アクアの奇妙な冒険   作:モリブデン42

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見切り発車です


インターステラー

 それは突然の事だった。

 待ちに待った母、星野アイのドーム公演を前に愛久愛海(アクアマリン)は、心を躍らせていたはずだった。

 それがたった一つの来訪者によって、破られた。

 

「あ、ああああああああああ!!!!!!!」

 

 アイが刺された、血がどくどくと溢れて止まらない。

 腹部大動脈が損傷している。

 

「このままじゃ、救急車も間に合わない」

 

 どうすれば、どうしたら、何も思考がまとまらないアクアをアイがそっと抱き寄せた。

 

「ごめんね、多分これ無理だぁ。大丈夫?アクアは怪我とかしてない?」

「してない・・・」

 

 もう何もできることは無かった。助からない、助けられない。今目の前でアイの命は尽きようとしているのに。

 

「どうしたの?そっちでなにがあったの?」

 

 こちらの事態に気づいたルビーが扉越しにたずねてくる。

 

「来るな、ルビー」

 

 ルビーは見なくてもいい。きっとトラウマになる。

 

「ルビー、お遊戯会の踊り、とっても上手だったよ。将来はアイドルかなぁ。そしたら親子で共演なんてしてみちゃったりして」

 

 あったかもしれない未来をアイが語る。

 

「アクアは役者さん?二人はどんな大人になるのかなぁ。二人のランドセル姿見たかったなぁ。授業参観に出てお母さん若すぎない、なんて言われたりして、きっと楽しいだろうなぁ。あんまりいいお母さんじゃなかったけど産んでよかったって思ってるよ。ああ、最後にこれは言わなきゃ」

 

 アイはアクアを抱えたまま、扉に寄りかかりアクアとルビーを視界に収めた。

 

「愛してる」

 

 アイは安心したように笑った。

 

「ああ、やっと言えた。この言葉は絶対嘘じゃない」

 

 アイの瞳に星が消えた。

 それに呼応するようにアクアの瞳に赤い星が宿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニュースがアイの死を報じる。

 犯人の大学生は未だ行方不明だという。

 

「行方不明・・・?」

 

 身元を特定していて、逃げるときの様子から冷静な判断力などなかったはずだ。

 しかし、まだ捕まっていない。それはアクアにとって到底許せる話ではなかった。

 このときのアクアは真面な判断が出来ていなかった。ただ、何かをしなければいけないという強迫観念が背中を押した。

 アイが死んでからそう日はたっていない。ルビーはまだ憔悴している。

 アクアはそっとマンションを抜け出した。

 犯人を見つける、目的はそれだけだった。ただ犯人を見つけて何をするのか。何が出来るのか。復讐するにはアクアの体はあまりに幼く、非力だった。

 

「たとえ、そうだと分かっていても」

 

 なにもせずにはいられなかった。

 アクアの瞳に意思が宿る。

 なんとなく、確証があった。

 犯人がどこにいるのか、アクア自身不思議に思うほどに勝手に体が引き寄せられていた。

 走る、走る、走る。

 薄暗い路地裏にさしかかり、ようやくその感覚に答えが出た。

 

「そこにいるんだろう!!アイを殺した奴!!」

 

 溢れんばかりの怒気を振りかざしながら、アクアが叫んだ。

 アクアの視線の先には誰もいない。しかし、アクアの視線は少しもぶれることは無い。荒唐無稽な話ではあるが、アクアは犯人がその何もない空間にいることを確信していた。

 

「お前、アイの子供だな」

 

 能面のような無表情で男は現れた。

 しかし、それは束の間のこと。すぐさま表情を変え、醜悪な怒りを露わにする。

 

「やっぱ、許せねえよなぁ。愛してる、愛してるって言いながら子どもなんか作りやがって、前は動揺しちまったが考える時間は十分あった。やっぱアイは裏切り者だ。俺に光を与えたかと思ったら、一気に突き落としやがった」

 

 ギリギリと歯ぎしりをたてながら、アクアを睨んだ。

 

「おいガキ」

「何だよ」

 

 急に話しかけられたものだから、アクアも思わず返してしまった。

 

「お前名前は?俺はリョースケだ」

愛久愛海(アクアマリン)だ」

「ぶはっ、はは。ひっでぇ名前だな」

「アイがくれた名前だ。侮辱するな」

 

 リョースケはふらりと体を揺らしたかと思えば、いつの間にかその手にはナイフが握られていた。

 そのナイフを見て、アクアに緊張が走る。

 

「蛇足って言葉知ってるかぁ。蛇を速く描く勝負の中、調子に乗って『足』を描いたら負けたって話だぁ。『足』がついてる蛇なんていないってなぁ。それと同じ。お前は『蛇の足』だ。あっちゃならねえものなんだよ。お前を殺す、その次はもう一人のガキもだ。それでアイは完璧になる」

「勝手なこと言ってんじゃあないぞ!お前に何の権利があって!何の資格があって!アイを俺たちを裁くっていうんだ」

「うるせえんだよ、クソガキャァ!あの女は俺を裏切った!これはその『報い』なんだよぉぉ!」

 

 リョースケの剣幕に一瞬アクアがたじろぐ。体格差を考えるとアクアに勝てる道理はない。しかし、相手は子供だと思い油断しているはずだ。そこを突けばあるいは。

 アクアの思案を断絶するように、リョースケが動きを見せる。

 

「ガキの癖によく口が回るな、だがもう無駄だ。お前はここで死ぬ」

 

 突如、リョースケの姿が薄くなり消えていく。

 

「なっ」

 

 先ほど、アクアはそこにいないはずのリョースケ見つけた。しかし、今冷静になるとその異常さに気づく。

 

(姿が消えた!一体何がどうなっているんだ)

 

「ど、どこに」

 

 逃げたのか、そんな的外れな思考が頭をよぎった時、アクアの体を衝撃が襲った。

 

「どこにも、いっちゃいねえぜぇ」

 

 虚空から声が聞こえる。アクアは自分が蹴られたのだと理解する。

 

「一体何がっ」

「もういっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっつ!」

 

 リョースケが奇声を発しながら、アクアの顔面を蹴る。

 アクアはなすすべもなく、吹き飛ぶ。

 

「このまま、なぶり殺してやるぜぇぇぇ」

 

 蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って、蹴り続ける。何もない場所からくる衝撃にアクアは抗う事すらできない。

 

(どんな原理かはわからないが、とにかく奴は透明になっている。だが確かにそこにいる!ならば足元を掬えば!)

 

 ただひたすら、蹴られ続けながらアクアは相手の位置を測る。

 蹴っている相手の足から軸足の位置を割り出す。

 足を掬って、頭を地面に打ち付るくらいであれば、体格差があっても対抗できる。

 

「そこぉぉぉぉぉ」

 

 リョースケが足をあげた瞬間を狙って、駆け出す。

 アクアの体にトンと、障害物に当たる感覚。軸足が当たる。

 幼児の微かな体重をかけて、足をもつれさせる。このまま、頭を打ち付けさせる。

 ただ、現実はそんなに甘くない。

 

「ガキが反抗しやがって」

 

 リョースケはただ尻もちをついただけでアクアの反抗は終わってしまう。

 助けを呼ぼうか、しかし元々は自分からトラブルに飛び込んだ身で他人を危険にさらすのは憚られた。

 

「助けを呼ぼうったって無駄だぜ、俺の『プレデター』に触れちまったからな。お前も俺と同じように誰からも認識されていない」

 

 わざとらしく姿を現して、リョースケは卑しく笑った。

 

「そして、てめぇの遺体も永遠に消してなかったことにしてやる。これは罪から逃れるためじゃネェ。アイの子供なんていう『汚点』をこの世から消し去るための崇高な『使命』なんだよぉぉぉぉ」

 

 リョースケが叫ぶと同時に、その背後から人型の影が現れる。肌はトカゲのように茶色く、ごつごつとしたマスクを被っている。腕、脚、肩の各所を武装で固めているその姿は狩人を思わせる。姿も、存在感もそれが人でないことを示していた。

 

「なんだ、それ」

 

 意味不明な超常現象の連続にアクアはついて行けず、思わずといった雰囲気で言葉を漏らす。

 

「あぁん?お前見えてんのか、『スタンド』が」

「スタンド?」

 

 アクアの問いかけにリョースケは答えなかった。少し固まった後、ワナワナと体を震わせ、爆発する。

 

「ありえねぇだろ、ありぇねぇだろぉぉぉ。『スタンド』はスタンド使いにしかみえねぇんじゃあねぇのか!!!こんなあっさり見つかってよぉ。俺は騙されたってのか!?どいつもこいつも、嘘つき野郎だぁぁ」

 

 狂乱、乱心、頭を両手でかきむしりながら、怨敵を見るような目でアクアを見つめる。

 

「嘘にはならねぇ。ここで殺せば、事実のまま、俺が騙されたってこともなくなる。殺す、殺すぜぇ、愛久愛海んんんんん」

 

 明確にリョースケの目がアクアを指す。

 

「行くぜっ!!プレデター、俺の姿を消せぇぇぇぇ」

 

 再びリョースケの姿が消えていく。

 

(来るっ!!)

 

 アクアが身構えようとするがそんな抵抗も虚しく、ワンサイドゲームが始まる。

 腹を蹴られた。そう認識するとともに、アクアの髪の毛が掴まれつるされる。

 リョースケが再び姿を現す。

 

「ほらナイフ貸してやるよ。反抗してみろよ」

 

 左手でアクアの髪を掴み、右手でナイフを見せびらかすように揺らす。そのままアクアにナイフを持たせるが。

 戸惑いながらもアクアが握ったナイフを向けようとするが、そんな間も与えずにリョースケから重なるように現れた人影がアクアを殴る。

 リョースケの蹴りよりも威力が高く、軽く殴ったように見えるのに三メートルほど吹き飛ばされる。

 

「無理無理ぃ!ガキに何が出来るってんだよ!!」

 

 アクアが手放したナイフをリョースケが拾い、再び髪を掴んで持ち上げる。

 

「ほらもう一回チャレンジだ。ナイフ握ってみろ」

 

 さっきの焼きまわしだ。ナイフを握るとともに、リョースケのスタンドに殴られる。

 

「ははははっ」

 

 もう幼児の体で耐えきれるほどの傷じゃなかった。

 アクアは血を吐きながら腹をおさえてうずくまる。

 それをリョースケはつまらなそうに見つめていた。

 

(ああ、俺ここで死ぬのかな?アイの仇も討てずに。何の意味もなく)

 

 アクアの心は摩耗していた。

 アイの死、傷、何より自身の無力さが心を穿つ。

 

「もういいか、お前殺すわ」

 

 再びアクアの髪を掴んだリョースケが冷たく呟いた。

 右手にはナイフが逆手で握られていた。

 

「最後に謝ってくれないか。そうだな……生まれてきてごめんなさい、とでも言ってみろ。お前がアイの『汚点』であると、『間違い』であると、認めてッ!腹から謝罪して、尊ぶように死を受け入れるんだよ!!」

 

(俺が生まれたのが、悪かった。そうかもしれない)

 

 もし自分じゃなければ、アイを助けられる誰かであれば。

 自分が生まれてきた意味。何のために。

 アイが死んでから、そんなこと何度も思案してきた。

 

(意味なんてなかったな)

 

 自分が生まれ変わったのは単なる幸運程度にしか考えていなかった。自分が殺された状況を考えれば、もっと推察できただろうに。

 そんな怠慢がアイを殺した。星野愛久愛海には、雨宮吾郎には、アイを助けるチャンスがあったのだ。

 

「何で……」

 

 何で自分は無力だったのか。悔しさで涙がこぼれる。

 

「何で!?」

 

 今、アクアは自身の死が迫っていることを実感している。アイを刺したあのナイフが自身も同じく、殺すのだ。

 

(アイ……)

 

 助けられなかった母、推し。無敵だと思っていた。最強だと思っていた。天才で。その輝きは留まることを知らない。そこに存在するだけで、天を、地を、世界を照らす。

 

――――――あんまりいいお母さんじゃなかったけど産んでよかったと思ってるよ

 

 

(そうだ)

 

 母の言葉を思い出す。

 産んでよかったと、彼女は言った。

 愛してると、これは嘘じゃないと。

 

(それを嘘にさせていいわけない!!)

 

 アクアの瞳の星が赤く輝く。

 

「俺が生まれたことは間違っていた。それは認めるよ。俺じゃなければ、もっといい結果を引き出せたかもしれない」

 

 アクアの自分じゃなければ、という考えは変わらない。もう事態は起こってしまって、取り返すことは出来ないからだ。アイが死んだ時点で、アクアは自分自身を認めることなどできなくなった。

 

 しかし、それはアイの間違いを認めることと同義ではない。

 

 決意を持って、アクアは眼前の敵を睨む。

 

「でも、アイが俺を産んだことは決して『間違い』なんかじゃない。俺がお前に屈するということは、アイの行いを『間違い』にするってことだ」

 

 目の前の人間は身勝手な理由でアイを殺した。それが『正し』くていいはずがない。アイの死を『正当で』あると認めていいわけがない。間違っているのはアイじゃない。

 

「あんたは間違っている。俺もあんたも『足』だ。あんたが俺を殺すのなら、お前こそ自分を呪え!!お前がアイの一番の『汚点』だ!!」

 

 アクアが叫ぶ。しかしリョースケは眉を顰めるだけだ。

 もはや、立ち上がる力すらアクアにはない。

 そんなアクアに構わず、凶刃は迫る。

 リョースケがナイフを振り上げ、アクアに振り被る。

 

「は?」

 

 そんな間の抜けた声を出したのはリョースケだった。

 ナイフを振りかぶった状態のまま固まっている。正確には、その手の中にナイフは無い。

 

「え?」

 

 遅れて声をあげたのはアクアだった。

 アクアの手にはナイフが握られていた。間違いなく、先ほどまでリョースケが握っていたナイフであった。

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」

 

 硬直から先に抜け出したのはリョースケの方だった。

 

「お前、それは!?スタンドに目覚めていたのか!?お前それは!?そういやスタンドも見えていたな!?」

 

 リョースケはアクアを見ていない。アクアの背後を見つめて、慄き、喚く。

 アクアもつられて、視線を自身の背後に移す。すると、そこにいた。

 リョースケの人影と同じように、宙に浮遊するように人影が佇む。

 宇宙服のようなイメージをもたせるヴィジュアルだが、特有の膨らみはなく、人影にフィットして吸着しているように見える。肩を通してベルトのようなものが背中に繋がっている。顔面の部分は真っ暗でその内側を見ることはできないが、その中央には爛爛とした星形のマークがある。

 

「これは・・・」

「スタンド、やはりスタンド!?兆候はあったがなぜおまえが持っている!?」

 

 リョースケの動揺が露わになるほど、アクアは冷静になってく。

 

「スタンド、スタンドというのか、恐らくお前のその超常現象と同類のもの」

 

 動かせるという実感。アクアが心の中で念じれば、そのヴィジョンは違わずに動いた。

 か細い希望ではあるが、それを理解した途端に勇気が湧いてきた。

 戦える。その事実だけで、アクアには十分だった。後の疑問は全て捨て置き、思考を研ぎ澄ませていく。

 アクアは怪我で動けないが、スタンドは動ける。アクアをかばうようにスタンドがリョースケに対面する。

 

「クソッ、何なんだよ。なんだよォォォォ。俺が間違ってる!?俺が間違ってるってのか!?」

 

 リョースケは叫びながら、走り出す。

 もうアクアは、虫の息だ。後一発、殴るだけでアクアは少なくとも意識など保てなくなる。そうなれば、殺すなど容易いことだ。

 

「プレデタァァァァァァァァァァァァ、俺の姿を消せぇぇぇぇぇ」

 

 一歩足を踏み出す間もなく、リョースケは姿を消す。足音も声も消えた。

 その一方でアクアは推察していた。

 どうやって、自分はナイフを奪ったのか。

 アクアはリョースケに触れていなかった。それは間違いない。リョースケが渡した訳でもない。リョースケも戸惑っていた。

 つまりリョースケの手からナイフがひとりでにアクアの元へとやってきたということ。

 判断材料などあってないようなものだ。だが、アクアは感覚だけで答えを引き出して見せた。

 アクアがナイフを手放し、少し遠くに置く。するとナイフがアクアの方へ移動してくる。

 確信する。

 

「つまり、俺の能力は!!スタンド能力は!!」

 

 アクアは顔をあげて、勇ましく笑う。

 

「『引力』だ!!!」

 

 リョースケが姿を消してから、一瞬の出来事。

 アクアはリョースケを自分の方に引き込んだ。アクアは殴られている時、無意識にスタンドを発現していたのだ。そして無意識の内に能力の発動条件を満たしていた。

 アクアの目の前には、スタンドが立っている。そしてスタンドに何かが当たる感覚。

 

「そこぉ!!!!」

 

 虚空に向かって、アクアのスタンドが拳を振るう。

 バキャっといういう音とともにリョースケが吹き飛びながら姿を現した。

 

「何だ、急に!!体が勝手に前に!?」

 

 リョースケは自身の体に星型のマークが印字されていることに気づいていない。

 アクアはリョースケを見て、わざとらしく笑う。

 

「もういっぱぁぁぁぁぁぁぁっつ」

 

 スタンドが左手を前に出し、広げると、リョースケの体がふわっと浮いてその手に引き込まれていく。

 

「お前は遊びすぎた!!俺にスタンドを発現させるだけの余裕を与えてしまった」

 

 引き込まれたリョースケに向かって、スタンドが拳を振るう。

 

「さっきは散々蹴ってくれたな。これはお返しだ!」

 

 吹っ飛んだ、リョースケが再び引き込まれる。

 リョースケの顔が恐怖で歪む。しかし次の瞬間には恐怖を呑みこむ強い恨みがその顔に表れていた。

 

 ここで冷静に一撃を見舞う事だけに集中していれば結末は変わっていた。

 スタンドの基礎性能で押し潰されたら、アクアに勝ち目は無かった。

 

「許せるか、許せるかぁぁそんなこと!!俺は間違ってないんだ。迎え撃つ!迎え撃つ!迎え撃つゥゥゥゥゥ」

 

 

 引き込まれながら、リョースケは前傾の体勢に入る。その瞬間、リョースケの眼前にはナイフが迫っていた。

 

(避けッ、間に合わない。拳で叩き落とすしかない!)

 

 跳んできたナイフを拳で落とす。しかしそれは同時にガードが下がったことも意味する。

 

「オラァァァァァァ」

 

 ナイフを落としたと同時にアクアの拳が叩き込まれる。

 

「ぬおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ」

 

 リョースケが唸り声を上げながら姿を消す。

 

「また、消えた!!だがもう分かった!!引き込む『感覚』!俺とお前の間に生まれた『引力』がッ!」

 

 リョースケの体をスタンドがさらに強く引き込む。

 

「があああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

 

 見えないが、引力の起点となっている開いた左手でリョースケの腕を掴む。

 

「掴んだ!!もう姿が見えなくても関係ない」

 

 アクアのスタンドが右拳を握りしめる。

 

「オラァ!!」

 

 ドゴッという、感触。見えなくても確かに分かる。拳が確かに相手に当たった。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」 

 

 何度も何度も右手を振るう。

 パワーにそこまでの差はない。しかしリョースケは体勢を保つことすらままならずアクアのスタンドに殴られる。

 アクアの攻撃は外れない。リョースケの方から拳に吸い込まれてくる。

 アクアとリョースケにつけられた星の印字がそれを可能にしている。

 

「な、なんだとぉ!体が拳に吸い込まれる!」

 

 アイの仇、アイを殺した犯人。アイの行いを間違いなんかにさせない。

 拳のすべてに意思が宿っていた。

 

「アイを殺した『汚点』。間違っているのは俺とお前だ。アイじゃない」

 

 リョースケが姿を現し、ドサリと崩れ落ちる。顔がはれ上がり、いたるところに傷があるがまだ死んではいない。

 

「死んじゃあいないはずだ。あんたには聞きたいことがある」

 

 十分警戒しながらも、体を引き摺ってリョースケの前に立つ。

 

「どうやって・・・俺たちの家を知った。医者を殺した件もだ。単なる大学生にそんな情報網はないはずだ。誰かが教えたはずなんだ。誰かが・・・」

 

 アクアのスタンドがリョースケの胸倉を掴み揺する。

 

「答えろよォ。どうやって俺たちの事を突き止めやがった」

 

 冷徹に、されど激情をもって、アクアは問い詰める。

 絶対に吐かせる、そんな鉄の意思を持っていたアクアだったが、リョースケの答えはそんなアクアの意思を無視するようなものだった。

 

「どうやって・・・誰に・・・?それを聞かれたら俺は死ななくっちゃあならないんだった」

 

 すっとぼける様な雰囲気ではない。ただ、当然のように、今思い出したかのように、リョースケは告げた。

 

「は」

 

 突如、リョースケが立ち上がる。そして体の軋みをものともせず、動きだした。

 立ち上がれないほどのダメージだと思っていたアクアは驚き、一瞬硬直する。

 そのままリョースケはアクアからナイフを奪い取った。

 

(しまった!!こいつ、まだ動けたのか!?)

 

「おい、俺のスタンド!こいつを・・・」

「死ななくちゃならないんだ、それを聞かれたら。なんでだっけ?でも、まあいいか。とにかく死ななくちゃならないんだ」

 

 リョースケは淡々と、ナイフを自分の喉に突き刺した。当然、血があふれ出し、リョースケは苦しそうにもがく。

 

「お前、一体何をしてるんだァァァァァ」

 

 リョースケの奇行にアクアは思わず、叫ぶ。

 アイの仇、殺そうとすら思っていた。実際、情報を聞き出したら殺していたかもしれない。ただ、いざ実際に目の前で自殺を始めた所を見ると動揺せずにはいられなかった。

 駆け寄ろうとして、足がもつれる。

 勢いよく体を地面に打ち付け、脳が揺さぶられる。

 もうすでに限界は近かったのだ。些細な衝撃で意識は簡単に持っていかれる。

 

(まだ、俺はこいつから・・・情報を・・・)

 

 そんな意思も、意識を保つには足りなかった。目の前がゆっくりと暗くなっていき、体の感覚もなくなっていくのを感じる。

 

(クソッ・・・意識が・・・)

 

 最後には抵抗も出来ず、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目を覚めた時には病院だった。

 路地裏でアイ殺害の犯人とともに酷い怪我でいたことから、犯人に暴行されたのだと推測されていた。

 リョースケが死んだ件については自殺ということで、片が付いていた。見つかった時に、自分の首にナイフを刺した状態で死んでいたことが理由である。リョースケの体がボロボロなことは迷宮入りしそうだ。アクアが幼児であったことから、アクアが怪我を負わせたとは疑われることは無かった。

 アクアがリョースケと共にいたことについては、アイを殺した犯人を見つけにいった、と白状した。

 ミヤコにひどく怒られ、最後には抱きしめられ、この人は本当に自分たちの母親になろうとしてくれるんだと嬉しく思った。

 ルビーからは何無理してんのと、ぶっきらぼうに言われるだけだった。ただ、目じりが赤いことからルビーなりに心配してくれていたことが分かる。

 

 

 誰もいない病室で、アクアはスタンドを出した。

 あの時と同じように、むしろあの時より鮮明にスタンドを使うことが出来る。

 

「スタンド、あいつはプレデターとか言ってたっけな」

 

 最後のリョースケが自殺した真相は分からない。ただ、アクアは今回の件後ろに黒幕が潜んでいると確信していた。

 

「リョースケに情報を提供し、さらに操った犯人がいる」

 

 アクアの復讐は終わっていない。アクアの仇はまだ生きている。

 

「許せるかよ……」

 

(アイが俺を産んだことを『間違い』でないというのなら、俺が生きていることには何か意味があるはずだ)

 

 アイの仇をとる。それこそがアクアが生きる意味。

 

「待っててくれ、アイ」

 

 傍らのスタンドに視線を向ける。顔は宇宙服のようなもので包まれ、黒くなっているがその真ん中には星が描かれている。

 

「これは俺と一番星を繋ぐ架け橋だ。俺もこれに名前を付ける。『インターステラー』、こいつを使って俺は必ず復讐を果たす」

 

 




[STAND MASTER]
星野愛久愛海

[STAND NAME]
『インターステラー』
破壊力
A/
スピード
B/
射程距離
C/
持続力
B/
精密動作性
B/
成長性
A
 星型のマークを印字した物同士に引力を発生させる。

[STAND MASTER]
貝原亮介

[STAND NAME]
『プレデター』
破壊力
A/
スピード
A/
射程距離
E/
持続力
D/
精密動作性
B/
成長性
A
 自身及び、触れたものを透明にする。
 実は、赤外線で探知も可能。


 アクアが勝てたのは偶然とリョースケの油断が大きいです。
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