ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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崩スタSSふえろふえろ……


1. Episode of "M"
#1 ”銀河鉄道ってそりゃあアナタ”


 

 

 

 少年の日の思い出

 

 ありゃ地元の児童館かなんかの「夏休み名作アニメまんが映画上映会」だったと思うが、いつになっても忘れられない作品だ。

 

 あらすじは言ってしまえば、主人公の少年が永遠の命を求めて、喪服のような黒づくめの衣装に身を包んだ金髪おねーさんに導かれるまま、星と星とを行き来する銀河鉄道に乗り込み、各星々で様々な冒険を繰り広げる。

 

 そして、最後の冒険を経て、元の自分の星に帰還した少年に、金髪おねーさんはこういう、

 

『いつか、あたしが帰ってきて。あなたのそばにいても。あなたはあたしに気づかないでしょうね』

 

 出発のベルが駅のホームに鳴り響くと同時におねーさんは別れのキスを少年に贈るのだ。

 

『あたしは、あなたの思い出の中にだけ、いる女。あたしはあなたの少年の日の心の中にいた、青春の幻影』

 

 そんなあまりにも切ない言葉と共に夕焼けの彼方に走り去っていく銀河鉄道。

 

 少年はその日、大人になった——————

 

 

 

 

 

 

 くぅ〜〜〜〜〜〜〜、ああ、あんな星と星をめぐるような大スペクタクルな旅を自分もしてみたい。ていうか綺麗な金髪のおねーさんとキャッキャウフフしたいんじゃあ。

 って幼き俺は脳を焼かれた。

 

 だが、そんな思いとは裏腹に、ごくごく普通に中学高校を経て、あっけなく社会人となり、つまんねー歯車ライフを過ごしていたわけなのだが、

 

 ある郊外のめんどくさい取引先から帰る途中の高速で事は起こった。

 

 どっかの阿呆が起こした事故によって、数キロに渡っているらしい渋滞の最後尾についた後、「あーもうやってらんねぇ」と愚痴をこぼした矢先だった。

 

 本当にスローモーションのように、バックミラーに映っていたトラックのフロントが減速する気配も見せずに近づいてくる。最初はぼんやり見ていたそれ。嫌な予感のようなものが一瞬よぎるが、すぐに否定する。だが、まだ止まる気配がない。おかしい。そして、へ、まさか——なんて思う間もなく、

 

 物凄い衝撃と共にブレーカーが落ちるように俺の意識はブラックアウトした。

 

 そう、それで終わり。

 

 

 終わりだ

 

 

 

 

 

 

     ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

「——ねぇ、ゼン! あんた、話聞いてるの??」

 

 

 はい、ついでに現実逃避もしゅーりょー。

 

 耳元でやかましい声がしたことに、

 

「すいやせん」

 

 面倒になった俺は適当に謝って、途中まで締めていたボルトをトルクレンチが規定値を示すまで力を入れ直す。

 

 最初はガレキの撤去に始まり、お次は、ひたすらバケツでもって浸水してる場所から水をかき出した。

 

 そして、ここ数週間は似たような作業をずっとだ。もはや何本ボルトを締めてきたかわからん。いやてかいつ終わんの? 果てがなさ過ぎんだろうよ。素人が壊れた列車を修理するとか意味わからんだろ。日曜大工とはワケが違い過ぎんよ。

 

「ほら、サボってないで手を動かす!」

「すいやせん」

 

 バイザーを脱いだ、人使いの荒い声の主を見やれば、真紅の長髪と服をオイルとホコリと汗で汚した、

 

「——なに?」

「なぁ姫子、これほんと直んのかよ」

「直るのかじゃない、直してみせるの」

 

 決意表明を聞いたつもりは微塵(みじん)もないのだが、そっとその言葉は心に秘めておく。大人だから。

 

 つうか、いつも思う。こいつ(姫子)より俺の方が年上なんだが。もう少し(うやま)う態度があってもいいだろ。まずは”さん”か、せめて”君”をつけろ。年上だぞ、お前、と、し、う、え!

 

 ただぁ! あんまこっちの世界は年功序列的なそういった概念が広まってないので、いまいち通用しないのがつらいです。

 

 そう。

 

 今、俺の生きておりますところの世界は、現代日本ではございません。

 

 星神(アイオーン)と呼ばれる神のような存在がいたり、虚数(きょすう)エネルギーだなんだの頭が変になりそうな謎概念が跋扈(ばっこ)している。

 

 

 SF——すごくふしぎな世界といってもいい。

 

 

 そこに生まれ変わってしまったのだ。いわゆる異世界転生というやつだ。あるいは神様転生ってやつかもしれない。

 

 記憶はおぼろげだが、前世最後の衝撃の後、真っ白な空間で、ナニカに話しかけられた気がする。

 

 ……あれが本当に神様だったのかなんだったのかを確認する(すべ)は、今となってはないんだけどさ。

 

 そして、気づけば、幼児の姿で見知らぬ大地に立っていた。

 

 事情を理解できるわけもないまま、サバイバルに突入しかけていたところ、運良く大人に拾われなかったら早速ゲームオーバーだったろう。

 

 その後は、身よりのない子供たちを集めた施設に回され、同じような境遇だったらしい姫子(こいつ)と出会うに至る。

 

 いやーこういうの本当にあるんだね。びっくりびっくり。うん、許して。俺も諸々を雰囲気で理解しているふりをするので精一杯なんだ。

 

 最初はとんでもない世界に来てしまったと絶望もしたが、時間というのは大変優秀で、生きてくうちに過去の人生に対する感傷なども薄れていった。大変なんだ。どこの世界でも生きるというのは。

 

 それに、何も悪いことばかりでもない。

 

 ある意味、こちら側にきて、念願叶ったとも言える。

 

 ()()()()を考えるだけで、自然と顔がにやけてしまう。

 

「……なに、笑ってんのよ」

「ふ、ふふ。お前にはわからんよ、ふふふ」

 

 視線だけで「きも……」という思念(しねん)を伝えてきつつ、姫子は”少し休憩にしましょ”と片手に持っていた溶接機(バーナー)を脇に置く。

 

「まぁ、……だいぶ頑張ってきたしね。今日は夜空もきっと綺麗よ」

「大賛成」

 

 まだまだ壊れた部品やらが散乱している車両を二人して()い出る。

 

 姫子はボロきれで汚れた手を拭くと、水筒を取り出し、パチパチと音を立てているたき火で湯を沸かし始める。そんでもって荷物から取り出したコーヒー粉を沸かしたお湯で溶くと、湯気とともにカップをこちらに寄越してくる。

 

「はい」

「大感謝」

 

 受け取れば、面と向かってため息をつかれる。失礼な。

 

「なんなのよ、その口調……」

「いいだろ別に、気にすんな」

 

 やけどしないよう息を吹きかけつつ、俺は姫子の隙を見計らって音速でカップの中の()()を捨てた。

 

 こいつの()れるコーヒーはコーヒーではない。

 

 何をどうしたらこの味になるのか。なんか変な生き物の(くそ)でも拾ってきて(せん)じてるのか。ゲロ以下といってもいいぞ。逆に体調崩すわ。姫子も科学者の端くれだってんなら、ロジカルに説明してみろと問い詰めたい。

 

 自分の水筒でこっそりカップを洗い、普通に水で満たす。

 

 俺は座れそうな手頃な木箱に腰を下ろし、適当に似たようなサイズの木箱が転がっていたので足で姫子の方にも押してやる。

 

「しっかしだねぇ……」

 

 視界の端から端までを埋め尽くす、座礁(ざしょう)したそれ。

 

 

 ——荒れ果てた姿で横たわる列車を眺める。

 

 

「こいつ、全部直すってなると年レベルでかかるべ」

「…………」

 

 海岸近くの崩壊しかけた遺跡の中で発見した張本人であられる姫子曰く、

 

 これは”星穹列車”(せいきゅうれっしゃ)というらしい。

 

 そのものずばり、宇宙空間に散らばる星と星との間を駆ける列車だ。

 

 だがまぁ、こいつが現役だったのは遙か昔のこと。

 

 この列車は開拓の星神(アイオーン)「アキヴィリ」のもとに作られたのだという。星神(アイオーン)、例の神様みたいなやつな。

 

「開拓の〜」とある通り、このあまねく宇宙を解き明かしていく能力を有しているため、かつて乗員である「ナナシビト」たちを乗せて、数多(あまた)の伝説を築いてきたとかなんとか。

 

 どれも姫子からの聞きかじりでしかないが、

 

 はたして、——そこにはどんなドラマがあったんだろうか。

 

「そう、ね……」

 

 ここではない遠くに思いを()せるような姫子のつぶやきに、俺も視線を上に向ける。

 

 はるか頭上には、天蓋(てんがい)が広がり、散りばめられた宝石のような星々は息を飲むほど美しい。

 

 これほどの景色は、過去の世界でどこの田舎にいっても見ることができないだろうと思う。

 

 その輝き1つ1つにどんな命があり、どんな文明があり、どんな自然があるのか。それとも、何もないのか。

 

 ただ1つたしかなのは、行ってみなければわからないということだけ。

 

「——でも、やるわ。やり遂げてみせる」

 

 誰に聞かせるわけでもないというのに、姫子は揺るぎない口調で断言する。

 

「だって、知りたいじゃない。一度きりの人生だもの」

 

 まったくもってその通り。

 

 人間いつ死ぬのかわからないというのが身に染みた。だったら好き勝手に夢を追いかけてもいいじゃねーか。ま、俺は2度目なんだけどね。

 

「こんなにも、——(つか)めそうなんだから」

 

 笑えるくらいの星空を仰ぎ見、手を伸ばすその姿はある種神々(こうごう)しくて、……年下でなければ()れていたに違いない。

 

 少し離れた距離から、木箱をずらして俺の隣まで来ると、

 

「だから、ゼン。一緒に行きましょ。

 ——この列車で銀河を駆けて、いつか群星(ぐんせい)へたどり着く旅へ

 

 くたびれた身体にもう一度、鞭打(むちう)とうと思うくらいには魅力的な言葉にうなずく。

 

 もとよりそのつもりだ。じゃなければこんな重労働をタダでやるわけがない。

 

「おう。行こう。この宇宙のどこかにいるはずだからな、——俺のメーテルが」

 

 どれだけ時間がかかろうと、必ず、探し出してみせる。

 

 そんな決意を新たにしていれば、(あき)れた成分のまじった声で、

 

「昔から時々言ってるけど、なんなの、それ?」

「うん? まーそうだな、憧れの人、理想のタイプみたいなもんだ」

 

 あの日、焼かれた脳は、ゆがんだ性癖は、俺を駆り立てる。

 

 今世こそ美人なおねーさんとムフフをする。

 

 希望としては金髪ロング、切れ長の目、ミステリアス、ダイナマイトぼでー、あふれんばかりの色気などなどだが、望みすぎだというのなら基本的に美人ならOKです。

 

 だがしかし、ゆずれないのはやはり、

 

 

 

 

 ——()()()()()()()、だ。

 

 

 

 

 しみじみ(うなず)いていると、箱の上で(ひざ)を抱くようにして姫子が、

 

「……考えたことないの? その、メーテなんとかが……案外、近くにいるとか」

「ない。いるならとっくに行動しとるわ」

 

 むしろなんで転生したのに、(うるわ)しのおねーさんが周りにいなかったのか理解できない。いればいくらもフラグ立てることに邁進(まいしん)していたはずだったのに。ほんと泣きてーわ。

 

 気づけば10代も後半にさしかかり、このままでは立派な成人男性だ。おねーさんという年齢ゾーンがどんどん狭まっていく。もはや一緒にお風呂入ることができないなんて。つまり、

 

 ぼく「わぁーん、おぴんぴんがなんか変になっちゃったぁ!」

 おねーさん「どうしたの? おねーちゃんに見せてみて(え、なにこれ……)」

 ぼく「どうすれば治るの?(ウルウル)」

 おねーさん「お、おねーちゃんに任せて、ぼくくんはじっとしててね……」

 ⇒ F i n

 

 これがもうできない……だと、

 許せない、こんなことは許せない。俺が間違ってるんじゃない。間違っているのは世界の方だ。

 

「…………」

「い”っだぁ”””!!!」

 

 無言で蹴りを寄越してくる。

 

 そんなツラと頭だけはよい幼馴染に俺は思う。

 

 年上だったら速攻で口説き落として、パンパンやぞパンパン。

 

 年下で命拾いしたなと心の内で毒づき、ため息をこぼす。

 

 

 

 

 

 ――はぁ……、どこにいるんだろ。俺のメーテル(’M’aetel)

 

 

 

 

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