相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー 作:ほくほく亭ともを
翌日、サクラコは縄を雷坂に縛った張本人を連れて赤煉瓦の交番へ向かっていた。
「あら、シスター・サクラコ。こっちは寮の方向ではなくてよ?」
そういうとシスターはサクラコの手を引いて寮の方へと戻ろうとする。
時刻は夕方5時。珍しく、そのシスターもサクラコも巡回の当番がなく、非番であったから二人して寮に帰っていたのである。
「いいえ、今日は少し
「まあ、シスター・サクラコ!殊勝な方なのですね、ぜひ私も連れて行ってくださいまし__」
そんなことを言いながら石畳を通り抜けると、旧港である赤煉瓦が多く目立つ地区へついた。
「ねえ、シスター・サクラコ。この話知ってる?昔の本で読んだのだけど、
「……?港なら普通のことでは?」
サクラコは不思議そうに返す。
サクラコはお嬢様である。それもトリニティ総合学園から見ても、シスターフッドから見てもお嬢様の中のお嬢様である。
そのせいか、サクラコは温室暮らしのせいでほとんどの社会的常識をマナー以外喪失し、対人における会話でも少しのニュアンスなどで意味が変わることを理解しておらず、こうして逆に意味深な発言や行動を多々するのであった。
シスターフッドもシスターフッドである。政治不干渉としておきながら、言葉の端々からなんとか意味を掴み取ろうとするあまりに、そのような純粋な言葉から逆に話した本人が思いもしないような意味を汲み取ってしまうのであった。
そのため、中等科2年生に上ろうとするサクラコは何の因果か中等科の生徒はもちろん、トリニティ総合学園の本キャンパスに在籍している高等部の生徒にも恐れられているのだった。
「
そう言われると純粋なサクラコは機嫌が良さそうにくすくす笑うと、
「ありがとうございます!でもそんなことおっしゃっても何も出ませんわよ__あら、あの角を曲がったらもう着きますわね……シスター、もう随分歩きましたから、少しここらで
そういうとサクラコはシスターの手をそっと掴んだ。
「……っ!!まさかシスター・サクラコ、旧港まで見回りをしようって言ったのはこのためでしたの!?嫌!おやめなさい!まだ死にたくありません! まさか白峰副会長の意向ですか!?私は何もしてません!私はただあのゲヘナのツノ付きを___『おや、興味深い話が聞こえて来ましたねぇ』ひぃ!!」
手を掴まれたシスターは命を守ろうと猛然として暴れ出した。そこにまるでちょうど通りかかったように、杉下サキョウが黒い毛並みのカオル号に乗ってやってきた。
「どこかで見たシスターとサクラコさんではありませんか。一体どうなさいました?」
「……っ!助かった……お巡りさん!助けて、私殺されちゃう!!」
おや、とサキョウはサクラコをチラリと見るとシスターにカオル号に乗るよう促す。
サクラコは気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「雷坂さん、確かにあのシスターで合っていますか?あなたが『もう1人の仲間が
シスターとサクラコは交番の受付の奥にある小部屋でゆっくりと紅茶を飲みながら談笑をしていた。
もう既に、サクラコの誤解は解けたようで女学生よろしく今度の中間テストや期末テストの話をしている。
サキョウはというと、小部屋の裏にある小さな部屋のマジックミラーの前へ雷坂を連れていき、面通し(被害者あるいは参考人に、被疑者の顔をで確認させること)をさせていた。
「そうだ、確かにあいつだよ。あたいが助けを求めても何にもしてくれなかった!ああ、頭に来る。いますぐズタズタに引き裂いてやりたいよ!」
「お静かに雷坂さん。聞こえてしまいますよ?」
「ふん、構うもんかい、今こうしてる間でさえもあたいの仲間はあの地下墓地で迷子になってるんだ。見つけられるなら何でもするさ」
「立派なことですねぇ雷坂さん。まるであなたが警察官のようだ」
雷坂以下2名の容疑者は、自治区不法侵入の現行犯の容疑者であったが、同時に行方不明事件の参考人であったため、こうしてサキョウは雷坂との捜査を黙認していた。
サキョウは雷坂を拘置場に収監し直すと、小部屋へと顔を出した。
「あら、サキョウさん。今誤解を解いたところです、サキョウさんも一緒にお茶しません?もちろん、
「もう、シスターサクラコ!そんな意味深な顔をするから勘違いされるんですよ、ほらもっと純粋な笑顔で!」
純粋な笑顔と言われたサクラコは困ったように苦笑いをした。
「ところでシスター、少し訊きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
それから、持ち前のサキョウの推理力と、サクラコの圧(かけてない)で確かに地下墓地に1人の生徒が入っていったのを見た。という証言を得たサキョウとサクラコは、地下墓地に潜入する計画を立てていた。目撃したシスターは、サクラコが
「でもサキョウさん、地下墓地のあるエリアは立ち入り禁止エリア。いくら首席のサキョウさんでも、入ることは難しいのではないでしょうか?それに、私たち2人というのも____」
「そのことなんですがねぇ、この地図を見てください。」
そういうとサキョウはトレス台にラベンナの地図と、何か複雑な線が引かれた地図を重ねてしいた。
「これは上下水道の地図なんですがねぇ、見てください。ここは昔港だったからか、古い上下水道のトンネルがこの辺りから出ているんですねぇ、それも地下墓地の方まで。気になりませんか?」
「気になってきましたわ」
「それともうひとつ。シスター服を用意してもらえませんか?私のサイズより少し大きめなものを」
思い立ったが吉日とばかりにサキョウとサクラコは、例のトンネルの前に立っていた。
トンネルの前にはすでに、見覚えのある姿が腕を組んで待っている。
ロングスカートのワンピースにビブエプロンを備えたスタイル。長身に蒼色の長い髪、そしてサキョウと同じ翡翠色の目をした救護騎士はサキョウを見つけると獅子武者の如く詰め寄ると、
「サキョウさん、久しぶりです。ここに救護者がいると聞いたのですがどこですか?早く見つけて救護!!しなくては!」
蒼森ミネは高らかに叫んだ。
「どうもミネさん。少し困ったことがありましてねぇ、救護騎士団の力を借りたいと思ったらちょうどシスターフッド自治区の病院にいたというのですから、来て頂きました。あぁ、サクラコさん、こちらはミネさんといって、救護騎士団の方です。行方不明になってからすでに24時間が経過しています。医療従事者を連れて行った方がいいでしょう」
「あら、そうでしたの。初めましてミネさん、私はシスターフッドのサクラコと言います。
ミネは不審げにじっとサクラコを見つめると、急に堰を切ったように話し始めた。
「またシスターフッドが何かしたのですか!?そうに決まっています。サキョウさんから聞きました、『ゲヘナの人が行方不明になってる』って!それもシスターフッドの自治区で!絶対何かあるに違いありません!明らかにしてやりますからね!!」
「まあ落ち着いて、ミネさん。。はいこれ、シスター服です。救護騎士団の制服は目立ちますからねぇ、念のために」
外の日はすでに傾きかけて、ラベンナの古い石畳に聖堂の影を長く伸ばしていた。
トンネルに入ったサキョウ一行は所々に亀裂が入って、そこから日が差し込むやや薄暗い中歩いていた。
古くから使われていない坑道の中は少しの透明な水がチョロチョロと流れ出ているだけで、昔の見る影もない。
サキョウはお気に入りの革靴を濡らしながらしけた道を、脳内の地図だけを頼りに歩いていた。
ミネも同じく、長いスカートを片手でつまみながら、もう片手にはいつでも撃てるようにアサルトライフルを持ち、サキョウに続いて歩を進めていた。
「サキョウさん、もう歩き始めて3時間は経つと思いますわ、一体行方不明者はどこにいるのでしょう?」
シスター服を着たサクラコは、もうこの湿気はごめんとばかりに頭を振りながら訊ねる。
「私も予想ではもうすぐ見つかると思うのですがねぇ、おや、これは何でしょう?」
そういうとサキョウはちょっと踏みつけた紙切れのようなものを拾った。
「学生証……?でしょうか、でもどうしてここに____まさか、昨日行方不明になったという生徒はこの奥に___!」
ミネは古びて、やや苔の生えた学生証を片手でつまみ上げると、不思議そうにつぶやくと、何か確信ついたような顔で奥に駆けていこうとした。
「まあお待ちなさい、ミネさん。おそらくですが別人のようですねぇ」
「あら、どうしてそんなことが?」
とサクラコ
「被害者が行方不明になったのはちょうど昨日のこと。反社会力勢力なのはそうですが、万一学生証を落としたのにせよ、苔が生えるのが早すぎやしませんかねぇ、もっとも、こんなところに落ちているのは不審ですが。サクラコさん、この生徒に見覚えが?」
そういうとサキョウは学生証を見せた。
苔を拭うと、ややひび割れてはいるものの、かろうじてシスター服を纏った生徒がやや緊張した面持ちで写っている顔写真が見えた。
「あら、どこかで見覚えがありますわね、でもどこで______」
そういうサクラコは何か思案顔であった。
そうしていると___
「あ!見つけた!!人が倒れていますわ!救護ッッ!!!!」
とミネが暗闇を駆け出していく。
サキョウは、暗闇なのにどうしてわかるのだろうと不思議に思いながらも、学生証を持ってまだ何か考えているサクラコの手を掴むと、暗闇に飛び込んでいった。
ミネが発見した生徒は、どうやら雷坂の仲間の1人であったようだった。
ゲヘナの学生の特徴であるツノが生えている。
サクラコはやや恐れを抱いた表情で、救護鞄から色々並べ、必死に介抱しているミネと救護者を見比べると、やや顔をこわばらせながら尋ねた。
「ミ、ミネさん。救護するその姿勢は素晴らしいものがあるとは思いませんが、その、『ゲヘナ』ですよ?怖くはないのですか?」
「はぁ?」
ミネは振り向きもせず、介抱する手を止めないまま答えた。
「人命にゲヘナもトリニティもありません。どのような方でも発見したら即救護!!何かしようとしたら即救護!!ですよ、当たり前のことではありませんか。あ、サキョウさん。この人の足を持ってくださいますか?包帯を巻くので。知ってますかサキョウさん。この包帯はどんなに水に濡れても決して解けることはない素材で作られていまして___」
そのような高潔な精神とはひきかえに、ミネはまるで自分のコレクションを説明するかのように楽しそうに介抱をしている。
救護者も小さいながら息はあるようで、ひとまずは命の危険はないようであった。しかしながら足元の傷がよく目立つ。所々に落ちている破片などで足を切ったのであろう。
ミネはその生徒を背負うと、一転してトンネルの入り口へと駆け出していった。
「あ、待って!ミネさん!!」
サクラコはそう叫ぶと、サキョウとともにミネを追いかけていった。
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トリニティ総合学園、本キャンパスのメインロードから5本ほど離れた、閑静な通り。
多くの有名ブランドが集まり、見事は光景を生み出していた。
その通りの一角、北部らしい赤い建物の奥では、
「____首席警察官が
「ええ、『トリプル』級からの情報です。それもヴァルキューレに潜入しているエージェントからの情報ですから、正しいかと」
『トリプル級』という言葉が出ると、深緑色の装飾であしらわれた重厚な部屋の中はおお、と驚きの声で満ちた。
「ヴァルキューレにトリプル級のエージェントが?どうやって___まあいいでしょう、それで、現地のエージェントはなんと」
「首席警察官については、銀の飾緒をつけていたのでこれは完全に正しいと。それと___シスターフッドの関係者と思われるシスター2人も一緒に入っていったようです。」
「__一体シスターフッドは何をしようとしているのかしら____まさか、
「それはあり得ません、閣下」
そういうとスーツを着こなした生徒が立ち上がった。
濃い葡萄色の髪を長く伸ばしている。
「
「可能性はないと?」
閣下と呼ばれた生徒はじろりと発言しかけたスーツの生徒を睨みつける。
濃い葡萄色の髪を揺らしながら、その生徒はゆっくりと頷いた。
「___ええ、閣下。可能性は極めて低いと判断します。シスターフッドは沈黙を信条とし、美徳とする組織です。まして、我々が身を削って均衡を戻したこの時期に、彼女たちが動けば___誰よりもその波紋の大きさを理解しているはずでしょう」
彼の声音には確固たる自信があったが、その裏に、どこか冷たい計算が滲んでいた。重厚な机を囲む面々は、その言葉を受けて一度ざわめきを飲み下す。
しかし、閣下と呼ばれた金縁の眼鏡をかけた少女が、静かに指先で机を叩いた。軽やかな音が部屋の空気を重くさせる。
「___けれど、動いたのよね、事実として、首席警察官とシスター2名。そしてカタコンベ___あの場所へと向かった。」
部屋の温度が一度下がったような錯覚が走る。葡萄色の髪の生徒は少しだけ表情を曇らせた。
「……確かに。ですが、動機が見えません。シスターフッドが“あれ”に触れれば、最も困るのは彼女たち自身ですから。だからこそ――」
彼女は一呼吸置き、部屋中を見渡すように周囲へ視線を送る。
「___そこに“第三者の目的”が介在している可能性を考えるべきかと」
「第三者?」
「ええ、閣下」
再び立ち上がった彼女の声は、今度は低く慎重だった。
「ヴァルキューレ内部にトリプル級が潜んでいるのと同じように――シスターフッドの行動に、外部の手が加わっている。彼女たちは自覚していない可能性すらある。つまり……」
言葉を結ぶ前に、議長の少女が穏やかに微笑み、補った。
「____“誰かが意図的に、カタコンベへ彼らを誘導した”というわけね」
「その通りです、閣下」
室内が再び沈黙する。
カタコンベ______この学園の裏側に広がる、公式記録にも載らない迷宮。
そこへ、首席警察官、そしてシスターフッドが“同時に”足を踏み入れたという事実。
それが偶然である確率は____あまりにも低い。議長は椅子の背にもたれ、静かに息をついた。
「……あと19日でこの職からも、この自治区からも卒業だというのに、最後の最後になって面倒臭いことになってきたわね」
「ご心情察します。」
「よくいうわ、あなたももうすぐで卒業。心労をかけましたわね、次席。」
そう言われた濃い葡萄色の髪の少女はにっこりと笑った。
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「それで容態はどうですかねぇ」
翌日、杉下サキョウは交番の2階に上がって、あくびをしながらせっせと介抱をし続けているミネに話しかけた。
杉下サキョウがいつも就寝している寝室は、ミネ専用の病室となってしまったので仕方なく一階の小部屋で眠りについたのであった。
「だいぶ安定はしているようですが……ここでは何とも。一度救護騎士団の方へ連れていって、そこで集中的に治療をするしか__」
「そのことなんですがねぇ」
サキョウはそう遮ると、
「昨日、あんまりに眠れなかったもので少し散歩をしていましたらね、2、3人ほどの怪しいものに見られていたようです。どこのスパイか___SRTか、トリニティか、連邦生徒会か、ヴァルキューレか、それとも別の______」
「つまり危ないと?」
「ええ、あの地下トンネルには何か秘密が隠されているようですねぇ、とにかく、これ以上ゲヘナ学園の生徒をここに置いておくわけにはいきません。さっきゲヘナと連絡を取ったのでいち早くゲヘナ学園自治区へ___」
そう言いかけると、急に遠くの方からやけに不穏な響きの救急車のサイレンが響いてきた。
「おや、救護騎士団の救急車ですか?」
ミネにそう尋ねると、
「いや、救護騎士団のサイレンではありません。それにこの音は____」
サイレンの音が交番の前で止まった。
サキョウが2階から外を見ると、ヴァルキューレ・ゲヘナのパトカーが2台、「ゲヘナ救急医学部」と書かれた救急車を護送するように停まっているのが見えた。
ゲヘナ特有のブラックスーツを着た、強面な警察官が出てくる。
登校途中のシスターもどうしたと言わんばかりに集まってくる。
「はいはい、ヴァルキューレ・ゲヘナです!散った散った!!散らないと公務執行妨害で逮捕するぞ!!」
そう脅して、怯えたシスターたちをどこかへ行かせると、救急車の運転席を開けた。
「お待たせしました。氷室さん。ここにいるそうです。」
「お疲れ様。ありがとう。ではした……いえ、負傷者をゲヘナへ連れて帰りましょう。」
無表情な鉄面皮。白髪に角、青い制服、そしてエプロンのようなものをまいた生徒が降りてきた。
強面で通っているヴァルキューレ・ゲヘナもものともしない様子で交番の前に立つ。
「おや、こんな朝から元気のいいことですねぇ、ヴァルキューレ・ゲヘナもやっと動きましたか」
サキョウはそういうと、彼女らを出迎えた。
「はい、逮捕状、おたくの自治区にゲヘナの生徒が侵入したよね?引き渡してもらうよ___ん?その飾緒は___」
ゲヘナの警察官はそこまでいうと、唐突に敬礼をして、
「首席警察官の方でしたか!どうも失礼しました。となると教えてくださったのはあなたですか___お名前は?」
「杉下です」
「杉下首席!お会いできて光栄です、お約束通り、容疑者を引き取りに来ましたよ、それと……」
警察官は気まずそうに、無表情に立っている医療従事者をチラリと見た。
「ゲヘナ学園、救急医学部の氷室セナと申します。死体_____ではなく、負傷者がいると考え、応援に来ました。」
と、氷室セナは無表情に挨拶を交わした。
杉下サキョウは、整然と並んだゲヘナの車列を見渡すと、肩をすくめてみせた。
「どうもご丁寧に。氷室さん、そしてゲヘナの皆さん。さて、ご希望の負傷者と容疑者なのですがねぇ……」
そう言って踊り場からゆっくりと階段を下りた。
交番内部は、いつもより少しだけ暖かい香りがした。夜通し焚いていた小さなストーブと、ミネが淹れたらしい薬草湯の匂いが混じっている。
氷室セナは、無表情のまま一歩前に出た。
「搬送対象は、女性一名。昨日、地下構造物にて発見された……との報告で相違ありませんか?」
「ええ、間違いありませんとも。おかげで交番が病室になってしまいましたけれどねぇ」
サキョウは皮肉とも冗談ともつかぬ口調で返す。
それを聞いたゲヘナの警察官は、胸ポケットから小さな端末を取り出しながら頷いた。
「了解。搬送の準備を……うぉっ!」
突然、交番の扉を勢いよく開けたのは、ミネだった。
寝不足のせいか髪を一房乱しながら、しかし目つきだけは救護騎士のそれに戻っている。
「セナさん!?どうしてあなたがここに!」
「救急医学部だからです。」
「そうじゃなくて!ゲヘナはトリニティと対立してるのに、どうしてこんな___」
セナはまばたき一つせず答えた。
「患者は患者。自治区も種族も関係ありません。」
淡々とした声なのに、交番の空気が一瞬だけ張りつめる。
サキョウは、あくまで飄々と場を眺めながら、
「ミネさん、あなたの患者さんは大事にあつかわれますよ。それに……」
サキョウは窓の外を、大型の救急車へ目を向けた。
「連れて行かれる前に質問したいことが山ほどありますからねぇ。むしろ我々が同行したいくらいです。」
警察官は少し困った顔をして、帽子を直した。
「杉下首席、実は捜査の方でも協力をお願いしたかったところで……この件、ウチの上層がなぜかやけに興味を示してるんですよ。」
「ふむ、やはりね」
サキョウは薄く笑う。
ミネはその横を静かに通り過ぎ、セナの手にカルテらしき紙束を差し出した。
「状態は不安定。低体温。外傷は軽度ですが……精神的ショックが強いと思われます。一体何があったのか」
「何かですか……?」
無表情なセナの顔に一抹の不安がよぎった。
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一同は、ミネが半強制的に占拠したサキョウの寝室に集まると、昏睡している被害者を横目に話を続けた。
「ではサキョウさん、この一件は何か大きな陰謀があると?」
「ええ、私の推測ですがねぇ、白峰イノリ副代表が一枚噛んでいるのは確かでしょう。
「そういえば、昔、もう数百年前の話ですけど、この辺りは『アリウス派』の自治区だったそうですね。もしや何か関係が?」
いつの間にかいたのか、言いづらそうに歌住サクラコは窮屈な小部屋の扉へ顔を出した。