開拓地でスローライフを送りたい。   作:ごすろじ

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ストックは?=ないです。
プロットは?=ないです。

主人公はなんなの?=前世山育ちの変な密教に身をおいていた変態おじさん。


第二話。一般ピーポー王子

 

全身複雑骨折の激痛が日常になってから、数ヶ月が経った。

この世界の常識をイマイチ把握しきれていないため余り頭の可笑しい行動は出来ない。

 

 

もしかすれば精神異常や異常行動が精神病とは分類されず悪魔憑きなどという分類に別れる可能性もある。

悪魔憑きや魔女裁判みたいなのは王族でもシャレにならんからなぁ…。

 

 

出来れば外で鍛錬したいが、年齢と立場も相まって危険な真似はさせて貰えないだろう。

それなら自室に引きこもって鍛錬していた方がマシだ。

 

 

年齢相応に遊びたい気持ちを押し殺し、ただひたすらに己を鍛え上げる。

全身を破壊し、再生する。自らの肉体を工房とし、精神を槌として、理想の「生ける武具」へと作り変えていく。師が説いた武の真髄。そのための初期鍛造は、決して疎かにはできない。

 

 

目指す領域では、並の武具など音速の負荷に耐えられず砕け散る。ならば、最初からこの身一つを究極の武器とする他に道はない。

 

 

地道な鍛錬の成果は出てきている。拳は音速を超えても五発は耐えられるようになったし、城から飛び降りても骨の一本も折れなくなった。

 

 

臓器や眼球といった、物理的に鍛えようのない部位は魔力で補強するしかないが、それも感覚を掴めてきた。

 

 

「今日も反復横跳びで練習だ。第一王子である兄上が優秀すぎてこっちに過度な期待が来ないのは助かる。勉強をしろ、期待に答えろと周囲から圧を掛けられることも少ないしな」

 

 

広い部屋の中で静かに反復横跳びで左右にカサカサと飛び跳ねる。

師の教えの一つである歩法の技術に魔力という概念を加え徐々に速度を上げていく。

 

 

全身の関節運動と魔力を同調させ、発生した推進力を一切殺すことなく、次の一歩、次の一動作へと淀みなく繋げていく。

 

 

まずは、滑歩。

地面を滑るように移動する。足音はほとんどしない。相手の死角へ回り込んだり、攻撃を流れるように避けたりするのに使用する段階。

 

 

次に、瞬動。

残像を残す速度。相手からは動き始めと終わりにだけ姿が見え、移動中はブレた残像しか見えない速度で動く。

数メートルの距離なら、相手が瞬きをする間に詰め寄ることができる…はずだが、時を止められたら何の意味もないだろう。

 

 

そして最終、無拍子。

予備動作も残像も完全にゼロにする最終領域。思考と同時に体を動かし、初動が最大速度。全身の関節と魔力の流れ常に微細に振動させている待機状態から、一気にトップギアに入れる。

 

 

眼球を魔力で強化ししっかりと保護。

乾いた空気の音がした。空気の層を破り音速へと達する感覚がビリビリと全身に伝わる。

 

 

「あ…まずい。折れた」

 

 

無理な姿勢からの急加速に、足首が耐えきれなかった。そこを起点に、制御を失った衝撃が全身を駆け巡る。バキバキバキ!と、骨と筋繊維が内側から弾け飛ぶ音が響いた。

 

 

速度が乗ったまま、身体は窓から放り出され、錐揉みしながら墜落していく。

 

 

グシャッと生々しい落下音が鼓膜に響く。

 

 

地面に叩きつけられ、関節がありえない方向に曲がった。なんとか魔力で保護した頭と内臓が無事だ、皮膚を事前に魔力で強化していたので出血もない、全身複雑骨折、筋繊維断裂だけで済んだのが不幸中の幸いか。

 

 

激痛を超えて意識が飛びかけた。

まだ幼い故我慢できたが、身体が性に目覚めていたらとんでもない醜態をさらしていただろう。

 

 

いつも通り皮膚を魔力で強化し、人形のように全身を操り立ち上がる。

折れ曲がった関節や骨を正しい位置に戻し、赤紫一色の掌を隠すように手袋をはめる。

 

 

 

「はぁ…こんな調子では。あっさり殺されてしまうかもしれない。もっと鍛えて自己防衛しなくては…」

 

 

神の加護に抗う術だけでなく、この世全てから自己防衛出来るようにならないといけない。

化物のような人外蔓延るこの世界で常人として生き抜く術を見出さなければならない……。

 

 

幸い、墜落現場は誰にも見られていなかったようだ。近くにいた衛兵に「遊んでいて足を挫いた」と嘘をつき、部屋まで肩を借りる。

 

 

「衛兵、貴様は神の加護について詳しいか?やはり化物みたいな奴らか?」

 

 

「加護についてですか?そうですね、私の知る限り歴史に何度も名を刻んでいる方々ですので常人とは別格なのでしょう。直接は目にしたことはありませんがきっと凄い方々に違いありません」

 

 

 

「やはりそうか。神の加護などと大層な肩書だ、それ相応の力を持っていて当然か」

 

 

衛兵に手を引かれながらヨロヨロと階段を上がっていく。

二、三年は鍛錬に当てるつもりだったが、私は非力すぎる、このままではいけない…並行して実戦を行わないといけないな。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

――6ヶ月後、深夜。

 

 

城内を巡回する衛兵以外が寝静まった深夜。私は自室の窓枠を蹴って飛び上がる。

城壁から城壁へと飛び、民家の屋根を音を立てないように駆け抜ける。

目指すは平原の先、魔物が跋扈する森。

この深夜の鍛錬も、数え始めてから百回は超えただろうか。

 

 

深夜ならば魔物も寝静まっているだろう、などという甘い考えは、初日に捨てた。

 

 

野生の獣は、己の縄張りを侵す者に容赦しない。

森に一歩足を踏み入れた瞬間、四方八方から突き刺さる、剥き出しの殺意。

それは子供の肉を喰らいたいという本能か、あるいは、私がこれまで散々喧嘩を売っては殺し、わざと一体だけ生かして恨みを募らせてきた結果か。

 

 

暗がりの奥、粘液を滴らせる大蛇が鎌首をもたげ、腐肉の臭いを放つゾンビがぬらりと姿を現す。棍棒を担いだトロールの巨体、岩のような皮膚を持つ猪。そのどれもが、人間を殺したくてたまらないという顔をしていた。

 

 

「改めて見て思うが……ここ本当に恋愛小説の世界なのか?見た目怖すぎる。人間殺したくてたまんねぇぜ、みたいな顔してる奴ばかりだぞ。特に……あの蛇なんだ?初めてみるけどグロイぞ」

 

 

大蛇以外は既に何百と殺し合った魔物だな…だが油断は出来ない。

まだあの巨体共から繰り出される攻撃を、魔力強化無しで受け止められる程骨密度も筋繊維も完成しきってはいないのだ。

 

 

「師の教えにより、私は熊や猪などの人に仇なす害獣には殺法を扱うことは禁じられていない。私は加護など持ち得ない、二十年近く山で育ちで密教に身を置き武術を少し嗜んでいただけのパンピーだが……いつも通り油断せず確実に殺させてもらう」

 

 

腰を落とし、迎撃の構えをとる。

手の型など無い、拳はただ強く握る。

 

 

武の極意など目指したこともない。

私に出来ることは教えられた形通りに動き、早く近づいて、早く拳を突き出し、早く蹴り砕くだけだ。

 

 

私が磨いたのは速度、とにかく速度、速度で威力を強引にブチ上げた格闘術。それを魔力でより確殺性を高めた私独自の業だ。

 

 

魔力を目に集中させ、限界まで強化を施す。

音速の衝撃に耐えれても、衝突の衝撃までは耐えられることはまだ出来ない。故に衝撃の走る右拳から肩、両足のみの耐久を魔力で強化しておく。

 

 

「ぐぉぉぉぉおお!!」

 

 

明確な敵意に反応しオークがドタドタと足音を立て走り寄って来る。

大木をそのまま棍状に削ったような大質量の棍棒を振り上げ、すぐ側まで迫り躊躇無く振り下ろしてくる。

 

 

(当たれば死なずとも骨にヒビが入るだろう。な、なんて恐ろしい…質量という暴力だ、この化物め。私はゴブリンに集団でよってたかって殴られるのは好きだが、こんなデカブツは好かん)

 

 

現状の筋肉と骨密度の合計は二百キロ程度、この子供の小さい細腕では棍棒も砕けない。

だがここはファンタジー、神秘的な解決方が存在する。

 

 

風を切る轟音と共に、オークの棍棒が迫る。しかし、私の拳はその音よりも速かった。突き上げるような一撃が棍棒を粉砕し、返す拳がオークの厚い脂肪に覆われた脇腹にめり込む。

 

 

鈍い手応え。だが、問題ない。

 

 

瞬間、パン!と空気が破裂する音が響き、オークの上半身が血飛沫と共に円形に抉れて弾け飛んだ。まるで、見えない砲弾に撃ち抜かれたかのようだ。

 

 

すぐさま、後方から迫る次のオークに意識を向ける。地響きを立てて迫る巨体。私は関節を限界まで捻り込み、溜め込んだ力を蹴りとして放った。

 

 

相手との距離は二キロ。常識では、蹴りなど届くはずもない。

オークも油断し走り続けていたが、次の瞬間…その体は背後の木々ごと不可視の力によって円形に貫かれていた。

オークは下半身だけが数歩よろめき、やがて崩れ落ちる。

 

 

私がやっていることは、驚くほど単純だ。

風魔法の基礎である「衝撃波」を応用しているに過ぎない。

 

本来、魔力で風を集めて放つこの魔法を、私は物理的な打撃の瞬間に発生させている。

ならば後は、拳や足の周りに、あらかじめ魔力で圧縮した衝撃波の「射出口」を作っておくだけでいい。

 

 

これにより、打撃のエネルギーは拡散することなく、一点に集約されたまま不可視の弾丸となって射出される。

射出口の大きさを調整すれば、近距離を散弾のように薙ぎ払うことも、狙撃銃のように遠くの敵を精密に撃ち抜くことも可能だ。

殺傷能力が高すぎる点を除けば、非常に便利な技である。

 

 

続けて、音もなく大蛇の死角に滑り込み、硬い鱗に覆われた後頭部へ肘を叩き落とす。ゴッ、と厚い金属板を殴りつけたような鈍い衝撃。

 

 

――硬い。

 

 

だが問題はない。やることはいつもと同じだ。

 

 

肘を打ち込んだ一点から、大蛇の鱗に亀裂が走り、ボロボロと剥がれ落ちていく。

追撃を加えようとした瞬間、巨体が想像を絶する力で暴れ狂い、やむなく距離を取った。

 

 

 

「キシャァァァッ!!」

 

 

 

縦長の瞳孔を怒りと危機感に細め、大蛇がのたうつ。

 

その鞭のような胴が、近くにいた猪型の魔物を薙ぎ払い、骨の砕ける音と共に彼方へ吹き飛ばした。さらに、明らかに猛毒と分かる紫色の液体をまき散らし、周囲を即席の毒沼に変えてしまう。

 

 

(ど、毒か…そういえば毒殺対策ってしてなかったな…。私は傀儡だし、用済みになったら殺される可能性もあるよな。耐性もつけたいけど、毒を手に入れる手段がない…)

 

 

焦りはしない。

これまで積み重ねた実戦での戦闘経験が落ち着きを与えてくれる。

 

 

近くでうろついていた二足歩行の魔物に狙いを定めて飛びかかる。

その巨大に肥大化した醜悪な顔面を両手で掴むと、首の骨が折れる音も構わずに頭蓋をねじ切り、そのまま砲丸のように大蛇の口内めがけて投げつけた。

 

 

飛来した頭蓋は狙い違わず大蛇の喉奥に突き刺さり、毒液の逆流を引き起こす。

苦しげに頭蓋を吐き捨てた大蛇が、再び私を睨みつけた。だが、少し遅い。

 

 

「残念。もう喉元だ」

 

 

鱗に手を引っ掛け飛び上がり、大蛇の頭上に着地。

鱗の剥がれた柔肌へ拳を叩き込む。

 

 

衝撃波の「射出口」は、体内を貫通させないよう、あえて広げた拡散型。拳を引き抜き、即座に後方へ跳躍した。

 

 

直後、大蛇の内部で衝撃波の嵐が吹き荒れる。頭部が風船のように膨れ上がり、脳髄ごと弾け飛んだ。血が噴水のように噴き上がり、爆発は全身に連鎖していく。

巨体が完全に沈黙した後も、内部からの破壊は数秒間続いた。

 

 

先程まで暴れ狂っていた大蛇が死んだことにより、怯んだ魔物達は森の暗がりへと全員逃げ込んでいく。

辺りに溢れていた視線と殺意はすっかりなくなっていた。

 

 

「し、死ぬかと思った……。毒は駄目だろ、毒は。加護を持っている人間はこういうのも一発で仕留めるのだろうか…」

 

 

魔物との殺し合いが終わり、遅れて心臓が脈打ちバクンバクンと音を立てる。

危なかった。毒対策なんて何もしてなかったから、直撃したら絶対死んでた。

 

 

私は弱い、こんなことでは、まだまだ加護の「か」の時にすら対抗出来ないだろう。

魔物相手にこれ程の創意工夫が必要なのだ、やはり私はただの常人。一般ピーポー。

より速さと威力と確実性と持久力を高めねば。

 

 

 

 

 

 

 

思考を巡らせながら、全身の骨が折れるギリギリの速度で城への帰路を走る。城壁が見えたところで大きく跳躍、外壁に指をかけアサシンのようにコソコソ壁を上がる。

 

 

開けておいた自室の窓から滑り込むようにベッドイン。骨折した身体のまま、朝まで意識を瞑想に沈めた。

 

 

 

 

(ところで、私の婚約話って、一体いつになったら切り出されるんだろう?)

 

 

 

 

 

 

 

【余談】

数カ月後、王国の生態調査隊が、森の主であったはずの大蛇の白骨死体を発見し、王国は騒然となった。専門家たちは「より凶悪な未知の魔物が新たに出現した」と結論づけ、その森は冒険者を含め、すべての人間が立ち入りを禁じられることとなった。





【緊急報告書】ベルティナの森における生態系異常に関する調査結果

報告日: 王国歴XXX年 翠雨の月X日
提出先: 王国騎士団 生物調査部隊長官殿
報告者: 第三生態調査隊隊長 アルノー・シュヴァリエ

ベルティナの森における生態系最上位個体の死亡確認と、それに伴う危険区域指定の具申

1. 調査概要
王国歴XXX年 翠雨の月 X日、定期調査のためベルティナの森へ入った当調査隊は、中央沼沢地帯にて、同地域の生態系の頂点に君臨していたとされる個体「沼沢地の主(通称:エンシェント・サーペント)」の遺骸を発見した。

2. 遺骸の状態
・遺骸は、発見時点で完全に白骨化していた。死亡時期は数ヶ月前と推定される。
・骨格には、外部からの攻撃によるものと思われる、極めて特異な損傷が複数確認された。特に頭蓋骨は、内側からの強大な圧力によって粉砕されたかのような、前例のない破壊痕を残している。
・周辺の土壌からは毒物の残留は検出されず、毒による死亡の可能性は低い。

3. 周辺状況
・遺骸の周囲には、争った痕跡がほとんど見られなかった。これは、戦闘が極めて短時間で、かつ一方的な形で終結したことを示唆している。
・森全体の魔物の個体数が、前回の調査時より著しく減少していることが確認された。これは、新たな脅威の出現による生態系の変動と考えられる。

4. 結論および具申
以上の調査結果から、ベルティナの森には、「沼沢地の主」を一方的に捕食しうる、未知の最上位捕食者が出現したと結論付けるのが妥当である。この未知の存在は、王国にとって計り知れない脅威となりうる。

つきましては、調査隊および近隣住民の安全確保のため、ベルティナの森全域を最高危険度の「完全立ち入り禁止区域」として指定することを、ここに強く具申する。

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