相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー 作:ほくほく亭ともを
阿久津ユリは警察組織にしてはそぐわないほど豪華な白亜の宮殿の門に足を踏み入れると、その庭の美しさに見惚れた。
「すごい……まるで貴族の宮殿みたい……」
ユリは宮殿の美しさに当てられた夢遊病者のようにふらふらと歩き出す。
門の中は噴水越しにパルテノン神殿、もしくはアメリカ連邦裁判所を思わせる壮麗な新古典主義の建築物がさも太古の昔からそこに置かれていたかのようにどっしりと腰を据えていた。
左右に広がる広大な庭では、ミレニアムが開発したであろうロボット馬がのんびりと草を喰み、警察ロボットが直立不動で見守っている。
壮麗な本部庁舎へふらふらとした足取りのまま近づくと、不審げな守衛__軍服を思わせる真っ赤な詰襟に、黒のズボン。そしてアサルトライフルを持った__生徒が行く道を防ぐようにしてユリを防いだ。
「ヴァルキューレ警察の方ですか?それにその制服……本部の方ですか……」
至極面倒くさそうに呟くと、やれやれといわんばかりに首を振った。
「本官はヴァルキューレ警察学校・治安調整官の阿久津ユリです!ヴァルキューレ警察学校総長の出向命令により現着しました!!年齢に関しては、ヴァルキューレ規定3ー3ー1につき、秘匿させていただきます!」
「私にいわれても困ります。配属命令書は出てるんでしょうね?」
「はい!こちらです!!」
ユリは勢いよく、指定のバッグを下ろすと丁寧にファイリングされた配属命令書を差し出した。
「はあ……めんどくさい、どうぞ、中へ。ヴァルキューレ・トリニティの総長閣下の部屋は3階にあります。後それから……」
そういうと守衛はユリの制服姿をじろりと見ると、
「まあいいか……私関係ないし」
「何がです?」
自分が思っていた反応で出迎えられなかったユリはポニーテールを揺らしながら守衛の顔を覗き込むようにして尋ねる。
「なんでもありません。離れてください。私のような下っ端に構う暇もないでしょう?」
守衛はそう冷たくいい放つと、そのまま自分の持ち場へ帰って行った。
「待ってください!そんなことはありません!キヴォトスの治安は!みんなで守るものです!!」
ユリは遠ざかっていく背中に向かって叫んだが、守衛は振り返ることもなく、ちょうどパトロールに出る警察騎馬隊の隊に遮られて見えなくなってしまった。
「っ……こうしていられない!早くヴァルキューレ・トリニティの本部長に挨拶しなきゃ!!総長?本部長?まあ分からないけどいいや!!」
ユリは胸中に一抹の不安を抱えながらも、自分の任務に邁進することにし、大きな柱の間を通って締め切られた扉へと入って行った。
ロビーの中はユリにとっては初めての経験であった。
大きなシャンデリアで飾り付けられた天井の高いロビーは、深い色の木材で飾り付けられ、警察署__というより、それこそ、ユリにとっての憧れであるプルマン・リミナリティ・ホテルのような歴史と伝統を感じさせるような趣きであった。
「……ここ警察署だよね?入るところ間違えちゃったかなあ……なんだか私の方が身分不相応のような……」
そう呟くとユリは自身の体を見下ろす。藍色の警察シャツに防弾チョッキ。腰には制式拳銃と警棒。そして頭には後ろの穴にポニーテールを通した警察略帽。
対して、ユリが立ち入ったロビーにはトリニティの優美なセーラー服、スーツ、警察官とは思えない、儀仗隊かと思うほどに飾り付けれた制服を着こなす生徒たち。
ユリにとってはこの差が、決して立ち入ることはできない
ユリの家庭は十分に暖かいところで眠れて、父母の愛を十分に受けることができる幸せな家庭であった。
しかしながら、いやだから、というべきか、やはり年頃の少女のように、贅沢品……それこそ、プルマン・リミナリティ・ホテルに宿泊する。や、マジェスティ・グループのブランド品に憧れるという僥倖に巡り合うことができたのだ。
憧れとは恐ろしいものである。ユリはいつしか一つでも買ってみたいと思い、宿題が終わったり、訓練が終わるごとにショッピングサイトを開き、友人と寸暇のショッピングタイムをすごしたのである。
だから、ユリには生徒たちの着ている柄や、ロゴから彼女らがいかに恵まれているのか、貴族的であるのかを理解することができた。
ユリはこのヴァルキューレ・トリニティに入ってきた最初の気持ちが嘘のように萎んでいくのを感じた。
唇をグッと噛み締める。
__違う。私は、お嬢様になるためにここにきたんじゃない。この生徒の安全を守るために_
そこまで考えると、誰かがユリの体にぶつかった。
「いてっ!!」
ぼうっとしていたユリは突き飛ばされるようにして後ろ向けに尻餅をついた。
「あっごめんなさい……大丈夫ですか?」
ユリが声のする方向を向くと、目の前には身長は170センチはあろうかという生徒___
真っ黒のトリニティの制服、正義実現委員会の生徒だろう。
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」
そういうとその生徒は手を差し出した。
「ありがとうございます」
ユリは手を借りてゆっくりと立ち上がると、心配させないように笑いかけた。
「あら、警察官ですか?その制服は確か……」
ユリは何か言われるのではないかと内心ドキドキしていた。ネットにはいつも、トリニティは見た目はいいけど陰湿とか書かれていたし、聞いてもいたからだ。
しかしその生徒はそんなことを感じさせない純粋な笑顔で
「ヴァルキューレ!頑張ってくださいましね!」
と笑いかけてきた。
純粋な少女はそのままユリの背中をそっと確認すると、
「オフィサー、埃がついてしまっていますわ、このハンカチを差し上げますからどうぞ使ってくださいな」
とだけ言うと、ハンカチをユリに握らせ、背筋よく歩き去ってしまった。
「……あのっ!」
そういう間もなしに歩き去ってしまった彼女を見送ったユリは、大きな不信感と憧れ、そして絶対的な正義感を持ちながら中央のカーペットの敷かれた階段を上って行った。
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「……それで?」
ヴァルキューレ・トリニティ総長室では、たとえレッドウィンターの生徒でも耐えることができないような冷たい空気が漂っていた。
「以上の理由から、本官はこのトリニティに治安調整官として出向しました。本日からトリニティ各派閥などの調査をはじめます。こちらが総長からの手紙です。トリニティ本部長?」
金髪に厳しそうな目つきをしたトリニティ本部長はじろりと本部からきた小娘を一瞥すると面倒そうに片手で手紙を受け取った。
「ではこれからよろしく、治安調整官、ああ、遅まきながら私の名前を教えておきましょう。北条ハル。このトリニティ・ヴァルキューレの総長を仰せつかっています。
ユリは越権も甚だしいと責め立てるような口調で、
「北条本部長。北条本部長はヴァルキューレ警察学校の中では地区長。すなわち、本部長です。総長と名乗って良いのはヴァルキューレ警察学校のトップ。本官をここへ出向させた方だけのはずです。このような越権・偽称行為はヴァルキューレ規定1ー2ー1によって_____」
「……私はここの事実上の長官。君をいつだって左遷することもできるのですよ?」
「いいえできません!治安調整官の人事を決めることができるのはヴァルキューレ警察学校総長ただ一人!このようなことをされるのであれば本官は直ちにD.U.に戻って総長にご報告__」
「まあまあ、冗談だ、治安調整官。トリニティ式のジョークというやつだ、ほら、紅茶はどうです、お菓子は」
「いえ結構です!」
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その後、なんとか面談を終えたユリの体は新しく作ったという新部署、治安調整官室にあった。
与えられた室員は、ヴァルキューレ警察学校本部から来たと話す毅堂キツハというスーツ姿に濃い葡萄色の髪の毛をポニーテールにくくった身長の高い生徒ただ一人。
どこか日差しの悪い部屋で疲れたと言わんばかりにユリはデスクに倒れ込むようにして俯いていた。
「これがトリニティ……なんて恐ろしいところなんでしょう……」
「ユリちゃん大丈夫?お仕事大変だよね!一緒に頑張ろうよ!!」
キツハは初対面でも物怖じしないタイプのようで、グデンと俯いているユリの背中に自分も倒れ込むようにして背中から抱きついた。
ユリは距離が近すぎるような、そんな気も感じなくはなかったが、その距離感が今日の荒んだ心に優しく染み込んだ。
「それにしてもユリちゃんすごいねぇ『閣下』にあそこまで噛み付けるなんて」
キツハはユリの耳元でそっと囁いた。低い声がユリの鼓膜をゾクゾクと揺らした。
「閣下?ああ、本部長のこと?そんな呼び名で呼ばれてるの?……それに…あんたにまだその話はしてないんだけど」
「わかるよぉ!だってあんなに叫びあっていたんだもん、部屋の外にいたんだけどね?みんな怖がって離れていっちゃったよ!」
「……みんなって誰?」
「えっそりゃあ、、この署の警察官だよ、本部から警察官が来るとか珍しいからさ、みんなで見よーーって」
「……ふうん」
「どうしたのそんなに元気なくなっちゃって!さっきまであんなに元気そうにしてたじゃん!」
「お詳しいんですね」
「見てたからねってうわぁぁ!」
ユリが勢いよく伸びをすると、後ろに抱きついていたキツハは慌てたようにバランスをとりなおした。
「まあ、なんとかなるでしょ、がんばろ!」
「ええ、本官もできる限り頑張ります」
ユリとキツハは日差しの悪い、狭い部屋で二人して笑い合った。
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それから一年の時が過ぎた。
「閣下」と呼ばれた北条ハル本部長はもう卒業。あんな態度で高圧的に接した割には中々仕事はできたようで、署のみんなはわんわん泣いていた。卒業後はよくわからないけど、実家の城を受け継いでそこで暮らしながら近くの大学に行くらしい。
ヴァルキューレ警察学校の総長も卒業したようで、その総長が思いつきで決定した治安調整官の任務も解かれたが、本部に帰ることは叶わず、こうして名前を変えて、ヴァルキューレ・トリニティ庁舎3階、生活安全部の隣で粛々と証拠品の返却をしたり、雑用をこなしている。
これまでに特命係にきた署員は6人…7人だっけ?いたけど、みんな別の地区に行ったり、転校しちゃったみたい。
残された、正義感だけで動いちゃう典型的なダメ警官『誰がダメ警官ですか!』おお、こわいこわい♡、阿久津ユリちゃんは、治安調整官の任務を解かれた後もこうして、今まで通り頑張ってトリニティでのヴァルキューレの権限を強くしそうと奔走してるけど……正直最近しんどそうだよね?大丈夫?後ろ盾ないもんねぇ?
え?私?私は……まあ、サボれるからいいかなあと思って、あちこち観光に行ったり、遊びに行ったり、友達とデートに行ったり♡結構楽しんでまーす!!
「……キツハ係員?何をしてるの?」
「え?何ってそりゃあ、視聴者の皆さんに紹介を……」
「視聴者?何を言ってるの?さあ早く行きますよ!今日はシスターフッドと面会する日です。やっと私たちに後ろ盾ができて、自由に動けるようになる日ですよ!!」
「え?自由?私は別に自由に過ごしてるけど……」
「そういうことじゃありません!さあ、早く行きますよ!!」
中はイノリちゃんも知らないエピソードです。次に投稿する下がイノリちゃんがサキョウちゃんに話したことと考えてください。キツハちゃんすごいですね……一体何者なんだろう?
それにしても……とうとう特命係ができました!!やったーーー!!
北条閣下の元ネタは結構わかりやすいと思います!それではまた!!