相棒 ーー杉下右京に憧れた転生者がキヴォトスで刑事になる話ーー   作:ほくほく亭ともを

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なんか七千文字書いてのんびりしてたら消えたので突貫して書き直しました。
あと、16時ごろに一度誤ってあげてしまったのでここに謝罪します。すみません。
誤字脱字報告ありがとうございます。


こちらシスターフッド自治区聖堂前派出所

杉下サキョウはヴァルキューレ・トリニティ__警察組織にしてはやや豪華な新古典主義の、パルテノン神殿を思わせる門をコツコツとステッキを突きながらくぐった。

 

中央の噴水の奥に6本の大きな柱が遠く見える。中央上の正面壁には金色に輝く紋章、旭日に桜の葉が覆う、トリニティ独自の紋章が太陽の光に照らされて輝いていた。

大きく水飛沫をあげる噴水の両側には大きく芝生が広がり、赤い軍服然とした詰襟に中世の騎士が身につけるような鎧、白いスラックス、ブーツを着こなした騎馬警官が何人かメカチックな馬に乗ってぱかっぱかと小気味のいい音を立てて訓練に励んでいた。

 

トリニティ総合学園は数百年前に多くの学校自治区、派閥が乱立していたのをティーパーティーで1つの連合にまとめあげたことで誕生した巨大学園である。しかしながら元々交通網も、線路の区画も、街の構造も違う上に古く歴史のある街であるからか、車や近代の乗り物が立ち入れなくなったり、自治区条例で車が立ち入ることができない場所が多い。

シスターフッド自治区などが良い例であろう。古い大聖堂や教会が軒を連ね、キヴォトスの伝統文化保全地区に指定されているような街も当然のようにある。

そう言うわけで、ヴァルキューレ・トリニティでは昔からこうして、騎馬警官の育成を主軸に進めてきた。

ミレニアムが建学されてからはミレニアムと業務提携を行い、ロボットの馬を提供してもらって今のヴァルキューレ・トリニティの騎馬警官隊があるのである。

 

サキョウは噴水の横を通り抜けると、石畳を6本の大きな柱に向かって歩みを進めた。

それを見た立番の警察官__赤い詰襟に銀色のラインが一本入ったスラックスを履いている___が慌てたようにサキョウに敬礼すると、サキョウに駆け寄ってきた。

 

「お、お待ちください……! そちらのご麗人、身分証のご提示を……!」

 

「ご麗人?」

 

トリニティに来てからサキョウはことあるごとにご麗人、ご麗人と呼ばれていたが、本人は特に自分がそれほどまでに高貴に見えている自覚はなかったので聞き流していたが、守衛の警察官にまで言われるとは思っておらず、おや、ご麗人はどこにいるのかしらん。とあたりをキョロキョロと見回した。

 

「あなたのことですよ、ご麗人。遠くからおいででしょうか?ヴァルキューレ・トリニティは2年前の不祥事から、『貴賤問わず本部庁舎に立ち入るものはすべて身分証の提示をしなければならない』というルールになりました。そのため身分証の提示をお願いします」

 

「おや、ご丁寧にどうも」

 

そう言うとサキョウはシャッポを脱いで挨拶をすると、胸ポケットから警察手帳と配属命令書を取り出した。

 

「ヴァルキューレ本部から来ました。公安局の杉下です。よろしくお願いします」

 

そう言うと真面目そうな守衛は、

 

「警察官だったんですか!?それに公安局……ん?この配属命令書には総長のサインはあるこそ、局長のサインがありません。どうしました?」

 

と不審げにサキョウを眺める。

 

このように真面目な若い(サキョウも肉体年齢は若いはずなのだが)警察官を見たサキョウは少し茶目っけが湧いたのか、ああ、暑い。もう10月なのにこれほど暑いとは……などとつぶやくと脱いだシャッポをパタパタ、マジェスティ・テーラーのロゴがちょうど守衛に見えるように仰いで見せた。

 

「……っ!!失礼しました、まさか北部の方(北部貴族)とは……どうぞお入りください。本部長室は3階の階段を上がって右側にあります。それとも北部の方達(サンクトゥス派)と先に話されますか?では1階の……」

 

「いえ結構、どうもありがとう」

 

そういうとサキョウは、立ち去ろうとする守衛に向かって、

 

「1つだけ、よろしいですか?」

 

「ええ、何でしょう?」

 

「どうして私が北部出身だとわかりましたか、いや細かいところが気になってしまうのが私の悪い癖でね、教えていただけませんか?」

 

と独特の根掘り葉掘り聞いてやろうと言う気概で尋ねた。

 

「……っ!侮辱してらっしゃるのですか?そんなことは本官よりもあなたの方がよく知ってらっしゃると思いますが」

 

守衛はそう言うとライフルの先に付けた銃剣を鈍く光らせた。

 

「まあそんなことを言わず」

 

「…はあ、わかりますよ、それくらい。だってそのシルクハットにモーニング、マジェスティ・グループのものでしょう?北部自治区(サンクトゥス派)の御用達。本官はそのような政治に巻き込まれたくないのです。2年前に更迭されたヴァルキューレの関係者のほとんどがサンクトゥス派の人でしたからね、それでやっと三大派閥のバランスが取れたと言うのですから、本当に恐ろしい話でしたよ……あっこの話は秘密でお願いしますね?あなたが何者か知りませんが、北部の方でないことは確かでしょう、疑問は色々ありますが……」

 

そう言うと守衛は疑わしそうにまたサキョウを全身くまなく眺めると、

 

「とにかく、この話はこれで終わりです!それでは!!」

 

と少し怒った様子で歩き去ろうとする。

 

「もう一つだけ」

 

杉下サキョウは帰ろうとする背中に声をかけた。

 

「お会いしたときに私を貴族かなんかのように接していましたが、もしかするとこのような服装をした警察官はもういないと?」

 

「当然では?」

 

守衛は赤い制服越しにそう言い捨てると、銃剣を鈍く光らせながら持ち場へ戻って行った。

 

杉下サキョウはある疑念が、このとき頭の中に渦巻いていた。

北部の人々御用達(サンクトゥス派)のマジェスティ・グループの受付になぜ、情報部と思われるキツハがいたのだろう。

それに、その2年前の不祥事のきっかけとなった、今の公安局長が犠牲となって解決したトリニティのいじめ事件の首謀者はイノリが口を滑らせたから、フィリウス派の幹部だったということはわかっている。

それなのに更迭された派閥人の多くはサンクトゥス派ときた。

 

杉下サキョウは何か大きな陰謀が、この美しく伝統ある自治区で蠢いているように感じた。

SRTが動いたのか、ヴァルキューレが動いたのか、D.U.(連邦生徒会)が動いたのか、それとももっと大きな……

 

そこまで考えるとサキョウは持っていたシルクハットを、まるで疑念を必死に振り払うかのように強めに叩くと、深く被り直した。

 

「何が起きているのかわかりませんが、今は触れない方が良さそうですねぇ」

 

そうつぶやくと開け放たれた本部庁舎の扉にさっと入り込んだ。

 

 

本部庁舎一階のロビーは濃い色の木材で彩られていた。

高い天井には華奢ながら優美さを感じさせるシャンデリアが下がり、その下では赤い詰襟に黒か白のスラックス、スカートを履いたヴァルキューレ・トリニティの署員が真面目そうな顔をして話し込んでいる。

どうやら署員だけではなく、真黒のセーラー服を着こなしたトリニティの生徒もちらほらといるようであった。

 

サキョウがロビーの入り口に立つと、それまで静かながらも話し声が響いていたロビーが一瞬静まりかえった。

 

モーニングにシルクハット、右手にステッキ、左手にトランクケースを持った北部貴族然(サンクトゥス派)とした麗人に視線が集まる。

 

サキョウには、この視線が昨日シスターフッドで姉妹たちから感じた友愛に溢れた視線と全く違う、品定めするような視線であることに気付きお世辞にも良い心持ちではなかった。

しかし、それでもリミナリティ駅で感じたあのまとわりつくような正体不明の視線よりはずっとマシだった。

 

とは言っても視線が集まったのは一瞬。すぐさま視線は外され、ロビーにはいつも通りに話し合う声が控えめに響く。

 

「ねえ、あの人ってやっぱり……」

「うん、あのシスターフッドの姉妹(my lady )の……」

 

「おや、私がどうしましたか?」

 

サキョウはチラチラこちらを見ながら何やらぶつぶつ話している真黒のセーラー服___正義実現委員会の二人組にそっと近づくと話しかけた。

 

「こちらを見ながら話しているから気になったものですからねぇ、何か私の顔についているのでしょうか?」

 

「いや、別にそうでも……」

 

「はいぃ?」

 

サキョウに問い詰められた二人組はやや引き気味に、

 

「まあ、別に話してもいいか」

「そうね、昨日から有名な話だもの」

 

と二人してうなづきあうと、身長の高い、腰から真っ黒の大きな翼が生えている生徒__サキョウと同年代くらいの___が、やや控えめに、

 

「杉下ウキョウさn『サキョウです』……サキョウさん、実はですね、杉下さんがシスターフッドと()()()()()()()という噂が広まっていまして……それに、()()にヨハネ派の救護騎士団本部に入って行ったなんて噂も……」

 

そこまで言うと実際はどうなのかと言わんばかりに背の小さい方が見つめてくる。

 

杉下サキョウはにっこりと何も感じさせないような微笑みを浮かべると、

 

「おや、トリニティは話が広がるのが早いのですねぇ、ええ、確かにシスターフッドとは()()()()()()()させてはもらっていますねぇ、救護騎士団には()()()()担ぎ込まれただけで何もしてませんよ」

 

と笑いかけた。

 

やや硬い面持ちだった身長の高い方の生徒は黒い翼をパタパタはためかせながら思案に耽っているようだった。どうやら彼女には、考え事をするときに翼を動かす癖があるようだ。

 

「まあいいでしょ、ハスミ?もうそろそろ行かなきゃ『1日20食限定!豪華特製パフェ』が売り切れちゃうよ?」

 

「……!そうですね、こうしてはいられません、杉下さん、失礼します」

 

「ええ、ありがとうございました」

 

そういうと杉下サキョウは帽子を脱ぐと、いそいそと本部庁舎を出て行った二人を見送った。

 

他にもチラチラとサキョウを見ながら話している生徒___特に奥からの視線は感じていたが、サキョウはとにかく本部長に挨拶をと、長いこと何か敷物が敷かれていたかのように日焼けしていない、やけに急な階段を一段一段上がっていった。

 

ヴァルキューレ・トリニティ本部庁舎は3階建てである。歴史は古く、トリニティ総合学園が誕生した頃からこの建物は存在していたらしい。キヴォトスの文化財にも指定されているらしく、庁舎の壁には金属のプレートが埋め込まれている。

 

1階はロビーと遊戯場、そして騎馬警務部。なぜ遊戯場があるのかについては誰も知らない。

2階には総務部や生活安全部、交通安全部、そして海警の純白の制服がちらほら見えるフロアがある。もっとも、海警の本部は杉下サキョウが一番最初に過ごした街、リミナリティ駅の赤煉瓦街にあるので、ここにあるのは出張所だけであるのだが。

3階には警察の花形である刑事部、そしてサイバーセキュリティ部、図書室、本部長室に副本部長室がある。特命係の部屋はこの頃には既に、生活安全部の隣から刑事部捜査一課のフロア近くの移っていた。

 

サキョウが2階に上がってそのまま3階に上がろうとすると、突如として総務部の方から叫び声が聞こえてきた。

 

「ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!ナ、ナンデ!?ファイルガ……キエテイル!?ウソウソウソウソウソ!!バックアップハ!?ドコ!?ドコナノヨオオオオ!!コレジャシゴトニナラナイイイイイ!!!ダレカタスケテエエエエエエエエ!!!」

 

「総務部長、どうされましたか!?え?情報資料室のデータが全部吹っ飛んだ……まあ、資料情報室ならまだ『まだじゃない!3階のサイバーセキュリティ部に行って応援を呼んでこい!このままじゃ資料情報室の警官の給料がゼロになるぞ!!』わかりました!」

 

サキョウが面食らって立ち止まっていると総務部のフロアからスーツを着た署員が飛び出してくると、サッと敬礼したかと思えば3階に駆け込んでいった。

 

「……一体どうしたんですかねぇ、データはしっかりとバックアップをとって、それから仕事に入るのが基本中の基本だというのに……」

 

そうため息をつくと、杉下サキョウは3階へと上がっていった。

 

3階に上がると右手に本部長室、左手に刑事部と書かれている札が掛かっていた。後ろの方から何やらドタバタと聞こえるが、それは気にしないことにして、サキョウは本部長室の重厚なドアを3度叩いた。

 

コン、コン、コン。

 

「入れ」

 

少し訛りがある声が響く。

 

杉下サキョウは少しドアを開けると、滑り込むように本部長室へ入った。

 

本部長室のドアを開けると、目の前に「 世の安寧を護せんとする者は 無事の日に於て 有事の日として怠らざるにあり」と大きく、墨で書かれた扁額が飾られていた。

右手を見ると、4、5人は座れそうなソファが黒い低めのテーブルを挟んで二つ備わっていた。

その奥には重厚なウッドのデスクに「川路リネ本部長」と墨字で書かれた三角の卓上プレートに、正義の女神テミスの像が置かれていた。

 

ヴァルキューレ・トリニティ本部長・川路リネはオレンジ色の目だけ動かしてサキョウを見ると、龍虎が向かい合っている八面屏風を背景に、立ち上がり、大きく手を広げて_________

 

「ようこそサキョウどん!ヴァルキューレ・トリニティへ!!まぁ、座っせよか!本部から転勤してきた警察官は、ひっさかぶいじゃっど!!」

 

とトリニティにしては訛った方言で叫ぶと、ガハハと笑った。

 

サキョウは面食らいながらも、その通りにリネに続いて座ると、

 

「本部、公安局から転属しました、杉下サキョウです。よろしくお願いします」

 

と頭を下げた。

 

リネはニカリと笑うと、

 

「オイはヴァルキューレ・トリニティ本部長、川路リネじゃ、よろしゅう」

 

と答えた。

 

サキョウが次に何を言うべきか思案していると、

 

「トリニティらしゅうなって、少したまがったか? 当然じゃ! なにせオイは百鬼夜行連合学院自治区から転勤してきっせぇ、そんまま本部長に上がった身じゃっでな!」

 

「はあ、百鬼夜行連合学院から、てっきりトリニティの生え抜きがそのまま本部長になると思っていましたが」

 

「2年前んあん事件でな……すっかりSRTや連邦生徒会に目を付けられてしもたでな。ほいで、こうして別ん管区からオイが本部長に抜擢されたちゅうわけじゃ。……ほら、本部長室ん近くに“情報資料室”があっじゃろ?あいが、そん……んにゃ、よかや。今は話さじおっ。とにかっ、よろしゅう頼んぞサキョウくん!同じ“のけもん”同士、気張っていこうじゃらせんか!」

 

またそういうと、豪快に笑った。

 

川路リネ、ヴァルキューレ・トリニティ本部長。

ヴァルキューレ・百鬼夜行に所属し、現場指揮の才覚で知られた。雑多な案件が転がり込む下部局を一手にまとめ上げるなど、優秀さを見せ、絶対に賄賂などを受け取らず、高潔な警察官として有名である。

転機となったのは2年前に発生したトリニティ総合学園一斉検挙事件。

本部長になる生徒がいなかったため、異例の速さで別管区であるヴァルキューレ・トリニティ本部へ転任が決定。治安安定化と組織再構築の任務を背負わされ、以降、豪快で遠慮のない性格をそのままに、「平時こそ備えよ」を信条として、トリニティの治安維持を一手に担う存在となった。

 

____________________________________________

 

「一つだけよろしいですか?」

 

杉下サキョウは出された百鬼夜行連合学院自治区でとれたらしい緑茶を一杯飲むと、リネ本部長に尋ねた。

トリニティに来てからずっと琥珀色の茶か、クリーム色の茶しか飲んでいなかったからか、この緑色はサキョウの精神を大いに落ち着かせた。

 

「応よ、1つち言わず何遍でん聞いてやろうじゃなか。」

 

「あそこに掛かっている扁額、『世の安寧を護せんとする者は 無事の日に於て 有事の日として怠らざるにあり』と言うのはどういう意味です?どうも細かいことが気になってしまう性格でしてねぇ」

 

よくぞ言ったと言わんばかりにニコニコとリネ本部長は、

 

「“世の安寧を護ろうとする者は、何も起きていない平穏な日であっても、いざという日のつもりで怠らず備え続けるべきだ”ちゅう意味じゃ。つまり、“平和の裏には、日頃からの覚悟と準備が必要”ちゆことじゃな。」

 

と言うと、

 

「まあオイが考えたんじゃがな!」

 

と機嫌よさそうに身長170にはなろうかという長身を、真っ直ぐに伸ばした黒髪に赤い詰襟の肩にかかった金色の飾緒、腰につけた直刀とともにガチャガチャと揺らしながら笑った。

 

「おや、そうなんですか、確かに、警察官として大事にするべきなことですねぇ」

 

そう言うとサキョウは、緑茶をすすった。

 

「ところでもう一つ。私はここにくるようとだけ言われて、あとは何も知らないんですがねぇ、私は一体どこに部署に配属になるんでしょう?」

 

「そんた決まっちょっど!シスターフッドと仲が良かち聞いちょったが。

中等部1年……1年け? ほんのこて?

まぁよか、それならまずはシスターフッド自治区で交番勤務じゃな!

安心せー、シスターフッドん警官は君1人じゃろうが、向こうん人達がしっかり協力してくるっでだいじょっじゃっで!!

高校生になって中等課程を受くっまでは、本部勤めはちょっと待っちょきやんせ!

そいになんじゃ……モーニングにシルクハットって……サンクトゥスでんあらんめえに……まぁ、服装はシスターフッドと話し合うて決めてんよか。一応、制服は渡しちょくで……。」

 

____________________________________________

 

ヴァルキューレ・トリニティの赤い制服やら装備品やら直刀やら、ついでにおまけともらった緑茶セットを両手に抱えたサキョウは本部長室を出ると、図書室のすぐ隣にある情報資料室をチラリと見た。

濃い葡萄色をポニーに括った髪が一瞬見えた気がした。

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数日後、杉下サキョウの身体はトリニティ総合学園の南西部、シスターフッド自治区聖堂前派出所に向かう馬上にあった。

結果的にシスターフッドの副代表であるイノリからは、

『まあ別にどちらでもいいと思うけど……制服なんて学生の間しか着れないから、そっちにしたほうがいいと思うわ』と言われたので、赤い軍服を思わせる詰め襟に、自治区の首席警察官を表す銀色に光る飾緒、右腰に拳銃、左腰に直刀を佩き、ミレニアムからもらったメカメカしい馬に乗っている。

自治区でたった一人の警察官。しかしながらサキョウの胸中は前世からの夢を叶えたという大きな喜びが支配していた。

2年前のトリニティ総合学園一斉検挙事件、あの時に一体何があったのか。

キツハはなぜ名門・マジェスティ・グループの受付なんかにいたのか。

そして最も____

あのリミナリティ駅で感じた、正体不明のまとわりつくような視線。

 

杉下サキョウは目前に大きな闇が潜んでいるであろう事実を今は忘れて、今だけはただ、街のお巡りさんとしての崇高な業務を遂行しようと決心した。

 

「それにしても、シスター・サキョウさんが()()()()シスターフッド自治区に来ていただけるなんて、私、嬉しいですわ」

 

途中で乗せたサクラコが、サキョウと一緒に馬に揺られながらつぶやく。

 

「こうして一緒に馬に乗れるなんて……もしかしたら、私たち、いい()()同士になれるかもしれませんね!!」

 

サクラコは少しだけ振り返ると、目を輝かせながら杉下サキョウ(相棒)に呼びかけた。

 

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____これは本編には関係ありませんが一つだけ__

 

シスターフッド自治区への出向を命じられた杉下サキョウは一路、ミレニアムサイエンススクールへ乗り継ぎ乗り継ぎ向かっていた。

 

______ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部__

 

エンジニア部の部室は器具が丁寧にまとめられており、トリニティとはまた違った機能美があった。

 

杉下サキョウはそこで、新しく提供されるロボット・ホースの説明を聞いていた。

 

「ロボット・ホースはミレニアムで生まれました。トリニティではありません。ミレニアムのオリジナルです。なぜか後れをとった時期がありましたが今や巻き返しの時です!!」

 

「ミレニアムのモデルは好きですねぇ」

 

「ミレニアムのモデルがお好き?結構、ますます好きになりますよ(ガチャ)」

 

担当官はロボット・ホースに鞍をつけ、跨るよう促すとサキョウは興味深げに鞍に跨った。

 

「ミレニアムの最新モデルです。快適でしょう?んああー仰らないで。鞍がビニール、でもレザーなんて見かけだけで夏は熱いし、よく滑るわ、すぐひび割れるわ、ろくな事はない。普通の馬よりもいいですよ。鞍もたっぷりありますよ、3人までならどれだけ乗って大丈夫。どうぞ回してみて下さい。『ブウン』いい音でしょう。余裕の音だ、馬力が違いますよ。まあ馬は一匹だけなんですがね___」

 

「一番気に入ってるのは___」

 

「なんです?」

 

「見た目ですねぇ」

 

「ああ、何を!ああっ、待って!ここで動かしちゃ駄目ですよ!待って!止まれ!うぁあああ・・・」

 

サキョウは勢いよく手綱を引っ張った。

たちまち馬からは到底出ないであろうエンジン音が部室内に響く。暴れ回る馬。

大きく嘶いた馬は一路、トリニティまで時速にしてなんと180キロで走り去っていってしまった。

 

「……まあいいですか、代金はもらってるし」

 

そう言うと担当官は長い紫色の髪を揺らしてまた何か作りに行ってしまった。




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