官達の巣窟から離れ、周囲をキョロキョロと見渡していると。

ソファーにちょこんと座る人形、ではなく銀髪の美しい少女が見えた。

 

 

驚愕した…美しいことは勿論だが、魔力量が凄いんですけど。

直感で肌にビンビン来る。

間違いない…あれが、私の婚約者…スカーレット・エル・ヴァンディミオンに違いない。

 

 

(くっ……び、美少女が過ぎる。大丈夫だ、少し情緒が身体に引っ張られた程度だ…こんなことで醜態はさらさないぞ)

 

 

…よし、行くか。尊大に…尊大に声をかけるんだ。

ゆっくり、顔も合わせたことの無い婚約者の元に一直線に向かう。

 

 

「おい。お前がスカーレットか?」

 

 

声がカラッカラだが、なんとか言えた。

かなり嫌味ッたらしい言い方だし印象はよくないだろう。

スカーレット嬢が反応し、ソファから立ち上がり、ドレスを摘み優雅なカーテシを披露する。

 

 

「はい。私がヴァンディミオン公爵家の娘。スカーレット・エル・ヴァンディミオンですわ」

 

「………」

 

「あの……」

 

 

思考が凍る。ここまで尊大ならもっと喧嘩腰で挨拶が帰ってくると思って色々セリフを用意していたのだが…とんでもなく丁寧な返しで返された。

困った…いや、本当に困った。どないすれば?

 

 

そうだ、彼女は恐らく武術家。そこを攻めよう。

狂犬姫という二つ名に誇りを持っているはずだ。

 

 

「あぁ、いや何。随分と従順だな…俺は知っているのだぞ?ついこの間アレクシア家の子息を殴ったそうだな。どんな野蛮な雌ゴリラかと思えば、まるで淑女の鏡のような奴だな!知性の宝珠!理性と美の調和!優美なる叡智!沈着の薔薇!静謐の華!狂犬姫などとは片腹痛い、貴様を所詮夜空に爛々と輝く白銀、そうだな…その目立つ銀髪!そう星の白金(スター・プラチナ)などの名が余程お似合いだ!狂犬姫など名前負けも良いところだな!狂犬要素が薄すぎるだろう!馬鹿め!」

 

 

(ッべー…やッべーよ…。わ、私今何言った?もう頭真っ白なんだわ。どないすんの、これ?喧嘩を売ること、相手を嘲ることを意識して口を開いたのに。スカーレット嬢の姿とかスター・プラチナとか全部脳内でミックスされて、意味不明なことを口走ったことしか覚えてない。)

 

 

あ、もう無理。今は無理。特に非もない相手に険悪な態度で当たるとかそもそもマゾには無理。

向こうから嫌ってくれないと私は険悪に当たるとか無理だぞ。

こんな美少女イジメられるか!?声かけるだけで心臓バクバクだわ!!

 

「は?」

 

お、おぉ…ッ!。こ、これはキレてるのか?それとも無関心なのか?声色が美しすぎてよくわからんぞ!?

そうだ、付き人!次のカードを切らなければ。

 

 

「お前、今日から俺の付き人な」

 

「はぁ?」

 

 

こ、これはキレてるな。目元に青筋浮かんでる上に拳をギチギチ握り込んで、片手で片腕を抑えているぞ!

この調子で…押し込む。

 

 

「ふざけないで、誰が貴方みたいな子供の付き人なんかしないといけないのかしら」

 

「なんだと!たかが公爵家の娘如きが生意気な!貴様が同年代で一番お淑やかで、美しく、優雅で、優美で、可憐で、誰もが連れ歩きたい美少女だからに決まっているだろう!」

 

 

スぅ~~~ーー……またなんか言っちまったなぁ。だが止まれん。

 

 

人の怒りとはそう簡単に静まらない、まだイケる、よしこのまま畳み掛け…

 

ーースン…。

 

あ、あれ…スカーレット嬢の青筋が少し引いたんだが?

 

 

「公爵家如きですって?では貴方のお家はさぞご立派なのでしょうね?」

 

「俺の家はこの国そのものだ!」

 

 

恥かしいなぁ!?将来的には開拓者ライフが約束されてるのに、家は国ですとか恥ずかしすぎる。

 

 

「付き合っていられませんわ」

 

 

そういうと彼女はプイと背中を向けどこかに行こうする。

まずい。肌感だが、あんまり嫌われてない気がする、どっちかというと呆れているに近い。

 

 

半端過ぎる、これはいかん!

ここでせめて!この一瞬でもいいからデカい傷跡残さねば…ッ。

 

 

――き、切り札を切る。

スカーレット嬢にだけ聞こえる声量で……。

 

 

「逃げるのか!くくっ、なら最後に覚えておくがいい、実は俺は――生粋のマゾヒスト!人に殴られ蹴飛ばされるのが大好きな超弩級のマゾヒストなんだ、どうだキモくて声も出んだろう」

 

 

ど、どうだぁッッッッ!!!!!!!???

禁断の禁じ手。突然の性癖開示だ!!自分に自分でドン引きだわ!!

 

 

突然こんなカミングアウトをされれば温室育ちの淑女はドン引き間違いなしだろう。

これで好感度は最底辺、シナリオの流れに復帰出来る…。

 

 

……そう満足気に浸っていると頬に拳が迫っていることに気がついた。

 

 

「――ぶ!?」

 

「……どうやら本当のようですわね」

 

 

え、え…あ、あれ、今軽く殴られた?え、なんで?

というか…スカーレット嬢、さっきまでの無表情はどうしたんです?

 

 

目がキラッキラなんですが…えぇ、どうしてなんだ。

確か悪人とかムカつく奴を殴るのが好きであってサディストって設定じゃなかった…と、思ってたけど…。

 

 

若干頬が赤いような気がするが気のせいですか?

 

 

「とても…素晴らしい殴り心地でしたわ。いかがでしたか?私の拳は?」

 

「え?あ、あぁ最高で…じゃ無く…俺は――」

 

 

何がなんだか分からず自己紹介をしようとした所でスカーレット嬢の父君と見られる男性貴族が近づいてくる。

私の姿を確認するとギョとした様子でスカーレットを嗜める。

 

 

「どうしたスカーレット。一体なんの騒ぎだ。ハッ、まさかとは思うがあのお方に無礼な言動はしていないだろうね?慎みなさい」

 

「え?」

 

「あのお方の名前は、カイル・フォン・パリスタン殿下。お前の婚約者であるお方だ」

 

 

なんだか可笑しな流れだがまだチャンスはある!

シナリオの強制力を信じるぞ!ここが少女漫画的なアレな世界ならきっとあるはずなんだ!テンプレ設定を信じるぞ!

 

 

にぃっ……見よ、この渾身の性悪クソガキフェイスを、これチェックメイトだ。

ここは覚えている。たしかワナワナと滅茶苦茶嫌な顔をされる場面だ。きっと凄い顔をみせてくれるはずだ!

 

 

「……そうとは知らずご無礼を。不甲斐ない身ですが、これからよろしくお願い致します、カイル様(愛しのサンドバッグ)

 

 

私を見つめる瞳は拒絶一色、表情は生理的嫌悪に染まって……ない!?何故!!

どうしてーー満面の笑みで了承するんだスカーレット嬢!!!

 

 

私は何をミスった…。

そんな満面の笑みで言われても困るんだが…。

 

 

 




次回は、スカーレット嬢視点でお送りします。
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