相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー   作:ほくほく亭ともを

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姉妹たち

3時45分。トリニティ総合学園行きの急行列車は音もなく終点のホームに滑り込んだ。

杉下サキョウは一つため息を着くと、立ち寄った店で着替えたツイードのスリーピースジャケットの埃を払うと、キャスケットを被り直し、2等客室の窓から見える本キャンパスのあたりをチラリとみた。

 

そびえる大聖堂に尖塔の目立つ本校舎、そして小さな古書館。どれも懐かしいものだった。

 

「・・・まさかまたここにくることになるとは。わからないものですねぇ」

 

そうつぶやくと、サキョウは懐中時計を開くと、やや早歩きで列車を後にした。

 

美しく、また人工的に整えられたメタセコイヤの並木が続く大通りを歩く。この大通りをまっすぐ行くと、ティーパーティー(生徒会)の本拠地である本校舎にたどり着く。今回の目的地は、ある意味あそこなのかもしれない。

 

しかし、サキョウの目的地はそこではなかった。

 

三番街を右手に、ヨハネ通りを左に曲がる。しばらく歩くと、駅で見たよりもはるかに大きく、大聖堂がサキョウの目前に現れた。

 

サキョウは固唾を飲むと、開け放たれた大聖堂の扉から内に入った。

 

大聖堂の中はがらんとし、あるのは祭壇と椅子、そしておびただしいほどの絵画に彫刻であった。

 

目の前に木のテーブルで仕切られた受付が目に入った。

 

シスター服を頭まで被った少女が突っ伏して午睡をとっていた。

 

喉が渇く。

 

「______サクラコ?」

 

起こさぬようにそっと近づくと、サキョウは震える手をそっとシスターの肩に乗せようとした。

 

「__ん?お客様ですか?」

 

ヘイローが点滅し、濃いルビー色の双眼が開く。立ち上がると、サキョウはその生徒の肩、もしくは胸元ほどまでの背丈しかなかった。

 

サキョウはやや動揺しながら手を誤魔化すように懐中時計の方へ戻した。

 

「おや、見たことがある気がしますねぇ、あなたはひょっとして___」

 

「はい、シスター・サキョウ!お久しぶりです!」

 

そういうと若葉ヒナタは豊満な躰の前で手と手と絡ませた。

 

サキョウは金のコインをテーブルの上に置き、手で滑り出すと、

 

「”天の光が私たちを守り、この尊い姉妹をその庇護のもとに置いてくれますように”」

 

と意味ありげにつぶやいた。

 

ヒナタは我が意を得たりとした様子でうなづくと、STAFF ONLYと銘打たれた扉を開けた。

 

スタッフしか入れない。という通路にしては、聖堂の中よりも豪華に見える通路を彼女について歩く。

途中、色々な人の自画像も多く描かれてあるのがわかる。十中八九、シスターフッドの代表の肖像画とかそこいらだろう。

 

サキョウは、もう卒業したあの副代表、シスター・イノリの肖像画がどこかにないのか目を皿のようにして探したが、結果として見つけることはできなかった。

 

「ところでヒナタさん」

 

「どうしましたか?」

 

ヒナタはサキョウの方を振り向くと、不思議そうに首を傾けた。

 

 

「いえ、そんな重要なことではないのですがねぇ、随分大きなカバンを持っておられると思いましてね?よければ何が入っているのか教えていただいてもよろしいですか?」

 

「ああ、そんなことですか」

 

そういうとヒナタは、どすんと重そうな音を立ててカバンを置くと、色々な雑貨を取り出し始めた。

 

「えっとこれが大聖堂の彫刻の模写、それにレポート。。。あとは___」

 

そういうとヒナタはグレネードランチャーと拳銃を取り出した。

 

「はい!全部でこれだけです!」

 

聖堂の廊下は、今からフリーマーケットでも始まるのかとも言わんばかりに多種多様、さまざまな物品で溢れた。

 

「よくそんなに持ち歩きますねぇ」

 

サキョウはその光景を前に苦笑いを浮かべた。

 

「えぇ、こう見えても聖堂の物品管理責任者なので!」

 

____________________________________________

 

重厚そうな扉の前で、ヒナタは足を止めた。

 

「こちらになります。副代表は中に」

 

軽く会釈をすると、ヒナタは静かにその場を離れた。

 

そして、ノックを3回。

 

「___どうぞ」

 

懐かしい声だった。ゲヘナで一度会って、話をしたはずだったが、それでもなおこの響きはサキョウに懐かしく聞こえた。

 

部屋の中は簡素だった。大聖堂の荘厳さ。豪華絢爛な装飾とは対照的に、置かれているのは最低限の机と椅子、そして壁一面にびっしりとつまれた本だけだった。

 

窓から差し込む柔らかな光の中で、一人の少女が書類に身を落としていた。

 

そばにはほかほかと暖かそうな湯気を放つティーカップが添えられていた。

 

 

「___お久しぶりです、サキョウさん。いえ、久しぶりといっても半年ぶりほどですが___」

 

サキョウは帽子を軽く持ち上げる。

 

「ええ、本当に。久しぶりですねぇ、サクラコさん」

 

わずかな沈黙がこの狭い部屋の中に響いた。時計の針の音だけがやけに大きく聞こえた。

 

「半年前も思いましたが、随分と雰囲気が変わられましたねぇ」

 

「そちらこそ」

 

サクラコは微笑む。

 

「レッドウィンターで議長を勤めていらしたとか。噂もこちらに届いております」

 

「おや、悪い噂でなければ良いのですが」

 

「ええ、とても()()なものばかりでしたよ」

 

サキョウはそれを受け流すように、室内を一瞥する。

 

「副代表、ですか。ずいぶんと出世なさった」

 

「___望んだ結果ではありません」

 

部屋の湿度が些か上がったように感じられた。

 

サキョウは翡翠色の目を細める。

 

「なるほど」

 

そして、懐中時計を取り出し、パチンと閉じた。

 

「では本題に入りましょうか」

 

「そのことでしたら担当の人がいるのですよ」

 

そういうとサクラコはブザーを鳴らした___と同時に何やら騒がしくなる部屋の外。どすどすと音が聞こえたと思うと___

 

 

「サキョウ!」

 

弾丸が発射されるほどの勢いで扉が乱暴に開かれ、サキョウの体に何かが突進した。

 

ロングスカートのワンピースにビブエプロンを備えた長身。

蒼い長髪に特徴的なシールド。

 

あわや窒息せんと口をぱくぱくさせているサキョウを抱きしめているのは、当時の事件に大きな貢献を果たした蒼森ミネであった。

 

「あれ?サキョウさん、どうしたのです!そんな青い顔をしてっ、ああ、わかりましたわ!シスターフッドがまた何かしたのですね!?これだからシスターフッドは___私がいない間に私のサキョウに何をしたのです!サクラコ副代表!今日の今日こそ全て吐いて______」

 

「お、落ち着きましょうミネさん!サキョウさんが天に召されてしまいますわ!まだこの方には為すべきことが___」

 

 

 

それから、蒼森ミネが落ち着くまでには30分ほどの時間がかかった。

 

「で、ミネさん。サキョウさん。もう大丈夫ですか?」

 

「えぇ、お気遣いなく。私よりもこのミネさんをなんとかしていただきたいのですがねぇ」

 

そういうとサキョウは隣に密着して座ったミネを迷惑そうに見た。

 

「いえ、私はこのままで結構。またサキョウさんがどこかに行ってしまうかもしれませんから」

 

ミネは胸を張って、さらにサキョウに絡みついた。

 

サクラコは小さくため息をついた。

 

「・・・相変わらずですね、ミネさんは」

 

「はい!これが通常運転です!」

 

胸を張る峰に対し、サクラコは軽くこめかみを抑えた。

 

「誇るところではありません」

 

ピシャりと言い切ると、改めてサキョウへと視線を戻した。

 

「さて、本題に戻りましょう」

 

サキョウは軽く肩をすくめる。

 

「ええ、ぜひ」

 

ミネが絡みついたままなのをそのままに、懐中時計を指で弄ぶ。

 

「それで?シスターフッドの担当がヨハネ分派のミネさんとは、面白いことがあるのですねぇ」

 

ミネはため息をつく。

 

「私だって何も知らない。サクラコが今日来てって言われたから来ただけ」

 

「えぇ」

 

サクラコは一枚の書類を取り出し、机の上に滑らせた。

 

「率直に申し上げましょう、ミネさん、サキョウさん」

 

覚悟のこもった目を両者に向けると、重々しく口を開いた。

 

「___シスターフッド自治区を守っていただきたいのです」

 

ミネの腕の力がわずかに緩む。

 

「・・・守る、とは?」

 

サキョウが問い返す。

 

サクラコは一息を解くと、言葉を選ぶように続けた。

 

「文字通りです。外部からの脅威__いえ、それよりかは()()?もっと上の___」

 

「率直に。サクラコさんの悪い癖ですよ」

 

ミネの視線がサクラコを刺す。

 

サクラコは力なく首を振ると、やや諦観した様子で語り出した。

 

「___ヴァルキューレから、連邦生徒会から、そして___トリニティから___守ってほしいのです」

 

「待ってくださいサクラコさん。なんの話をしているのか、一体______」

 

ミネは困惑した様子で髪に触れる。

 

サキョウもまた同じような疑問を感じていた。

 

サクラコは書類を二人に渡す。

 

「半年前。あの『雷帝』がゲヘナの頂点に立ってから、シスターフッド自治区へ対する領域侵犯が相次いで報告されました。それも、他の自治区ではありえないほどに。ゲヘナによる領域侵犯はこれまでにもありましたが______」

 

「それじゃあ、ゲヘナから守ればいいんじゃないの?」

 

「まあ落ち着いてミネさん。話は最後まで」

 

「それで、ここから話は変わってくるのですが___」

 

サクラコの視線が宙を漂い始める。

 

「あまりにも領域侵犯が多すぎるあまり、とうとう連邦生徒会___あの一年生ですでに実権を握った、『連邦生徒会長』の疑念をかけられたようで、ヴァルキューレの本部が直々に捜査することになったのです__もしかしたらSRTも」

 

「おや、そうですか。それはよかったですねぇ」

 

明らかに動揺を隠しきれないサクラコを見たサキョウはいよいよ目を細めた。

 

「でも、一つだけ。よろしいですか?」

 

「ええ、何なりと」

 

「トリニティ総合学園はその存在意義から、連邦生徒会やヴァルキューレの介入を好ましく思わないはずです。どうしてまた?」

 

「そこです。そこなのですサキョウさん!」

 

サクラコは珍しく大声を上げた。

 

「シスターフッドがこの学園の統治から離れて長いことが経ちました。今やティーパーティーにはシスターフッドは見る影もありません。そのうえで、()()()()()()()()()()()()に領域侵犯が頻発したら?」

 

そこまでいうと、サクラコは冷め切った紅茶を一口のみ、電話で紅茶のおかわりを依頼した。

 

「頻発したら?」

 

「シスターフッドは疑われるでしょうねぇ。さまざまな理由で、さまざまな相手から。サクラコさん、ジャムの手配もお願いします」

 

「ええ、わかりました」

 

サキョウの頭脳はズイズイと音を立てて加速していく。

 

「しかしですねぇ、サクラコさん。それだけなら、シスターフッドが特に何かする必要はないでしょう、何か隠していることがあるのでは?」

 

サキョウはサクラコの真正面から、サクラコのルビー色の瞳を貫いた。

 

「_________はあ、やっぱりサキョウさんには敵いませんね、もう三年が経っているというのに」

 

「ではそうなんですね!シスターフッドが爪を剥いだり、拷問しているという噂は!サクラコさん!そんなことのためにあなたはサキョウさんを___!」

 

今にも飛びかかりそうなミネ。

室内の空気はさっきと打って変わって、どこか殺伐とした空気が支配した。

 

「違います!私はそんなことのために___『サクラコ様、今紅茶を__』」

 

おもむろにドアが開かれ、猫耳の形をしたシスター服を被った栗毛の生徒がノックもなく入室してきた。

 

サクラコの間近まで迫り、今にも殴りそうな殺気を放つミネ。半ば抱きつくようにして抑えるサキョウ、そして俯きながらも、応戦の姿勢を崩さないサクラコ。

 

そんな姿を見た、無垢?で清らかな猫耳のシスターは______

 

ぽっと顔を赤らめて、いそいそとティーポットやらジャムやらを置くと、信じられない速度でお辞儀をし、パタンとドアを閉めてしまった。

 

 

___ぱたん。

 

 

ドアの閉まる音が、妙に大きく響いた。

 

数秒の沈黙。

 

「・・・・今の、何?」

 

「見ての通りですよ」

 

サキョウは少しおかしそうに答える。

 

「”余計なものを見てしまった時の典型的反応”ですねぇ」

 

「いやそういうことじゃなくて!」

 

ミネは頭を抱える。

 

サクラコは深く息を吐いた。

 

「___失礼しました。話を続けます」

 

「先ほどの件ですが、シスターフッドが疑われているのは、単なる管理不行き届きでもなく、領域侵犯でもありません」

 

サキョウの指先が、懐中時計の縁を軽く叩く。

 

「ほう」

 

「まず前提として__ゲヘナによる領域侵犯が、ここ最近”異常な頻度”で発生しています」

 

「それはさっき聞いた」

 

ミネが言う。

 

「雷帝が勝手に動いているんでしょ?」

 

「えぇ、おそらく」

 

サクラコは肯定する。

 

「ですが問題はそこではありません」

 

「その動きが”あまりにも都合良く利用されている”のです」

 

サキョウの指が止まる。

 

「___続けてください」

 

「連邦生徒会は、この状況に対し即座に疑念を表明しました」

 

「まあ、当然ですねぇ」

 

「ええ。そして___」

 

サクラコの声がわずかに低くなる。

 

「ヴァルキューレに調査権限が与えられた」

 

ミネが顔をしかめた。

 

「それも聞いた。でもそれって、普通じゃない?」

 

「普通であることには、普通です」

 

サクラコは静かに答える。

 

「”それ単体であれば”・・・ね」

 

その一言に、空気が変わる。

 

サキョウはわずかに笑った。

 

「なるほど」

 

「雷帝は独自に動いてるだけ」

「連邦生徒会は疑念を持っただけ」

「ヴァルキューレは調査しているだけ」

 

一つ一つ、指で数える。

 

「これらが同時に、同じ場所に集中していると」

 

沈黙。

 

サクラコは何も言わない。

 

「つまり、偶然が重なっていると?」

 

ミネが呟く。

 

「いいえ」

 

サキョウは即座に否定した。

 

「重ねられているのですよ」

 

ミネの背筋がぞくりと震えた。

 

「誰かが・・・?」

 

サキョウは首を振る。

 

「ここからはあくまで、私の憶測ですがね」

 

「少なくとも、連邦生徒会とヴァルキューレ、そしてトリニティ当局はグルでしょうねぇ」

 

今度はサクラコが驚く番だった。

 

「え?私はてっきり、みんな結託しているのかと___」

 

「えぇ、そう思うのも無理はありません。しかし考えてもみてください。半年前の雷帝のあの即位式じみたレセプション。あの時に連邦生徒会は一人も来なかった___とすると、雷帝と連邦生徒会が手を組むのはないでしょうねぇ」

 

サクラコは驚くような顔を浮かべた。

 

「でも、それでも、今のこの状況は変わらないじゃない」

 

ミネは大きく伸びをすると、呆れたように呟く。

 

「だって、要するに、連邦生徒会もヴァルキューレもトリニティもゲヘナも、シスターフッドに何かあるか調査してるわけでしょ?」

 

「ただの一枚岩でないことは明らかですねぇ」

 

サキョウが言う。

 

紅茶にジャムを入れると、純銀のスプーンでどこか迷うようにかき混ぜた。

 

「少し考えさせてください」

 

そう言うと、サキョウはキャスケットをつかむと立ち上がった。

 

「そうですか・・・」

 

明らかに落胆した様子で、サクラコはソファにもたれかかった。

 

「では、外まで見送ります」

 

「ここで結構。近くのホテルに宿泊しているので、何かあればそこに」

 

名刺をサクラコとミネに手渡すと、音もなく去っていった。

 

____________________________________________

 

サキョウが戸外に立つと、さっき紅茶を運んできた猫耳のシスターが壁にもたれかかっていた。

 

「おや、先ほどのシスターですか。どうもすみませんねぇ、変なところをお見せして」

 

「い、いぇ__こちらこそノックもせず___」

 

シスターは両手で顔を覆ったまま答えた。

 

「どうされましたか?どこかしんどそうに見えますが・・・」

 

サキョウはそういうと、シスターの栗毛を心配そうに見つめる。

 

「その、ここではなんですから、散歩でもしながらいかがですか?」

 

伊落マリーは顔を赤らめたまま、サキョウの後ろの壁を見ながら言った。

 

 

大聖堂正面から見て右手には、トリニティでもかなり古い、それこそ数世紀前から存在するであろうバラ園がある。

 

薔薇が咲くには些か早い時期ではあるものの、一部の花は美しく咲き誇っていた。

 

マリーとサキョウは、その甘ったるい香りの中、二人だけで散策していた。

 

「もう秋ですか、秋といっても薔薇が咲くにはまだ早い気がしますがねぇ」

 

「ええ、数世紀前からシスターフッドが品種改良を重ねた結果です。夏に咲く薔薇もいいものですよ?」

 

マリーは事務的に答える。

 

「それにいい天気だ。秋晴れですねぇ」

 

「そうですね」

 

ぎこちない様子で、マリーはサキョウの雑談に乗っている。

 

「ところでマリーさん」

 

「ええ、なんでしょう」

 

「そんなことのために連れ出したのではないでしょう、何か話したいことでも?」

 

バラ園に若干の沈黙が走る。

 

しばし逡巡するように項垂れていたマリーはそっとサキョウの袖口を掴んだ。

 

「その、サキョウさんはどちらを選ばれるのでしょう」

 

「どちら?」

 

サキョウは意味がわからないとばかりに首を振る。

 

「ええ、その、確かにミネ様は魅力的です。救護騎士としても有名ですし、真っ直ぐで優しいお方なのは重々承知してます。ですが___」

 

マリーは自らのスカートを掴むと、こう続けた。

 

「サクラコ様も、負けてはいないと思うのです。確かに、ちょっと怖いところはあるかもしれないのですが、その。なんというか___」

 

「待ってください、マリーさん。一体何がどうなっているのか___」

 

「その、シスターがこのような不埒なことを言うのは間違っているとは存じているのですが、」

 

そう言うとマリーはいよいよ全身をゆでだこのように赤くした。

 

「サクラコ様とミネ様が、ある一人の少女を取り合っているとか、ああいや!もちろん私の妄想ではなく、そんな噂をついこの間耳にしてしまったのです、そして、今日、ミネさんを必死に抱きしめるサキョウさんを見て確信しました、きっと三人ともお辛い思いを___」

 

火力を上げすぎた暴走機関車のように、マリーの妄想は止まることを知らない。耳から蒸気が見えるのではないか、といった具合である。

 

「待ってください、それは誤解で」

 

そこまで言うと、サキョウは考えを巡らした。

 

『待てよ、シスターフッドとヨハネの生徒が一緒に行動していることがティーパーティーにバレたら、さらに疑念は大きくなるに違いない。ここは噂通りに___』

 

「誤解?」

 

マリーは不思議そうに尋ねる。

 

「ああいえ、__こほんっ誰にも言わないようにお願いしますね?その、センシティブな話題なので___」

 

「ではそうなのですね!」

 

マリーはサキョウの両手を掴むと、ブンブン振った。

 

「あの、サクラコ様は本当にいい人なんです!どうか、サクラコ様をお願いします!!」

 

元気にそう叫ぶと、マリーはバラ園を駆けて行ってしまった。

 

サキョウはキャスケットについた花弁を払うと、苦笑いを浮かべた。

 

「ややこしいことになりましたねぇ」

 

そう呟くと、ホテルの方へスタスタと歩き去って行った。

 

 

 

_________シスターフッド自治区にヴァルキューレの捜査官が着任したという知らせが届いたのは、ちょうど二日後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




三月だと言うのに、暑くなったり寒くなったり大変です。感想ありがとうございます。誤字報告もいただきまして、とても嬉しく思います。また感想評価等どしどしいただけたら嬉しいです!!
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