相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー 作:ほくほく亭ともを
サクラコに導かれるまま、杉下サキョウは部屋の中へ入っていった。
豪華なシャンデリアに色とりどりに光を反射するステンドグラス、そして古めかしい絵画……
そのような室内を想像していた彼女の視界に入ったのは、一見して無機質な、どこにでもあるような事務室だった。
ブラインドを指で少し開け、昼の太陽を眺めていた部屋の主人はゆっくり振り返ると、
「お待ちしていましたわ、サキョウさん」
とにこりと微笑んだ。
黒に近い深い藍色の髪を肩までのボブに切りそろえ、前髪を端正にまとめ、真っ白なシスター服を基調としたシスターフッドの制服を丁寧に着こなしている。
目は何もかも見通してしまいそうなほどに澄んだ鳶色の目だ。
「初めまして、杉下サキョウです。局長から手紙を持っていくように頼まれましてねぇ、これがその手紙です。」
サキョウはサクラコから手紙を返してもらうと、その部屋の主人にさっと手渡した。
「まあ、ご親切にどうも、サキョウさん。私は白峰イノリです。一応シスターフッドの副代表?になるのかな……あと高校三年生よ?よろしく。若いのに頑張っているのね」
イノリは後輩を見つめる先輩のような慈しみを持った目で赴任してきた警察官を見ると、優しく手紙を受け取った。
「サクラコさん、そこのレターナイフを持ってきてくださらない?」
「は、はい、わかりました」
サクラコも自分の所属している団体の、それも副代表という中学生からすると雲の上のような存在と相対しているか、緊張してしまっているようで、若干手が震えがちながらもイノリの後ろに立って恐る恐るナイフを差し出した。
「ありがとう」
そういうとイノリは局長からの手紙を取り出し、丁寧な仕草で読み始めた。
時折、ふうん、と品定めをするかのようにサキョウをチラリとみたが、それ以外は特になく、なんだか旧友からの手紙を楽しみながら読んでいる様子であった。
読み終えるとイノリはゆっくりと手紙を元の封筒に戻し、立ったままであったサキョウに座るように促すと、
「ヴァルキューレ警察学校の……それもD.U.本部の初等科を主席で卒業……なんて、優秀なことですね」
と感慨深げに話した。
サキョウがどう返そうか思案していると、続けて
「それにあの子がこれほどにまで気にいるなんて……局長になってから人間不信が加速したなんて電話でぼやいていたけど、そうでもないみたいね」
とくすくすと笑った。
いささか固く、重々しい空気だった室内の空気が若干和らぐ。
「で、では副会長、私はこれで……」
サクラコがやや恐縮げに挨拶をして、出て行こうとすると、イノリはさっと手を振って、
「別によろしいのよ?いてくださっても、ちょっと
「
お茶会でもするのかと思ったのだろうか、サクラコはお話と聞いて、やや嬉しそうに言葉通り受け取り、いそいそと戻ろうとすると、イノリはおかしくってたまらないと言わんばかりに笑い出した。
「なっ……急にお笑いになってどうされたのですか?」
サクラコはバカにされたのかと少しムッとした様子で食ってかかる。
「だって、ねえ……」
そういうとイノリはサキョウにチラリと視線を向けると、
「ふふふ、そうですねぇ、そのままでいてほしいというか、わかるようになってほしいというか、おっと失礼、余計なことを言ってしまうのが私の悪い癖」
と一緒になって笑い出す。
「もう、サキョウさんまで!受付があるので戻らせていただきますね!」
そういうとサクラコは静かに部屋を出てしまった。それも、閉める時は丁寧に音がしないように。
ドアが閉まるとイノリはさっきまでの雰囲気とはうって変わって、不審そうに
「……この成績なら、サキョウさん、あなたはおそらく、というか、確実に本部勤めができたはずです。なぜこんなトリニティに?自分たちのことながら不甲斐なく思いますが、ヴァルキューレ・トリニティはキヴォトスの中でも特に人気がないところ……だから本部からはここ4、5年ほどは赴任者が来ることはなかったはずです。もしや、本部で何かが?」
そういうとサキョウはステッキを撫でながら、
「正直なところ、局長にはそう言われましたがねぇ、私はやっぱり、トリニティのこの空気、文化が大好きですから。」
そういうとイノリは不審そうというか、心配そうに
「サキョウさん。信じられないけど、あなたはまだ中等部1年生でしょう?悪いことは言わないから、トリニティはやめて、ミレニアムとか、山海経とか、百花繚乱とか、そっちの方に行った方が私はいいと思うの。まあ、ゲヘナは流石に行かない方がいいと思うけど……局長とは仲がいいから、手紙を出してあげるから、帰ろうとは思いませんか?」
そう言われるとサキョウは驚いたように
「おや、そうですか、局長と……確か局長は、3年間だけトリニティにいたらしいですねぇ、もしやその時に?」
と聞き返すと、イノリは
「ええ、中等部1年から中等部3年の時にね。……たく、あの子も止めればいいのに……」
「1つ、よろしいですか?」
「ええ、どうかしたの?」
「そこまでトリニティへの赴任をお止めになられるのは何か理由があるんじゃないかと思いましてねぇ、何かあったのならお聞かせ願えませんか?」
イノリはやや迷うように
「あの子も話していいって言ってたし……」
「はい?」
「いいでしょう、話してあげます。それから本当にここに残るのか、帰るのか選びなさい。」
そういうとイノリは、封筒の中からサインされていないヴァルキューレ・トリニティへの配属命令書と、本部への配属命令書の2枚を取り出して見せた。
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______5年前____
ヴァルキューレ・トリニティ本部。警察組織とは思えない、神殿といわれた方が納得がいくような新古典主義の建物の前で、新しくやってきた警察官はワクワクしながらその雄大な建物に見惚れていた。
「……ここがヴァルキューレ・トリニティ!!その本部!!ここで私は、立派な刑事になるんだぁぁ!!!」
青い髪をポニーテールに結び、新品の装備とヴァルキューレの制服に身を包んだ警察官。
5年後に公安局長となる阿久津ユリは、この頃、ずっと夢だった警察官への道が一歩進んだことにワクワクしていた。
___この後、何があるかわからないままに。
ちょっとずつ文体を相棒らしくしていきたいのですが……三人称にするべきか、特有の一人称にするか迷いますね……それにサキョウちゃんなんか性格が変わってきているよな……まあいいか、仕事中だし
キャラ紹介
名前:白峰イノリ
年齢:18歳
役職:トリニティ総合学園高等部三年・シスターフッド副代表
黒に近い深い藍色の髪を肩までのボブに切りそろえ、前髪を端正にまとめ、真っ白なシスター服を基調としたシスターフッド制服を着崩さず、常に整えている。眼差しは穏やかだが芯が強い、凛とした雰囲気があり、人気が高い。手元には、メモ帳と小さな香油瓶をいつも携帯している
阿久津ユリとは中等部からの友人。
名前:阿久津ユリ
年齢:17歳
役職:ヴァルキューレ警察学校高等部三年・公安局局長・情部部長待遇
髪は落ち着いた青色。派手ではなく、光の角度で少しだけ淡く透けるような青。前下がりのボブヘアで、顔まわりが綺麗に整えられている。動くと毛先がやわらかく揺れる。瞳は 灰青色。感情の起伏は小さいが、じっと見つめられると観察されているような静かな鋭さがある。
制服の中にロザリオを身につけ、眠る前には必ず香油を嗅いでから寝ている。
経歴
ヴァルキューレ本部の警察学校で優秀な成績を修め、トリニティ総合学園へ治安調整官として出向。中等部をトリニティで過ごしたが、一部生徒から排斥・いじめを受け、本来ならヴァルキューレ・トリニティの長官になるはずだったが高等部から本部に戻る。
その後、持ち前の実力を活かして局長に成り上がるとともに、情報部からも局長待遇を受けている。
イノリとは中等部時代に出会った。
ここから注意です。次の話からいじめに関する話が出てきます。好きではない方は次を飛ばしてお読みください。基本はユリの過去シーンなので、読み飛ばしていただいても構いません。