D&D 虚空の神vs死竜王   作:ディミーアの鉄砲玉

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2話

数々の英雄譚の始まりの場所、大口亭。

マスターのダーナンの名は、ウォーターディープでは広く知られたものだ。大穴の底に広がる、終わりを知らぬ迷宮「アンダーマウンテン」。

この奥に踏み込んで生還した数少ない一人であり、

優れた力を持ち、迷宮から財宝と不老長寿の秘薬を持ち帰った男

名を知られた偉大な人物は数あれど、今も生きているレジェンドとなればそうはいない。

 

ダーナンが、片隅でくさっている「明けの明星」に声をかける。

「よう。相変わらず今にも消えそうな明星だなぁ。」

「ダーナンさん…無理もないでしょう-

なにせしばらく仕事が見つからない。」

と"卑金"が返す。

「ここの所、冒険者というよりドブさらいか人足の方が相応しい有様だからな」

ダーナンは肩を含めてバッサリ。

呼応する様に一同からは深いため息が返ってきた。

 

そんな様子をみてダーナンも苦笑い。

この陰気さでは儲け話も益々逃げていく一方である。

淀んだ空気を吹き飛ばす様に、ダーナンは表情を切り替え、パン!、と手を打ち鳴らした。

「まぁ不貞腐れず聞け。喜べよ。お前たちに仕事の話を持ってきたんだ」

 

まさにフェニックスの一声、サヴラスのお導きである。

瞬間、一同は息を吹き返す

卑金はドラゴンボーン特有の深い眼窩の底で、その細い目を見開き(ダーナンに言わせれば「何か変わったか?」)

菌糸を弄んでいたラグニルは菌糸を後ろに放り投げて机に身を乗り出した。菌糸は後方で飯を食っていた客の口に滑り込んだようだ。

客の目は虚ろになり、ブツブツとキノコを讃え始める。

ロップイヤーは垂れ耳をハサミのようなフォルムでピンと張る。クリクリとした瞳が目一杯開かれ(ダーナンは今日の日替わりメニューをウサギパイに決めた)

ウルスは祈りの手こそ止めたものの、泰然とした揺るがぬ様子を見せる。

しかしよくよく見れば、目が血走っている。元々清貧な暮らしぶりだが、イスティーシア神官といえども水だけでは暮らせぬということか。

 

さてはて様相に多少面食らったものの、そこは百戦錬磨にして、東西多様な人々を迎え見送ってきたダーナンである。

すぐに気を取り直して4人を宥めすかす

「落ち着けよ、まだ何もいっとらん」

「いいか?この仕事は、他には回しにくい内容だからこそ、お前たちに回されたもんだ。過度な期待はしてくれるなよ?」

 

しかしそんなことは百も承知。もはや収入よりも、持て余した生業(クラス)の腕を振るえればなんでも良いとまでの心持ちである。

4人は黙ってウンウンと頷く。

 

「この依頼は結論から言えば調査の仕事でな。

最近、西ハートランズの南方の、妙なポータルが噂になってるんだ。

なんでも黄金でできた理想郷に通じる道だなんて現地周辺では言われてるらしい」

「ポータルの先をオイラ達に調べてこいってえこと?」

口を挟むのはロップイヤー。

「焦るなよ。その通りなんだが、

実はすでに2度人を送ってんだ。

いや…送ったというかなんというか」

口ごもるダーナン。どう説明すべきか悩んだ様子だ。

「帰ってこなかったのデスか?」と心の底から心配そうに言うラグニル。

「それも事実なんだが…奇妙なんだ。」

ダーナンはいったん言葉を切る。

「送った記録はある。確かに書面で残っている。メンバーのリストもあった。

だが俺の中に全く記憶がない。こんなことは今までなかったんだ」

4人は顔を見合わせる。確かにそれは妙な事だ。

 

──────────────

大口亭に多くの冒険者達が集うには幾つかの理由がある。その最たる要因がダーナンという仲介者の信頼性の高さであろう。

通常、冒険者や傭兵への依頼とは、依頼者と請け負う人間の間の二者関係。

しかしそれでは、相手が支払いを拒否した場合、力づくでの解決以外道がない。

やむを得ない話であろうと、外から見た真偽がわからない以上、冒険者の自力救済が結果的に悪とされたケースは枚挙にいとまがなかった。

しかしダーナンという硬い地盤を築いた人間が仲介に入る事で、契約内容は記録され、保証される。

仕事を果たした時の報酬が約束されるなら、仲介料など安いと考える冒険者は多い。

まして、「明けの明星」のような見た目も中身も胡散臭い集団は、何かといちゃもんをつけた支払い渋りが常である。

ウォーターディープが拠点なのは、この大口亭を頼みにしている空に他ならなかった。

 

─────

そのダーナンが、依頼の事をすっかり忘れたなどというのは、

ベハル信者が命の尊さを説き始めるくらいありえないこと。

 

ダーナンは続ける。

「ポータルの向こう側にいった連中の記憶が、まるっきり消えちまってるとしか思えない。

記憶を弄る呪文は幾つもあるが、直接かけられてもないのにすっぽり抜けちまうなんて尋常じゃないだろ?」

「こんな経緯(いきさつ)なんで、今じゃ誰も受けやしない。後声をかけてないのはお前さん達くらいのもんさ」

 

向こう側の知らないポータル。それも、関連したものの記憶を悉く消してしまう謎の現象つき。

想像を絶する内容に4人はしばし、黙り込んで目配せする。

普段はバラバラな面子だが、ヤバい時は阿吽の呼吸なのがこの4人。

「………ダーナンさん、そのポータルは本当に調べる必要があるのですか?

聞いている限り、あまりに危険な代物ですが…」

生唾を飲んだ後、ウルスがゆっくりと問う。

他の3人も同じ心持ちである。

 

「俺も悩んだ。だが、すでに送った2パーティの連中の、顔すら思い出せないままってのは心残りでな…。

何より記録によれば、元々ポータルを調べ始めたのはオグマとデニーアを祀る寺院から直接依頼があったからなんだよ」

「二神とも、魔術師たちの信奉する、知識や記録に関わる神ですね。何故…?」

「連中がいうには、二神から啓示があったそうだ。万象を記録する神々が、何故か記録を失ってしまった国があると。

その地を調べ、再び歴史の流れの中に戻せ、とな」

 

時の流れから切り離された地。忘れられた国。四人は身震いする。

「神様から啓示があったというなら、それこそ神殿の騎士団が動く様な話でしょうに、何故冒険者にお鉢が来るんです」

声を震わせて"卑金"が訪ねる。

 

「悪いがそこは、リスクの問題だ。危険だと分かりきっている以上、全く情報のないところに貴重な精鋭を送りこめんという話だよ。

だから、お前達に頼む仕事は根本的な解決じゃない。」

「どんな事でもいい、ポータルの先に行って、情報を持ち帰れ。何故先に行った連中が帰れなかったのか。そもそも人間が生存できる環境なのか、根っこの段階からな」

 

「我々は炭鉱のカナリアというわけですか」

眉を顰める"卑金"。

 

しかしダーナンは動じずに、はっきり言う。

「そうだ。お前たちには死ぬつもりで行ってもらう。その分前金は弾む。生きて帰れば何倍も受け取れる。

金では買えん様な魔法の品々も、寺院から贈られるだろう。啓示を全うするってのはそんだけの大役さ」

「お前達を選んだのは、この仕事を受ける程度に困窮していたからだけじゃない。

お前達4人なら、予想外の環境で生き残れる目があるからだ。」

「仮にお前らの隣に別のパーティがいて、そいつらがアダルトドラゴンを何体屠っていようが、俺はお前達に頼んだね」

 

生命力が強く、熱に耐えるゴールド・ドラゴンボーン。

菌糸王と契約し、腐敗した環境に馴染むラグニル。

フェイであり、そもそもが異界出身のロップ。

イスティーシアの加護により、その気になれば水中で長時間活動可能なウルス。

なるほど、確かに、過酷な環境でも一人は生きて帰れるかもしれない。

行った先が土の精霊界で、生き埋めにならなければの話だが……

 

4人はダーナンの言葉を反芻する内に、(自分達ほどカナリア適性のある集団もいないか…?)と悲しい自認が生まれつつあった。

ウルスは周囲を見る。ヒューマン。ヒューマン。ハイエルフ。ハーフリングにドワーフ。またヒューマン。

ティアのクレリックに沼のドルイド、森生まれのレンジャー、自信に満ちたパラディン…

想像を絶する修羅場を切り抜けてきた、様々な勇者の集う場所だが

彼らの何割が海の底で生き延びられるだろうか?

 

ラグニルは思う。サイロフィルの菌糸に包まれたこの体にとっては、

アンダーダークの過酷な世界ですら居心地のいいゆりかごかもしれない。

今まで出会ったどんな冒険者でも、同じ感慨を抱くものはいなかった。

ポータルの先が新たな世界なら、サイロフィルの胞子をばら撒いて彼の世界に作り替えても文句を言われないのでは?

ラグニルの脳内は「キノコ都市」の妄想でいっぱいになった。

 

"卑金"はもう少しシビアに見ていた。過去、様々な戦場を渡り歩いた傭兵の彼は、引き際の見極め一本で食ってきたものだ。

当然今回も「関わるな」という直感がけたたましく叫んでいる。まるでコカトリスの楽団の様に。

だが、一方で天秤にかけなければならないことがあった。「いつまでこんなことを続けるのか?」

彼の知る英傑の多くは、その引き際を無視して踏み込んだ人々だ。このまま戦士としての寿命が終わり、金も貯められずに浮浪者に堕ちれば、待つのは飢えか、冬の寒さによる死。惰性で生きることを辞めない限り、緩やかに破滅が迫る。

 

ロップは内心軽く考えていた。なにせこのウサギ、物珍しい話を聞きたい一点で故郷を飛び出した数奇者である。フェイの宮廷における楽団奏者の立場を投げ捨ててまで好奇心を奪ったのだから、先がわからない不穏なポータルなどあったなら、まず飛び込んで歌にするのがロップの主義だった。

 

各々が心中で公算を巡らせる中、ダーナンはほぼ己の勝利を確信していた。

そもそもこの依頼、先に送ったうち後者のパーティは記録上、「明けの明星」より格上だった。その手練すら、帰ることができない。悩んでいる時点で間違っている。

彼ら自身のいうとおり、この依頼は冒険者にお鉢が来る時点で筋違いなのである。ダーナンの内心は「寺院で勝手にやっていろ」、だ。

しかし、神の啓示と言われると無碍にできないのがフェイルーン大陸の信仰心。

寺院が諦めて自身で動くまで定期的に冒険者を送るのが、ダーナンの目論見である。

死地と分かって送る以上、3弾目の集団は失っていたくない鼻つまみ者を送る。

この本音をおくびにも出さぬところにダーナンの老練ぶりが窺える。

 

しかし、ダーナンの心中にあるのはそのような冷徹さばかりでない。

この四人、実力はあるが気性やバックボーン、経歴が災いし、中々日の目を見ない集団である。そろそろ名が売れても良いのだが…

ここらで難行の一つも投げかけて、英雄への足がかりを作ってやろう、というのがダーナンなりの親心。

この四人ならば、というのも本心であった。

生きて帰らねばそれはその時…人生を賭けた旅路の途上で果てるのも、また、冒険者の常なのだから

 

 

かくして、「明けの明星」の4人は

悩んだ末にダーナンの予想通り、依頼を承諾し

破格の前金で用意を整えたのち

西ハートランズに飛び出したのであった……

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