相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー   作:ほくほく亭ともを

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ゲヘナ雷帝編
次回予告 ゲヘナ・雷帝編


2年後

 

全キヴォトス中に激震が走った。

あの暴力と無秩序のるつぼと呼ばれたゲヘナ学園自治区に、歴史上稀に見るカリスマが生まれたのである。

トリニティ総合学園は大きな忌避と小さな希望につつまれ、ミレニアムは沈黙を続けた。

三大学園以外の諸学園も、「問題児」の更生を願う一方、合力していない今でもなおあの強さを誇るゲヘナ学園がトリニティ・ミレニアム・ゲヘナの聖三角の平衡を崩すのではないかと危惧した。

 

この衝撃は、当時を生き延びた人にしか、分からない。

 

我々はある三人の歴史を追わなければならない。

もちろん、この混沌の時代の全ての人が証言者であり、目撃者であったが、ここでは3人のキヴォトス人を追うことにする。

 

1人は空崎ヒナである。

ゲヘナ学園に入学したのち、崩壊目前にあった風紀委員会を立て直し、キヴォトス1とされた雷帝の戦力を削り、多くの雷帝の発明品を打ち破り、その後風紀委員長となって新しいゲヘナ学園の治安を担った。

 

もう1人は羽沼マコトである。

同じくゲヘナ学園に入学したのち、万魔殿に所属した。

独裁体制が続く万魔殿の最大派閥を形成し、雷帝撃破後の今のゲヘナ学園で議長を務め、キヴォトスの安定に尽力した。

 

そして、杉下サキョウである。

サキョウはD.U.の出身である。

それからヴァルキューレ警察に所属したのち、持ち前の絶対的な正義と賢明さが災いしてレッドウィンター連邦学園に左遷されたものの、ゲヘナ学園でその人脈を生かし、最後の最後で雷帝の思惑を破壊した。

 

これら三人の1人でも、また、大勢の生徒たちの1人でも欠けているとしたならば、今のキヴォトスはなかったであろう。

 

彼女らは前のみを見つめながら上っていく。彼女らの頭上に控えるひとつの天使の輪のように。ひとつの青春にむかって、ただゆっくりと、上っていくであろう。

 

 

 

 

杉下サキョウはレッドウィンター連邦学園に留学という名の左遷をされて以降、権力者たちの思惑通り、腐っていた……訳のはずがなかった。

 

彼女の絶対的な正義と絶対的な公平性は、ヴァルキューレ警察、もしくはその他の人々の予想をはるかにこえて、レッドウィンターの社会主義の考えに染まった赤い生徒たちによく馴染んだ。

 

絶対に例外を認めない冷徹な態度。全ての生徒、貧富に関わらず平等に接する博愛性、そして、絶対に賄賂を受け取らず、自らの信念のみで行動する高潔さ。

 

他の学園や連邦生徒会と関係の薄かった彼女らにとって杉下サキョウは「絶対に間違えない独裁者」としての彼女を期待した。

 

杉下サキョウはこの学園で、銃ではなく、言論によって抗議し、学則によって裁き、冷徹をもって執行することを急速に進め、この学園で初めての議会をつくった。

 

党大会ではない。議会である。人々の平等な、議会である。

 

議会で一番最初に可決されたのは、銃器の使用規制であった。

 

これにより、この学園はサキョウが去るまでの約二年間、全くの銃声がなく、誰1人として泣くことのないというようなことはできなかったが一度のクーデターも起こされることなく、平和な時代が続いた。「奇跡の二年間」と呼ばれた。

もっとも、この学園でのクーデターというものは正当な手段であり、いくら暴力的だといっても誰1人死者が出ることはなかったのだが。

 

初代議長は杉下サキョウである。次の議長はいない。議会がクーデターで崩壊したからである。しかし、サキョウの功績は無駄ではなかった。彼女らに蒔いた対話の精神はいつしか、必ず実を結び、その時にこそ真価を発揮するのだろうから。

 

 

ある日、サキョウはそのような議会崩壊のことなどまるで知らずにいつものように議長としての仕事を完うし、議長室に引っ込んだ。

 

この極北には杉下サキョウの好物である紅茶など栽培できないものだから、トリニティから取り寄せた紅茶に苺の甘いジャムを入れて一口含んだ。

苺の酸味とジャムの甘味が紅茶の香りによく合った。

サキョウにとってはもはや、この紅茶こそがオーソドックスであると思われるほどに時間は経っていた。

 

コンコンコン

 

「どうぞ」

 

赤色で縁取られた重厚なドアが開かれた。

その途端に極北の冷たい、何物も拒むかのような冷風がサキョウの部屋を吹き荒れる。

 

「議長閣下!ゲヘナ学園から閣下宛の手紙が届きましたのでお届けにあがりました!!」

 

白の詰襟に赤いラインの入った社会主義的な制服に身をまとった事務官が手紙を差し出した。

 

ゲヘナ学園のものにしては重厚でザラザラとした紙だった。送り主は書いていない。

 

「どうも有難う、それといつも話しているのですがねぇ、閣下呼びはしなくてもいいですよ」

 

「はい!閣下!!」

 

ドアが静かに閉じられた。

 

ペーパーナイフで丁寧に開け取り出すと、これまた金線で彩られた紙にはこのように書かれていた。

 

 

 

レッドウィンター連邦学園議会議長 杉下サキョウ様へ

 

お久しぶりです。2年前お世話になった雷坂です。

あのレッドウィンター連邦学園で議会をつくり、それも議長を務めてらっしゃったと伺い驚きましたが、あのサキョウ様ならばありえるかと思って感慨に耽っておりました。

この度私事ではありますが、ゲヘナ学園の万魔殿の議長に就任することになりました。その栄達から、雷帝などという光栄な二つ名もいただき、喜びに震えております。

ささやかながら祝宴を開きますので、杉下サキョウ様をゲヘナ学園へ主賓としてお呼びし、2年前のご恩を返したく存じます。

 

ゲヘナ学園万魔殿議長 雷帝より

 

 

「おや、あの生徒が議長までに上り詰めましたか、驚いたことですねぇ」

 

 

もはや紅茶などとうに冷めてしまっていた。

 

 

 




杉下サキョウ新章!! ゲヘナ雷帝編鋭意製作中!!!公開日未定 乞うご期待!!!
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