「そこまでェ!」 空気の壁をまっすぐに突き抜けるような、力強い制止…族長ヤヌルが、勝負ありを宣言する。
「このヤヌルの名において、決闘の結末をマラーにお捧げする!勝者、アズヘニス=プカーパ也!」
部族たちに言い含めるかのように、ぐるりと決闘場周囲を見渡しながらヤヌルは告げた
それを合図に、観客たちはどっ、と歓声を上げる。
若い戦士たちは、両者が瞬間瞬間に見せた、機敏な反応の応酬について口々に言葉を交わした。
老いた戦士たちは、それらの陰に込められた、アズヘニスの術理に関心を見せる。
「やはり、外の戦士は読み合いの経験に富んでおる」
「まだ30といったところか…老獪な戦い方をするものよ」
「ッシャアみたか!ビチグソが!二度と舐めた口きくんじゃねーぞ!!」
ウルスはガッ、と拳を突き上げながら叫んだ。
「行儀が悪いデスよウルス…」
「若き二人の戦士、神前で相対す…互いの熱が人々を沸き立て…炎のような熱狂の中で…」
ロップはブツブツ言いながら書き留める
「今宵の決闘は、どちらかの死を伴わぬものであった!本来であれば、マラーはお怒りになったやも知れん。
だが、この二人がささげた誇りある戦いを以て、その怒りをすすげたものと信じる!」
「両者、見事な戦いであった!決闘の結果を互いに受け入れ、尊重せよ!
以上を以て、此度の決闘の儀を終了とする!!」
アズヘニスはランドルフから身体をどけ、手を差し伸べた。
払われることも想定した行為だったが、意外にも素直に応じられる。
「良い戦いだった、人狼の狩人よ。お前の獣の俊敏と狩人の狡猾さには、肝を冷やされた。」
するとランドルフは表情を緩めて返す
「勝者はお前だ、輝ける鱗の剣士。対人の戦いとはどういう事か思い知らされた。
これまでの無礼を詫びる。そして我が腕を振るう機会を与えてくれたこと、礼を言う」
「気は済んだか、ランドルフよ」
見計らったように、ヤヌルが声をかける。
「お前が腕を比べる相手を求め、鬱屈していたことは知っておる。
お前が森の外の広さを侮っておることもな」
「おっしゃる通りです族長。恥と知りつつ、彼らを挑発しました。そして世にはこのような戦士がまだまだいるのでしょう。一層、旅立ちへの念が強くなりました。」
ヤヌルは満足したようにうなずき、アズヘニスの方を向く。
「すまなんだアズヘニス殿。実のところ、一芝居打ったようなものでな。」
ひげを撫でながら、ヤヌルはつらつらと語る。
「こやつは部族がこの森を離れるのに合わせて、武者修行の旅に出たがっておった。だがその前に、世界の広さを教えてやらねば命取りになりかねん。貴殿であれば、それを教えてくれると思うてな」
「貴方に思惑があることはうっすら察しておりました。私が敗北しても、悪いようにはならなかったのでしょうね。とはいえ、さすがに肝が冷えた」
「じゃろうて。案ずるな、労をかけた分は報いるが我が部族の誇りよ。」
「おぬしらがこの集落を離れるとき、役立つものをくれてやるでな。」
そういうとヤヌルは、ランドルフとアズヘニスを連れていき、部族の女たちに二人の手当と清拭を命じた。
アズヘニスは立派な戦いを見せたことで、部族の女たちから妙に熱っぽい視線を向けられることとなった…