開拓地でスローライフを送りたい。   作:ごすろじ

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高評価、感想、謝字報告に毎度の感謝を申し上げます。
短いです。ふ、筆が折れそう…。


閑話。星の白金【スター・プラチナ】

 

王城からヴァンディミオン公爵家へと向かう馬車の中は、奇妙な沈黙に支配されていた。

窓の外を流れる王都の夜景に見向きもせず、父であるヴァンディミオン公爵は、こめかみを指で揉みながら深いため息を繰り返している。

その顔には疲労と安堵、そして未だ拭い去れぬ懸念が複雑に刻まれていた。

 

 

一方、父の心労など露知らず、スカーレットは馬車の振動に心地よく身を揺らしながら、至福の表情で己の右拳を見つめていた。

あの重く、それでいて弾力のある感触。王子の呆然とした顔。

 

 

そして、これから始まるであろう、輝かしい日々。

思い出すだけで、口元が緩み、喉の奥から「ふふっ」と笑い声が漏れそうになるのを必死でこらえていた。

 

 

脳内で婚約者の名を反芻し、うっとりと目を細める。

すると、ふと、あの方の口にした奇妙な言葉が脳裏に蘇った。

 

 

あれは、確か――。

 

「お父様」

 

沈黙を破ったのは、スカーレットだった。

 

「うん? なんだい、スカーレット?」

 

公爵は、どこか上の空といった様子で娘に視線を向ける。

 

「一つ、お伺いしたいことがございますの。…星の白金(スター・プラチナ)とは、どういう意味なのでしょう?」

 

「すたー…ぷらちな?」

 

 

公爵は、眉をひそめて鸚鵡返しにした。全く聞き覚えのない単語だった。どこの国の表現だろうか。

 

「カイル様が、私のことをそのようにお呼びになったのですわ。『狂犬姫など名前負けも良いところだ、貴様を所詮夜空に爛々と輝く白銀、そうだな…その目立つ銀髪!そう星の白金などの名が余程お似合いだ!』と」

 

 

スカーレットが王子の言葉を正確に再現すると、公爵はううむ、とさらに深く考え込んだ。

あの王子は、一体何を考えているのか。

娘に殴られておきながら罪を問わず、『普通の淑女』と評したかと思えば、今度は意味不明な異名で呼ぶ。全くもって常人の理解が及ばない。

 

 

「星の…白金、か。プラチナというのは、金よりも希少で価値のある金属だ。つまり、『白金の星』…あるいは『星のごとき白金』とでも訳すべきか…」

 

 

公爵は、必死に頭を働かせ、その言葉の意味を解き明かそうとした。

 

 

「もしかすると、だ。カイル殿下は、お前のその銀髪と、類まれな美しさを、最も希少な金属であるプラチナで作られた星に喩え、最大限の賛辞を贈ってくださったのかもしれない。そうか、そうに違いない。なんとも…詩的で、そして独特な表現をなさるお方だ」

 

 

自己完結した公爵は、安堵したように大きく頷いた。

そうだ、あれは悪口などではなく、不器用な王子なりの、最大限の褒め言葉だったのだ。

そう思えば、娘を殴った件を不問にしてくださったことにも合点がいく。

 

 

父が一人で感動している隣で、スカーレットの思考は全く別の方向へと向かっていた。

 

 

(賛辞…? いいえ、違いますわ)

 

 

スカーレットは直感していた。あれは、ただの褒め言葉などという、浅いものではない。

彼の言葉には、もっと深く、複雑な意味が込められているはずだ。

 

 

『雌ゴリラ』

『軟弱な拳』

『弱い』

 

 

そして、『星の白金(スター・プラチナ)』。

 

一見すると支離滅裂なようで、しかしその全てが、私という存在の核心を突いているような、不思議な感覚。

 

(星…夜空に浮かぶ無数の光の中でも、ひときわ強く、そして気高い光を放つ一番星。決して地に落ちることのない、孤高の魂の輝き)

 

(そして、白金…プラチナ。時を経ても曇ることなく、どんな穢れにも染まらない、至宝の金属。その輝きは、持ち主の魂の在り方を映し出すといいますわ)

 

一つの答えが、スカーレットの中で形を結んだ。

 

私のこの拳は、まだ未完成。ただ硬いだけの、磨かれていない原石。

けれど、カイル様という、太陽のように強靭なサンドバッグを殴り続けることで、私の拳は磨かれ、やがては夜空に輝く星のように、誰にも真似のできない輝きを放つだろう、と。

 

そして、その輝きは、決して色褪せることのない、プラチナの価値を持つだろう、と。

 

(…なんと、深く、そして挑戦的なお言葉…)

 

それは、単なる賛辞ではない。

私の未来の可能性を予見し、そして「そこまで辿り着いてみせよ」という、彼からの激励であり、挑戦状なのだ。

 

 

「ふふ…ふふふっ」

 

ついに、スカーレットはこらえきれずに声を上げて笑い出した。

その楽しげな、しかしどこか獰猛な笑い声に、公爵はびくりと肩を震わせる。

 

 

「ス、スカーレット? どうしたんだい?」

 

「いいえ、お父様。なんでもございませんわ。ただ、婚約者様が、私の想像を遥かに超える、素晴らしいお方だったものですから」

 

 

カイル様。あなたは、やはり最高の獲物(ひと)

あなたの期待、このスカーレット・エル・ヴァンディミオンが、必ずやこの拳で応えてご覧にいれますわ。

 

 

 

 

星の白金(スター・プラチナ))』

 

 

 

 

その日から、それはスカーレットにとって、ただの異名ではなく、愛しい婚約者と自分だけが分かち合う、特別な絆の証となったのだった。

 

 

 




公爵「詩的でええやん」

スカーレット「どうも。スター・プラチナです」

公爵の好感度UP。スカーレットの好感度UP。

▼スカーレットは婚約者の期待に答え、太陽が如きサンドバッグを殴り、プラチナが如き輝きを放つ拳に至ることを目指した。

カイル「……………チガウ」(FXで有り金全部溶かす人の顔
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