幼女になったオッサンがお家に帰る方法を探す話   作:ほほげるもわ

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第三話:出発ですか?私の覚悟は何処ですか?

(逃げよう。)

 

友好的な雰囲気は感じるが、このまま彼らの期待通りに流されても、早めに調査の旅に出たい俺の、利になりそうな展開が思いつかない。

 

この世界で身寄りのない(頭のおかしい)子供がどういう扱いなのか分からないが、良い方に予想しても最終的には孤児院に放り込まれたり、誰かの養子にされたりするのだろうな。

 

ひそかに逃走の決意を固めながら、椅子の上に立ち上がってぴょんと飛び降りる。

…ちょっと脚が痛かった…やっぱり無駄にデカいよ、この長椅子。

 

「■■、■■■■■■…■!!」

 

笑顔で手を差し伸べて来た女性の警備員が、突然走り出した俺に驚いて思わず道を空けた。

丁度良い、進路クリアだ。よし全速力!

 

「グェッ…ちょっ…グッ首が締まってるって!く、くるぢいぃ…。」

 

警備員の男に素早く襟首を掴まれ吊り上げられた。ビンッと音を立てて上着の麻紐が首を絞める…首吊りだ!

俺はなす術なく吊り上げられて、両脚を空しくバタつかせた。

 

「■■、■■■■■■…」

『クソガキ、面倒かけさせんなよ…。』

 

「■?!■■■■■■!■■■!」

『先輩?!首が締まっちゃってますって!早く降ろしてあげてください!』

 

たぶんそんなやり取りがされたのだと、思う。

チョットだけだが、こちらの世界の言葉の聞き取りが出来て、ほんのり嬉しい…。

 

いやそれよか、本当に死ぬ!

…はやくおおお降ろせぇ。もう逃げない!逃げないからっ!

 

--------

 

その後、逃走を諦めた俺は、女性の警備員に手を繋がれて、警備員の詰め所らしき建物に連れていかれた。

野郎の警備員は途中で別れてどっか行った。

 

椅子と机がある小さな部屋に通され、女警備員に椅子に座るように促される。

俺が諦めて椅子に腰かけると、女警備員が横に屈んで話しかけてきた。

 

『お名前は?』

 

多分そんな感じの質問かな?正しく聞き取りするのはまだ難しい…。

自分を指さして首を傾げると、女警備員が微笑み頷く。あってたみたいだ。

 

「アリガ。」

 

『アリガちゃん。ご両親は近くに居るのかな?■■■■■■?』

 

両親については船で良く尋ねられたので、言葉が直ぐ理解できたが、後半はちょっと分からなかった。

この単語は…商人さんが良く使っていたような気がするな?なんだっけか?

 

『そう…分かった。何処か帰るお家はあるのかな?』

 

分かっちゃったらしい。難しい顔で悩んでいたからだろうか。

…いや、両親…この世界に身寄りは無いので、大体あってるか。

 

俺は首を振って、何処にも当てがない事を伝えた。

簡単な言葉「無い」だけでも、ちょっとした抑揚の違いで異なる意味になるらしい…難度高いな異世界。

…いや元の世界の言葉もそんなんだったわ。

 

ともかく聞き取りはかろうじて出来るのだが、現状は舌足らずで発音が全然ダメなのだ。

この世界の人間は、舌の構造が違うのかね?

 

『アリガちゃんが帰れる、新しいお家に案内してあげるから…ちょっと座って待っててね。』

 

少し悲しそうに微笑んで見せると、女警備員は部屋の外に出て行った。

予想通り、俺は孤児院行きになるようだ。

 

(よし…脱出のチャンスだな。)

 

孤児院に連れられてから逃走するのも、ここで逃走するのも大差あるまい。

 

この部屋には出入口が一つだけしかない。そこから出たら当然女警備員と鉢合わせてしまう。

 

だがこの部屋には、手を伸ばしてジャンプすれば辛うじて届く高い位置に、灯り取り用に開かれた大きめの窓がある。

あれから外に脱出することが出来そうだ。

 

窓枠に飛びついて、懸垂で登るのは無理だ。

この体、どうもフィジカル的に致命的な欠陥があって…要するに筋力が弱いのだ。

俺の体重は相当に軽くなっているはずなのだが、ぶら下がりの状態を維持するのも難しいと思う。

 

(だから、念動を使う。)

 

俺の意思に従って、一瞬で部屋の空気が静謐な力に満たされた。

ひとさし指を立てて集中し、ちょっとだけ進む方向を指示すると、俺の体から重力が失われて、ふわりと体が浮かび上がる。

 

パキリ、パキリ、と空気が音を出して軋む。

 

商人さんの船でお手伝いを効率よくこなす為に、練習を兼ねて弱い出力で念動を使っていたが、俺自身を浮かす規模で力を使うのは初めてだ。

今使っている位の力の強さで、俺が進む方向を指示し過ぎると、天井に激突して痛い思いをする未来が見える。

 

念動を使っても肉体的な疲労は、不思議なのだが全く感じない。

念動力のエネルギー源とか、どうなっているのだろうかと、変に科学的な疑問が湧き出すが慌ててかき消した。

 

(今は集中…。集中して…制御。)

 

三次元の空間で、方向を明確にイメージするのが難しい。

練習中に思考の中だけで方向を指示した時は、どうしても力の進行方向が定まらず、激しく念動の対象が揺れ動いてしまった。

 

俺がこれに出した解答は簡単で、進む方向を指さしてそちらに意識を傾ける。というやり方だった。

 

この方法による制御は今回も上手く行き、宙を浮いてようやく窓枠に着地した所で、ほっと気を抜きそうになるが、次はこの高さを降りねばならない。

集中続けたまま窓枠を蹴り、建物から離れた茂みの陰を指さして、ゆっくりとそこに降り立った。

 

(成功した…。よし!やった!)

 

地面に着地した所で、俺は念動の力を停止した。

 

色が褪せたように遠ざかっていた港街の喧噪が、ゆっくりと色を取り戻し聴こえ始める。

 

(自分を念動の対象にすると…おぇ…気持ち悪い…。)

 

船の揺れなど物ともしなかった筈の、俺の強靭な三半規管が耐えられず、足元がゆらゆら揺れ回る。

体が急に重力を取り戻し、地面に吸い寄せられる錯覚を覚えて、俺は両手を地面に付いて暫し感覚のすり合わせに注力した。

 

 

人通りが多かったらどうしよう、と窓枠に上る途中で思ったが、運よくここは人の通りが無い場所のようだ。

 

(女警備員が気付く前に、ここを離れないと…。)

 

犯罪者という訳では無いのだし、大々的に追跡されるような事は無いだろう。

 

こういう中世くらいの世の中では、弱い人間の権利とか命は軽い扱いなイメージがあるし…。

こんな子供の出来事なんて、良くある話だったと早々に忘れ去られてしまうだろう。

 

女警備員は先輩…男警備員に後で叱られるのかもしれないが…。

 

(ごめんね。)

 

チクリと良心が俺を刺激するが、心の中で女警備員に謝罪して、その場を静かに立ち去った。

 

--------

 

天気の良い空にグロテスクな土星さんが見え始めた。昼が終わり午後二時位の時刻だろうか。

前の世界の感覚だと、まだ昼日中だと思うのだが、この世界ではこの位が時間が仕事が終わる頃合いなのか。

 

行き交う人の雰囲気は、少しだけのんびりした物に変わり、扉の開かれた建物の中からは楽しそうな話し声。

早くも酒に酔ったような…わざとらしさすら感じる位に、陽気な歌声が聞こえてくる。

 

(お酒…久しぶりに飲みたいかも。)

 

陽気な声に刺激されて、ふと思う。

こちらの世界に来てからは、お酒を飲んでいないな。

 

船上で船員さんが時々飲んでいたが、こちらの世界でも子供が飲むのは禁忌らしく、俺が欲しがっても一滴だって譲っては貰えなかった。

まぁ…飲めないなら、別にそれでも良いけど。

 

ちなみに、こちらの世界で煙草は一般的では無いらしい。

そっちは俺、興味ない人間だったよ。多分。

 

お使いを頼まれたのか?酒場から出て来る、俺くらいの子供の姿もちらほらと見える。

俺みたいな子供が歩いていても不審では無さそうだが、俺は既に一回警備員に声をかけられたのだ。

目立たないに越したことはない。

 

 

俺はこそこそと、人の視線の陰を選んで道を歩き、しばらくして港街の端まで到着した。

 

港街は先端の尖った木杭を並べた、防壁で囲われていた。

これは前の世界ではパリセイドとか言う種類の、簡易に作られた防壁だったはず。

 

素人目だが…余り頑丈そうな防壁には見えない。

お金が無いとか、そういう感じなのだろうか?

 

見える範囲に門は一つだけあり、先ほどの警備員達と同じ服装の人達が、大勢で門を守り防壁を巡回している。

街の外に通じる場所はここしか見当たらないが、門を通過するような旅人は居ないし、警備員の他に人通りは…全くない。

 

人が通らない時間帯なのか…その割には警備員がちょっと、気を張り詰め過ぎているような?

門の警備員は全員街の外を警戒していて、何か物々しい気配を感じる。

 

(子供がひとり通ります。…と歩いて行っても、絶対に通してくれそうに無い雰囲気だな。)

 

この世界には街の外から襲ってくるような、何かが居るのだろうか…。

ファンタジーのアニメならば、こういうシチュエーションでモンスターとかドラゴンとかが思いつくけど。

 

即席防壁の高さは、大人一人より少し高い位だ。

たいした高さではないが、街の建物と防壁の間に結構な距離があって、歩いて近付くのはとても目立ちそうだ。

 

さっきの詰め所のような、壁や天井への激突を心配する必要が無いここなら、防壁自体は簡単に念動で飛び越えることが出来そうだけど…。

 

(実は…かなり無謀な選択しているのか…俺。)

 

迷う。

 

子供が一人で旅をする危険性を、考えなかった訳じゃない。

 

俺の体格では小さな野生動物だって十分危険だし、異世界ならではの怪物が現れる可能性だってある。

これから行こうと考えていた、沿岸沿いは街道なんて多分ない。偶然の助けは期待できず、すべて自力で困難を乗り越える必要がある。

 

そのくらいは覚悟して…自分の奇妙な頑丈さと念動の力を信じて、異世界の観光ついでにお家探しを続けるつもりだったのだが…。

 

 

だが俺の覚悟は、ただの言葉だった。

 

目前で緊張を漲らせて、未知の脅威に警戒を続けている彼らは、言葉や想像などではない。

彼らがそうせざるを得ない、現実の危機が目前に覗き見えた事で。

つまり俺は…ここに来て初めて、自身の覚悟の足りなさを実感して、怖気づいてしまったのだ。

 

…やっぱり引き返して…女警備員さんにお願いして、孤児院に連れて行ってもらおうか?

 

今から戻って「やっぱり助けて」と頼む姿は格好悪い。そういう余計な…プライドは勿論ある。

 

しかし、みんなの信頼を得て、説明して理解を得て…調査の準備に時間をかける程に、お家への手掛かりを失う可能性が高くなる。

それもやはり正しくあるように思える。

 

(行くべきだ。いや…行こう。)

 

絶対に帰りたいという訳ではなかったが、機会を逃すと永遠に失われるかもしれない情報と可能性が、今は惜しい。

 

俺の小さな覚悟に応えて、静かな力が周囲を満たした。

防壁に向けて拳を突き出すと、パンっと小気味よい空気の破裂音を一回響かせて、重力を忘れた俺は地面を滑るように高速飛行して防壁に急接近する。

 

そのままの勢いで地面を強く踏み切ると、防壁を軽々と飛び越え…俺に気付いた警備員達の叫び声を振り切って、街から離れる為に高速で空を飛び続けた。

 

 

暫く念動の力で空を飛び続けて、十分に港街から離れたあたりで。

 

俺は遂に堪えきれなくなり、念動の制御も忘れ…地面に激突を繰り返して墜落、勢いのまま岩だらけの地面を転がり続けた。

 

(おおぉぉえええ!目が回るぅぅ!もう絶対に念動で空飛ばないいぃ…。)

 

大きな岩に衝突してやっと停止出来たのだが、目の回る感覚だけが止まらない。

体中が熱く砕けたように痛いが、今は嘔吐感がそれを上回り、血塗れの地面をのたうち回りながら思う存分に嘔吐した。

 

そして、気が済むまで嘔吐し切る頃には、墜落の怪我はすべて治っていた。

 

「俺の回復力って、ちょっと凄いね…。アハハ…ぅぷ…怖かったぁ…。」

 

怖さと痛みの余韻で体は震えているが、立って歩けない程じゃない。

 

やっとお家探しの旅を始めることが出来たのだ。

震える脚を持ち上げて、俺は旅の目的地に向けて歩き出した。

 

 




あんまり長編にはならない予定です。

私のペースだと週に一話投稿くらいが限度っぽいです。
続きは多分来週以降と思います。
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