開拓地でスローライフを送りたい。   作:ごすろじ

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第五話。蛮族仕草

 

 

乾いた金属音が、中庭の訓練場に鋭く響き渡る。

カイルが振り下ろした訓練用の剣を、ジュリアスは最小限の動きで受け流す。

体勢を崩したカイルは、舌打ちをしながら素早く体勢を立て直し、再び兄に向かって突進する。

 

 

「らぁっ!」

 

 

気迫のこもった叫びと共に、剣を横薙ぎに振るう。

しかし、それもまた、ジュリアスの剣によって軽くいなされ、空を切るだけだった。

 

息が上がり、汗が目に入る。一方のジュリアスは、涼しい顔ひとつ崩さず、まるで弟の猛攻をダンスでも楽しむかのように捌き続けていた。

 

 

(うぉぉぉ!くらえ蛮族の形!本気で振ったら剣が砕けてしまうので、すまぬ兄上。こんな糞のような剣術しか出来ず。両手でブンブン適当に、無我夢中で振るいまくるぜぇ↑↑FOOO~~↑↑)

 

 

それはまさにジュリアスをぶちのめしたい念が形となった野蛮な剣筋。

乗馬での敗北。謁見の間での失態。そして、耳から離れない「馬鹿王子」という囁き。

 

あの屈辱を晴らすには、もうこれしかない。この国で最も崇拝される武の象徴、剣術で兄を打ち負かすのだ、そんな感情がにじみ出ていた。

 

 

「力では、俺の方が上のはずだ。これだけ打ち込んでいるのに、なぜ届かないッ!?」

 

 

何度振るっても当たらず、カイルの剣筋をさらに荒々しくさせる。

一撃一撃は重いが、その分、動きは大きくなり、隙も生まれていた。

 

ジュリアスは、その隙を突くことなく、ただひたすらにカイルの攻撃を受け流し続けている。

その余裕なあしらいにカイルの眉間には侮辱に受けたかのように深いシワが出来上がる。

 

 

「なぜ本気を出さない!俺を馬鹿にしているのか!」

 

「本気を出せば、お前が怪我をする」

 

「何だと…!」

 

 

見透かされたような物言いに、カイルの顔が真っ赤になる。もう、どうなってもいい。持てる力のすべてを、次の一撃に込める、そんな気概でカイルはジュリアスを睨みつける。

 

 

カイルは大きく後ろに下がり、剣を上段に構えた。

最も威力のある一撃。これを叩き込めば、いくら兄上でも受け止めきれないはずだ。

 

 

(くらえ兄上!この隙だらけの大ぶり上段振り下ろしをッ。う、うぉぉ…ちょっと強く握り込んだら、柄からミシッ、て音が…剣が折れる。こ、こんな所で下手を打てん、この逆境に…私は打ち勝つぞ!本気でやさしく振り下ろす!)

 

「これで、終わりだ!」

 

 

踏み込みと共に、渾身の力…いやカイル的にはミリ程の力で剣を振り下ろす。カイルは勝利を確信した笑みを見せる、その瞬間。

 

目の前から、ジュリアスの姿が消えた。

 

空振りしたカイルの体は、勢い余って前につんのめる。そのがら空きになった首筋に、ひやりと冷たい金属の感触が触れた。

 

 

「…そこまでだ」

 

 

背後から聞こえたジュリアスの静かな声に、カイルは動きを止める。

ゆっくりと振り返ると、ジュリアスが無表情で剣先をこちらに向けていた。汗ひとつかいていないその顔が、憎らしいほどに美しかった。

 

 

勝負は、一瞬で決していた。

 

 

カイルは膝から崩れ落ち、剣を地面に落とした。カラン、と虚しい音が響く。

 

 

「なぜ…」

 

 

絞り出した声は、情けないほどに震えていた。

 

 

「なぜ、俺の剣は当たらない…。力なら、俺の方が…」

 

 

ジュリアスは剣を鞘に納めると、屈辱に顔を歪める弟を見下ろした。その瞳は、相変わらず何の感情も映していない。

 

 

「カイル。お前の剣には、怒りしかない」

 

「…!」

 

「怒りは、時に力を生む。だが、それだけだ。怒りに任せて振るう剣は、ただの暴力と変わらない。相手をよく見ず、ただ己の感情を叩きつけているだけでは、私の首には決して、その剣は届かない」

 

「…うるさい!僕の何が分かる!」

 

「分かるさ。お前は、私が憎い。私が持っているものすべてが、羨ましくてたまらないのだろう」

 

 

(いや、むしろ有能すぎて過度な期待を背負わされて大変そうだな…と寧ろ同情しているぞ、兄上)

 

 

ボロが出そうなので、カイルはとりあえず唇を噛みしめる。

ジュリアスは、そんな弟に構うことなく続けた。

 

 

「力だけの剣は、簡単に折れる。憎しみだけの玉座は、すぐに崩れる。…王の剣とは、そういうものではない」

 

 

ジュリアスは、もうカイルに興味を失くしたかのように背を向け、訓練場を去っていく。

その背中は、乗馬で負けたあの時よりも、謁見の間で助けられたあの時よりも、遥かに大きく、そして絶望的に遠く見えた。

 

 

(いい感じに失望されてきたか…?演技とかしたことがなかったから、最近少し楽しいな)

 

「く、くそったれぇッ!!」

 

カイルが地面に拳を叩きつけ、行き場のないジュリアスへの怒りをあらわにする。

 

(あ、あぶない。力加減をミスして地面を割りかけた…。誰も見てないよな…)

 

キョロキョロと周囲を伺うが、見学していた騎士や貴族達はジュリアスの話で持ち切りで、カイルのことなど誰もみていなかった。

 

 

だが、ジュリアスは出ていった扉の奥からソっとその様子を観察するように覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍獣観察録Ⅲ

 

観察対象: カイル・フォン・パリスタン(ランク??)

観察者: ジュリアス・フォン・パリスタン

 

 

 

今日の剣術訓練で、私はカイルという存在の「底」を見た気がした。

いや、あるいは「底を見せられた」と言うべきか。

もはや、どちらが真実なのか、私の中で確信が揺らいでいる。

 

 

弟の剣は、荒々しかった。

怒りと憎悪。私に向けられる負の感情を、そのまま剣に乗せて叩きつけてくる。

それはまさに、言葉を覚える前の子供が癇癪を起こして玩具を投げつける行為に似ていた。

 

 

一撃の重さは確かにある。年齢や体格から考えれば、異常なほどの膂力だ。

だが、それだけだ。

剣の軌道は単調で、体幹はブレ、足捌きは素人同然。

私がこれまで積み上げてきた剣術の経験からすれば、その動きはあまりにも拙く、隙だらけだった。

 

 

最後の渾身の一撃。

あれを「演技」と断じるのは、もはや難しい。

あの瞳には、本気でなにかを打ち負かせると信じて疑わない、未熟な自信と焦燥が浮かんでいた。

 

 

そして、それが容易く破られた時の絶望。

あの感情まで作り物だというのなら、彼は王国史に残る名優だろう。

 

側近からの報告が、私の思考を鈍らせる。

「カイル王子は最近、自室に引きこもりがちで、乗馬も剣術の稽古も休みがちです」

「家庭教師の講義も、上の空でいらっしゃることが多いとか」

「部屋で一体何をされているのかは…」

 

全ての点が、線で繋がり始めている。

鍛錬を怠っているから、弱い。

学問を疎かにしているから、浅慮な発言をする。

兄への劣等感から、感情的になる。

 

あまりにも自然で、分かりやすい道理だ。

私がこれまで感じていた「違和感」こそが、私の傲慢さからくる「勘違い」だったのではないか?

弟を過大評価し、その単純な未熟さの裏に、何か深遠な計略があるはずだと、勝手に思い込んでいただけではないのか?

 

 

もし、カイルが本当に「弱い」のだとしたら。

「馬鹿王子」は仮面ではなく、彼の素顔そのものだとしたら。

 

これまでの行動は、どう説明がつく?

謁見の間での、あの絶妙なタイミングの暴言は?

乗馬訓練での、説明のつかない馬の疲労は?

 

……偶然か。

全ては、私が意味付けをしすぎただけの、ただの偶然。

そう結論付けてしまえば、どれほど楽だろうか。

 

だが、拭いきれない疑念が残る。

 

弱さは、本物なのかもしれない。

だが、その弱さの奥底に、彼自身も制御しきれていない、規格外の「何か」が眠っているような気がしてならない。

 

今はまだ、断定はできない。

本当にただの愚かな弟なのか。

それとも……自らの本質すら偽って見せる、策略家なのか。

 

 

 





カイル「よし、今日も気持ちよくカイル出来たな」

珍獣ハンタージュリアス「……見込み違いか?」観察記録カキカキ

カイル「お、いいぞいいぞ。そうそう、何も考えてないから」


これぞ上げて落とす(全自動)。頭の良い天才児には計画性虚無のアホの考えはわからないのです。
。°(°´ω`°)°。こんなアホに情緒を振り回されて、お労しや兄上。
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