MFG -Meteor Fate Gemini- 作:翠 -SUI-
描写に悩んだり体調崩したりしてる間にとんでもない時間が経ってましたがようやく一話。みんな大好き重曹ちゃんです。
不定期更新となりますが無印一番星のほうと合わせて今後とも宜しくお願いします。
時は2020年代。二十一世紀に入って久しい現代において、盛んに叫ばれるようになった環境問題と資源枯渇に対する懸念はじわじわと自動車業界、そしてモータースポーツにも波及していた。
電動技術を組み込んだ電気自動車やハイブリッド車が広く普及し、その流れはレーシングカーでさえ例外ではない。純内燃機関のみを動力とする自動車は次第に絶滅危惧種と化して行く。
ゆっくりと衰退の道を歩んでゆく内燃の怪物たち。そんな滅びゆく時代の徒花たちに贈られる、レクイエムのようなモータースポーツが日本で産声を上げた。
その名を、MFG。
参戦が許されるのは一切の電動ユニットを搭載しない、純内燃機関のマシンのみ。そして彼らに与えられる唯一のレギュレーションは――グリップウェイトレシオの均一化。重たい車は太いタイヤを履けるが、軽い車は細いタイヤしか履けない――ただそれだけであった。
つまりそれは、富めるリッチマン達の蹂躙劇――大柄で大排気量エンジンを積む、ハイパワーで性能バランスの取れた欧州スーパースポーツ達による情け容赦ないパワー合戦の始まりでもあったのだ。
群馬県渋川市に聳える秋名山。その麓には閑静な住宅街がある。朝日を浴びて輝くモダンな住宅の群れのその一角に佇む一軒の家があった。
周囲の家々の中でも一際異彩を放つほど巨大な"邸宅"と言えるほどの威容だが、この玄関に掛かっている表札は"藤原"。藤原さんといえばそこそこいる名前だが、群馬で藤原といえば、かつて走り屋が鎬を削った時代に北関東を揺るがした"秋名のハチロク"、のちに"プロジェクトDのダウンヒルエース"を名乗る藤原拓海の家系以外に居なかった。
「よっ、と、相変わらず重ぇなウチのドア」
「お兄ちゃんほら、はやく行くよ〜」
「お前自分で開けてねぇくせに、ちょ、おい」
重厚な玄関の扉をよいせと開いて出てきたのは蜂蜜のような金髪――父方の隔世遺伝らしい――に海のような碧眼の美青年。その横を同じ輝きを振り撒く金髪サイドテールを靡かせ、紅玉のような赤い眼の美少女が駆けていく。
彼らの名はそれぞれ『藤原
「アクア〜!ルビ〜!気をつけてね?ちゃんとキーもった?ハンカチは?」
「はーいママ!持ったよ!」
「あぁ、持った。心配性だな母さんは」
「だって〜」
やれやれと自らの双子の妹である瑠美衣――ルビーを見遣る彼の背後から母親である藤原――旧姓星野アイがひょこっと顔を覗かせる。
自分たちを産んでもうかなり経つはずなのに未だに二〇代前半頃に見える母が「心配です!」と口ほどに物を言う星の瞳を向けてくるのを宥め透かしながら、愛久愛海――アクアはルビーの後を追ってガレージへと向かった。
藤原家の広大なガレージには既に二人の愛車がいつでも走れるように主人を待ち構えていた。ルビーが真紅のZ34型 フェアレディZへ。アクアは対照的に白く輝くZC6型 BRZへと乗り込み、イグニッションをオンにした。3.7L V型6気筒が響かせる野太い息吹に続くようにくぐもった低いエキゾーストを響かせ、2リッター水平対向4気筒が目覚める。
「アクア!ルビー!いってらっしゃい!」
なんだかんだ見送りたかったのだろう。ガレージの入り口から姿を覗かせたアイが2台のアイドリングに負けないように声を掛けた。
「あぁ、行ってくる」
「行ってきます!ママ!」
五月下旬。梅雨もまだだと言うのにじわじわと熱量を増している日差しが照り付けている箱根峠。
幸にして快晴に恵まれたこの地では、MFG開幕戦の予選が行われていた。
ゼロカウントに従い、箱根ターンパイクの料金所に設けられたスタートラインから猛然とマシンが飛び出して行くエキゾーストが響き渡る。
そんな予選会場の敷地で出走を待つマシンたちの中に紛れて真紅のZと、対照的に真っ白いBRZが並んでいた。言わずもがな藤原兄妹である。紅白の二台のドアにでかでかとラッピングされたカーナンバーが示す通り、この二人もMFGへ出走するチャレンジャーなのだ。
「お兄ちゃん、エントリーできたー?」
「あぁ、済んだぞ」
ひと足先にエントリーを済ませ、日光を跳ね返して赤く輝くZのボディへ寄り掛かって兄を待っていたルビーの元に、受付ブースから戻ってきたアクアがやって来る。彼も予選へのエントリーを済ませて来たようだ。
「父さんも母さんもモータースポーツ業界じゃ有名だけど、母さんのネーミングセンスは知られてないのか。やっぱり俺の名前は初見じゃ読めんらしい」
やれやれとばかりに蒼い目を不満げに細めて仏頂面を見せるアクア。そんな兄の姿に苦笑しつつもルビーは彼のフルネームに言及した。
「お兄ちゃんアクアアクアって呼ばれるけど、本名
そう。ルビーもルビーで"瑠美衣"と書くなかなかキラッとした名前だが、音的には割とすんなり読むことができる。しかし兄のほうはその比ではない。
"愛久愛海"と書いてアクアマリン。この現代日本の中でもなかなかの難読キラキラネームを誇る男であった。
「あくあまりん……アクア??」
そんな会話を聞きつけ、足を止めた人物が一人。綺麗に切り揃えられた赤銅色のショートボブを揺らした小柄な少女が振り返る。さらりと揺れた赤髪の奥から現れた赤い瞳がアクアの姿を捉えた。
「あなた……!!藤原アクア!?」
信じられないものでも見たように目を見開いて驚愕をこれでもかと表現した少女が寄って来る。アクアは何事かと訝しんだ。
「ん……?誰だ?」
アクアの視線の先に居たのは紅の少女。百五十センチほどの小柄な体躯に深みのある輝きの赤髪が美しい彼女の歳の頃は見たところ恐らくアクアやルビーと同年代ほどといったところか。
ぱっちりした大きな目に嵌め込まれたダークレッドの瞳に幼さを色濃く残す可愛らしさの強い童顔。パキパキと気の強そうな表情の動きを見せるその容姿の美少女っぷりはそうそう忘れなそうだが、アクアは近年そんな少女と出会った記憶は――。
と、そこまでアクアが思案したところで、記憶の奥に引っ掛かる物があった。あれは随分幼少の頃、祖父の伝手で参戦したレーシングカートのレースでこの赤銅色を見た覚えがあるような気がする。確か名前は――。
「お前は……」
「覚えてない!?わたしよ!有馬かな!!人呼んで十秒を――」
「あぁああ!!思い出した!!」
記憶の底を探るように呟いたアクアに少女――有馬かなと言うらしい――が畳み掛けるように言葉を重ねる。さらに名乗りを続けようとしたところでアクアを差し置き、先ほどから沈黙していたルビーが叫んだ。
持ち前の健康優良児っぷりをフルスロットルした声量のルビーの絶叫に面食らったかなをそのままに、ルビーは遮った彼女の名乗ろうとした二つ名を
「十秒で負ける天災ドライバー!!」
「十秒を詰める天才ドライバーよ!!はっ倒すわよルビーあんた!!てか後半も絶対字違うでしょそれぇ!!」
「……ルビー、さすがにその間違いは擁護できんぞ」
底抜けに明るい声音で舐め腐った呼び間違いをしたルビーに烈火の如くギャンギャンキレ散らかすかなの怒声が箱根の山に響き渡る。いくら自分にシスコンの気があれどこれは流石に無いわ、とアクアはとんでもない失言をやらかした妹に呆れ顔を向けるのだった。
こうして藤原兄妹と、かつてレーシングカートで無双の限りを尽くした"十秒を詰める天才ドライバー"有馬かなの十数年越しとなる旧知の再会はなんとも締まらない結果となった。
☆ ☆ ☆ ☆
成田空港のラウンジへ国際便から降り立った人混みの中。旅荷物らしきキャリーケースを引いた青年が居た。
スマホのマップアプリを眺める彼の名は片桐夏向――またの名をカナタ・リヴィントン。日本人の父と英国人の母を持つ、日英ハーフの青年である。
困り顔でマップを操作する彼の耳にガヤガヤとした喧騒が飛び込んできた。目を向けると、数人の男たちがラウンジに備え付けられた大型テレビへと声援を向けているらしい。
「頑張れ相葉ァ!!」
「日本車の意地、見せてくれよ!!」
男たちが熱狂している画面の内容はMFGの予選中継のようだ。画面の向こうではゼロカウントと共に猛然と地面を蹴り飛ばした白いR35型GT-R NISMOがスタートラインから飛び出し、4WDの強烈なトラクションを活かして瞬く間にストレートの向こうへと消えていく。
「あーぁ、一度でいいから生で見てみてぇなぁ」
「気持ちは分かるけど無理無理、コースサイドは一般人は立ち入り禁止で入れないし、風向きによっちゃ例の火山ガスが流れて来るんだぜ?」
そんな男たちの会話を横目にしながらカナタは画面の向こうで白いマシンの走るコースへと思いを馳せた。
(MFG。イギリスの友人たちもみんな夢中でした。ましてここはその発祥の地Japan。これだけの人気も頷けマス)
世界でも類を見ないレギュレーションを持つモータースポーツ、MFG。カナタの故郷であるイギリスですらみんな夢中であったそれが、お膝元であるここ日本で大人気であるのは当然の事だろうと彼は内心訳知り顔で頷いた。
(それにしても、ナンチョウメ?とか、イロハ?とか……ニホンの住所はややこしすぎマス。So badだ。
中継に盛り上がる一団から自らのスマホへ目を戻し、再び眉間に皺を寄せて困り顔になるカナタ。どうやら目的地の住所の複雑さに面食らっているらしい。せめて予備知識くらいもっとしっかり教えてくれても良いのに、と脳裏に思い起こした彼の師匠であるとある日本人へ内心恨み言をぶつけておく。
四苦八苦しながらもマップアプリのナビ機能を設定したカナタはキャリーバッグを引いて歩き出した。
この未知との遭遇をした観光客のような反応をしている青年こそ、イギリスが誇る名門レーシングスクールRDRS――ロイヤル・ドニントン・パーク・レーシングスクール――が送り出した秘蔵っ子にして、MFG今シーズン期待の新星の一人であった。
レースへの参戦に加え、彼にはもう一つ来日した目的があったのだが――それはまたいつか。
(住所は分かりにくいけど、ニホンのお菓子は本当に美味しいデス。一枚1ポンドもしないようなCookieだけでもこんなに違うなんて。イギリス人も見習うべきだ)
それはそうとして、売店でふと買ってみたクッキーの美味しさにカルチャーショックを受け、祖国のメシマズ具合に嘆く現時点での彼はどこからどう見てもただの観光客のようだった。
運命の双子星と英国からの挑戦者が相見えるまで、あと僅か。
【藤原愛久愛海/アクア】
最速の豆腐屋と一番星の息子。両親に影も形もない金髪と碧眼は拓海のほうの隔世遺伝で生えてきたらしい。ぬぼーっとした仏頂面というかダウナーっぽさは父親譲り。シスコンでマザコン()、そしてアイから命名に込められた想いを聞いているので自分の名前はこれでも大切に思っているが、それはそうと初見でほぼ100%読めないと言われるので地味に困っている。
【藤原瑠美衣/ルビー】
最速の豆腐屋と一番星の娘のほう。兄と違って赤系統の瞳は母であるアイ似。双子の兄と両親、それに祖父ズが大好き。まずほぼ例外なく初見で正しく読まれない兄と違ってキラキラしているが音的にすんなり読める名前であったのは良かったと思っている。過去に交流のあった天才ドライバーを兄より先に思い出したはいいが、非常に舐め腐り切ったスゴイ・シツレイな呼び間違いをぶちかました。もはや推しの子様式美の一つである。
【有馬かな】
みんな大好き重曹ちゃん。小柄なロリボディによるCd値(空気抵抗)の低さと軽さを存分に活かし、ジュニアの頃からレーシングカートで無双の限りを尽くしていた当代きっての天才ドライバー。もちろん走りのウデも折り紙付き。過去に交流のあったアクアを十数年の時を超えてまさかのMFG予選会場で発見し、絡みに行ったは良いものの妹のほうに聞き捨てならない呼び間違いをぶちかまされた人。当然ぶちキレた。
【藤原アイ】
みんな大好き一番星であり今やアクアとルビーの母。夫となった拓海との間に双子を授かり、レーシングドライバー兼ママとして育て上げた。一生子離れ出来ないと言われるほど子供たちが大好き。二人を出産してから二十年は経っているはずだが、二十歳前後の当時とほぼ変わらない見た目をしているバグか何かのような不老っぷりを誇る。親子関係を知らない人物からは二人の姉と勘違いされるのがテンプレ。現在もオンロードサーキットを主戦場としたプロドライバーとしてSUPER GTをはじめとした国内外のレーシングシーンで大暴れしている。
【片桐夏向/カナタ・リヴィントン】
MFGのほうの我らが原作主人公。ほぼ原作通りだが、拓海が双子サイドに居るのでRDRSの師匠がとある人物に変わっている。空港の売店で買った日本のお菓子の美味しさに魅了された。我が連合王国は何をやっているんだ、ぶつ切りウナギとゼラチンの悪魔合体なんか作ってる場合じゃねぇだろ!と内心祖国にキレている。
【カナタの師匠】
RDRSに籍を置く教官。カナタによると金髪だが日本人らしい。
一体何キ何カルなんだ……。
次回はカナタとの出会いかな?ゆーるゆる更新していきまふ。面白いと思って頂ければ感想・高評価お願い致します。峠の一番星共々よろしくお願いします。