幼女になったオッサンがお家に帰る方法を探す話 作:ほほげるもわ
「らー♪ららーるるらー♪」
今日もいい天気で航海は順調だ。
俺が船員さんに任せて貰えるお仕事は、頭を使う必要がない物が多いので、ときどき元の世界の歌の曲とか、歌いながらお仕事をしている。
元の世界基準ではあるが、かなり透き通った綺麗な声だと思う。
…力の暴発が怖いので、歌詞は無しだけど。
「■■ー♪■■■■■■♪」
同じく仕事中の船員さん達に、元の世界の曲は好評なようで、時々こうやって曲に調子を合わせて歌ってくれたりする。
言葉の聞き取り練習にうって付けなので、実にWin-Winな状態だ。
みんなで幸せになれて嬉しいね。
地平線に港町が見えてきた。帆船はゆっくりとそちらに向かって進んでいる。
この星の地平線がどの位の距離かは分からないが、昨晩からもう街の灯りが見える範囲に船は居る。
この船はオールもあるが、基本は風頼りの帆船なので速度はとてもゆっくりだ。
この感じだと、入港は明日になるだろう。
そうしたら、この人の好い商人さんや、陽気な船員の皆ともお別れだ。
言葉はまだ上手く話せないけれども…今夜も商人さん達と頑張って、たくさんお話をしよう。
翌日。
船が港に近づくと、港から手漕ぎのボートがやってきた。
船員さんが一端を帆船に縛り付けたロープを海に投げると、ボートの乗員がもう一端をボートの出っ張りに巻き付けている。
…へぇー、こうやって牽引して入港するんだ。
船員さん達も勢いよく海に飛び込んでボートに乗り移ると、オールで漕いで牽引を手伝い始めた。
接舷が終わると入港の手続きが始まったらしい。船員さんが慌ただしく荷物を運び始めた。
帆船から桟橋までの隙間が結構…距離があるな。
高さもあるし、子供の体で飛ぶのはちょっとキツイ。
飛べるのか俺?
どうしようかと躊躇っていたら、急に後ろからガチムチ船員さんに抱え上げられた。
「ふぁっ!」
び、びっくりして変な声が出た。
思わずガチムチ船員さんにしがみ付く俺に構わず、彼は軽々と船から桟橋に飛び移り、ゆっくり優しく下に降ろしてくれた。
「ありがとうございますぅ…。」
「■■。」
船員さんは照れたように手を振りながら、自分の仕事に戻っていく。
お手数おかけしました…。
「アリガ。」
商人さんに名前を呼ばれた。いつものニコニコ顔ではなく、凄く真剣な表情だ。
「■■■■?■■■■■■。」
うん。言っていることは、何となく分かるよ。
港に着いた後どうするのか、昨晩に頑張って「おはなし」して、船を降りたら後はひとりで旅をする事を伝えた。
実は商人さん、この船の船長さんだったのだ。
有難いことに商人さんは、俺がこのまま船に残って、一緒に暮らしていくことを提案してくれた。
でもそれは丁重に断った。
これは最後の確認…という感じなのだろう。
普通に考えれば、こんな子供が縁も後ろ盾もない場所で一人で生きていくなんて無茶だ。
現代の地球であっても無謀が過ぎるし、おそらく文明レベルはそんなに高くないであろうこの世界では、更に無理なことだと予想できる。
人の良い商人さんの事だ。
せっかく助けた子供に、死ぬと分かり切っている事をさせるなんて、罪悪感やら何やらで心情が酷い事になるのは想像するまでもない。
でも商人さんにそんな思いをさせる事を、俺は望まない。
だから少しだけ…別に自棄になっている訳ではないと説明するために、昨晩に俺の力について…念動を使って商人さんに見せた。
反応は、それほど劇的でもなかった。
あれぇ?
というか、俺が船でお手伝いしていた時、こっそり念動を使っている事に気付いていたが、隠したがっている事を察したので、気付かないフリをしてくれていたらしい。
えぇ…実はこれ誰でも使える感じの力なの?!という感じで、逆に驚いて慌てたが。
決してそうではなく、商人さんも全く見た事が無い現象だという事が分かって…かなりホッとした。
この世界においては、この力が大きなアドバンテージになる事を期待していたから。
折角こういうシチュエーションだし、隠れたヒーローっぽく少しドヤ顔とかも、してみたかったんだけども…商人さんにドヤ顔で返された。
く、くやしい…。
…とにかく昨晩のお話で、俺は普通の子供では無く出来る事がとても多い、だから心配はいらないよと商人さんに理解して貰えた、と思う。
俺が深々とお辞儀すると、商人さんは俺が考えを変えない事を理解したのだろう。
残念そうに頷くと、子供にするようにぎゅっと抱きしめられた。
俺も商人さんを抱きしめて返す。
「ありがとうございました。」
(あなたの船に助けて貰えて、本当に幸運でした。)
手を振りながら桟橋を離れ、港の雑踏に紛れてお互いの姿が見えなくなるまで、商人さんは手を振って俺を見送ってくれていた。
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「よい…しょっと!」
港町の中央付近にある広場の隅で、たぶん休憩用に設置されている長椅子によじ登ってから腰かける。
…俺が子供の体になっているのを差し引いたとしても、この世界は何でも全体的に作りがデカいのだ。
あまり大きい港街では無いと思ったのだが、街の中央だからなのか人通りはそこそこ多い。
見回すとイメージにある通り、石と木でできた建物がある中世の街並みと雰囲気。
広場に露店等は無く、ただ通行の要所として広い場所が確保されている感じて、皆立ち止まりもせず足早に通り抜けていく。
アニメで見るようなエルフとか猫耳みたいな異種族っぽいのは見当たらないし、武器や防具を身に着けた、ザ・冒険者!という風体の人も居ない。
ナイフを腰に帯びている人は時々居るが…荒事向けというよりは雑用に使う小型な物に見える。
目立つのは槍を持った人が歩いている位か?多分警備員とか、そういう感じがする。
商人さんも念動みたいな力は見た事無いという話だし…、この世界は余りファンタジーな感じではないのかもしれない。
さて…これからの事について。
前提として俺は、元の世界に戻れるなら戻りたいと考えている。
その為に自身に何が起きたのか、特にこちらの世界に着た直後、意識が無かった期間の情報を集めたい。
絶対に帰りたいという程に気持ちが強い訳では無いが…でも帰る方法が分かるなら、それに越したことはない。
そして俺自身の、心身の変容について知る事。
これは大きな課題のひとつだ。
元の世界の言葉を話したら爆死しかけるとか…なんなんだよ本当に。
あの事件が切欠で念動力が使えるようになったが、安心してお話も出来ないのは勘弁してほしい。
「小学生…。」
ぼそっと一言。しかし何も起きない。
以前に何度か試したが、幸い一度暴発した言葉は、二度目以降は大丈夫らしいので、後で人の居ない場所を見つけて手当たり次第に元の世界の言葉を試してみるつもりだ。
心身についてもう一つ。俺は…怪我が治る。
…そりゃ誰でもそうだが、治る速度が尋常じゃないし、切断された腕が生えるのは人間離れし過ぎている。
商人さんの船でお手伝いをするとき、結構な頻度で細かい怪我をしていたはずなんだが…。
(傷が何処にも無いんだよなぁ…。)
何となく手の平を太陽にかざして眺めながら、心の中で呟いた。
赤い血管が透けて見える程に色が白い、手荒れも無い綺麗で小さな手。
もしかしたら、俺は人間じゃ無くなったのかもしれない。
最初の目的地は、俺が発見された海域の周辺だ。
商人さんの船は、こことは別の港町を出発して沿岸ぞいに航海し、二日目位の海上で俺を見つけたそうだ。
丁度船の航路を逆走する形で、ここからその港町を目指して沿岸沿いを行けば、俺が見つかった場所の近くで何かが見つかるかもしれない。
あのまま船に残って、目的の海域を再び通るのを待つというのも考えたが…商人さんによると、再びそこを通るのは来年以降になる計画らしい。
何も見つからないかもしれないが…無いという事も一つの情報になる。
時間が経過する程に痕跡は薄れていくだろうし、先ずは調査を優先したい。
念動を使って身を守り、採集しながら旅暮らしを続けていく。
漠然とだが、今のところはそんなイメージを持っている。
「■■■■?■■■■■■■■。」
サバイバルの知識は…ほどんど無いが、まぁ…頑丈な体らしいし、何とかなるだろ。
失敗や拙いのは仕方が無い、でもそれを怖がって何もしないのは絶対にナシだ。
…ちょっとだけ、この状況にわくわくしている。
未知の冒険って小さい頃に憧れたよな。
「■■■■!!■■■■■■■■。」
「うん?」
考え事に没頭して気付かなかった。
いつの間にか俺の前に、怪訝な表情でこちらを見る二人組が立って居た。
彼らは槍で武装し、揃いの制服を着ている…さっき見かけた警備員みたいな男女の二人組だ。
困った。不審人物とでも思われたか?
「あー…えぇ…アリガです。ありがとうございます…。」
取り合えず話せる言葉で返したけれども、勿論これで伝わる事など何もない。
言葉が分からぬまま連れていかれたら、どれだけの期間拘束されるか分からないし、いっそ走って逃げてしまうか…?
「■■?■■■■■■?」
片側の女性が俺の前に身をかがめて、俺の手を取り心配そうに話しかけてきた。
あー…これは…アレだ?
俺、迷子か何かだと思われているな?
ハハッ。そりゃある意味で大正解だよ。
お家は異世界に有るんだけどさ。
突然楽しそうに笑い出した俺を見て、二人組は深刻な表情で互いに相談を始めた。
どうやら俺は気が変になった迷子なのではないかと、疑われ出したらしい。
…どうしたものかね。
取り合えずここまでです。
続きは10,000字位を書き終えたら投稿するかも。
色々な趣味をローテーション中なので、いつになるやら…。