思考沈下している。
どうにも考えることが多く判断力が低下しており、これはさっさと知恵者と話し合った方が良い。
要するに、ランタンと我が愛妻ファウルハウトにであった。
「アルベール殿の所持している帯剣は、元々はセドリックの物ではなかろうか? 奴めも否定はしなかった。この謎について解き明かしたい」
三人で部屋に集まり、その場で情報を開示する。
クリティカルシンキングを試みるのだ。
なぜ、どうして、何が足りないのか。
一から整理してみることにする。
私の目的である、この馬鹿げた果たし合いを取りやめるためには真実を明らかにすることであり。
ここに鍵があると予感がしているのだ。
私はそう二人に話しかけて。
「今更気付いたの? それくらいさっさと気付こうよ」
呆れたような顔で、ファウルハウトが答えた。
何もかもに気付いていたと言いたげな顔で。
「気付いていたなら言ってくれれば良いではないか!」
思わず声を荒げてしまう。
さすがにイジワルではないか、それは。
ちゃっちゃと教えてくれれば良かったのだ。
「どの場所で? さっきまでアルベール殿がいたのに下手なことは言えないでしょうに」
それはそう。
うん、と頷いて納得する。
状況的にはたしかにそうだった。
「ゴメンなさい」
丁寧に謝る。
別にいいけれど、と言いたげにファウルハウトが静かに首肯した。
私が捧げた、ナズナの髪飾りが揺れている。
「うーんと、まあゲシュペンストの旦那が鈍いのはともかくとして。オイラが横で聞いてての意見を口にしても良い?」
「いいぞ」
私は今、手広く意見を求めているのだ。
ランタンの意見も是非聞いておきたかった。
「意見というか、情報を整理したいんだけれど。まず『獅子の紋章』はアルベール殿の仕える主家の紋章なんだよね」
「そうだ。それは間違いない」
「で、セドリックさんが元々持っていた剣を何故だかアルベールさんが所持していると。この理由を彼に直接聞くのは拙い?」
それが出来れば話は早い。
だが、先にだ。
「アルベール殿に下手に聞けば、どんな真実が飛び出してくるかわからん。ここは慎重にいきたい」
アルベール殿が全く知らずに帯剣しており、何故、どうして、と混乱状態になる。
そのまま果たし合いまで時間切れとなってしまう。
これだけは避けておきたかった。
真実は闇のまま、そしてセドリックは殺され、アルベール殿にとって謎が残されたまま落着する。
本当にそれだけはよろしくない。
何の救いもない。
「理解したよ。じゃあオイラの想像というか、妄想の類いを言うけれど。この手の話でありがちなのはさ」
ぴん、と指を一本立てて。
仲間の矮人は、吟遊詩人としての発想力から結論を出す。
「実はアルベール殿のお父さんが、セドリックだった! なーんてね」
「……実はその可能性も考えている」
「マジで?」
マジである。
「というか、その可能性が一番高いのではないかなあ。二人の顔は似ていない。母君はすでに亡くなられたというので、母親似かどうかはわからんが」
まあ誰でも最初に考えつくのはそうだ。
物語にはありがちであり、典型的な古典としても求められる展開である。
だがしかしだ。
「しかし、それだと訳の分からんことがいくつか出てくる。セドリックが以前に決闘をしていて、勝利した。にも関わらず、何故か死んだことにしている。アルベール殿が口にしたとおり、妻子が苦難の目に遭うことを容易に予想できたにも関わらずだ。何故だか敵国側の騎士で仇ということになっているのは変だ」
「じゃあなしか」
そうでもない。
最初に二人が親子だという前提をしておけば、無理矢理にでもだ。
理屈は付けられるのだ。
理屈と膏薬はどこへでも付く、程度の無理筋を認めるならばだがな。
「少し、ややこしい話をしても良いか、ランタン」
「どうぞ」
「騎士という存在にどんなイメージを持つ?」
えーと、とランタンが少しだけ考えて。
「臣従儀礼(オマージュ)を通して、主君に剣を捧げて、忠誠を誓う。物語においては主君家臣共に互いを裏切らぬ関係こそが尊いとされ、それこそが騎士道であり、それと共に戦場で美しく死ぬ」
「うむ、そのイメージ自体は何一つ間違っておらんのだが」
ここで少し話がややこしくなるのだが。
「騎士は二君に仕えず、そんなイメージがないか?」
「あるというか、そうじゃないと困る」
「何が困る?」
「全く美しくないじゃないか。忠義の厚い臣下は、一度主君を定めたら、死ぬまでその人だけに忠誠を尽くし、他の主君には絶対に仕えないという節義。だからこそ美しいわけであって。いや、吟遊詩人としての意見はだけどね?」
それはそう。
だがなあ、現実とは異なる。
精神的な理想としては本当だが、現実的な政治や生存戦略としては例外が多かった。
「実際のところだ。例えばある王国と王国の国境に、一人の騎士にして領主がいたとする。彼は野心など持たず、領地の拡大など夢にも見ず、自分の領地さえ安堵してもらえるならば主君は誰でも良かった。さて、どうする?」
「まあ、正義が輝いている方じゃなくて、強い方の王国に付くってのが現実は正しいと思うよ? 仕方ないもの」
「もう一つ選択肢がある。それは『どちらの王国側にも付かない、主君として認めず仕えない』という消極的な方法ではなくてだ」
示唆してやる。
聡いランタンはすぐに理解した。
「え、まさか両方の王国に騎士として仕える、そういう選択肢もあるの?」
「普通にある。複数臣従というものだ」
何故その複数臣従に至ったかというパターンはいくつかあり、まあ今回は単純なたとえ話をしたが。
「この複数臣従を吟遊詩人はどっちつかずのコウモリ扱いするかもしれんが、実際はもっと複雑だ。例えば、その王国双方が争った場合にどちら側に付くか、更にその王国同士の契約で決まっていたりする。なんなら、どちら側にも付かないという選択肢だって契約によっては許された。だから別にコウモリや日和見というわけでもない。主君がそれを許しているのだからな」
「めんどうくさいね」
「実際とても面倒臭い。騎士道の美徳云々としてのだけの話ではなく、単に面倒臭いから吟遊詩人や小説家は無視するのだ」
吟遊詩人の語る物語とは、基本的に誰にでも多くの人に楽しんでもらえるよう単純であるべきなのだから。
だが、今回はそうはいかない。
「要するにだ、セドリックは――」
ここから先はセドリックの名誉を傷つける行為だ。
正直、口にしたくはないが。
「言いたいことはわかるよ、ゲシュペンスト。おそらくは、その想像で合っている」
先に合否判定が、我が愛しき怠惰の姫君より下った。
どうも彼女の意見とも合致しているらしい。
「あくまで推測だけどね、ランタン。おそらくセドリックは二つの王国に仕えていたのさ」
推測の限りではその通りで。
多分セドリックは、自分の取るべき選択肢を決定的に間違えた。
少なくとも、その間違いによって何もかもを失ったのは事実だ。
息子であるアルベール殿に殺されても仕方ないものだと思っている。
私はもう何も言わず。
聡いランタンが吟遊詩人としての能力で、考え出した物語を綴り出すのを待った。