開拓地でスローライフを送りたい。   作:ごすろじ

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モチベーションが残っている間に書いて投稿しておきます。


第一三話。戦術的撤退

 

 

 

夜会に響き渡る楽団の演奏が、やけに遠くに聞こえる。

目の前では私の婚約者であるスカーレット・エル・ヴァンディミオンが、それはもう、満開の薔薇のような……一点の曇りもない肉食獣地味た暗黒笑顔を浮かべている。

その瞳はギラギラと輝き、血の気に満ち満ちていた。

 

 

(馬鹿な。謎のシナリオパワーで思考誘導される展開とかあるのでは?お約束がまるで通じない)

 

 

脳内の叫びは声にならない。

私の覚えているうろ覚えの知識では、彼女はここで嫌悪と拒絶ででプルプルと激昂するか、あるいは侮蔑に満ちた氷のような視線を俺に向けるはず。

それがどうだ。まるで長年探し求めていた理想の相手に出会えたかのような…この反応は。

 

 

彼女の様子を一言で表す最適な表現が見つかった……これは、そうアレだ。フルフルニィって感じだ。

 

 

「なん…だと…。末永く、だと?貴様が?俺に?」

 

 

思わず、彼女の囁きを鸚鵡返しに呟いてしまう。

その単語に、スカーレット嬢はこくりと淑女の作法など投げ捨てたかのように力強く頷いた。

 

 

「ええ。この拳で殴り、理解しましたわ。私を真正面から受け止めてくださる、理想の…いえ、私の生涯の伴侶にふさわしいお方ですわ」

 

(違う、そうじゃない。アレはそういうのじゃない)

 

 

話がとんでもない方向に捻じ曲がっていく。

隣に立つヴァンディミオン公爵が、娘の発言に青ざめ、慌てて割って入ってきた。

 

 

「な、殴った!?ス、スカーレット!何を不敬な!あれほど暴力沙汰は避けるよう注意したというのに。カイル殿下、この娘は日頃から少々、その……武の道に心酔しすぎておりまして…!決して他意は…!」

 

「お父様、黙っていてください。殿下はご理解くださっています」

 

「いや、俺は何も…」

 

理解など、一ミリもできていない。

私はマゾだぞ。正反対の思考をしてそうなバーサーカーの思考なんて想像する余地もない。

 

だが、く…なんだこのビリビリとくる捕食者の波動は!?思わず後ずさってしまった、この鍛え上げしマゾの私が…こんな子供にッ!

 

 

彼女の拳はまずい。先ほどの一撃は、明らかに手加減されていた。

それでも、常人なら吹っ飛ぶ威力だった。魂が震えた。

あれの本気の本気を食らったら、私は即堕ちしてしまう自信がある。

 

そんな時、第二王子派閥の貴族たちが、何事かとこちらを遠巻きに眺め、ひそひそと囁きあっているのが聞こえた。

 

 

「まあ、カイル王子とスカーレット様が、何やら親密に…」

 

「あの『狂犬姫』が、人を殴っている時以外にあのような笑顔を…?」

 

「もしや、カイル王子はあの姫君を手懐けられたというのか…!?」

 

(ちがう…ちがう…)

 

 

やめろぉ!?一応味方なんだから背中から撃つな。外堀を埋めるな。

違う、私は相手を手懐けるどころか、スカーレット嬢からチョークスリーパーをかけられていると錯覚するほど追い詰められてる!息が詰まりそうだ。

 

 

「カイル様。先ほどのお言葉、忘れてはおりませんわ。『今日から俺の付き人』、と。明日より、誠心誠意お仕えさせていただきます」

 

「え、あ、いや、あれはだな…」

 

「ご心配なく。王子のお側に控え、どのような時も、王子のお望みのままに拳を振るわせていただきます」

 

(違う違う、そうじゃない。――この狂犬!! ちーがーうだーろーっ! 違うだろーォッ!! 違うだろっ!!!なんで目元に常に陰が出来て眼光が光っているんだ!怖いからやめろぉ!!?)

 

断れない。この状況で、この笑顔のスカーレットに「付き人なんて冗談だ」と言える猛者がどこにいる。

言えば最後、今度こそ本気の拳が飛んでくるだろう。そして私は惚れる。

 

その時、ふと、兄上の視線を感じた。

少し離れた場所でグラスを傾ける兄は、全てのやり取りを見ていたのだろう。

 

(兄上!兄上ぇ!多分兄上のヒロインですよね!貴族同士の結束を強めるのも結構ですが…助けてくれメンス!軽く殴られただけなのにめっちゃ気持ちよかった!俺この娘のこと好きになっちいまう!という奴だからニチャニチャ見下ろしてないで助けてくれ!愛しのサンドバッグってたぶん兄上のことだからーーー!)

 

 

兄上は、俺の心の叫びなど知る由もなく、静かに踵を返し、別の貴族との談笑に戻っていった。

 

 

見捨てられた。

 

 

悪役令嬢に転生した主人公が破滅エンドを回避しようとしてもシナリオの強制力という謎の思考誘導で引き戻そうとする運命パワーはどこだ。恋愛漫画には、あるはずなんだ!!

かくなる上は…――公爵家当主の前で娘さんを貶めるのは良心が咎めるが、やるしかない。

 

 

この謎に上がった好感度と関係を今ここで破壊するッ!

顎をシャクリ、手で顔を覆い、身体を反らせ、極めて傲慢な笑み。クソガキ仕草全開、フルバーストだ!!いくぞスカーレット嬢!

 

 

「ふ、ふあはは!俺の戯れを本気にするとは実に間抜けな道化だな貴様は。俺の付き人だと?公爵家の小娘如きが、か。調子に乗るでないぞ小娘、貴様のようなひ弱で、か弱そうな、淑女淑女した美少女淑女に俺が本気になるはずないだろう!役不足も良いところだ!!馬鹿が!」

 

「それはどういう意味でしょうか?カイル様」

 

 

――キメるッ!

私は人差し指を伸ばした右手を天高く突き出し、スカーレット嬢にビシッと突きつけ指差す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は……――弱い!」

 

 

 

 

 

 

 

「「なッ…!?」」

 

 

スカーレット嬢と当主様の顔に戦慄が走る。

両者共、目を大きく見開き驚愕の表情を浮かべた。ピシャーン!と雷の幻覚が見えるほどの驚愕っぷりだ。

 

 

いける、いけるぞ。

先程はすこし上手くいかなかったが、恐らく当主もスカーレット嬢の武力を自慢に思っていることだろう。

この歳で強さを磨いているスカーレット嬢もきっとそうだ。そうに違いない…たぶん。

 

 

貶してやるぞ、その武の誇り!狂犬姫という異名を……このクソガキ第二王子カイル・フォン・パリスタン様がなぁ!

何ももたぬ甘ったれ鼻垂れ、武術の「ぶ」の字も知らんような私に弱者と侮られさぞ悔しかろう!これぞ最強の一手、舐め腐った挑発!マゾ如きに拳が軟弱と侮られさぞ屈辱だろう!

 

 

「私が…弱い?」

 

「くく、そうだ!殴るだけならば猫にでも出来るわ!貴様に俺の付き人など務まらん、そんな軟弱な拳はパンチとも呼べん!一度パンチの打ち方から教わってきたらどうだ?軟弱美少女淑女めッが。貴様のような普通の淑女は友達同士で仲良くお茶でもしておれ、裁縫がお似合いだ」

 

 

女は駄目だなぁ、的なモラハラ臭をビンビンに出してへらへらと軽薄な笑み、どうだ!このクズっぷり。

お…ぉお。流石に怒ってるか?まだ幼いが、今一瞬半眼でこっちを睨んだぞ!知ってるスチルだな!

 

 

か、かといって煽りすぎるのも怖い。

妹曰く時止めも出来るとか言ってたし…口開けられて、剣を喉奥にぶっ刺されたら普通に死ぬぞ…。

概念系の時間停止なら無理だが、時間が止まるほどの超加速なら対応出来るかもしれない…だが今は無理だ、対応出来る気がしない。

 

 

「公爵家の娘として己の不甲斐なさと無力を味わいたくないのであれば、大人しく身の程を弁えろ。いいな?」

 

「畏まりましたカイル様、では明日から婚約者としてよろしくお願いいたしますわ」

 

(……うん?)

 

「あ、あぁ…そうか、スカーレットが弱い。そうか…普通の淑女、まさか血生臭い噂が広まりすぎた娘をそのように言ってくださるとは…スカーレット、しっかり婚約者として励みなさい」

 

(あ……これ、まずいな?)

 

「な、なにぃ…ッ!?き、貴様、話を聞いておったのか!」

 

 

間違いなくキレてる!ピキッてるはずなのに食い下がってくるは何故だ!可怪しいだろ!?当主は当主で感動してるし…王家との婚約だから揉め事を起こしたくないのはわかるが、娘がここまで貶されているんだから怒る場面だぞ!バレバレの演技などしおって!別に付き人は婚約とは無関係だから断ってもいいんだぞ!?

 

 

「付き人など俺は認めん。奴隷――貴様など奴隷扱いしてやるぞ!」

 

「カイル様の婚約者として努力いたしますわ。最底辺から…登ってこい、そういうことですわね」

 

 

 

違うわ。

 

 

私が…私が可怪しいのか?

半端にしか情報がないからスカーレット嬢や周辺情報に疎い影響で色々と読み違えてしまったのか?

 

 

いやいや、あなた悪人成敗の水戸黄門系主人公ですよね?

理不尽には堪え忍べても、好悪はハッキリとしている。義務感で私との婚約も続けるような人のはずだ。え、違うの?

 

 

ここまで言ったら見切りをつけて諦めモードに入るのが普通だ。

完全に冷めている人間の言葉には感情も乗らない。

だというのに…スカーレット嬢の言葉一見お淑やかだが、めっちゃメラついてる。

 

 

好感度破壊の最強カードである奴隷発言を切ったのに成果不明だと…。

見なさいな周りを、私の奴隷発言で第二王子派はワクテカしてるが、聞き耳を立てていた第一王子派と中立派の貴族はゴミを見るような目をしているぞ…。

 

 

貴族達は私が王子だから表向き何も言ってこないだけで、内面の好感度だだ下がりしてるだろう。

奴隷は王国では犯罪なんだよぉ!!

この空気感、公爵家の娘として否定せざる終えないと踏んでいたのに――なぜ全肯定!?なんか都合のいい解釈するんじゃないよ!私は勘違いもの主人公かッ!?

 

 

こうなったら。

 

 

て……撤退だ!

 

 

「う、うるさい!貴様らも何も見ている!ええい腹立たしい!不愉快だ、こんな場所にいれるか!俺は帰らせてもらう」

 

 

「お帰りですかカイル様、それでは今後ともどうかよしなに。ごきげんよう」

 

 

「うるさいぞ!どけ、俺は王子だぞ!どけどけ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公爵とスカーレット嬢に背を向け、挨拶もせずズンズンと大股で歩き他の貴族達を避けもせず立ち退かせて会場から退散する。

 

 

ふぅ…一旦落ち着こう。色々想定外の出来事だらけだったが、考え直すとそこまで悪くない…はず、だ。

 

あれだけ言ったんだ、MAX100として好感度が0からマイナス50くらいまで下がっているはずだ。

若干不安が残るが怒ってたし、既に内心では嫌われてるはずだ。

 

 

 

 

………。

 

 

 

な、なんだ…大丈夫じゃないか。

少し動揺していただけで今のままで正しい。

結局スカーレット嬢は私の付き人としてつき合わされるハメに収まった、つまりは原作通り。やはりシナリオの強制力というのは存在する。

 

 

 

なら、このまま私が適当にスカーレット嬢を虐めておけば行き着く所に行き着けるはずだ。

今日の教訓を踏まえるのであれば、内容は重要じゃない、虐めたという事実が大事なのだ。スカーレット嬢に話しかける、傲慢に振る舞う、好感度は下がって付き人となる。完全な原作の流れだ。

 

 

そうか、そうなのか。やはり流れは収束する。

そうじゃなきゃ可怪しい、私の方から付き人拒否などと言ってしまったが、あの場面でスカーレット嬢のほうから付き人を了承するなど不自然すぎる。だというのに了承した。

 

 

つまり…あったんだ!原作へと導くシナリオの強制力が!!

 

 

よし、そうと決まれば…ある程度自由にしてもいいということだ。身体の作りとかももっと大きくしても問題ないだろう。

憧れの北部の大公っぽい感じにしてみたり。

これからもっと鍛えねば。開拓地で加護持ちや危険な魔物に遭遇しないとも言い切れない、殺されないようにさらに自己防衛力を高めておかないと。

 

 

 

 




カイル「これぞ世界の強制力」

世界さん。時空神クロノア。女神パルミア。創造神オリジン。地母神キュベレイ。風神ボレアース。鋼鉄の神メテオール。始祖竜。ダンテロード。後なんか色々「「「「「ねーよそんなもん」」」」」






カイルのパーフェクトコミュニケーションによるカイル予想。
スカーレットの好感度。-50。
スカーレットの父親の好感度。-50。
ジュリアスの好感度。-100


次、三人全員分の視点をやっていくよぉ~ん。
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