決闘開始の合図と同時に、ランドルフは放たれた鏃のように飛び出した。
右の斧を上段から振り下ろし、左の斧は自身の守りと、追撃のために弛緩させて胸元に残す。
二刀使いの定石である。
他方、ラズヘニスは勢いよく飛び出すと見せかけて、途中で減速した。残った慣性を剣に乗せる。
先に剣が届くロングソードのリーチを活かし、勢いよくランドルフの足を払いにかかる!
「小賢しい!!」
しかしランドルフは獣の反射神経で地を蹴り、飛び上がってかわす。その後の落下の勢いのまま、斧を叩きつけようとする
しかしラズヘニスもその回避まで勘定に入れた、次の動きを作っていた。かわされた剣を勢い殺さずにぐるりと身体ごと一回転し、円を描く様に斜めに振り上げた剣を振り下ろしに移す
自重と慣性が衝突し、派手な金属音が鳴り響く。
ランドルフの方が勢いにまさる様だったが、他に足のつかない彼をラズヘニスが振り下ろしで迎撃した結果
運動エネルギーはラズヘニス正面の方向に向かって流され、ランドルフは一刀両断をし損じた
ランドルフはその流れに押されてふわりと浮き上がってから、後方に着地…
すかさずラズヘニスは大きく右足で一歩を踏み締める。地面からの反発力をもって、振り下ろしたロングソードの刃先を引っ張り上げ
残した左足で蹴りながら突いて着地を狙う。
ランドルフもさる者、重心操作により下に突き出す形となった斧をロングソードにぶつけるのではなく、添えて当てる様にして、ラズヘニスの力を利用する。
突き出しきった姿勢で追撃できないラズヘニスを尻目に、ランドルフはゆるりと着地を成功させる。
攻防を経て、再び沈黙が走る。
すでに観客も、両者も、二人の実力が拮抗していることに気がつき、この面白い見ものに見入っている。
ランドルフもまた、内心を躍らせていた。
この森には若い狩人は少ない。その中では己が頭ひとつ飛び抜けている
老いた戦士は老練だが、膂力を失い、族長を除けば自分についてこられる体力は無くなってしまった。
対等な戦士と、互いの全力をぶつける機会に、この若いウェアウルフは飢えていたのだ。
だがアズヘニスはというと、淡々と"詰め"を考えていた。
ランドルフとアズヘニスの決定な違いは、膂力でも速度でもリーチでもない……それは経験値。
格上と闘い、多勢と闘い、ロップやラグニルの様な前に立てない術師をカバーしながら闘ってきた。
最初の一合、二合など所詮、目の前の男の限界を図る物でしかない。
アズヘニスの、"卑金"の真骨頂は、この先……
情報を統合して行われる「適応」にあった。
一拍の静寂を経て、再び両者が間合いを図り始める。ランドルフはフェイントを織り交ぜながら、リーチが長い分取り回しで劣るロングソードの隙を探る。
ラズヘニスはそれを分かっているので、右へ左へ立ち位置を変えるランドルフに、常に剣先が向く様にし続ける。
これは、ランドルフが仕掛けるペテンを、ラズヘニスが看破する闘い。
観客はすでにその図式を理解していた。
だがついに状況が動く。
ランドルフが後ろに重心を寄せて立ち位置を引き、ラズヘニスがそれを追う瞬間、即座に再びランドルフは前に出た。
そのまま二つの斧頭でロングソードを絡める様に抑え
ギャリギャリと音を立てながら詰め寄った!
二本の斧は少し角度をつければ複数の接点で刀身と摩擦を起こし、引き抜くことを阻止できる。内側に入ることに成功したランドルフは勝ちを確信した。
だが…
ラズヘニスは、刀身を引くのではなく、ランドルフの抑えた先端付近の接点を軸にして、下から柄を持ち上げる様にして
ランドルフに刀身を押し付けた
テコの原理で言えば、支点がランドルフの斧頭、作用点がランドルフの回転を抑えつけようとする腕力である。
柄の先端を持った、力点にあたるラズヘニスの力には、全く敵うはずがない。
斬られはしないまでも、グイッとロングソードの刀身を押し付けられる。
このときランドルフは、致命的に判断を誤った。
無手を恐れて片方の斧を離さなかった。結果、回転する斧の柄は彼の体勢を崩し、狙っていたラズヘニスはすかさず重心のズレた足を払い、身体ごとランドルフを押し倒す!
砂埃が収まった後、観客の目に入ったのは
鎧の装甲面で斧刃を防ぎながら…
ロングソードの鍔元を、ランドルフの首に押し当てるラズヘニスだった。
刃引きなしの闘いなら、お前はこれで死んでいた。
ランドルフはその意図を悟り、素直に負けを認めた───
ランドルフはどこまで行っても敵を追う狩人(ハンター)であり、
他方ラズヘニスは敵を倒すためにあらゆる戦術・技術を取り入れる戦上手(バトルマスター)。
決闘場では、後者に軍配が上がった。