隣の君と日を向いて   作:ジェイヌ

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お待たせしました、所謂タイトル回収エピ、世に言う『全てはここから始まった』ってヤツです。

絵を描いてる方のヤツ(すっとぼけ)が言ってた通り、とあるお歌で『葵』を『青い』でなく『向日葵』に掛ける発想が天才過ぎて感情拗れた結果、この話が生まれて、それをベースに色々構想が膨らんでこのシリーズが生まれたんですネィ。


EP12. 『ヒマワリ』

ありがとうございました〜…

気の抜けた店員の声に送られながら、茜は上機嫌にコンビニを去る。

ドライアイスを貰ったとはいえ…、

「アイス買ってもうたし、早よ急がんとなぁ〜。」

跳ねる袋も気に留めず、上機嫌に馴染んだ道を歩く。

両脇を見渡せば広がる緑と黄色…

夏やなぁ……ひとり、小さくこぼす。

 

「さーてと、葵のことやし主連れてあそこまで行ってくれたかなぁ…この善行パワーで今年は補習回避でけへんかな?あの子らもこれで少しはお互い素直になってくれたらエエんやけどなぁ〜…」

 

お…?ひらけた地点に差し掛かり、やや遠方に見える影…

 

 

少し目を凝らしてから数秒、茜は無邪気に微笑んで少し足を速めた……

 

〜EP12.『ヒマワリ』〜

 

「そや、今年も夏やし折角この辺来たし、あそこ寄ってかん?」

やや街外れの図書館からの帰り…茜は振り返り、

「あっ、そう言えばそうだね……」

笑顔で葵が応じる。

「キミは本当に色々な場所を知っているね……」

感心と呼ぶにはどこか呆れたような面持ちで主は頭を掻いた。

「んまーな、よく行くとこの周りってなんとなく深掘りしてみるもんやろ?」

得意げに言う茜だったが、ふと何かを感じ取ったように手を叩く。

 

「せや、ウチちょいとコンビニ寄りたいなぁ。葵、主のこと案内したって〜。」

「え、お姉ちゃんいきなり?」

「おいおい、コンビニくらいなら僕らも付き合う…」

「ほなねー」

二人が戸惑う姿も気に留めず、呑気に手を振りながらその背が遠ざかっていってしまった。

 

チラリ…葵は主に、少し気まずそうな横目を向けた…

 

 

 

 

かすかな風と蝉時雨を感じながら、緑と黄色に彩られた小路を2人、歩く。

見渡す限りのヒマワリーーなんだかんだここも変わらないなぁ…葵は目を閉じながら小声でぽつりとこぼす。

「ここは、よく来るのかい?」

 

一般開放されているらしいヒマワリ畑に驚きを見せながら、主が口を開くと、葵も麦わら帽子を直しながら小さく微笑む。

「うん。中学からこの辺に住んで、図書館に近いから夏になると毎年行くんだよね…」

ふわり…軽い所作で髪を払う手になんとなく視線を向ける。

 

いつぞや見た物と同じ、茜とお揃いのワンピース…

しかし今は夏ということもあってか袖と肩口を括る紐はなく、その白い腕がすらりと流れる様に、心なしか熱を抱く。

思い出の蓋を開けた勢いだろうか、葵はそのまま続けて悪戯っぽく微笑む。

 

「数年前の館長さんが結構厳しい人でね、お姉ちゃんたらあんな性格だから返却日を度々忘れて、その度に『一緒に来てや〜』なんて膝ガクガクになって…ふふ…」

「ソレは…茜らしいな…」

あははと頬を掻いて苦笑すると、彼女が我に返るように眉を下げる。

「やだ、こんな話したら陰口言うイヤな子みたいだよね…?」

どことなく顔紅く、気遣わしげに目線を向ける姿に首を振って主は微笑む。

「別に、それくらい普通だと思うな。茜だって、そういう話掘り返されてそんなに気にするたちでもないだろう?」

 

そっかな?そうかも…思い直した葵は少し眉毛を上げながら腕を組む。

「それに、考えてみるとお姉ちゃんの方が私のことあれこれ勝手に喋って恥ずかしい思い散々させられてるしね……」

あー…口を尖らせる姿に過日の昼休みを思い出して頭を掻き、主が再び返す。

「それも、本当にひどかったら相談してくれて良いよ…」

「あっうん…いつもありがとね。私のことも、お姉ちゃんのことも気に掛けてくれて…」

つい、その顔に見入ってしまう。

膨れ面で不服を顕わにするかと思えば、目を細めて柔らかく微笑んでくれる…会ったばかりの頃に比べて、随分と豊かな表情を見せてくれるようになったものだと少したじろぐ。

まぁ、前より少し感情を出しやすくなったのは自分も同じか?そう思いながらも、一抹の照れを誤魔化すように主も少し目尻を下げる。

「当たり前だろう。同じ委員会だし、友達、だし……」

お互い、なんとなく脇のヒマワリに目を向ける。

自分達と対極な…今不在の茜のような明るく温かな色に少し目を見張るが、すぐに葵は言葉を続ける。

「でも、お姉ちゃんの暴走を止めてくれたり、危ない作業は引き受けてくれたり、重いもの持ってくれたり…本当に助けられてるの…」

それは、ほら…言葉を探すようにヒマワリと葵とを交互に目線を送りながら、主がまたしても口を開く。

「前も言った通り、わざわざ不得手のことまで無理矢理やるもんじゃないと僕は思ってるし…況して葵は正確には委員じゃないんだから、尚更に無理はさせられないよ。」

「もぅ、主くんだって本当は力仕事苦手でしょっ。」

きゅっと目を閉じて笑う葵ーー日頃の控えめな笑顔とは違う、茜やあかり、ゆかり達と話している時に度々見せる無邪気な顔…

この顔を見るとどうしても内側からくすぐったくなるような気がして、ついつい視線を逸らす。

「そ、それに…僕だって二人には助けられてるからさ、ありがとうは僕の方こそ言うべきだよ。」

えっ?葵が首を傾げ、はにかむように頬を淡く染める。

「お姉ちゃんはともかく、私?そうかなぁ…?」

あ、コッチ…T字に差し掛かると、葵が右を示し、二人で曲る。

 

ともあれ、主はすぐに言葉を返す。

「前も話したよね。茜は行動力も旺盛で、人と話すのも物怖じしないから打ち合わせなんかも勧めてくれる。葵は資料まとめてくれたり、書式ミス見つけたらすぐ気付いて教えてくれたり…それこそ茜が動きやすいようにも支えてくれるし、2人のお陰で僕もなんとかやれてるって思えるんだよね…」

そっか…くすぐったそうに笑いながら、葵は小さく頷く。

 

「私も、だよ…主くんと一緒だから、失敗しても大丈夫って思いながら安心して動ける、そんな気がしてるの…」

「流石に大袈裟だと思うけどな…尻込みせずにできるなら越したことはないと思うけど…」

「正規メンバーじゃないことを抜いても、こんなに肩の力を抜いて委員会に取り組めてるのは、初めてだよ…」

本当だもん、柔らかく遮る姿に、主は困ったように笑う。

 

やがて、相変わらず陽光を讃えるような黄金色に見守られながら、緩やかな坂を歩み進めると、簡素な四阿が佇む小さな丘面にたどり着き、目前には見渡す程のヒマワリが所狭しと群れを成して微風に身を預けているではないか。

「あぁ、やっぱり綺麗…」

「本当に、予想の倍はすごいな…」

壮観…疲れもあってか、2人でぐっと目をつぶりながら肩を伸ばすと、一先ず四阿のベンチに腰を下ろして脱力した。

 

「さっきの話だけどね。」

ペットボトルに口をつけていた葵が一息つくと改めて切り出す。

「私、委員会だけじゃなくて普段のことも感謝してるんだよ。」

えぇ?暫し疲労任せに項垂れていた頭を上げると、主は肩を竦める。

さぞや気の抜けた顔をしていたことだろうと思いながらも、なんとなく目を向けた、葵の穏やかな面持ちに目線が吸い込まれるが、葵自身は特に気にもとめていないようだ。

「いつも、お姉ちゃんが無茶なこと言っても付き合ってくれるでしょ。それで、私の意見も忘れずに聞いてくれて…」

そんなことか、口元を緩めながら少し眩しそうに太陽を見上げて主は応える。

「勿論、皆が納得できてこそ友達付き合いだよ。」

「ありがと。お姉ちゃんも『主もおるから今年こそは赤点回避もバッチリや〜』なんて調子の良いこと言っちゃっててさぁ…」

ははは、ついいつになく乾いていながらも軽やかな笑いが出てしまった。

「葵やゆかりがついててすらほぼギリギリだってのに、何を言ってるんだか…」

「ふふふ、本当にね…」

やはり心を開いてくれるんだなと…くすくすと同調して笑う彼女の姿にそんな事を考えていると、そうだと手を叩きながら今度は眉を下げるではないか。

本当に表情豊かだな。

やはり根は茜の双子と言ったところか…

 

「あかりちゃんとゆかりさんのことも、ごめんね?変なことばっか言ってくるから疲れるでしょ…?」

 

・・・

 

「否定は、できないけど、流石にまぁ慣れたよ……」

あ、あー…何かと琴葉姉妹との関係性とやらを聞きたがる姿を思い出して複雑な表情をすると、葵を制するように軽く手を振る。

「それにさ、それ言ったら、悪友もオタクもロボ研も三者三様で好き勝手暴れてて申し訳ないよ、大変だろ?」

「っ、でも賑やかで、私は楽しいと思うよ…」

少しだけ目尻が下がる。

彼女なりの愛想笑いだろうか。

 

それでも…取り留めの無い会話をしながらも、葵は幾度と頭をよぎる光景と、自身の変化に思いを馳せる。

 

「なんだか、不思議な感じ…」

またしてもボトル茶を一飲み、彼女が口を開く。

「不思議?」

うんと頷いて葵が続く。

「私、お姉ちゃん達が話しかけられた一環で話に加わることはあっても、こうやって一人の男の子と日常的に喋ったり、帰ったりって、今まで全然なかったからさ…」

視線のやり場に迷うようにうつむき気味で指を突き合わせる姿に、主も顔を綻ばせる。

「そういうことか…前も言ったけど、そんなら僕も一緒だから大丈夫だよ。寧ろ、悪友が女子に話しかけられた時も質問向けられた時以外地蔵だった分、僕は結構たち悪いと思うな。」

何それ、口元に手を添えて笑う葵だが、程なく話題を取り直す。

「それでも、主くんはいつも私達に付き合ってくれるよね。今日だって、お休みなのにお姉ちゃんの気まぐれにわざわざ付き合ってくれてるし……委員会で馴染んだとは言っても、そこまでしてくれるのは凄いと思う…」

それは、まぁ……主は口ごもり、

「そりゃ断るのも悪いし、断るだけの理由も無いからだけど…言われてみると確かに、ちょっと前の僕なら、休みまで女の子2人と用事なんて…くらいは言ってたかも。しかし茜も物好きだよな、葵だってこんな口が回らない奴いても困るだろ?」

「困らないよっ…!」

いつになくやや強めの語調が、主のおどけ口調を遮った。

え…引きつりながら目を向ければ、彼女は少しだけ不満そうに、それでもじっとこちらを見据えるではないか。

『そんなに卑下しないでほしい』

そんな想いを感じ取れるほどの力強さを確かに感じる…

「なんか、ごめん…?」

主の言葉に表情を和らげ、またどこかバツ悪く葵が顔を前に向け、そのままベンチに少しだけもたれて空を仰ぐ…

 

「私は寧ろ、楽しいよ…」

「えっ、あー…そっ、か……」

 

もみあげからちらりと覗く、それだけでも目に見えて赤みを帯びた耳。

微かにざわめく胸の奥。

少年はその言葉に返すべき言葉を未だ知らず、少女はその言葉を広げるべき言葉を未だ知らず、各々がそよぐヒマワリを眺める…

 

「おっ、遅いな〜、茜の奴。」

誤魔化すようにわざとらしく口を開き、主が携帯電話を取り出してトークアプリに目を向ける傍らで、葵は一人、物思いに耽る。

 

思い返されるのは、支援委員を経て彼と出会った日々、作業で度々助けてくれる頼もしさ、日常でも気にかけてくれる優しさ…

初めて男子に名前で呼んでほしいと思った…

旧知の友人たちによく見せるーーそしていつかは自分のために向けてほしい、普段の雰囲気から一転する無垢な笑顔…

 

そんな彼の気配りに感化され、無意識に取った手……

 

「はぁ…」

今一度、ぼんやりと暖かな景色を見渡す。

仄かな風に揺れる葉の音が耳にも心地良く、目を閉じる。

 

「また今度も、一緒に見れるかな。なんなら、来年も…」

 

小さく、口をこぼれたのは何の気もない独り言…

 

「えっ?」

聞き取れこそしなかったが、ぽつりと呟いた小声に、主が聞き返す。

ハッと葵が我に返り、反射的に顔を上げる。

 

「う、ううんっ。えっと、ね…」

咄嗟に葵は立ち上がった。

 

どうしよう…聞かれるなんて思わなかった。

上手い返しなんて何も考えてるはずが無い…

 

でも、言いたいことは沢山ある筈…

不思議そうに見守る主に背を向けたまま、葵は踏ん切りがついたようにゆったりと歩き出した。

 

後ろ手ごと肩と背を伸ばしながら数歩進んで、今一度、ヒマワリに目を向ける。

名の通り、一斉に太陽を仰ぐ姿……

 

「主くん、私ね…」

その場でくるりと足元を回しながら、少女は相手に向き直り…

 

 

【挿絵表示】

 

 

「貴方と出会えて、本当に嬉しいよ…」

 

一面の花々を背に拡げたまま、柔らかく微笑んだ……

 

瞬間、その光景に主は息を呑む。

 

視界ーー否、世界の中央で髪とスカートがひるがえる姿、麦わら帽子を直しながらはにかんで言葉を紡ぐ笑顔、その様を際立たせるように、一層の輝きを放つ黄金色の景色……

 

 

『ヒマワリ』、『向日葵』…

 

 

ーー日を向く…『葵』

 

 

 

「ひま、わり……」

その眩しさに、思わず少し目を狭めながら少年は言葉を漏らす。

 

「へ、ヒマワリ?」

葵はきょとんとするがすぐに自身の背を振り返り、同じ穏やかな微笑みで返す。

「うん、綺麗だね…」

 

 

 

「おーう葵ー、主ー!お待たせやな〜!」

 

不意に、空気を破りながら快活な声が飛び込んでくる。

2人、目を向ければ、見慣れた影がビニール袋を荒ぶらせながら大股で駆け寄ってくるではないか。

「あ、おねーちゃん!」

出迎えるように、葵も小走りで踏み出す。

立ち上がってその背中を見送り、再びヒマワリを見返す…

 

 

 

ーーその夏、僕は一輪の『向日葵』を見た。

自分など、到底誰かを照らす『太陽』になり得るなどと思い上がるつもりは無い。

でも…だが、それでも…あの時、日頃快活で明るい姉以上に眩しく思える程の彼女の微笑みは…

 

確かに、僕に向かって咲いているように見えた……ーー

 

 

 

うぅ…茜から嬉々として渡されたチョコミントアイスを口にしながら、葵は一人、近かったベンチで紅らむ頬に手を添える。

 

「(どうしよ…ちょっと、雰囲気に呑まれすぎちゃったかな…私ったら、勢いであんなこと言って……)」

「どった葵?」「ひゃうん!?」

空を映したようなサイダーバーを片手に、ひょいと身を乗り出し、葵の手元のアイスをひと舐めしながら茜が悪戯っぽく微笑む。

「ど、どうしたって、程の、ことは、わわ、私……!?」

むふん…口角を得意げに曲げながら、それでいて優しく彼女は言う。

「主の奴と楽しく話し込めたか?」

「え、あっ、うん…えへへ…その、ありがと……」

少し気まずそうに首を竦める葵にうんうんと満足げに微笑んでから茜は問題の男に目を向ける。

「しっかしアイツはなぁに突っ立っとるんや、まったくぅ…」

呆れ交じりに笑いながら、茜は腰を上げて、最後の重みを残した袋を無造作に振りながら雑なスキップで距離を詰める。

 

 

「おぅコラ主、アイス溶けんぞオイ。」

太陽讃花(ヒマワリ畑)に未だ視線を落とす少年は、やがて調子の良い声に意識を取り戻す。

まず手に触れる冷たい感触…無理矢理ねじ込まれるバニラカップを数秒眺めながらも、なんとか言葉を取り戻す。

「あ、あぁ…ありがと…」 

なぁ〜んや?ぐにゃりと身を捩らせながら主に見上げるような視線を向けて茜が煽るように笑う。

「そんなに気に入ってくれたんか、ここ…?」

「あぁ、うん。まぁね…」

そうは言いながらも、未だに焼き付いたフィルムのように、目の前の光景に上乗せされるのは一人の少女の姿…

 

 

 

少なくとも…あの瞬間を、今後簡単に忘れはしないだろう…

 

 

 

EP12.『向日葵』ーーE N D

 

 

 

なぁ主、かわええやろ?葵ちゃん。

 

 




この話書きたさで始めたシリーズのはずだったのに、肝心のこの話がめちゃめちゃ難産だった、なぜだ…?

とりあえず一区切り、この後も割と一本道で案決まってたけど、やっぱ動画化やら唯世かのんリリースやらで色々テコ入れしたくなったし、次度の話をどう配置するかは課題ですな……
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