相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー 作:ほくほく亭ともを
私が初めて
大聖堂でさっきのサクラコちゃんみたいに受付をしているとあなたみたいな格好をした生徒と、濃い葡萄色のスーツをきた生徒が二人してやってきて、副代表と約束してるから会わせろーって言ってきたの。
ええ、もちろん、シスターフッドは外の客にも優しく接することが義務付けられているようなものだから、さっきのサクラコちゃんみたいにここに連れて行ったわ。
当時の副会長室は今と違って、あなたの想像するような豪華なステンドグラスに絵画、そして重厚なデスク。そんなものは実務に入らないから、私が全て売って寄付してしまいましたけど……
まあ、とにかく、一番最初にあったのはその時です。
意気揚々とユリちゃんが副会長室から入って、しばらく経ってから出てきたんだけど入る前とは打って変わってまるで行き場を失った子犬みたいだったわ。
もう一人の生徒……あれ?名前なんでしたっけ…濃い葡萄色の髪をしていたのを覚えているのだけど……ごめんなさい。忘れてしまったわ。その子が必死に励ましていたのを覚えているわ。
とにかく、あんまりにも可哀想なものだから、懺悔室ってわかる?ええ、そう。あの聖堂とか教会とかによくある、そこに連れていって、懺悔室のあのパーテーションを取っ払って、そこで話を聞いてあげたの。
そしたら、どうやらティーパーティーの子がいじめられていて、それを助けて首謀者だったらしい生徒を逮捕しようとしたらしいの。
ユリちゃん、そういう変に正義感が強いところがあって、そういうことを見逃せない性格らしいしねえ……今はどうなってるかわからないけど、公安局の局長にまでなったんだからだいぶ落ち着いたんじゃないかしら?
それで、逮捕できたんだけど、その生徒がフィリウs……ごほん、結構有名な派閥の幹部でね?そこの派閥のトップが報復だーなんて言って、ヴァルキューレのその派閥の関係者に報復するように命じたらしいのよね……
ひどいと思わない?ユリちゃんはいじめられてたから助けただけで、それに現行犯だったからヴァルキューレ条約にも抵触しない。
でもその生徒は結局、トリニティの聴聞会……ええと、キヴォトスでいうところの裁判所で裁判されたのだけど、結局無罪。お咎めなしだったわ。
私も一応、政治に不干渉を貫くシスターフッドの一員ですから手伝いに行ったついでに見たけど裁判官も弁護士もやる気なし。
絶対に政治が絡んでいたと思うわ。
そこでやめとけばいいのに、ユリちゃん、これはおかしい、不正だと言ってその被害者の生徒の下まで行って、控訴するように言ったらしいの。
そのいじめられた子もトリニティから百花繚乱に転籍するって決めてたから、D.U.の高等裁判所に控訴して、最終的にそのいじめた生徒と関係者に暴行、侮辱、監禁罪で判決を食らわせて二ヶ月の停学処分。
確かクロノス・ニュースでも大きく報道されていたと思うわ……
「あのトリニティ総合学園で起訴された事件が有罪判決になった」とね。
今考えると。あそこまで大々的に報道したのはユリちゃんへの見える形での報復をできる限り少なくしてあげたかったのと、有名にすることで不当な差別を受けないようにするためだったかもしれない。
まあ、でも、知っているでしょう?トリニティは「魑魅魍魎のねぐら」だって。
そんなことでトリニティが止まるわけがない。
ここで話すのは……やめておきましょう。それでも、想像を絶するような苦しみだったと思うわ。
それをここで聞くしかなかった私の気持ちがわかる?
それが半年くらい続いて、流石にこたえたのか、政治不参加を明言しているシスターフッドに助けてくれって言いにきたというのが顛末らしいのよ。
でも、シスターフッドの会長の決定も私にはよくわかる。ティーパーティーを完全に敵に回した、それも部外者の肩を持ってバックに回るというのは良い策だとは思えないわ。
今こうして、何もない状況で後ろ盾を頼んできて、それからするのであれば法律とか色々話して逃げられるけど……いや、シスターフッドを相手取るだけでもティーパーティーは嫌がりそうね。今の段階ではティーパーティーとシスターフッド、強いのはシスターフッドの方ですもの。
まあそんなわけで黙っていられなくなった私は、残りの中等部をほぼユリちゃんと過ごしたわけ。
ユリちゃん、見た目ではなんともないようにしてるけど、二人きりになった瞬間わんわん泣き出して可愛いけど大変だったんだから……え?そこまでは話さなくていい?なんか見られてる気がする?
じゃあやめておこうかしら……
つまりね、サキョウさん。私が言いたいのは、こうなってしまう可能性があるから、トリニティで警察官、それも刑事になるのはやめておいた方がいいってこと。
それにユリちゃんが帰ってから、急に何があったのかわからないけどSRT特殊学園の面々が色々な証拠を持ってティーパーティーとヴァルキューレ・トリニティを強制家宅捜査して、色々な人が連れて行かれたからだいぶマシにはなったけど……それでも、やめておいた方がいいわ。
トリニティはいいところだけど、やっぱり今も派閥が多い。
それでも残る?……はあ……話しても無駄のようね…………
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シスターフッドの副代表である白峰イノリはそこまで話すと、喉が渇いた。と言って紅茶を口に含んだ。すぐに顰めっ面をしてベルを鳴らすと、入ってきた生徒に
「お茶を入れ直してくださる?この
と微笑んだ。
「ご友人ですか?
呼ばれた生徒は怪訝そうに聞き直す。
「ええ、もちろん。いや、私にとっても
そこまでいうと、生徒は恐縮したようにサキョウを見ると、
「歓迎しますわ、シスター……?」
「杉下サキョウです」
「
そういうとさっきまでの恐縮していた態度はどこへやら、その生徒はいそいそとさも嬉しげに部屋を出ていった。
「……良いのですか?こんな見ず知らずの、ただ局長が紹介しただけの私を姉妹とまで言ってしまって。部外者がいうのもなんですが、シスターフッドで‘’姉妹‘’というのは少々重い意味を持つのではないですかねぇ?」
「正直のところ、ユリちゃんにはとてもよくしてもらいました。今でもその、なんというか……」
そういうとイノリはやや恥ずかしそうに、
「彼女は
と笑った。
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副会長室を出たサキョウはいつの間にか集まっていたお姉さま方に捕まってしまった。
サキョウ自身もそのようなわちゃわちゃとした空間はあまり満更でもないのか、ニコニコとケーキを食べさせられたり、頭を撫でられたりとしているうちに日はとうと暮れ、大聖堂近くのシスターフッド寮にはいつ間にやら月光が射していた。
「おや、もうこんな時間。申し訳ありませんが帰らなくてはなりませんねぇ」
サキョウはかちゃりと懐中時計を取り出すと、少し慌てたように、それでも冷静に呟いた。
「もう帰っちゃうの?」「もっと遊ぼうよー」「サキョウちゃん時間に厳しいのね」
本来ならばシスターというものは時間とか決まりとか、そんなものには厳しいはずなのだが、やはりそこはまだ中学生、高校生の遊びたい盛り。夜更かししたいなどという欲求は当然のものである。
「あらもう帰ってしまいますの?今日はもう遅いから、泊まってらっしゃったらいいではありませんか」
と左京が帰ろうといていることをいつの間に聞きつけたのか、イノリは2階から降りてくると、そう微笑んだ。
「ほら、シスター・イノリもそうおっしゃってるんだし、泊まっていっては」
「そうだそうだ!もっと遊ぼうよ、シスター・サキョウ!!」
「お心遣いはありがたいんですがねぇ、警察寮に届いた荷物の荷解きすらしていないものでして、帰るしかないのですよ」
「……サキョウさん、あなた警察寮なんかに泊まる気でいるの?あの監視カメラと盗聴器しかない、『現代の監獄』へ?」
「おや、驚きましたねぇ、ひょっとすると、警察寮も危ない?」
「ええ、トリニティ……というよりかは、ユリちゃ……ごほん、友人から聞いた話なのですがね、警察寮の個室はしっかりと盗聴、盗撮されていて、みんな警察の情報部に筒抜けらしいですの。それならば、このシスターフッドの寮に泊まられてはいかがです?こんなに慕ってくれている姉妹もいるのですし」
そういうとイノリはぐるりと周りを見回した。
目を輝かせながらサキョウを見つめる者、シルクハットをいつの間にやら拝借して、顔を突っ込んでいる者、頭を撫でようとしてくる者。
サキョウにとってそのような視線は、昨日、リミナリティ駅で感じたような敵意も、ドロドロししたまとわりつくようなものも感じさせないような、純粋で天真爛漫な視線であった。
「そうですねぇ、でも、ヴァルキューレ・トリニティに一度お伺いを立てなければ。私はあくまで
そう言ってひょいとシルクハットを取り上げ、トランクケースを掴むとゆっくりと立ち上がり、残念そうな姉妹たちに笑いかけると月光の光の中へ飛び出していった。
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そんなことをいったサキョウであったが、現在ただ一人、よくわからない通りのよく分からない場所を彷徨っていた。
「おや、迷ってしまいましたねぇ、どうしましょう?……いや、本当にどうしよう……」
月光に照らして懐中時計を見ると、時刻はすでに夜の11時。シスターフッドを出てからすでに3時間は経っている。
そういえば、サキョウは局長にトリニティについたらシスターフッドに行くように。とだけ伝えられてトリニティに送り込まれたので、この巨大な自治区のどこにヴァルキューレ・トリニティがあるのか全く知らないのであった。
夕食を食べていないことに気づいたサキョウは、夕食を求めてあっちにいったりこっちにいったり。その夕食も食べることもできぬまま、気づけば自分がどこを歩いているのか分からない始末。
つまり迷子。普段、迷子の子猫ちゃんを案内するはずのお巡りさんが自分でその迷子になってしまっているのだから、どうしようもない。
『おや!ヴェーカー・ストリート……ですか、細かいことが気になるのが、私の悪い癖』
などと言ってよく分からないところに入り込んでしまうから迷うのである。
ウキョウだかサキョウだか知らないが、そんな右行ったり左行ったりうろうろしているから今こうして、迷っているのである。サキョウは反省をする必要があるだろう。早急に。
そんなことも気に留めず、サキョウはお腹を空かせた野良猫よろしく、灯りのついた建物を発見すると、これぞ天命と言わんばかりにひょこひょこと明かりに吸い寄せられていった。
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一方その頃、救護騎士団・中等部1年生であるミネはトリニティ・スクエアから10キロほど離れた救護騎士団の病院近くの寮で眠れぬ夜を過ごしていた。
「あの列車で会った……ウキョウさんだっけ……いや、サキョウさんか、シスターフッドに挨拶に行くとか、そんなことを言っていましたが大丈夫でしょうか……?」
心配するのは、シルクハットにモーニングという一世紀どころか二世紀くらいは古い……いや、クラシックな出立ちのご麗人。
確か、2、3年前のヴァルキューレ・トリニティの一部の方はそんな制服を着ていた気がするが、今となってはサンクトゥス派の
それに一瞬見えたコートの内側のラベル。あれはどう見てもマジェスティ・グループの紋章、それに王冠が付いているということは……
それらを考えると、やはりあのご麗人はヴァルキューレ・トリニティなどではなく……
「救護!!救護です!!シスターフッドが何を考えているのか知りませんが、きっとあのご麗人を捕まえて何かをしようとしてるに違いありません!!」
と跳ね起きて叫んだ。
救護騎士団の寮は個室ながらも病院のすぐそばにある。
救護騎士団の存在理由であり、ヨハネ派がティーパーティーに次いで最大の勢力を誇っているのも、こうしてトリニティ中の病院を管轄しているからである。
というわけでミネは深夜、病院の明かりに照らされシスターフッドの大聖堂へ突貫する準備を終えた。
「サキョウさん!今助けに行きますね!!」
と寮の扉から飛び出すと、何かにぶつかった。
「痛て!!」
「痛い?救護です!大丈夫ですか!?そこのジェントルマン!って、あなたはあの時の!?」
そう言われたジェントルマン、杉下サキョウは頭を片手で押さえながら、ミネに笑いかけた。
「おや、久しぶりですねぇ、ミネさんってうわぁぁ!」
ミネはサキョウを易々と担ぎ上げると、そのまま不夜城とかしている救護騎士団の病院に担ぎ込んでいった。
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朝、目が覚めるとサキョウは見たことのない天井を見つめていた。
「おや、知らない天井ですねぇ」
視界の淵に何やら蒼い髪の毛のようなものが見えた。
そのまま視界を右にずらすと……
「……そういえば、昨日はミネさんに面倒をかけてしまったのでしたねぇ」
と椅子に座ったまま眠りこけているミネを感謝するようにサキョウは見つめた。
太陽がやや南中に傾き、窓に日が差し込む頃、ミネはようやく目を覚ました。
「んん……あれ、一体私、何をして……そうだ!サキョウさん!朝起きたらシスターフッドに何か酷いことをされていないか身体検査をするはずなのに!」
ミネは飛び起きると昨日、サキョウを無理やり寝かせたベッドの上にそのサキョウがいないことにい気がつくと、慌てて病室内を見回した。
「あれ……一体どこに……っは!!まさかシスターフッドがこの私の隙をついて……!!」
とミネは立ち上がったとともに、後ろから声をかけられた。
「あ、あの……そこにいたご麗人なら、1時間ほど前に帰ると言って出て行かれましたよ?」
振り返ると看護師見習いの小雀がぷくぷくとした羽を寒そうに振るわせながら話す。
「帰る?いえ、私には使命があります!そう、シスターフッドからサキョウさんを救い出して私が救護!!するという高邁な使命がっ!!」
「そのことなんですが……」
「何よ」
「噂なんですけど、新しく来たヴァルキューレ・トリニティの警察官の方がシスターフッドの
「……酷いことされてるという話は?」
「ありませんが」
「爪を剥がされたりとかは!?」
「ありませんが」
「…………」
「…………」
「そう、私の誤解だったのね、ならいいわ。」
そういうとミネはうーん大きく伸びをすると、
「ところで雀ちゃん、今何時?」
と尋ねた。
「ええと、時刻は午前10時です!」
遅刻が確定したミネは半分くらいもういいや、と思いながらものんびりと学校に行く準備を始めた。結果的に学校に着いたのは昼休みが終わる10分前であった。
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そうそうに病室を抜け出したサキョウは、今度こそタクシーに乗ってヴァルキューレ・トリニティ本部庁舎の前にたどり着いた。
警察組織にしてはそぐわないほど豪華な新古典主義の門。その奥にはパルテノン神殿を思わせる6柱の大きな柱に支えられた宮殿のような庁舎が噴水越しに見えた。
政治と政治が絡み合い、正義と派閥が絡み合う___阿久津ユリ公安局長をはじめとする多くの志ある警察官を堕落、もしくは徹底的に拒んできた悪魔の門に今、ヴァルキューレ警察学校所属・中等部1年、杉下サキョウはステッキを突きながら、泰然として乗り込んでいったのであった。
感想などをいただけましたら、本当に嬉しく思います。これまでいただきましたご感想は全て拝読し、楽しませていただいておりますので、その点も重ね重ねよろしくお願いします。
寒くなって吐きましたが、みなさん体調にお気をつけてお過ごしください。
では、また次のお話で会いましょう。