「改めて…儂がこの集落の長、"白き尾"のヤヌムだ。ダーナン殿との契約の当事者も儂となる」
丁寧な挨拶に対し、一同は礼で応じる。
「最初はどうなることかと…族長が理性的なお方で安心しました。」
「イヤァ、さっきのは参ったね!オイラとうとうハムにされちゃうかと思ったよ!」
"卑金"の後ろからぴょこん!とロップが顔を出す。
「まぁ、周囲のお方々はそれほど戦意は無かった様子ですし…
どちらかと言えば、私はアズヘニスが先に手を出す方を懸念していました」
済ました顔でウルス。
それを聞き横にいたラグニルはギョッとした顔で見る。
この女、先の騒動では青筋を浮かべ、聖印をミシミシいわせていたはずだが…
「ま、まぁ、このまま予定通り話が進むならそれで良いではありませんか。
礼を逸した行為ではありましたが、人は皆いつかは菌糸の一部となるのですから、多少のことは気にしませんよ」
そう穏やかに微笑み、族長を安心させるようゆっくりと頷くラグニル。
ヤヌムは怪訝そうに"卑金"をみた。
「気にしないでくれ。彼は少し様子がおかしいんだ」
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「忘れる所だった。まずは族長殿、お受け取りいただきたい」
"卑金"はそう述べると、背嚢から革張りの箱を取り出した。
装飾は少ないが、品の良い作りになっており、手入れも行き届いてある。うわ面には大きく大口亭を示す印が押されていた。
さらに、魔法学に詳しい者なら気付いたことだろう。その箱には高度なアーケインロックがかけられており、合言葉を知るものでなくてはあけられない仕組みになっていた。
族長は箱を受け取ると、ブツブツと合言葉を小声で呟く。
カチャリ…と小さな音が鳴り、魔法の錠が解かれた。
箱を開けると中は宝石がぎっしりと詰められている。
族長は丁寧に勘定し、大きく頷いた。
「確かに。契約通りの数だ。質は儂の目利きでは大してわからんが、ダーナン殿はその辺り誤魔化さぬ御人と見ている。」
「では、約束通り…?」
「うむ。ポータルの在り方について詳しく教えよう。」
「待ってくれ族長」
その時、天蓋の外から声が割って入る。
遅れて幕がずらされ、ランドルフがずいっ、と体を潜らせて来た。
「本当にそいつらを行かせるつもりか?」
「何が気に入らぬ」
淡々と返す族長。しかしその言葉に込められた重みは、
王の決定に意を唱えた者を睨みつけるそれであった
ぐ、と息が詰まるランドルフ。しかし、
「既に二度帰らなかった。三度目もどうせ犬死だろ?」と気丈に言い返す。
「だとて、我らには預かり知らぬ…「俺が見定めてやろうという」
割り込むように啖呵を切る。
族長は片眉をクイ、と上げるも、面白がるように先を促す。
「俺たちマラーの使徒は弱肉強食を尊重する。狩られる側の奴には価値がない。
逆にいえば、力があるやつは狩人だ。俺たちは一度狩人と認めた相手には敬意を払う」
卑金はまず族長を見る。しかし、無言で頷くのでランドルフに先を促した。
気分を良くしたランドルフは、さらに口が回っていく。
「要するにだ。すでに2パーティが呑まれて消えた、得体のしれん都市に行こうというのだろう?
少なくとも死地に挑む力量を示さねば門番としては通せんというハラだ」
ニヤニヤと卑金の顔を見て言う。
「だ、そうだが?」面倒そうな顔と顔色を隠さずに卑金は族長に振る。
後ろの仲間達も同調するかの如く「あいつ頭イッちゃってんぜ」のジェスチャー。ロップはもちろん、ウルスやラグニルもこういう手合いに対して一度『話が通じない』と見るや、ガラの悪い所がある。
世にいう、冒険者とならず者は紙一重という奴だ。
「これは、困った事に、なったのう」
愉しむ色を全く隠さず、族長はゆるゆると述べた。
「して、ランドルフ。具体的にはどのようにする?」
「別に大事にしようというんじゃない。シンプルに行こう族長。俺と、このトカゲ野郎の一騎打ち。負けたらコイツらはアンダードッグ(負け犬野郎)として帰り、もっとマシな奴が来る。
それとも代わりに俺が行ってやろうか?噂の黄金都市とやらに」
侮る表情を隠しもせず、言い放つ。
「すまんのう、客人(・・)殿。群れの子犬はこのように吠えておる。」
「して、儂にどうして欲しい?」
この問いには、返答を以てお前達を見定めるという色がありありと含ませてある。すなわち、この若造の言うことも一理あると。
本当に死地に挑む覚悟と力量ありや?ならば、小僧の思惑にのるも良し。あるいは、上手くあしらって黙らせるも良し。いずれにせよ、ことを収めてみせよ。
そのメッセージがわからずして、パーティのリーダーは務まらぬ。
卑金は正しく意図を理解した、
理解した上で、舐めた(・・・)扱いに青筋を浮かべた。
背後からウルスの声がかかる。「どうなろうと私たちは結果に文句はつけませんよ。」
ラグニルも続く。「ここまでよく辛抱したと思いますし」
最後にロップが「どう転んでもいい吟(うた)になりそうだし!」と明るく締め括った。
卑金は怒りを隠そうともせず、ゆっくりと、言葉を噛み締めるように返す。
「然るべき、支払いはした。礼節も、尽くした。
その上でまだ、示せというなら、いいだろう」
そして額をぶつけんばかりに寄せ、琥珀色の縦に割れた瞳孔でランドルフを睨みつけ…
「てめえこの野郎、二度と舐めた口きけねえように、切り刻んでウーズと見分けがつかねえ姿に変えてやるからな[
とドスのきいた声で啖呵を切った。
仲間達は背後でやんややんやの拍手喝采である。ロップ至ってはどこからか取り出したブズーキをかき鳴らしていた。
族長は人事の様にヒゲを撫でて笑っている。
こうして、マラーの狩人ランドルフと、傭兵"卑金"ラズヘニスの決闘がひらかれる事となった。