相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー   作:ほくほく亭ともを

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トリニティの友人たち

列車に揺られてはや3時間。

私はというと、何もすることがなくて困っていた。昼食ももうすでに食べてしまったし、杉下右京よろしく高い位置から紅茶を淹れていると乗務員に、

 

「列車内で何をされているのですか?ご麗人」

 

と睨まれてティーセットを取り上げられてしまった。規律正しいのは伝統校らしくて良いのだが、もう少し自由であってもいいと思うのだが(列車内での杉下右京飲みは客車を汚してしまうかもしれないので良い子はやめましょう)。

 

トリニティに来て、というか、トリニティを経験してから考えてみるに、局長が二等列車に乗るよう指示したのは大いに納得できる。

 

一等列車はおそらくティーパーティーやシスターフッドをはじめとする派閥人が乗るから、できる限りそれから遠ざけるためが3割、公務を執行する立場の人間が一等列車に乗って非難されないようにするのが2割。後の5割は大方、できる限り経費を削減したいという考えだろう。

 

とはいえ、別に上流階級でもなんでもないから気にも留めないが。

そんなことよりも怖いのは、今来ているこの服だ。さっきのチケット作戦を敢行した生徒はなんといった?確か一握りの人しか着れない、とか話していたような気がする。

一握りの人しか着れない。を意訳すると、すごい金持ちか貴族しか買えない。と考えることはできないだろうか。

そして、あのテーラーショップのキツハさんの

 

『代金は給料から天引きしますからね♡』

 

を加味すると、今後二年くらいは本当にもやし生活になるかもしれない。

 

「…せっかくトリニティに来たのに……」

 

サキョウはそう呟くと、窓に映る美しいトリニティの原風景を眺めながらひとまずは寸暇を楽しむことにした。

 

____________________________________________________________________

 

『次は、ヨハネ自治区立学園前、ヨハネ自治区立学園前です。お降りのお客様はお忘れ物にご注意ください。』

 

もくもくと黒煙を吐く汽車は紅葉の始まりつつある木々を抜けて、控えめながらも伝統と優美さを感じる駅に滑り込んだ。

 

ヨハネ自治区。トリニティ総合学園の中でも、名門とされるヨハネ派が統治する自治区だ。

トリニティ総合学園は多くの派閥の学校が乱立していたのを公会議によって一つの連合にまとめたという歴史がある。

ティーパーティーが三頭政治を行っているのも、派閥間の諍いが多いのも、ヴァルキューレの生徒に人気がないのもこのせいであろう。

 

特にシスターフッド。私、杉下サキョウの後ろ盾となってくれる組織。

シスターフッドは政治に不可侵であるという話だが、一体どこまでが本当だろうか。それに「秘密」も多いと聞く。こんな学園の警察官としてやっていけるのだろうか?

 

そのようなことをつらつらと考えていると、停車時間はすでに過ぎてしまったようで、また汽車は唸り声をあげて太陽のように磨き上げられた駅を走り出した。

 

「……トリニティ情勢複雑怪奇とはよくいったものだ……」

 

「ご麗人、ここ座ってもいいかしら」

 

顔を上げると通路から私を覗き込むようにして立っている生徒が見えた。

 

ロングスカートのワンピースにビブエプロン。蒼く、長い髪の上には医療従事者であることを表す帽子。そして、私とよく似た翡翠色の目。

 

「ええ、どうぞ」

 

特別、断る理由もなかったので手で前の席に座るように促した。

同乗者は頷き、大きな盾をいそいそと私の隣の空いているスペースに積むと目の前の席にどかりと座り込んだ。

 

「助かりました。予約はしていたのですが、向こうの手違いで席が埋まってしまっていて」

 

「おや、そうですか。それは災難なことでしたねえ」

 

「私は蒼森ミネと言います。トリニティ総合学園・ヨハネ分派の救護騎士団・中等部一年です。」

 

そういうと、ミネは通りかかった乗務員に紅茶を注文した。

紅茶に造詣が深いと見えて、詳しく注文している。それに対して乗務員は、『それするんなら一等列車に乗れよ……』と言わんばかりの顔をして困ったように注文を受けているが、さすがヨハネ分派の制服を着てるだけあって嫌味の一つも言われずに注文を終えた。

 

「ところであなたは?格好からして随分優美な方に見えますが。今時、シルクハットにモーニング、おまけにステッキまで洒落込んで……そんな格好をするのは、サンクトゥス派の上流の方か、ヴァルキューレ・トリニティ(紳士たち)ぐらいだと思いますが?」

 

トリニティの生徒にしてはなかなかハキハキと話してくる性格らしい。何が本心で何が嘘かわからないトリニティでは、仲間につけた方がいい気もする。

 

「そうはおっしゃっても蒼森さん『ミネで結構』……ミネさん、あなたもロングスカートにビブエプロン。なかなかクラシックな服装でいらっしゃいますねえ。ここだけ見たら、汽車にモーニングにロングスカート。まるで百年か二百年前の光景のように思いませんか?」

 

「そのような話は結構です。それで?お名前は。私はそのような煙に巻くような話は嫌いですの。はっきりおっしゃっていただける?……まさか、話せないことでもあるというのですか?となると……」

 

そういうと手を顎に当て、私をジロジロ見ながら、あることないことをまるで本当にあるかのように呟き始めた。

 

そうこうしているうちに注文したティーセットを持った乗務員が歩いてきた。

 

「お客様、紅茶を持って参りm『バン!!』ひイ!!」

 

「あなた!!さてはサンクトゥスかシスターフッドの情報部でしょう!?シスターフッドがまた何か隠しているかは知りませんが逃しませんからね!さあ、吐いてください!!何が目的ですか!?」

 

バンっと強くテーブルを叩くと怒ったようにミネは立ち上がった。客車の中も、『情報部?どういうこと?』『あのご麗人が?』『あのご麗人かっこいいよね』と騒然とし始める。

 

「ま、まあ落ち着きましょう、ミネさん」

 

「落ち着けるわけがないでしょう!じゃああなたはなんですか!?何者なんですか!?」

 

随分と思い込みが激しいようで、何をいっても信じてくれなそうだ。怖がっている乗務員をチラリと見ると私は、

 

「まあミネさん。乗務員の方がお困りですし、まずは座って紅茶でもどうです?」

 

そこまで言ってやっとミネは気づいたのか、乗務員にさっと謝ると席についた。

 

 

「………それで?あなたは誰なんです?」

 

ティーカップを一気に傾けるとミネは雑にソーサーの上に置いた。

 

隠しても仕方がない。シスターフッドに会って後ろ盾を得るまでは隠しておきたかったが、このままパテル派に連れ込まれるよりかはましだ。

 

「ヴァルキューレ・トリニティの杉下サキョウです。よろしく」

 

ヴァルキューレ・トリニティ(紳士たち)でしたの、警察手帳はお持ち?」

 

警察手帳を胸ポケットから出すとミネに提示する。

 

「……確かに。ご無礼をお許しください、ヴァルキューレの方が本部からトリニティに来るなんて、私初めて聞きましたからびっくりしてしまって」

 

「おや、珍しいんですか?」

 

「ええ、珍しいも珍しい。本部の優秀な方がわざわざトリニティに来られるなんて……」

 

そういうとミネはグッとサキョウによると、

 

「……だってトリニティ、人気ないのでしょう?」

 

と悔しそうにささやいた。

 

「いくらヴァルキューレ条約があって、警察の方が治安維持行動を起こせると言っても、ティーパーティをはじめとする陰湿な輩に蹴落とされますもの。当然、来るのが嫌になりますわ」

 

ミネは同情するかのようにうんうんと首を振りながら一人納得をしている。

 

ヴァルキューレ条約。学校自治区の治安機関と警察がなんとか手を取り合って平和を保つために締結された条約だ。

一条に公的な治安組織との協力の許可、二条に単独での現行犯の緊急逮捕、三条に自治組織との捜査、そして第四条に学園間紛争の逮捕権が盛り込まれている。

 

「他の学校の自治区で逮捕権を執行すると、たいていはろくなことになりませんからねえ」

 

「……救護も一緒ですよ」

 

「はい?」

 

「救護する時はまず、救護対象を昏倒させてから救護するんです。でもそれをするといつも先輩に怒られて……お前は救護してるけど救護してないって」

 

「はい?」

 

「でも私は、それが救護だと信じています!敵味方関係なく救護する。そして敵味方関係なく、負傷者を生み出そうとする奴はまずは昏倒させる。これが私の救護です!」

 

「はい?」

 

「だから、サキョウさん?も頑張ってください!決して腐敗しない立派な警察官になってくださいね!!」

 

「ええ、どうも。ところで救護とはなんですか?」

 

「救護は救護です!救護がわからない方に救護はできません!!」

 

自信満々に高らかに叫ぶと、ミネは残っていた紅茶を一気に飲み干した。

 

____________________________________________________________________

それから私とミネさんはトリニティ総合学園駅に着くまで、色々な話をした。

ミネさんはやはり紅茶がお好きなようだ。対して私も、杉下右京さんに憧れて色々な紅茶を飲んだりしていたものだから大体の話はついていけて、長いはずだった列車の旅も気づけば終わりに近づいていた。

 

『次は、トリニティ総合学園前、トリニティ総合学園前〜トリニティ総合学園本キャンパスにお越しの方は次でお降りください。サンクトゥス自治区にお越しの方は3、4番乗り場でお乗り換えください〜』

 

とうとうついた。私の持ち場。憧れの場所。魑魅魍魎たちの街。

 

「サキョウさんは降りた後、やはりヴァルキューレ・トリニティ本部へ?」

 

「いや、まずはシスターフッドに挨拶へ。用事がありますからねえ」

 

「そうですか……後ろにシスターフッドが……事情があると思いますが、シスターフッドは政治不可侵と言いながらも裏で何をしているかわからない集団。気をつけたほうがいいでしょう。モモトーク交換しません?何かあればいつでも教えてください、救護!!しますから」

 

そういうのでミネさんとモモトークを交換した。トリニティでも珍しい、はっきりとモノを話せるタイプ。それに少し変な人ですが、面倒見が良くていい人なのだろうと思う。

 

「それじゃあ、また」

 

「サキョウさん、またね」

 

そういうと私とミネさんは駅で別れた。

 

本部のあるD.U.シラトリから時間にして24時間。遠い異国の地にとうとう新人警察官がやっと降り立ったのであった。

 

時刻は昼を少し過ぎたくらい。本部からやや北西に位置するせいか、それか秋のはじめのせいか、やや肌寒い。モーニングを着直してまずはシスターフッドに向かうことにした。

 

「シスターフッド、シスターフッド……確か大聖堂とか言ってたよね?これかな?」

 

駅から少し歩くと、トリニティのメインエリアとも言えるトリニティスクエアに辿り着く。古く厳しい建物が軒を連ね、遠くの方にトリニティ総合学園の本館が見える。あそこで日々、ティーパーティーやら救護騎士団やらが紅茶でも決めながら権謀を張り巡らせているのだろう。

最も、まだ学生。きっとそこまで政治はなく、学業に励んでると思う。そう信じよう。

それを考えるとやはり、警察学校はおかしいと思う。ヴァルキューレは六ヶ月の警察学校を卒業すると、後は全て実務で単位を得る方式らしい。高等部に入ったらまた課程があるらしいが、それでも他の学校よりも研究職か鑑識か、サイバー関係に行かない限り座学はマシだろう。

 

「大聖堂。ここか……にしても随分豪華な……」

 

ゴシック様式の大聖堂。前世でいうところのケルン大聖堂にそっくりだ。いくら見上げても終わりが見えない。

 

大聖堂の大きな門はすでに開け放たれていたので、革靴の音をコツコツと響かせなが入る。

 

受付のシスター、私と同じくらいの年齢だろうか。金髪に見える髪をウィンプルで隠し、金のエングレーブをあしらった白のフリルが付いたショートスカートのワンピーススタイル、少し透けたサイハイソックスと黒のブーツを着ている。

 

目はルビー色のように見えるが、光の加減でそう見えているだけかもしれない。

 

私はハットを脱ぐと、眠そうにしている彼女に話しかけた。

 

「一つだけよろしいですか?」

 

「んん…え!?すみません、少し()()()をしてまして…どうされました?」

 

寝落ちしかけていたらしい。それにしても怪しい笑顔だ。ことばの裏裏にに何か別の意図があるような……

 

「ええ、一つだけ。この大聖堂は大きいですねえ、いったいいつ頃にできたのですか?このようなところは私も好きでしてねえ」

 

杉下右京さんがやるように、人差し指を一本だけ立てながら話す。よし、完璧だ!

 

「ここですか?ここは今から200年前くらいに建てられました。昔は()()あって、ボロボロになってしまいましたが、今では()()()()()()()に助けていただいて、ようやく完成したのですよ。()()()()()1()の聖堂と言ってもいいかもしれませんね!」

 

自分たちの聖堂を褒められて嬉しくなったのか、少し早口に捲し立てるように説明してくれた。しかしなんだろう……やはりことばの節々に別の意図を感じるというか、ただの憶測というか……この生徒は少し警戒しておくに越したことはなさそうだ。

 

「それともう一つ質問があるのですが」

 

「ええ、なんでしょう?」

 

私は胸元から、シスターフッドの副代表への手紙を取り出した。

 

()()からこの手紙を、宛名の方に直に手渡してほしいとお願いされましてねえ、案内していただけますか?」

 

()()()に……知人からですか、わかりました、ご案内しましょう。ついてきてください。」

 

そう黒い微笑みを浮かべると、彼女は聖堂の『STAFF ONLY」と書かれた扉に向かって歩き出した。

 

スタッフしか入れない。という通路にしては、聖堂の中よりも豪華に見える通路を彼女について歩く。

途中、色々な人の自画像も多く描かれてあるのがわかる。十中八九、シスターフッドの代表の肖像画とかそこいらだろう。

 

「私は歌住サクラコと言います。シスターフッド中等部一年です。()()()()()()()()()。あなたは?」

 

そう振り返ると、私の全身を舐め回すように(してない)じろりと(してない)観察するようにして見つめてきた。

 

「……私はヴァルキューレ・トリニティの杉下サキョウです。何年生かなどについては、秘匿義務があるので失礼します。警察手帳はk……」

 

警察手帳を取り出そうとするとサクラコは必要ないとばかりに手を振る。

 

「ヴァルキューレの方でしたか、確かに、もしかしたらヴァルキューレの方かもしれないと思っていましたが、()()()()()()姿()でしたから私てっきり、()()()()()()()()()()()か、外の世界の()()()()かと思ってしまいましたわ」

 

「ええ、まあ、そうですか。どうも。警察手帳をお見せしなくてもよろしいのですか?もし私が悪いやつだったらあなたを捕まえてどこかに誘拐してしまうかもしれませんよ?」

 

サクラコは何か思案した様子で、持っていたままの手紙をチラリと見ると、

「まあ、そんなこと、だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、()()()に持ってきていただいた方をそんな目で見るわけには行けませんもの」

 

バレてるというか、素性を明らかにされているというか、もしかしてシスターフッドが政治不干渉を掲げているのは嘘で、実際は裏から操っているという噂は本当なのだろうか(嘘です)。

 

やはりここはシスターフッド。気を引き締めていく必要があるだろう。

 

しばらく歩いていくと、大きな広場に出た。

ヴェールを被った生徒たちがわちゃわちゃお話をしている。

一瞬視線が私に注目するが、それから何事もなかったかのようにまた話が続く。

 

中央に階段があって、2階に副代表の部屋があるようだ。

 

階段を上がって副代表の部屋の前につく。

 

サクラコが3度、ノックをした。

 

こん、こん、こん

 

「サクラコです。ヴァルキューレからの客人をお連れしました。」

 

「お入りなさい」

 

そう言われるとサクラコは、ドアを開けて促すように私を室内に導いた。




ミネ団長とサクラコ様の登場です!ミネ団長さすがですね……サクラコ様は全て善意で物を言っています.手紙の件も、なんかこの人オシャレなこと言うなあ……そうですわ!私もなんか言わないと!となってこれを言っています.才能がありますね

ヴァルキューレ条約は簡単に言えば、警察は自治区の人と一緒に逮捕できるよ!でも自治区の人が自治区の人を裁くね!と言う感じで、自治区の生徒が別の自治区の生徒に何かしない限り、ヴァルキューレは捕まえることができない.という決まりです.ただし、その自治区がヴァルキューレに引き渡す場合は捕まえれます.捜査も自治区の人の許可があれば合同捜査できます.

だから他の地区の警察は後ろ盾が必要だったんですね.
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