アクアの奇妙な冒険   作:モリブデン42

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地下アイドルを探ろう!

 例の事件から数年を経て、アクアとルビーは中学三年生になっていた。

 アクアは真犯人であろう父親を捜すために、芸能界に入り込もうとしていた。

 そのために五反田監督の元へ弟子入りを志願した。そこで、アクアの意外な才能が発覚した。

 

「お前の演技には何か言葉には出来ないような凄味がある」

「は?」

 

 アクアは五反田監督を訝しむように顔を顰めた。

 

「凄味?」

「ああ、これは個性だ。お前のなんの変哲もない演技が、まるで場を支配するかのような迫力を生み出す。それを極めればお前は役者として十分やっていけるぜ、まあ役はちょっと個性的になるかもだがな」

 

 その監督の助言を聞いて、アクアは自分を目立たせる演技を学んだ。オーラの強さも相まって、強烈な印象を残すアクアの演技は成長し続けると彼自身思っていた。

 小手先の技術ばかりが上手くなる中、壁に直面した。

 感情演技が出来ない。

 感情を出そうとすると、アイが死んだときのトラウマがフラッシュバックする。

 吐き気、眩暈、酷い時には気絶した。

 一通り舞台を経験して、彼は見切りをつけた。

 

 自分に演技の才能はない、と。

 

 芸能界へ入り込むためにより確実な方向性、つまり裏方としての技術を学ぶため五反田監督へ師事するようになった。

 

 苦しみながら、それでもアクアは一歩ずつ進んでいく。

 一方でルビーはアイドルになるのだと意気込んでいた。

 しかしそれはアクアにとって喜ばしいことではない。

 アクアはルビーがアイドルにならないように手を回した。アイドルオーディションは全て勝手に辞退の連絡をし、不合格通知はアクアが手ずから行った。そのたび涙を流すルビーを見るのは心苦しかったが、それでアイのときのようなことを避けられるというのなら安いものだった。

 しかしやはり遺伝か、因果か、ルビーはアイドルになる宿命だというのか。

 

「じゃーん、アイドルにスカウトされちゃったー」

 

 そう言ってルビーは名刺を見せびらかす。

 アクアは密かに頭を抱えた。

 たたでさえアイドル業界は狭き道だ、それが大手でないアイドル事務所となるとさらに困難な道のりとなるだろう。金銭管理の杜撰さとメンバーとのトラブルで堕ちていくに違いない。それだけならまだいい。最悪、もっとひどい仕事を負わされることになる。

 そもそもその事務所が信頼できるところであるのか、懸念事項は多い。

 

「調べなければ……」

「落ち着きなさい、アクア」

 

 動こうとするのをミヤコに止められる程度には冷静さを欠いていた。

 下唇を噛みながら、ミヤコの顔を伺う。

 

「そんな顔してもだめよ」

「分かってるよ、件のアイドル事務所を調べるだけだ。ちゃんと変装もする。ばれはしないさ」

 

 頑なであるアクアの態度にミヤコが諦めたようにため息をついた。

 アクアは聞こえたうえで聞き流す。

 髪を弄って、眼鏡をかけて、スーツを着れば、あっという間にスカウトマンの出来上がりだ。

 

「これならばれないだろ」

「どうかしらねぇ」

 

 ミヤコは気乗りしない様子で訝しむ。

 しかしアクアも控える気はない。

 結局押される形で、アクアの作戦は実行されるのであった。

 

 

 

 

 

「こんにちは、苺プロダクションのスカウトやってるんだけど……」

 

 対象のアイドルグループのメンバーその中でも口が軽そうな人間を選んだ。

 ぱっとステージを見たが完成度はそこまで高くない。

 観察の末、すでにアクアの中にはここにルビーを任せるという選択肢はほとんどなくなっていた。

 

「ええ!?本当ですか?私なんかが!?」

 

 声をかけられた少女は喜色の表情を浮かべ、アクアの話に食いついた。

 

「うんうん、それでまず、事務所の方で話を聞いてみたいんだけど……」

 

 ちょろいな、とアクアは心の中で毒づく。今のグループに欠片の未練もない。上昇志向といえばそれまでだが、悩む素振りもないところから本当に執着が無いことを窺える。

 

「嘘よ」

 

 アクアの体がびくりと震える。

 見透かされたかと思った。しかし、その言葉を放ったのは目の前の少女ではない。

 全く関係のない第三者、通りすがり、あるいはずっと聞いていたのか。

 ともかく関係のない人物によってアクアの策謀は崩された。

 

「嘘、とは人聞きが悪いですね。いきなりやってきて」

 

 丁寧な態度は崩さず、その件の人物を見る。

 

「私には分かる、あんたは『嘘』をついている。しかも私の嫌いな人を利用して何かをしようっていう薄汚いタイプのね」

 

 薄汚い、シンプルな罵倒にアクアは眉を顰める。

 

「本当に不躾ですね、あなたに何の関係があって口出ししてくるのですか」

 

 会話に入ってきたのは女性だった。アクアよりも年上だろうか、容姿は整っている。眼鏡をかけ、帽子をしているが、その毅然と態度は所謂アイドルのような視線に慣れた手合いのものだ。

 

「確かに関係は無いね、でもまだ光を見ているアイドルが騙されているのを私は見過ごせない。上手く演技しているようだけどあなた、わたしよりも年下でしょ、推定高校生をスカウトマンに雇うアイドル事務所なんてぜひ聞いてみたいけれど」

 

 偶然か狙ってか、その指摘はアクアにとって致命的なポイントであった。

 スカウトマンでないことなど、ちゃんと調べればすぐにばれる。苺プロの正式なスカウトということにするのが手っ取り早いが、そうもいかない。苺プロはアイドル部門の募集などしていないからだ。

 身分証明を求められるとアクアの仮面はすぐにばれる。そもそも少し頭の回る相手には通用しない計画であったのだ。

 

「すいませんね、動画のちょっとしたドッキリ企画でした。忘れてください」

 

 少し無理な言い訳だった。それでも今はここを立ち去ることを優先した。

 

 

 

 

 そもそもルビーを任せられないという理由が見つかれば、わざわざ探る必要もない。

 評判くらいなら外部から情報を集められるだろう。

 それよりも、あの随分と目が利く女の方が気になった。

 

「気にはなるが……」

 

 優先順位はルビーの方が高い。今から、ルビーの説得の方を考えなければならない。出来れば事務所の悪評などを集めたかったが、どちらにせよ情報源が話せなければ納得はしないだろう。

 ベンチでネット上に何か情報がないか探るが、あまり精度の高い情報は集まらない。

 

「やっ、さっきは悪かったね」

 

 歯がゆい思いをしていたアクアに話しかけたのは先ほどの女だった。

 アクアは女を忌々しいものを見る様な目つきで見つめ返す。

 

「睨まないでよ、そもそも騙そうとした君が悪いんだよ」

「おかげで、こっちは遠回りするはめになったがな」

 

 アクアにとっては自分の邪魔をする相手だ。年上だというのに敬語も使わずに軽口をたたく。

 

「できればなんで君がこんなことをしているのか聞かせてもらいたいな」

 

 そう言いながら、断りもなくアクアの隣に座る。

 

「自己紹介がまだだったね、私は鈴城まな。一応アイドルなんだ」

 

 眼鏡と帽子を外し、ふふんと鼻息をならす。

 

「生憎ですが知りませんね」

「そっか、大手なんだけどな」

 

 あるいは大手だからこそ、印象に残らないのかもしれない。アクアの脳裏にそんな言葉がよぎったが言うのは憚られた。

 少し気を落としたかと思えたが、ヨヨヨとウソ泣きしている所をみればそんなこともなかったと思いなおす。

 

「それで、どうしてあんなことをしたのかな?」

 

 態度が急変し、今度は尋問するかのように問い詰めてくる。

 

「あんたに関係ないでしょう」

 

 アクアは辟易している態度も隠そうともせず、その問いを突っぱねた。

 しばし睨み合いが続いたが、諦めたように鈴城がため息をつく。

 

「まあ、確かに関係ないね。ただ私の中で君はいま推定アイドルをたぶらかすクソ野郎だから、何か誤解があるなら悪いかと思ったんだけど」

「別にあんたにどう思われようが知ったこっちゃない。俺は俺の目的のためにやるべきことをやるだけだ」

 

 相手に慮られるような態度をとられようと、アクアは対応を曲げない。

 

「そもそもなんであんたが介入しようとしてくるんだよ」

 

 そう聞くと鈴城は表情を真剣なものに変えた。少し憂いも帯びているようで、アクアは少したじろぐ。

 

「私もここまでアイドルやってきて、そう輝かしいものばっかりって訳じゃなかった。テレビとか露出が増えるほど、なぜか私の存在感が希薄になっていくのを感じる。そしたらもう、私ってこの程度ものなんだって何だか冷めちゃって。私はもう昔ほどの向上心もない。今いてくれるファンに感謝しながらも、多分これ以上の事はもうないんだろうなって心のどこかで思ってる。だから向上心を持ってアイドルやってる子は応援してあげたいんだ」

 

 アクアの方を向いて、その表情の真剣さはさらに増す。

 

「地下アイドルは確かに険しい道かもしれない。それでも夢を持ってやってるの。そんな子が騙されていると思うと何だか許せなくてね。確かに軽薄そうな子ではあるけど、いつも真剣にステージで踊ってる子なんだよ」

 

 そこまで言われて、アクアはよくも知らない少女を内心軽んじてたことに気づく。少し罰の悪い顔になりながらも、反論する。

 

「悪いが、俺にとって大事なのは俺の家族だ。たとえ相手を軽んじたとしてもな」

「なら、それを聞かせてよ。あなたにどんな『信念』があって、彼女を騙そうとしたのか」

 

 話す必要などない。アクアにとって鈴城まなは障害であり、情報を与えた所で不利になるだけだ。アイドルを愛する彼女と家族のためなら何でもするアクア。信念と信念が互いに違うのだ。

 しかし、鈴城の信念にあてられた。以外にもアクアの中にその信念に対する敬意のようなものが芽生えた。

 

「そんなに複雑な事情があるわけじゃない。俺の妹がアイドル志望で、さっきのやつがいたグループにスカウトされた。だから調べたかったてだけだ」

「おおー、アイドル志望。いいね、いいね。お兄ちゃんが妹のアイドルグループを厳選してるってわけだ」

 

 アイドルの話だからか、パッと表情を煌びやかにして感心する。

 勘違いだ。アクアにそんなつもりはない。だが、ここでアクアが肯定すればアイドル好きの彼女は納得するかもしれない。

 

「俺はルビーを、妹をアイドルにさせるつもりはない。今回も事務所の悪評を集めて、妹が諦めるように説得の材料を探してただけだ」

 

 適当に誤魔化すことは出来た。しかし、アクアは彼女の信念にあてられて話を始めたのだ。隠し事はしても虚偽を話すつもりはなかった。

 

「は?」

 

 それが夢を見るアイドルを愛する鈴城の怒髪天を衝くことだとしても。

 

「なにそれ?」

 

 鈴城の目にはっきりと怒りの念が籠っているのが分かる。

 整った顔の目じりが吊り上がっている。

 

「俺は妹をアイドルにするつもりはない。そのためにあいつが受けたオーディションも裏で全部辞退するように工作した。今回も同じだ、あいつがアイドルグループに加入するのをやめるよう意図的に悪評だけを伝える」

 

 鈴城がアクアの胸倉を掴む。

 

「なんで……」

「それを言うつもりはない、敢えて言うならアイドルになると不幸になるからだ」

「教えなさい」

「言わない」

 

 押し問答、ただアクアはもう言うべきことを言ったのだと口を閉ざした。

 

「あなたの妹のことは知らない……知らないけど!アイドルに夢見て!目指してる子がいて!それをあなたの勝手で絶やすなんてことあっていいと思っているの?」

 

 アクアの想像以上に鈴城は怒っていたのだろう。その瞳に映る怒りはだんだんと増していく。

 それを一瞥すると、アクアは考え込むように態勢を移す。その表情はとても神妙で、怒り心頭の鈴城を一瞬たじろがせた。

 

「あんたが良く分かってるんじゃないか?アイドルは決して華やかだけのものではない。嫉妬を買い、恨みを買い、期待を押し付けられる。愚かな群衆の声は一人の人間を執拗に責め立て、やがて潰す」

 

 アクアはまるで開き直るように、態度を大きくした。

 

「妹がそんなものになるのを防ぐのは兄として当然の務めだと思わないか?」

「でもそんなの!夢を勝手に潰すなんて!間違ってるに決まってる!」

 

 鈴城まなの夢に対するある種の信望は、視野を狭めるが倫理的に正しい。

 アクアも自分が正しいなどとは思っていない。ただ間違いは最悪の結果をもたらす。それさえ、回避できるのならたとえ正解でなくても構わないのだ。

 

「やっぱり、まだ何かあるんでしょう!?執拗に妹がアイドルになることを避ける理由が!」

「あんたに言う義理は無い。もういいだろ?俺は勝手にやるからあんたも関わってくるな」

 

 アクアが席を立ち、鈴城に背を向け歩き出す。

 本来ならこんな問答は必要なかった。それでもアクアが鈴城の問いに答えたのは彼女の言葉に思う所があったからだ。

 そしてアクアはより強く決心した。

 妹をアイドルにはさせないという、その意思を改めて持った。

 話すことはもうない。

 

「待ちなさい」

 

 アクアには、という枕詞がつくが。

 鈴城は何一つ納得していないのだ。

 

「しつこいな、もうここから先は家庭の事情だぞ」

 

 アクアは少し卑怯な物言いをした。それを言われれば誰もが介入しずらくなるからだ。

 アクアが振り向き、訝しむように見つめた後、驚きに目を見開く。

 

「私はまだ、『納得』していないわ」

 

 鈴城まなの背後から人型のビジョンが現れる。

 骸骨だ。古びた布切れを纏う朽ち果てそうな骸骨。しかしその皮すらない痩せた体躯は大きなオーラに包まれており、ひ弱さよりも不気味さを感じさせる風貌になっていた。

 

「『スタンド使い』、か」

 

 鈴城に呼応するように、アクアは『インターステラー』を出した。

 会ったのはリョースケ以来だ。十数年ぶりだというのにアクアの思考は冷静だった。

 

「なるほど、あなたも同類なわけね。でも私のすることに変わりはない」

 

 両者が見合い、じりじりと距離を詰める。スタンドの行動可能範囲、すなわちすぐに行動の届く間合い。

 そして交錯は一瞬の間に行われる。

 無言がゴングだった。

 

「『インターステラァァァァァ』!」

「はあああああああああ!」

 

 両者が叫び、スタンドが前に出る。

 スピードはアクアの方が勝る。骸骨の拳を躱し、反転するように腹部を殴りつける。

 同時に鈴城の方にも衝撃が走った。

 

「ぐっ、これは……!?」

 

 うずくまりながら、腹部をさすると星形の紋様が現れていることに気づく。

 

「『インターステラー』、『引力』を生み出す能力」

 

 鈴城の体がアクアの方へ引き寄せられる。

 

「悪いがワンサイドゲームになる。安心しろ、アイドルの顔は殴らない」

 

 悠然とアクアは拳を構え、引き寄せられる鈴城へと引き絞る。

 

「そう、優しいのね」

 

 鈴城は余裕の笑みを浮かべ、同時に身を乗り出して拳を構える。

 

「ほうらっ」

 

 反射的にアクアがガードを構えるがそれをものともせずにその上からスタンドで拳を叩きつける。

 しかし軽い、アクアの態勢を少し乱す程度でダメージはかけらも入っていない。

 そのまま掴みかかり、拳を重ねるがアクアのスタンドによって容易く跳ねのけられる。

 

「軽いなっ」

 

 アクアはリョースケ以来スタンド使いには会わなかった。

 故にスタンド使いとの戦いの経験がないのだ。

 攻撃を受けるというスタンダードな条件。それによって鈴城まなのスタンドの能力発動条件を満たしてしまう。

 

「数秒程度じゃあ対して、探れなかったわね。でもあなたは私の『攻撃』を受けた!私のスタンドに『触れて』しまったわ!」

 

 鈴城の骸骨のスタンドからオーラが膨れ上がる。

 骸骨から放たれるオーラがアクアの肌を刺し、嫌悪感に苛まれる。

 不思議なほどに相手が強く感じる。

 

「何だ、これは」

 

 違和感に気づいたとき、それが逆であったことに気づいた。

 

「オエッ」

 

 体の拒否反応。胃がひっくり返るような感覚がアクアを襲う。

 喉の奥からズキンと、波打つように濁流が押し寄せた。急な体調の変化に耐えられずそのまま吐き出す。

 

 息を切らしながら、アクアは確信する。

 

「違う、相手が強くなってるんじゃあない!俺が弱っているんだ!」

 

 どこか既視感のある感覚だった。この不調は初めての経験ではない。

 自分を苦しめた挫折の味。無力感と焦燥感が同時に押し寄せてくる。

 これは

 

「あなたは今、自分の『不調』だった瞬間を『思い出した』のよ!」

 

(そうだ、これは舞台の上で発作を起こし倒れた時の感覚だ)

 

 既視感の正体、現実離れした超常現象。

 これが、敵の能力。

 

「これが私のスタンド『リメンバー・ミー』!」




[STAND MASTER]
鈴城まな

[STAND NAME]
『リメンバー・ミー』
破壊力
C/
スピード
A/
射程距離
C/
持続力
B/
精密動作性
C/
成長性
B
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