相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー 作:ほくほく亭ともを
警察学校の日々はなんともなしに過ぎていった。
朝の6時に起きて、朝礼。午前は座学で午後は実技という名の拷問。
我らが教官殿であるユラ教官は、初めこそニコニコしていたが入校式が終わった途端人が変わって、鬼になられてしまった。
なんの本で読んだか忘れてしまったが、兄が鬼になった妹を治すために頑張る話があるらしい。それでいうと我々は鬼になった教官を人間にもどすために頑張っているのだろう。
六ヶ月という期間はあまりに少ない期間だった。
SRT特殊学園の生徒と演習をしたり、100キロマラソンをしたり、カンナと休日に遊びに行ったり。
そして今、私たちは警察学校初等科を卒業する___
「あっという間だったね、カンナさん」
「ああ、笑顔の練習もうまくいかなかったな」
残念そうに語るカンナだが、笑えば笑うほどクラスメイトに怖がられてるんじゃあどうにもならない。
卒業間近には、「狂犬」などとあだ名が付けられてしまった。
「もう諦めて、公安局に行くよ。公安局からスカウトも来たからね。『君にしか公安局はできない!!』とか言ってたしな」
「生活安全局はもういいの?まだ中等部だけど、一回局を決めてしまったらよっぽどのことがない限りもう変更できないよ?」
ヴァルキューレ警察学校は不思議な決まりがあって、一度決めた局に入ってしまえば、その局内での人事はあるが、他の局にはもう入れないのだった。
どうやら専門性を高めた生徒を増やすためらしい。
「ああ、もういいんだ。人には人の向いてる道があるからな。でもありがとう。」
「何が?」
そういうとカンナは、ニカリとサメのような笑みを見せて、私の頭を撫で回した。
「生活安全局に行きたいって話した時に賛同してくれたのはサキョウだけだった。これからも公安局として助けてくれ」
なんだか恥ずかしくって、子供扱いされてるような感じがして、悔しくって、でも、嬉しかった。
「うん!よろしくね!!」
「う゛ん゛!!う゛ん゛!!よ゛か゛っ゛だ゛ね゛え゛!!ふ゛た゛り゛と゛も゛お゛お!!!」
ユラ教官が二人で話し込んでいる私たちを見つけて号泣しながら肩をバシバシ叩いてきた。
「きょ、教官、何もそこまで泣かなくても……」
カンナが呆れたように笑う。
「まあいいじゃんカンナ、教官らしくてさ。ユラ教官?もうすぐ生徒の配属先の発表がありますよ?教場に戻りましょう!」
「う゛ん゛わ゛か゛っ゛た゛あ゛」
これじゃあどっちが生徒かわからないなとカンナと笑いながら教場につく。
教場のみんなもわんわん泣くユラ教官を見ながら、
せんせー何泣いてんのー、とか、教官殿が人間に戻った!!とかよろこぶ声が聞こえる。
でも一番気になるのは……進路だ。
キヴォトスは学校自治区の集まりである。すなわち、学校ごとに治安組織があって、警察が介入することは厳しい。
よっぽどのこと、たとえば学園間で紛争が起こって、それの取り締まりをするとかだったら話が変わってくるが、自治区に介入して逮捕権を執行しようとするとやはり文句を言われる。
それは___おかしい。キヴォトスで逮捕権を執行するのはヴァルキューレ警察学校か、SRT特殊学園だけのはずだ。SRTも正直のところ、警察というよりかは連邦生徒会長の私兵だからなんとも言えない。
そこの兼ね合いからか、大体の警察業務は他の自治区ではあまりできない。
そのような理由から、ヴァルキューレ警察学校シラトリ署や、他の学校が統治していない警察署に配属になることを望む生徒が多いのだ。
そんな中で私は……
「では、まずあまり人気がな…ごほん、希望者がすくなかった警察署の配属命令から発表していきます。トリニティ総合学園自治区管区、・杉下サキョウ」
えーーーー!と驚き声が上がる。無理もない。トリニティ総合学園は陰湿ないじめやらなんやらで、取り締まろうとしても圧力をかけられてまともに仕事できないことで有名なのだから。
カンナも驚いたように私を見ている。
「サキョウ……その、大丈夫なのか?トリニティは中々精神にくるとかいうが……」
「うん、大丈夫だよ、ずっとトリニティにいるわけでもないしね」
私がトリニティに決めた理由。
それは完全に、紅茶とか注いだり、イギリス通の杉下右京さんに憧れてのことだった。スコットランド・ヤードとかかっこいいしね!!
そんなこんなで発表が続く。ゲヘナに決まった生徒?さっき気を失って担架で運ばれていったよ?
そして本命の、ヴァルキューレ警察学校本部付の生徒。
警察学校の中でもエリートが行く場所だ。前世では、キャリア警察官と言ってもいい。
「ヴァルキューレ警察学校本部・尾刃カンナ!!」
やっぱりカンナが選ばれたらしい。ずっと頑張ってたもんね、カンナ!!
「……お前が配属を出していたら行けていたろうに……」
「ん?何か言った?」
歓声の中、カンナさんが何かを言ったらしいが何を言ったかわからなかった。
「いや、いいんだ。トリニティと本部でお互い別れるが、同じ公安局だ。よろしくな。」
「うん、よろしく!!」
そして、短いようで長かった警察学校を卒業して、私たちは新たな持ち場へ向かうのだった……
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いつからだろう。こんなに劣等感を抱くようになったのは。
小さい頃に見たお巡りさんがかっこよくって、お巡りさんを目指した。
でも、お巡りさんになるんだーって誰に話しても、「そっかあ、立派な刑事になるんだね!!」と、俗にいうお巡りさんのような、生活安全局に行くことを応援してくれるような人はいなかった。いや、素直に話せていれば応援させていたのだろうか。でもまあいい、公安局に行くことになったのだから。
遠くの署に行く生徒はもう寮を出て、残っているのは全体の1割にも満たない。
サキョウはもうトリニティに行ってしまった。
ハイランダー鉄道学園の駅まで見送って行ったからそれは確かだ。
残ってくれるという選択肢はなかったのだろうか。警察学校ではあんなにずっと理解してくれて、応援してくれて。
私は一人、薄暗い寮の個室で一人蹲っていた。
今思えば生活安全局に行ってお巡りさんになりたい。という願いをあの綺麗な翡翠色の目を大きく開きながらうん、うん、と聞いて、そのために色々してくれたのは彼女しかいなかった。
それでいて、警察学校では彼女が一番勉強ができたし、強かった。実技の実弾演習でも明らかに手を抜いていた。
なぜかと聞いてみたことがあったが、
「あれが実力だよ?カンナさんは私のこと買いすぎだって!!」
といつもの明るさで笑っていた。
そこまで考えて私は気づいてしまった。否、気づかされてしまった。
憎い。あの性格が、才能が、憎い。自分に才能がありながらトリニティに行って、理解者のいない本部に私を残していってしまうのが憎い。
見た目は怖くても、成績は良くて、仕事できる警察官になろうと思ったのに、それをみんな手に入れてあの子は行ってしまった。
トリニティに行っても帰ってくると話していたが、これまでの慣例的に厳しいだろう。
一度別の管区になってしまったら、そこから本部に帰るには情報部に転籍するか、よっぽどの功績を残さなければならないのだから。
それが、
憎い。本当に憎い。こんなになった私を置いて、小包一つ渡して去るなんて。
___もういっそ、壊してしまおうか___
ベッドからゴロンと起き上がるとカンナは、そばのテーブルに大事に置いた小包を震える手で開けた。
やけに丁寧な包装を一枚一枚丁寧に外していく。
__________中に入っていたのは、肉球のマークが一つだけついたマグカップ______
不意に涙が溢れた。
「………憎いってなんだよ……」
そっとテーブルに戻すと膝を抱える。きつくシーツを結ぶ手が震える。
「憎いのは私自身じゃねえか………」
カンナさんが病んでしまいました!どうしましょう…でも大丈夫!カンナはこれからキャリア警察官として出世するもんね!よっ!未来の公安局長!
サキョウちゃんは杉下右京を目指していってしまいました。ここからサキョウちゃんの杉下右京化が進むのか……!!
乞うご期待!!