ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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#12 ”Ideal Idol”

 

 

 

 普通に考えてほしい。

 

 20キロ前後の重りをかついで、真蟄虫(スウォーム)の大群から全力逃走できますか? 24時間戦えますか?

 

 ――無理ですって。

 

「…………ふぎぎ、ふんぬッ!」

 

 最初とっさに(せい)をかかえたから、お姫様抱っこする形になってしまった。

 

 すぐに腕がツラくなったのでおんぶに変えようとしたら何故か(せい)が暴れたため、やむなくお姫様抱っこは契約更新となりました。おめでとうございます。

 

 腕? ああ、あいつ、いいヤツだったよな……無茶しやがって。

 

 (せい)さん(せい)さん、緊急事態なうってこと理解してほしいんですけど。ご満悦(まんえつ)フェイスでゴーゴー! って腕を突き出してんじゃねーよ。

 

 あかん、もぉーむりぃーって馬群に沈みそう。

「残せ、残せぇぇぇぇ!!」って応援してくれたファン、野次(やじ)らないで。

 

 しかも両手塞がってるせいで、スマホを取り出して宇宙艇をいますぐこっちに向かわせることもできねぇ。あれこれ詰んでない? 初心者救済システムで、「ふぅ、妙にリアルな夢だったぜ」って”ねぐら”からやりなおすことできない?

 

 段々と大きくなる羽音に、汗が目に入りそうになる。

 

「くっそ、使うか……?」

 

 ノヴァイレイザーを使えば、確かにこの状況を打破できるかもしれないが、問題はやっぱり……

 

「――大丈夫だよ、心配すんな」

 

 焦りが顔に出てたんだろう。

 

 それが伝わってしまったのか、腕の中で不安そうにこっちを見つめていた(せい)に気づき、断言しておく。

 

「エリオの脚本だと、”活路は前にしかない”らしいからなっ」

 

 なお全力逃走してる模様。

 

 とはいえ、

 

 ……やっぱきちーな。俺一人なら余裕でノヴァイレイザーをぶっ放すことを選択していたが、今もしやったら反動でこいつ()が巻き込まれかねない。

 

 ああもう、しゃーなしだ。降りる時に言った手前、

 

「……(せい)、まっすぐ振り向かず宇宙艇まで走――――」

 

 言いかけている途中で、何かを耳が拾い、口をつぐむ。

 

 

 

 ――羽音のブゥンとまた違うたぐいの高周波。

 ――たとえるならキーン、飛行機の、ジェット音のような、

 

 

 

 背後で衝撃。たまらず、(せい)を横から縦抱きに変えて、何事かと振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――SAM(サム)In Position(インポジション)

 

 

 

 

 

 

 

 

 巻き上がった砂煙(すなけむり)の向こう側から、赤い光と合成音声じみた男の声。

 

 突風が吹き、砂塵(さじん)が払われた瞬間、その姿があらわになる。

 

 

 ――それは白銀の(よろい)

 

 人体を模し、かつ超えるべくして(こしら)えられたであろう代物。

 

 突き出した肩や顔の鋭角と腰回りの曲線の絶妙な配分、要所要所に散りばめられた差し色の金をデザインした誰かのセンスを褒めたくなる。

 

 真蟄虫(スウォーム)から、俺たちをかばうような位置をとり、

 

 腰を落とし、半身になって構える後ろ姿。

 

 俺は言葉を失う。

 

 

『――生存反応2。貴方(あなた)たちですね』

 

 

 やたらとイケボでその鎧から問われる。

 だが返答するより先に、

 

 

侵攻開始(しんこうかいし)。――この場から逃げてください』

 

 右腕を大地に突き立てるような予備動作、から一気に踏み込み加速――跳ぶ。

 

 宙空で体勢変更。

 両足を揃え、背面のスラスターの噴射と同時に突き出す。

 

 なんと美しい姿か。

 

 その結果、

 

 えげつない威力のドロップキックで4体の哀れな真蟄虫(スウォーム)が投げつけたトマトのように弾け飛ぶ。

 撒き散らした体液が噴水のように上がって、雨のように落ちてくる。

 

 同時に、鎧の今のキックによって地面にクレーターが出来上がっていた。

 

 「つ、つよ…………か、かっ」

 

 呆然とした俺のつぶやきが溶けて消えるなか、真蟄虫(スウォーム)の最前線に鎧はカチコミをかけていく。

 

 猛烈な威力のパンチキックを組み合わせ、あっという間に10体近くを撃破。

 

 圧倒的だった。

 

 だが、いかんせん数が違う。

 

 10体倒したとて、残り9セット、しかも順番じゃなくほぼ同時となれば誰だって青ざめる。事実、虫を1体倒すごとに、死角から攻撃が入り、加速度的に装甲の傷が増えていっている。

 

「…………っ!」

 

 (せい)を降ろし、たまらず加勢に向かおうとすれば、ローブの(すそ)を掴まれる。

 

 ふるふると首を横に振る(せい)

 

 そりゃそうだ。

 そりゃそう、なんだが……、パルサーエッジに手をかけた瞬間、

 

 

 ――再び、ジェット音とともに何かが今度は1つじゃなく、複数着弾した。

 

 またも巻き起こった風塵(ふうじん)に映る今度の影の数は、

 

 ――2つ。

 

 そして、同じく鎧ではあるが、見た目が異なる。

 

 一方的に呼称して良いのなら、さっきの鎧を攻守バランスの良い標準的なノーマルタイプ。

 

 新しく現れた2体は、片方は大型で装甲が厚く、耐久性の高いタンクタイプ。

 

 もう片方は肩の射撃兵装により、殲滅戦や範囲攻撃が得意なシュータータイプといったところだろうか。

 

 ノーマルと入れ替わり、タンクが前衛に立つべく動く。

 

 その間、シュータータイプが弾幕を張ることで真蟄虫(スウォーム)の数を減らしつつ牽制(けんせい)する。

 

 無事スイッチすると、タンクタイプがその長所を活かし始める。展開したビームシールドのようなもので真蟄虫(スウォーム)の突進を防ぎつつ、そのパワーで圧殺していく。

 

 負けじとシューターもマシンガンのような連射系武器をいったん止めると、別の肩の砲台からレーザーが放射され真蟄虫(スウォーム)がなぎ払われていく。

 

 仲間の到着と(おぼ)しきノーマルもいったん態勢を整え、徒手空拳(ステゴロ)スタイルから両腕にブレードを追加したうえで、タンクの死角のカバーや、シューターの撃ち漏らしを切り払っていく。

 

 見事というべき統制の取れた動きで、鎧三者(よろいさんしゃ)は徐々に形勢を逆転し始めた。

 

「おお……おぉ…………」

 

 その様子を食い入るように見つめていると、先ほどより強くローブの裾が引かれる感触がある。

 

 見れば、

 

 『もぉー! いつまで見てるの? 行くよ!』という顔をしている(せい)だった。

 

「や……も、もうちょっと、……もうちょっとだけ……」

 

 それが怒髪天を衝く(ブチギレ)のキッカケになったのか。

 

 指でつついたら破裂しそうなぐらいほっぺを膨らますと、勢いよく俺のローブをガジガジかじり始めた。

 

「ばっ!! ちょ、おまっ、まだほぼ新品なんだぞコレ!!!!」

 

 唾液(だえき)歯形(はがた)でもう二度と着る気が起きなくなったらどうしてくれんだ。

 

 致し方なく、それでも何度も後ろを振り返りながら、俺たちは宇宙艇へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙艇に戻り、操縦席につく。

 

 ヘッドレストに頭を預け、(まぶた)を閉じれば、

 今し方まで見ていた、荒野、鎧、命のやりとり、鎧、虫、鎧が鮮明に焼き付いている。

 

 細く、長い息を吐き、俺は行き先設定をするべく、タッチパネルに触れようとして――指先が止まる。

 

 ――危険。

 

 ――逃げるべき。

 

 

 ――どう考えても、即刻。

 

 

 ――帰るべき、なのだろう。

 

 

 ――今すぐあったかい我が家……かはともかく、少なくともこの星の死ぬ確率とは比較にならない安全な屋根の下へ。

 

 

 ――大好きなおねーさんもいて、ペットもいる。ごく最近1名、小生意気な幼女が追加され、ここからさらに賑やかになる見込み。クソ忙しいが銀河を股にかける刺激的な毎日。

 

 

 ――わかってるとも。何が大事かくらい。

 

  

 

 

 

 

 

「……おしっ、決めた――」

 

 

 

 

 

 

 操縦席から立ち上がり、後部座席でまたスナックをボリボリ食っていた(せい)の前に立つ。

 

 俺の雰囲気の真面目さにボリッと最後の一噛みをごっくんすると、話を聞く態勢に入った。

 

 そして、首を(かし)げる。

 

「……さっきは悪かった。怖い思いさせた、よな」

 

 あーその話、まぁもう終わったことだからと腕を組み、うんうんとうなずく(せい)。そこに、

 

「たぶん、……いや、というか絶対だと、思うんだけどな……、」

 

 まず膝をつき、次に両手をつく。

 いわゆるひとつの四つんばい。

 

「頼む!」

 

 え……なになに……と目を見開く(せい)に正面から、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの鎧……ッ、あれッ…………あれッ、仲間にしたい。どれか……ひとつ、だけでもッ!!」

 

 

 

 

 

 (だい)大人(おとな)全力懇願(ぜんりょくこんがん)だった。

 

 

 

 

 だ、だって、一目見た時から凄かったんだもん!

 

 胸のドキドキ止まらなかったんだもん!

 

 スゴイや、スーパーヒーローは本当にあったんだ。

 父さん(?)は間違ってなかったんだと叫んでもおかしくなかったんだもん!

 

 ほ、ほんと、今思い返してみても、か、カッコよすぎるべ……。なにあれ、アーマースーツってやつ? 中に人いるタイプなのかな。いないなら、アーマードロボかな。いやーこっちの人生史上で一番カッコいいかもしれん。こんな出会いがこんな星で待っているなんて、やっぱすげえよエリオは。一生ついて行きますボス。

 

 あれ、つかまえないと絶対、絶~対ッ、人生後悔するから、もっかい危険を承知で付き合ってくれって。

 

 上記のようなことを一通りまくし立てて、顔を上げれば、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あーこれだから男はって、というひじょーに(しら)けたツラをしていた。なんなら自分の爪を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 その年齢(とし)で男を語ろうとすんなやと(こぶし)が震えたが、今はこちらがお願いしている側なので涙がこぼれ落ちそうになるのをこらえる。

 

 それでも、

 

 じーっと子犬の目で見続けていると、

 

 やがて「譲歩してやる」と言わんばかりに嘆息し、

 

 おまけに肩をすくめて「勝手にすれば」とアピールする。

 

 そしてとどめに俺に指を突きつけて、「ちゃんと守れよ? 忘れんなよ?」と訴えてくる。

 

 コクコクおれは首肯し、

 

 

 

「――――この船で追いかけるぞ、(せい)、さっきの鎧に話をしにいく!」

 

 俺は立ち上がり、できる限りシリアスな声と共に腕を(かか)げたが、(せい)は付き合ってくれなかった。

 

 

 

 

 早すぎる反抗期なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

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