相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー   作:ほくほく亭ともを

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ひとり足りない 3

シスターフッド自治区が元はアリウス派閥の自治区であったことはあまり知られていない。

トリニティ総合学園の中枢、もとい生徒会であるティーパーティーがアリウス派閥に関係する書物を全て禁書、もしくは準禁書扱いにして閲覧を禁じているからである。

しかし、シスターフッドについてはこの限りではない。アリウス自治区を引き継いだ彼女らにとって、この場所の歴史であり、かけがえのない資産であるからだ。

そのため、一部のごく限られた情報だけであるがサクラコはアリウス派閥についての知識を有していた。

 

「詳しくは分からないのですが、シスターフッドの授業では、ここは元々アリウス派閥という、異端とされた派閥の自治区だったそうです。でも、今ではアリウス派閥は()()()()()()()に消え、今ではもう見る影すらありません」

 

そういうとサクラコはダージリンを口に含んだ。

 

窮屈になった寝室だった病室はさらに窮屈になり、薬草湯と湿布とダージリンの香りが入り混じったなんとも言えない香りに包まれていた。

 

そうしているとそれまで昏睡していたゲヘナの生徒がううんと呻き声をあげた。

 

「……!目が覚めましたか!!救護!!!!」

 

「待ちなさい、ミネさん。ここは病室ではありませんし、何も設備が整っていません。ここは一度ゲヘナに連れて帰るべきです」

 

と焦るミネにセナは声をかけると、一緒に来たゲヘナの警察官を振り返った。

 

「そうですね、では容疑者とこの救護者をゲヘナに連れていきましょう。この自治区に長くいるとティーパーティーが騒ぎ出しそうだ」

 

とサキョウの顔を見ながら言った。

 

 

 

 

パトカーに4人とも無事に乗せられると、雷坂は金髪を揺らしながら感謝を告げた。

 

「ありがとう、サキョウさん。あたいたちを助けてくれて。」

 

「でも、捕まえることができなくて残念ですねぇ」

 

「へ!あたいらはこれからどんどんでかくなる!その時に捕まえられるものなら捕まえてみな!!」

 

「おや、おもしろいことをいいますねぇ、気に入りました。その時、捕まえるのはのは最後にしてやりましょう」

 

そういうとサキョウは、ゲヘナへ向かうパトカーへと乗り込んだ。

____________________________________________

 

 

 

「ゲヘナへついていった?」

 

白峰イノリは古い聖堂でその話を聞くと、驚いたような声を上げた。

 

「ええ、3日前に。杉下警備補は、主席警察官という身分であるにもかかわらずあのゲヘナへ行ってしまわれましたわ」

 

サクラコはため息をつきながら答える。

 

聖堂の広間にはステンドグラスに彩られた光で埋め尽くされていた。

 

「それで?シスター・サクラコ。そんなことのために私に会いに来たわけではないでしょう。何の要件があるのかしら、あと14日で卒業だというこの私に」

 

疑い深げな目線をサクラコに向ける。

 

サクラコはごくりと唾を飲み込むと、ある袋に入ったカードのようなものを取り出した。

 

「あら、なんですの?その汚らしいカードは」

 

そういいながらもイノリの視線は唯一見えている顔写真に注がれていた。

 

「実は、杉下警部補と一緒にあの地下トンネルに潜ったのですが、その時に見つけてしまいまして……これ、今行方不明中のシスターの写真ですよね?だから副代表にお見せした方がいいと思いまして」

 

イノリははあっとため息をつくと、

 

「杉下警部補にこのことは?」

 

と尋ねた。

 

「隠そうとしたのですが、杉下警部補はなかなか鋭い方でしてバレてしまいましたわ。でも行方不明ということはまだ言っていないから知らないと思いますが……」

 

「杉下警部補とあんなに()()()なあなたがねぇ」

 

「ええ、ですがそれはそれ、これはこれです。シスターフッドの問題はシスターフッドで解決するべきだと信じていますもの」

 

サクラコはまっすぐな目をイノリに向けた。

 

「まあいいわ。どうもありがとう。あなたはシスターフッドの誇りよ」

 

そういうとイノリはサクラコの肩をポンとたたくと、聖堂を後にしようとする。

 

「あ、あと!」

 

サクラコはあわてたようにその背中に叫んだ。

 

「あら、どうしたの?まだ何か」

 

「あの、その、認めたくはないのですが、一番最初にゲヘナの生徒を捕縛したシスターを覚えてらっしゃいますか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「そのシスターが、サキョウ警部補に『地下墓地にはたしかに4人の容疑者が入っていった。3人ではない』と証言して……」

 

だんだんと声が小さくなるサクラコ。

 

その様子を見たイノリは懺悔をした子羊のように震えるシスターを抱きしめると、

 

「よく話してくださいました。それでこそ、あなたは立派なシスターですよ」

 

と耳元でささやいた。

 

聖堂を後にしたイノリはすぐさまにシスターフッド自治区の本部である学園に戻ると、即座に部下に命令し、その裏切り者のシスターを捕縛した。

 

そのシスターが目覚めたときには、見覚えのない暗い部屋が広がっていた。

冷たくじめっとした鉄臭い空気が鼻腔を通り抜ける。視線をそらすと、そばには白峰イノリが立っていた。

 

「シ、シスター・イノリ、御機嫌よう……一体ここは?それに、この縄は__」

 

シスターの四肢にはがっちりと拘束具がつかまり、ちょうど大の字に寝かされている様子であった。

 

「___シスターが悪いのですよ?私ももうすぐ卒業だというのに、またこんな汚れ仕事をさせて……」

 

「な、なんの話ですの!わたしは何もしていませんわ!ただシスターフッドのために___」

 

「シスターフッドのため?あの杉下サキョウとかいうわけのわからない女に証言したそうね?よりにもよって地下墓地(カタコンベ)の……」

 

「い、一体あそこに何があるというのですの!?それに汚れ仕事って……」

 

シスターは何とか逃れようとと体をジタバタもがいている。

 

「ダメダメダメダメ……あなたは知りすぎましたわ。聞きましたけど、この自治区の秘密についても証言したそうじゃない。あなたは行方不明にならなければなりません」

 

そう一息をつくと、

 

「まあ、あなたも可哀想な人ね。あの生徒証の子も、黙ってさえいれば私もこんな手荒なことはするつもりがなかったのに……」

 

「おや、そんなことをしていたのですか?」

 

「ええ、人の道を外れるようなこともいたしましたわ……ってまさかこの声は!?」

 

イノリが振り返ると、杉下サキョウと銃を構えたゲヘナの警察官数名が立っていた。

 

「やっぱりやっていたか……白峰イノリ!!罪状はもちろんお分かりですね?署までご同行願おう!!」

 

ゲヘナの一人がそう叫んだ。

 

しかし、イノリの燃えるような視線はサキョウのちょうど後ろに注がれていた。

 

「だましましたわね……歌住サクラコ!!まさかあなたが本当の裏切りものだったとは……二重スパイだったなんて!!」

 

サキョウの後ろに隠れるようにして立っていたサクラコはびくりと体を震わせた。

 

「おや、あなたスパイのつもりで一緒に行動していたのですか。どうりでシスターらしき追跡者がいないと思ったわけだ。それにしてもイノリ副代表……いえ、イノリ容疑者。彼女をスパイにしようとは、よっぽど見る目がないのですねぇ」

 

サキョウは静かに一歩踏み出し、淡々と続けた。

 

「あなたには、計画段階での殺人予備及び共謀。過去の失踪者に関しては逮捕監禁、状況次第では逮捕監禁致死、さらに拷問及び加重暴行。この拷問室の調査結果によりますが、行方不明者の死亡が確認されたら殺人、その後の死体遺棄も免れません。また、他の自治区の生徒を見殺しにした件については、権限を持つ立場でありながら救助義務を放棄したとして、不作為による殺人、あるいは保護責任者遺棄致死が成立します。加えて、これら一連の行為を権力によって隠蔽し、部下を動かした件については職権濫用、証拠隠滅、証人威迫。見たことがない量の罪状ですねぇ。あともう少しで卒業だったというのに」

 

白峰イノリは、サキョウの前でゆっくりと口を開いた。

その声は震えてはいなかった。むしろ穏やかで、祈りのように静かだった。

 

「……あなたには、分からないでしょうね。私たちシスターフッドが、どれほどあの場所を守ってきたか。」

 

薄く目を伏せ、白峰はかすかに微笑む。

 

「カタコンベは、ただの地下墓地ではありません。あれは、私たちが信仰を保ち、秩序を守り、未来へ繋ぐための礎……。あそこが揺らげば、シスターフッドは終わる。だから私は__守らなければならなかったのです。」

 

サキョウが何か言おうとしたが、白峰は言葉を重ねた。

 

「裏切り者が出た時、私は悟りました。真実を知る者が自由に歩き回る世界では、もう誰も守れないのだと。彼女たちが口にした一言で、シターフッドは崩壊するかもしれない。ならば……その芽を摘むしかないでしょう?」

 

表情は穏やかなままなのに、言葉だけが冷えていく。

 

「殺したかったわけではありません。犠牲は、ただ……必要だったのです。あの人たちは、選ばれたのですよ。シスターフッドの未来を守るために、沈黙していただく役目に。」

 

そして、サキョウをまっすぐに見据える。

 

「あなたは、私を責めるでしょう。ですが__私は間違っていません。秘密が暴かれれば、もっと多くの子たちが苦しむ。だから私は、罪を背負うことを選んだだけ。信仰とは、ときに血を流す覚悟を要求するものなのです。」

 

白峰は最後に静かに息を吐いた。

 

「……カタコンベを守るためなら、私は何度でも同じ選択をしますよ。」

 

白峰イノリの告白が終わった瞬間、サキョウは、しばらく何も言わなかった。

 

沈黙。

空気が裂けるような静寂。

 

そして__

 

「……あなたは、何を言っているんです」

 

低く、押し殺した声だった。普段の理性に満ちた声音とはまるで違う。

 

「選ばれた? 役目? 未来のため?……そんな言葉で、人の命を弄んだあなたの行為が、正当化されるとでも?」

 

白峰が眉をひそめた瞬間、サキョウは机を叩きつけるように身を乗り出した。

 

「ふざけないでくださいッ!!!」

 

石造りの部屋に怒号が響き渡る。

白峰が息を呑む。

 

「あなたがやってきたのは信仰でも使命でもない!自分の都合で、都合の悪い人間を消しただけです!!そんなものは__ただの殺人です!!!」

 

サキョウの瞳は、怒りで震えていた。それでも涙のようなものは見せない。ただひたすら、義憤だけを燃やしている。

 

「あなたが握りつぶした命は、犠牲なんかじゃありません。生きたかったんですよ……!助けを求めて、苦しんで、それでも……あなたに奪われたんです!」

 

白峰が口を開きかけるが、サキョウは言葉を遮った。

 

「お黙りなさい!!」

 

普段の彼女からは想像もつかない激しさだった。

 

「あなたは守ったと言った。でも違う。あなたが守ったのは、シスターフッドでもカタコンベでもない。自分の立場と、罪を隠すための沈黙だけです!」

 

サキョウは一歩前に進み、白峰を睨みつけるように見下ろした。

 

「信仰を語る資格なんて……あなたにはありません。あなたの行為は、誰よりも信仰を汚したんです!」

 

最後に、冷えきった声で告げた。

 

「白峰イノリさん。あなたの罪は、あなたが思っているより遥かに重い。そして__私は絶対に……絶対に許しません。」

 

サキョウの言葉が石壁に吸い込まれていくように、重く残響した。

 

白峰イノリは、しばらく身動きもしなかった。ただ、微かに震える指先だけが、彼女の内側で何かが崩れ落ちていることを示していた。

 

沈黙___それは先ほどまでとは違う、逃げ場のない沈黙だった。

 

やがて、白峰は細い声で絞り出すように言った。

 

「……わたしは……間違っていた、というの……?」

 

その声音には、確信も開き直りもなかった。ただ、自分の信じてきたものの輪郭が崩れ、掴むものを失った者の空虚さだけがあった。

 

サキョウはすぐには答えなかった。

彼女は怒りを吐き切ったわけではない。むしろ、言葉にしてしまったことで、胸の奥にさらに鋭い痛みが広がっていた。

 

しかし、だからこそ__彼女は逃げなかった。

 

「……間違いかどうかなんて、論じるまでもありません」

 

その声は先ほどよりも静かだったが、冷たさは一切消えていなかった。

 

「あなたは選んだんです。使命のためなら誰かを殺せるという生き方を。その責任は、誰の理屈でもなく__あなた自身が負うべきものです。」

 

白峰の肩が震えた。

 

「でも……わたしは、本当に守りたかったの……人々を……未来を……」

 

「違うと言ったでしょう。」

 

サキョウは一歩踏み出し、彼女のすぐ目の前に立った。

 

「あなたが守りたかったのは正しいと信じている自分です。未来でも人でもない。だから他者の苦しみが見えなかった。」

 

白峰は俯いたまま、唇を噛みしめる。その瞳から落ちる涙が、床に音もなく消えていく。

 

サキョウは、そんな彼女を見下ろしたまま、最後の釘を打つように言った。

 

「覚えておいてください。あなたが奪った命は、二度と戻らない。どれだけ悔いても償っても、その事実だけは動きません。」

 

白峰は顔を上げた。その目には涙と、砕けた信念の残骸だけがあった。

 

部屋は、誰も動かないまま、凍りついた沈黙に包まれていた。

 

そのとき、拷問室に数名の警察官が入ってきた。

 

「…………ユリちゃん?」

 

イノリはその警察官に目を向けると、声を漏らした。

 

サキョウとサクラコもつられたように振り返る。

 

そこには、本部にいるはずであった阿久津ユリ公安局長とサキョウと同期であった尾刃カンナ、そして、濃い葡萄色の髪が似合う、毅堂キツハの姿があった。

 

ゲヘナの警察官たちは、相手があの公安局長であることを悟ると一歩下がり、敬礼をする。

 

「イノリさん……」

 

久しぶりに顔を合わせた二人は、自分たちの立場がもはやこれまでと変わってしまったことを悟った。

しかしながら、両者ともそれを認めることはできず、ただ沈黙が続いていた。

 

「サキョウ、ここからは本部の仕事だ。後は私たちに任せてくれ」

 

カンナは冷たくサキョウに言い放った。

 

「イノリちゃん、久しぶりだねぇ、元気にしてた?ほら!そこのユリちゃんと一緒に行動してたキツハだよ?……あっ思い出した?じゃあさ……」

 

そう言うとキツハはイノリに近づき、なにかこそこそと囁いた。

途端にイノリは顔面蒼白になり、ぶるぶるとうなづいている。

 

「任せる……ですか?この状況で」

 

「局長は容疑者と恋仲。キツハさんは何か変なことをしている。それに、容疑者はシスターフッドの副代表ときた。この状況で、任せてもらえると思うほうがおかしいと思うのですがねぇ」

 

「公安局長命令だ。サキョウ。お前がこれ以上立ち入る話ではない。あとは私たちに任せて……」

 

カンナは諭すように話す。

 

「主席警察官の人事命令をだせるのは総長だけです。」

 

そうサキョウは返す。

お互いに気まずい沈黙が流れた。

純粋なサクラコは自らのおかしたことに対して耐えきれないように体を震わせていた。

 

「総長のサインが欲しいの?はい、これ。総長のサインね、サキョウちゃん、今回の功績で特例なんだけど、ヴァルキューレ・トリニティで本部勤めができるようになったよ!それに、公安局長と情報局長からの推薦でちょっと早いけど、中等部2年生から中等課程、その後の高級幹部課程までいけるようになったの。サキョウちゃん、刑事になりたいんだったよね?これで早くなれるよ!やったね!」

 

キツハは総長のサインが書かれた推薦書を取り出すと、ひらひらとサキョウの目の前で揺らした。

 

「…………なんですか、それは」

 

低い。怒りというより、もはや警戒に近い声音であった。

 

キツハは、まるで子供をあやすように笑う。

 

「えー?見てのとおりだよ?サキョウちゃん、今回すごく頑張ったじゃん?だから総長がご褒美あげてって。ね、ユリちゃん?」

 

ユリは答えない。ただ、無表情のままイノリを見つめていた。

その背筋の伸び方には、局長としての威厳よりも、個人的な感情の格闘が滲んでいるように見えた。

 

カンナが割って入る。

 

「サキョウ、これは正式な手続きだ。本部はこの件を預かる。お前は職務としてここから手を引け」

 

しかし___

 

サキョウは動かなかった。

推薦書を受け取るどころか、視線すら向けようとしない。

 

沈黙が走る。

 

まるで、誰かが息を止めたような重苦しさ。

 

そして、サキョウはゆっくり口を開いた。

 

「……おかしいですね」

 

乾いた声だった。

 

「この場には、局長と情報局の人間。イノリ容疑者はシスターフッドの副代表。この構図を見て、公平だと誰が言えるんですか」

 

キツハが笑いながら肩をすくめる。

 

「えぇ〜?疑いすぎじゃない?サキョウちゃんって、『昔』からそういうとこあるよね」

 

だが、その軽い声をサキョウは完全に無視した。

 

「局長」

 

呼ばれたユリの肩が、わずかに揺れた。

 

「あなたは……容疑者と恋仲だと、現場で証言されています」

 

ユリの表情に影が落ちる。

 

サキョウは続ける。

 

「……だから、この件を任せられないと言っているんです」

 

カンナが眉をひそめた。

 

「サキョウ、言葉を慎め。お前が何を疑っているにせよ――」

 

「慎みません!!」

 

その瞬間、空気が鋭く断ち切られた。

 

「人事の話にすり替えようとし、この場の操作権を不自然に奪おうとする本部。自分の立場に関わる容疑者と、その近しい人員。そして推薦書という名の黙らせる道具」

 

サキョウの声は、冷たく淡々としていた。

 

「……あなたたちが、私に何をさせたいのか。バカでも気付きますよ」

 

キツハがにやりと笑う。

 

「じゃあ、どうしたいの?サキョウちゃん」

 

サキョウは一歩前に立ち___

 

背後で震えているサクラコと、青ざめたイノリをかばうように立った。

 

「私は____」

 

その瞳は真っ直ぐだった。

 

「この捜査を、最後までやり遂げます。本部がどう言おうと。あなたたちがどんな思惑を持っていようと。私の職務はここにある」

 

推薦書は見向きもされないまま、キツハの指先で揺れ続けている。

 

沈黙。

 

「サキョウさん・・・・」

 

サクラコはたった一人で強大な権力に挑むドン・キホーテに一歩踏み出そうとした。

 

視界がゆがむ。

 

サキョウに頼まれシスターフッドを罠にかけた挙句、このような緊張の場面にずっと残っていた彼女の精神はもう限界であった。

 

サキョウに寄りかかるようにして倒れこむ。

 

「サキョウさん、もう……」

 

サキョウは燃え上がるような義憤の目をかの権力者らに向けた。

 

相変わらず微笑むキツハ。イノリをじっと見つめる局長。そして___気まずそうに顔を背けるカンナ。

 

「____カンナさん。わたしは信じています。この事件が、やがて皆に知られることを。正義の鉄槌が下ることを。この自治区に隠されたものが明らかになることを」

 

そういうとサキョウは昏睡した相棒を背中に負ぶうと、ゲヘナの警察官と共に去っていった。

 

____________________________________________

 

サクラコが起きるころには日はもう沈みかかっていた。

 

「うん、ここは……」

 

ちらりと横を見ると、見覚えのある蒼い髪。

蒼森ミネが突っ伏して眠っていた。

 

「ミネさん、ミネさん。ここはどこです」

 

蒼森ミネは寝ぼけまなこでサクラコを見ると、すぐさま殴りかかろうとした。

 

「このシスターフッドの手先が……!一体誰のせいでサキョウさんは……!!」

 

「ま、待ってください!話を___」

 

ミネは殴りかかろうとした右手をサクラコに突き出した。

見ると、何か手紙のようなものが握られている。

 

「これ、サキョウさんから」

 

そういうとミネはうふらふらと病室を後にした。

 

サクラコが手紙を広げると、涙をぬぐったような痕があった。

 

 

 

サクラコへ

 

突然こんな形で伝えることになってしまって、ごめん。

 

もう知っているかもしれないけど、私は主席警察官の職を解かれ、本部からの指示でレッドウィンター連邦学園の中等部へ留学することになった。特例らしいけれど、理由は……察していると思う。

 

それから___サクラコさんには、捜査のためとはいえ、シスターフッドを裏切るようなことをさせてしまった。本当に申し訳ないと思っている。

今回の事件は事件として扱われないだろう。シスターフッドも知っているのはイノリだけだったようだ。だから、これから自分はどうなるのだろうという心配はしなくてもいい。

 

これから先、私は警察官としての道を続けるつもりだ。 だけど、君まで巻き込みたくない。 だから一度、ここで線を引かせてほしい。

 

サクラコ、どうか今回のことは忘れてほしい。これは悪い夢で、サクラコは大聖堂の受付でうたた寝をしているにすぎないんだ。

サクラコは、サクラコのままでいてほしい。

優しくて、真っ直ぐで、誰よりも人を助けようとする___けどたまに発言と行動で誤解を受けて困っている__私が尊敬したあの姿のまま。

 

サキョウより

 

追伸

 

あの馬___カオル号についてだが、あれはヴァルキューレ・トリニティのものだから持っていくわけにはいかない。

サクラコさんが使うといい。

私の脳裏にはいつもカオル号とサクラコがいる。また逢えたらそのときはゆっくりと話をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

                                                         ヴァルキューレ・トリニティ編  完

                           




ここまでお読みくださいましてありがとうございます。
続編につきましては、現在検討中でございます。
読みたいという方がいらっしゃいましたらどうかお教えください。感想などもお待ちしております。
書いてほしいという声が多かった場合はまた書かせていただこうと思います。
また、リクエストを頂けましたら、時間があるときに書きますので是非とも教えてください。
SS?というのでしょうか、あまり詳しくはないのですが……
ありがとうございました。
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