開拓地でスローライフを送りたい。   作:ごすろじ

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感想サンクス!評価カンシャ!!モチベーションが上がったので投稿。


第九話。暴走特急神輿

 

 

悪徳貴族に担ぎ上げられ早数カ月。

カイルの馬鹿王子としての評判は、もはや揺るぎないものとなっていた。

 

 

日中は取り巻きの貴族達に唆されるまま、兄ジュリアスの政策にことごとく反対し、幼稚な我儘で周囲を振り回し、周囲に対し見下した態度をとり続けた。

 

 

だが、その裏で、カイルの夜は全く別の顔を持っていた。

 

 

月が暗雲で姿を隠した夜。

カイルは自室の寝台を抜け出すと、趣味の悪い山羊の仮面を付けて、音もなく黒衣に着替える。

 

 

(私のせいで余計な死人は出せん。流れ通りとはいえ後味が悪すぎる。私の精神安定を兼ねて、ある程度制御出来る部分はしていかなくては)

 

 

侯爵をはじめとする腐敗貴族たちは、カイルを自分たちの傀儡だと信じ込んでいる。

彼らはカイルの前で、自分たちの不正や欲望を隠そうともしない。

それはカイルにとって、格好の情報収集の場だった。

 

 

「近頃、北の関所で妙な病が流行っているそうだ。通行を一時制限したお陰で、俺のところの薬草の値段が高騰して笑いが止まらんわ」

 

「隣国の密偵に、我が国の最新の城壁の設計図を流してやった。見返りに、あちらの美術品をごっそり頂いたよ」

 

「奴隷商人が良い品を入荷したそうだ。今度、王子もご覧になりますか?子供は高く売れますぞ」

 

 

酒の席で交わされる下劣な会話。

それらを、カイルは一言一句聞き漏らさず、その脳に刻み込んでいた。

興味などないといわんばかりに、眠たそうな顔で聞き耳を立てまくる。

 

 

(コテコテなまでなTHE悪代官)

 

 

だが、彼らの動きを牽制するには、噂話だけでは足りない。動かぬ証拠が必要だ。

だからこそカイルは、夜な夜な王都の屋根を飛び回り、時には地方まで突っ走る。

 

 

今回の標的は、奴隷売買に手を出している貴族の屋敷。

自室の窓から飛び出し城壁を足蹴に大きく飛翔。目的の屋敷の屋根に降り立つ。

足音は一切しない。師の教えに魔力を加えた歩法は、もはや彼の肉体の一部と化していた。

 

 

全身の感覚を研ぎ澄ます。

少し指を鳴らし音の反響で周囲の気配を探る。

警備兵の巡回ルート、呼吸のリズム、視線の動き。それらすべてが、手に取るように分かった。

 

 

三秒後、角を曲がる兵士が二人。その背後を抜ける。

思考と同時に体が動く。影から影へ、まるで闇そのものが移動するように、カイルは屋敷の奥深くへと侵入していく。

 

 

目的の場所は、執務室の私室の奥にある隠し書斎。

昼間の会話で、その存在をそれとなく聞き出していた。

 

デカデカと鎮座する本棚のどかすと、鉄製の重厚な扉が姿を現す。

扉のノブの下には複雑な鍵穴が見せ施錠されている。

 

 

 

(ど、せい!解錠魔法、f◯ckッ!!!)

 

 

 

だが、カイルは中指を立て、鍵穴に叩き込み強引に指をメリ込ませ、クイクイと指を曲げ錠の穴をメキメキと強引に広げて施錠部位そのものを破壊。

 

 

書斎の中に入ると同時に香る、古いインクと金の匂い。

カイルは迷わず、巨大な絵画の裏に隠された金庫へと向かう。

 

 

(これは…面倒くさいな。絶対館全体にあった警報機と連動してるぞ…。金庫もしっかり固定されてて丸ごと持ってもいけないとは…)

 

 

金庫には、物理的な鍵だけでなく、強力な魔力封印が施されていた。

不用意に触れれば、警報が鳴り響き、同時に術者の命を奪う呪いが発動する。

貴族が最も重要なものを隠す場所だ、当然の警戒レベルだった。

 

 

「確か呪殺の魔法が掛かっているんだったか…。イジれば警報。触れば呪殺。私にどうこう出来るだけのスキルなんてないしな…、うむぅ。よし、いつも通り触らず壊して速攻で逃げようか」

 

 

角度を調整し、金の開閉部分を殴り飛ばすように斜め45°からアッパーカット。

拳が掠る寸前で音が弾け、更にカイルの腕に残像が残り、パン、パパパンッと何発も音が弾ける。

 

 

ソニックブームの圧縮衝撃砲×四。

 

 

瞬間、天井をぶち抜き屋敷の三分の一が勢いよく爆散し、多少抵抗した金庫の扉も、数秒でひしゃげてブーメランのように夜空の彼方にぶっ飛んでいく。

 

音速超えのアッパーを連続で数発かましたカイルだが、拳や腕は無傷であり、日々の鍛錬により目に見える成長を遂げていた。

だが服は服でしかなく。指先から肩元まであった手袋と外装が空気抵抗から生じる摩擦で弾け飛んでいた。

 

 

 

ジリリリリリリリ!

 

 

と屋敷全体に鳴り響く警報を気にすることなく、カイルは慣れた手つきで、書類関連のものだけをカバンに全て詰めまくっていく。

 

 

領民から搾取した税金の横流しを記録した裏帳簿。

隣国との密約書。

政敵を陥れるために捏造された、数々の証拠書類。

そして、奴隷売買の名簿。そこには、まだ幼い子供たちの名前が、無機質な文字で羅列されていた。

 

 

「では、退散」

 

 

ドタドタと警備兵達が走る音が聞こえてくる。

だが、カイルは窓を蹴破ったかと思えば、窓枠が吹っ飛び、その姿は一瞬で消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイルが脳筋すぎる怪盗行為を行ってから数週間。

王都の裏社会は、静かにピリピリと張り詰めた空気を漂わせていた。

 

 

まず、奴隷売買に手を染めていた子爵が、匿名で騎士団に送りつけられた決定的な証拠により、あっという間に摘発された。

子爵家は取り潰しとなり、関わっていた奴隷商人も一網打尽にされた。

 

 

次に被害に遭ったのは、隣国に情報を売っていた伯爵だ。

ある朝、屋敷の金庫が扉ごと吹き飛ばされ、中から密約書だけが忽然と消えていた。

伯爵は顔面蒼白になったが、密告を恐れるあまり、被害を届け出ることすらできなかった。

 

 

立て続けに起こる、神出鬼没の襲撃。

被害に遭うのは決まって、後ろ暗い噂のある貴族ばかり。

金品には一切手が付けられず、ただ不正の証拠だけが奪われる。

 

 

犯行現場には、まるで獣が抉ったかのような、暴力的な破壊の痕跡だけが残されていたという。

 

 

犯人の手掛かりは一切なく、ただ一つ、警備兵の曖昧な目撃証言だけがあった。

 

「…月明かりに、まるで羊のような、気味の悪い面が浮かんで見えた」

 

いつしか王都の闇では、その謎の義賊は「腐肉喰らいの山羊」と呼ばれるようになっていた。

 

 

貴族たちは怯えた。次は自分の番ではないかと。

彼らの疑いの目は、当然のように第一王子ジュリアスに向けられた。

 

 

「ジュリアス王子の息のかかった者たちの仕業に違いない」

「我々カイル王子派を粛清するための、陰険な脅しだ」

 

疑心暗鬼は、侯爵を中心としたカイル派の結束を、皮肉にも強める結果となった。

彼らはジュリアスへの対抗心を燃やし、より一層カイルを神輿として担ぎ上げる。

 

 

そんなある日、カイルは侯爵たちとの会合で、わざとらしく溜息をついてみせた。

 

 

「…父上に、ひどく叱られてしまった」

 

「なんと!それは一体…」

 

「『付き合う相手を選べ』、と。どうやら、最近の不祥事続きで、父上は俺と貴様たちがつるんでいるのを快く思っていないらしい」

 

 

もちろん国王にそんなことを言われた事実はない。ただの嘘だ。

 

だが、その言葉で侯爵たちの顔色が目に見えて変わる。

国王にまで睨まれては、さすがにまずい。

 

王に謁見し、確認をとればいいだけだろうが、それは出来ない。

何せ不正の証拠を持っているかもしれない容疑者には国王も入っているのだ。そんな相手に直接探りを入れることなど出来るわけがない。

 

 

「そ、それは…我々の不行き届きで、王子にご迷惑を…」

 

「分かっているなら、少しは行動を慎め。これ以上父上の機嫌を損ねれば、俺の立場がなくなる。しばらくは、派手な真似は控えろ。兄上に付け入る隙を与えるだけだぞ」

 

 

カイルが苦々しげにそう告げると、貴族たちは神妙な顔で頷くしかなかった。

 

 

このカイルの適当な猿芝居により、王都における貴族たちの悪行は、目に見えて沈静化していった。

民を不当に苦しめる圧政や、国庫を蝕む汚職は鳴りを潜め、図らずも王都には束の間の平穏が訪れた。

 

 

カイルは、とりあえず安堵の溜息を吐く、これで多少はマシにはなったはずだ。

腐敗の進行を一時的に食い止めることには成功した。だが、根を絶やしたわけではない。

彼らはただ、嵐が過ぎ去るのを待って、息を潜めているだけだ。

 

 

(年二回程度こうして晒し上げて、危機感を煽っておけば、ある程度は抑制できるか。証拠は腐る程あるし…)

 

 

一方、この奇妙な平穏を、ジュリウスが見過ごすはずもなかった。

彼は自らの情報網を駆使し、「腐肉喰らいの山羊」の正体と、弟の周辺で起こっている奇妙な変化を探っていた。

 

 

ある夜、ジュリアスはカイルの部屋を予告なく訪れた。

 

 

「カイル、少し良いか」

 

「…兄上。何の用だ」

 

 

カイルは鍛錬を中断し、平静を装って兄を迎える。

部屋には、微かに汗と、常人には分からない程度の血の匂いが漂っていた。

 

 

「最近、私を目の敵にしていた貴族達が妙に大人しい。お前が何か吹き込んだのか?」

 

 

ジュリアスの瞳が、カイルの心の奥底を見透かそうとするかのように、まっすぐに射抜いてくる。

 

(……。いや、なんにも言ってないが…面倒くさいから適当に嘘をこいたくらいで…)

 

 

カイルはわざと鼻で笑ってみせた。

 

 

「さあな。あいつらが勝手にビビってるだけだろう。それより、兄上こそどうなんだ?噂の薄汚いこそ泥は、兄上の差し金なんだろう?俺の派閥の貴族ばかり狙って、嫌がらせご苦労なことだ」

 

「…さあ、どうだろうな。だが、結果的に国の害虫が駆除されているのだから、私にとっては好都合だ」

 

 

ジュリアスはそれ以上何も言わず、ただ静かに弟を見つめた。

その瞳の奥には、疑念、警戒、そしてほんの僅かな――カイルには判別のつかない、複雑な感情が渦巻いていた。

 

 

カイルは、去っていく兄の背中を見送りながら、表情が消し胡乱げ顔で頬を掻く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍獣観察録Ⅴ

 

 

観察対象: カイル・フォン・パリスタン(珍獣ランクUR)

観察者: ジュリアス・フォン・パリスタン

 

 

私は観察を終了した。

弟を退屈で、陳腐で、救いようのない愚か者だと断じた。

 

 

 

――なんと浅はかで、傲慢な結論だったことか。

 

 

 

私自身が、物事の表面しか見えていない、ただの子供であったことを、今、猛烈に自覚させられている。

 

 

王都の闇を騒がせる謎の義賊。

 

報告書を読んだ当初、私はこれを政敵による私への牽制、あるいは私の部下による過剰な忠誠だと考えていた。

だが、その手口が明らかになるにつれ、そのどちらでもあり得ないと確信した。

 

 

私の情報網は、静かで、正確だ。仕事は常に痕跡を残さない。

しかし、『山羊』の現場は違う。

 

 

扉は鍵ごと破壊され、金庫は抉り取られるようにして扉が吹き飛ぶ。それは技術ではなく、圧倒的なまでの『暴力』の顕示。まるで、人の形をした攻城兵器が通り過ぎたかのようだ。

 

 

この、規格外の『力』。

私の脳裏に、忘れかけていた違和感が稲妻のように蘇る。

 

 

重装備の騎士を二人乗せたかのように疲弊していた馬。

一瞬、走ったように見えた亀裂。

 

 

あれらは幻ではなかった。私が「ありえない」と自ら思考から排除した、紛れもない事実の断片だったのだ。

 

 

『山羊』の出現により、腐敗貴族たちは恐怖し、活動の鳴りを潜めた。

そして、彼らの恐怖と疑念は、すべて私に向けられている。だが、敵愾心をより強めると同時に私に対する警戒心を強く滲ませるようになった。

 

 

怒りにも似た単純な敵意ほど読みやすいものははない。そして過剰な程の警戒心は人を臆病にさせる、これまで密かに行われてきた妨害行為や政策への不当な干渉が減った。一時的なものであるだろうが、この間に出来ることはあまりにも多かった。

 

多くの貴族が反対していた、辺境のインフラ整備計画の予算案もこの機に乗じて通し、次の布石となる案も多く仕込むことに成功した。

 

そして不正を正し、摘発した功績のお陰で王からの覚えもめでたく、割かれる予算も以前より遥かに増した。派閥の基盤も盤石なものへと向かい、配下の質も向上し続けている。

 

 

完璧な状況だ。誰かがそう仕向けたとしか思えないほどに。

 

 

そして、その状況を最も巧みに利用したのは、誰あろう、彼らの傀儡であるはずのカイル自身だった。

 

 

弟は国王の不興という嘘を使い、暴発寸前の貴族たちを見事に手懐けてみせた。

結果、国の害悪は一時的に沈静化し、政治的な利はすべて私のもとへ転がり込んできた。

 

 

これが、ただの偶然?

これが、愚かな傀儡にできることか?

違う。断じて違う。

 

 

私は、何も見えていなかった。

 

 

私は、とんでもない勘違いをしていた。

カイルは、腐敗した貴族たちに担がれる無能な傀儡などではなかった。

 

 

立場は、全くの逆だ。

弟は、自ら進んであの腐敗した者たちの中心に身を置き、彼らを内側から支配していたのだ。

 

 

弟はなぜ、わざわざ自分を支持する者たちの不正を暴き、その首を絞めるような真似をする?

 

 

答えは一つしかない。

弟は最初から、彼らを『支持者』などとは思っていない。

この国の隅々に巣食う害虫を、一か所に集めるための『餌』として、自らを差し出したのだ。

 

 

『馬鹿王子』という役割。

それは、本質を隠すための、最も優れた釣り針。

 

 

『兄への嫉妬』という感情。

それは、真の目的から目を逸らさせるための、巧みな疑似餌。

 

 

弟は、たった一人で、この国の闇を引き受けるつもりなのだ。

自ら道化を演じ、侮蔑され、誰にも理解されぬまま、国のための汚れ仕事にその身を投じている。

彼らの腐敗を管理し、いずれ来るであろう粛清の日のために、獲物を一つの檻に集めている。

 

 

――なんという孤独な戦いだ。

 

 

弟はこの国のために、自らの名誉も、未来も、魂すらも捧げているのではないか。

私が光の当たる玉座へと進む、その道の影で、全ての泥を被ることを、自らの宿命として受け入れている。

 

 

先日の夜、私を問い詰めたあの瞳。

あれは、私を試していたのだ。

 

『兄上、あなたはどこまで見抜いている?』と。

 

そして、私が彼の本質に気づかぬと知るや、彼は安堵したように再び道化の仮面を被った。

 

 

興味が再燃した、などという生易しいものではない。

私の全身の血が、沸騰するような興奮に打ち震えている。

 

 

カイル・フォン・パリスタン。

 

 

お前は、私が想像しうる限り、最も難解で、最も気高い、そして最も面白く危険な存在だ。

 

 

――カイル。お前がその選択をしたことを止めはしない。

それが己に課した王族としての使命だというのなら…私もその意に大人しく寄り沿おう。

 

 

 




カイル「開拓地に行ったら、なにしようかなぁ。」(ぽへぇ~

ジュリアス「カイル100点だ。珍獣ランクURの称号を授けよう」(ギンッ

カイル「は?……はぁぁぁぁぁあぁぁッ!!!?」(発狂


ゴドウィン「この見えぬ糸で操ってやるぞ王子!!」

カイル「まかせろぉ!!」

ゴドウィン「んごぉぉ!?指、指が折れるッ!?」ボキィッ
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