ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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#13 ”Monochrome Monologue”

 

 

 

 

 ――司令部(ヘッドクォーター)司令部(ヘッドクォーター)。聞こえますか――

 ――こちらAR - 26710。応答願います――

 

 何度目かになる問いかけをしても、やっぱり反応はなかった。

 

 ここの所、こちらの動きに気づいているのか蟲たちの攻撃が増している。

 

 だから、もしかしたら司令部も……なんてよくない予感がよぎった。

 

 そういうとき、どうやってこの感情に対処すればいいか入力(インプット)されていないけど、違う可能性を考えるといいんだって。

 

 昔一度だけ一緒に戦ったAR - 18686が教えてくれたんだ。

 

 彼は物知りでいろんな考え方を知っていたから、もっと教えてもらいたい事がいっぱいあったんだけど。結局、その後……会うことはもうなかった。

 

 やめよう。

 違う可能性……違う可能性。あ、ひょっとして、

 

「昼間の戦闘でのダメージで通信機能が故障したのかもしれない……」

 

 いったん真蟄虫(スウォーム)を撃滅することには成功したけれど、その後すぐにまた蟲たちの増援が来て、あたしたちは撤退(てったい)余儀(よぎ)なくされた。その時にそれぞれがバラバラの方向に逃げたから、一緒に戦ってくれた他の同型(ナンバーズ)たちの安否はわからない。無事と言えば、

 

「あの人たち……、大丈夫かな」

 

 戦場にいた、2つの生存反応。

 

 今までたくさん戦ってきたけれど、あんなことは初めてだった……あれ、■■、め、て? うん、なんだろ、まぁいいや。

 

 最初SAM(サム)のアイカメラでその反応を確認したとき、あたしは判断ができなかった。こんな対応も入力された情報にはなかったから。ただその生命反応が真蟄虫(スウォーム)の大群と接敵(せってき)しそうになってるのがわかって、気づけば降下体勢に入っていた。

 

「無事だと、いいな……」

 

 戦っているうちに逃げてくれたみたいだったから、たぶんもう会うことはないんだろうけど。

 もしもあの人たちが生き延びてくれたのなら、その時は――――

 

「ここだったら……いいかな?」

 

 周囲に敵の反応がないことを確認してから、あたしはSAMを脱着(ログオフ)した。

 

 『グラモス軍規 第4条:許可なく操縦を放棄してはならない』を破ることになるから、たぶん後で叱責(しっせき)をもらうかもしれないけど仕方ない。

 

 新鮮な空気を感じて、大きく息を吸う。それと同時に少し脚がふらついて、地面に手をついてしまう。

 

「また、だ……」

 

 ――誰かがいつからか言い始めた”電池切れ”。正式名称は”ロストエントロピー症候群”。

 

 あたしを含めてグラモス鉄騎兵は全員が遺伝子編集済幼児(デザイナーベイビー)として培養槽(コクーン)で誕生させられる。その環境下で急速に成長するなかで、入力(インプット)による学習と仮想空間上での戦闘訓練に日夜明け暮れる。

 

 次に、待っているのが実戦。

 

 相手の真蟄虫(スウォーム)にも幼体(ようたい)から成体(せいたい)古種(こしゅ)といった様々なクラスがあるから運が良ければ帰って来れるし、悪ければ……それまで。あたしは運が良かった。

 

 帰還しても、また培養槽(コクーン)で受けたダメージの回復と遺伝子調整(ジーンケア)入力(インプット)が必ず待っている。

 

 だから基本的に同型(ナンバーズ)同士の横のつながりなんかほとんどなくて、なんとなくの雰囲気と個体識別番号(シリアル)だけを手がかりに、戦闘と戦闘の間の補給とか本当にたまにだけある哨戒(しょうかい)任務の時に隙を見て話しかける事ができるくらい。

 

 そんな毎日を来る日も来る日も繰り返すなかで、せっかく知った顔も話しかけてくれた誰かもいつの間にか見かけなくなる。その度、思うんだ。

 

 ――ああ、きっとあの子も(じゅん)じたんだ。

 

 ――グラモス軍規 第22条:騎士たるもの、死を含む己の一切を女皇陛下(じょこうへいか)に捧げるべし

 

 毎日、培養槽(コクーン)の中で、覚醒する度に聞こえてくる音声。あたしたちは全てを女皇陛下のために捧げる存在だから。あたしたちの全てである命を捧げることの出来たあの子が少し、うらやましかった。

 

 でも、その一方で、同時に怖いことがあったんだ。

 

 理屈はわからないけど、戦場で死なずに帰還し続けた同型(ナンバーズ)が戦闘ではない時期に、あるとき忽然(こつぜん)と姿を消すことが時々あった。

 

 ひょっとして、秘密裏に任務を命じられ、失敗したのかも。

 

 そんな想像を膨らましていた中で、AR - 18686が教えてくれたことの1つ。

 

 それが――”電池切れ”で、”ロストエントロピー症候群”。

 

 ある時期を境に、急激に神経伝達に劣化が起きるようになって、思うような動きが出来なくなる。そしてそれはどんどん範囲を拡大して、最終的に脳にも及んでしまうと、自分と世界の境が曖昧になり、最終的に存在そのものが消えてしまうという(やまい)

 

 ……まるで、本来の動きを出来なくなったおもちゃが、誰にも見向きもされなくなって、存在ごと忘れ去られてしまうみたい。

 

 だから、”電池切れ”という言い方は凄く正しいと思う。

 

 けど、それはあまりにも無駄死にで、何一つとして祖国や女皇陛下に捧げられていない恥ずべき死。絶対に避けなきゃいけない死。

 

 たぶん、あたしの今さっきのふらつきもその前兆……だと思う。まだ症状は軽度かつ稀だけど、もしそれが進行していったとしたら――

 

 

「まだ……まだ、……」

 

 ()うようにして、池の水面へと顔を映す。

 

 ナノマシンの反応により顔の血管の一部が光っていた。それが人でないモノの(あかし)のように見えて、あたしは水面を殴ってその像を消した。

 

「まだ、死ねない……」

 

 汗で汚れた顔を洗って一息つく。

 

 ――この水場は特別だった。

 

 以前、真蟄虫(スウォーム)を撃滅し、帰投するときにたまたま見つけた場所。

 

 荒れ果てた大地の広がるグラモスでも珍しいまだ緑の残っている場所で、今のように日が落ちると、どこからともなく、光る虫――ホタルが飛び交い始める。

 

 ……今までビデオ資料でしか見たことのなかった生き物に初めて遭遇したときは、

 

 ――本当に、感動したな。

 

 ……あまり綺麗とはいえないあたしの世界で、こんなにも綺麗な光を放つ生き物が、外の世界にはいるんだって、味わった事のない気持ちを教えてくれたから。

 

 そこに、物音が聞こえた。

 

「――ッ!」

 警戒しながら立ち上がろうとして、

 

 林から小さな影が飛び出してくる。

 

 最初はもしかして、ビデオ資料で見たことのあるイノシシかと思ったけど違った。

 

 その影はちゃんと人の形をしていて、

 

 元気いっぱいに、うおーっ見っけたー! と言わんばかりに飛び跳ねながら、あたしを両手で指差す子供――女の子だった。

 

 戸惑うしかなくて、少しの間、沈黙が続いて、

 

「えっ、と……どうして、」 

「――――ば、おい待てって(せい)。突っ走んなって、転ぶぞ!!」

 

 後ろから追いかけるようにして、また新しい人影が飛び出てきて、「確保ーーー!」とさっきの子を捕まえると、

 

 その人。

 

 黒と黄色のローブをまとった男の人が、あたしの存在に気づいて、

 

「――あれ、……そ、そこのぼ、ボディスーツ少女。つかぬこと聞くんだけど、この辺りに白銀のスーパーカッチョいい鎧を見かけんかった?」

 

 ボディスーツ少女って、あたしのこと、なのかな? 

 

 一応、周りを見渡してから、他にそれっぽい人がいなかったし、敵意もなさそうだったから、

 

「は、はい」

 

 手を挙げておく。たぶん白銀の鎧っていうのもSAM(サム)のことだと思ったから。

 

「え……え~?」

 

 目を()らすように全身をまじまじと見られると……なんだか恥ずかしかった。

 

「えぇ……あんたがあの鎧……トランスフォーム系か…………なるほどぉ。思ったのとはちょいと違うけど……」

 

 マアオスダトカフカサンガとかさっきからあたしの理解出来ないことをボソッと並べると、男の人は、

 

「あ、ちょっと試しに変身してみてくんない? ね、ね? 念のため念のため他意なし他意なし」

 

 両手を合わせて、期待に満ちた眼差しであたしの方に近づいてくる。

 

 ど、どうしよう。お願いされてSAM(サム)になることなんてなかったから、どうすればいいかよくわかんないよ……。

 

 困り果てていた所に、

 

 

 

『――――止まってください』

『――――それ以上、接近すれば命はありません』

 

 

 

「き、きたあああああああああああああ!!!」

 

 上空から散開したはずのAR-214と1368が着地してきた。よかった! どっちも無事だったんだ。

 

 とほっとする一方で、2体は主力兵装を男の人に向ける。なぜか喜んでいた男の人も銃口やビームを向けられて、すぐに両手を上げる。

 

「こ、こっちに抵抗の意思はない! 繰り返す! すいません! 抵抗の意思はない! ごめんなさい!」

 

 そして、こっちがまだなんも言ってないのに勝手にひざまずいて、頭の上で両手を組み始めた。

 

「――俺はゼインっていう! こっちのメスガ――女の子は(せい)ッ! ワケあって、この星に来た! まず言いたいのは! 昼間はありがとう、あんたたちのお陰で助かった!」

 

 その言葉を聞いて、はっとする。そうか、このゼインって言うらしい男の人と女の子……昼間の戦闘であたしが逃がした二人組だったんだ。

 

「あんたたちの強さは見事だった。正直、惚れた! そこで提案がある!」

 

 この人、いったい何を言い出すんだろう……。

 AR-214と1368もSAM(サム)越しに困惑しているのが伝わってきた。男の人は大きく息を吸うと、

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もうこんな危険な仕事をやめて。もっと楽しくて、やりがいのある仕事をしませんか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「——宇宙の平和を守るだけの簡単なお仕事です! 特に皆さんのような戦闘の経験者を優遇します! 最低賃金は月に2万信用ポイントを保証します! これは最低なので、皆さんの頑張りによってどんっどんアップします! リーダーになれば1本コースも夢じゃないかも!? 休みを取りたければ、仕事と仕事の間の時期に調整することで取れる……かもしれません! 皆さんの頑張り次第です! 動物好きなら、滅多に出来ないペットから命令される貴重な経験も積めます!

 

 ――どうですか! 俺たちと一緒に楽しい楽しい、やりがいしかない宇宙のゴミ回収業者として人生をかけていきませんかー!?」

 

 

 

 肩で息をするほどにまくし立てた男の人。

 

 あたし含めて、誰もが反応できなかった。首を(かし)げることすら出来なかった。

 

 

 ――ホタルだけが、何も知らず、平和そうに飛んでいる。

 

 正直、処理が追いつかなかった。

 

 なんだろう。何を言っていて、

 どうすればいいのかな。

 

 

 そっか。

 

 

 全部、言葉に出そうと思った。

 

 言葉に出して、()かないといけないんだって思った。

 

 

 ――静止した世界で一歩前に歩み出る。

 

 AR-214と1368があたしを見る。

 

 女の子も。

 

 やがて、男の人の前に立つ。

 

「……さっきの。わからなくて、 」

 

「え、……ああ、何でも教える」

 

 笑みを深める男の人。

 

 

 そっか。

 

 

 なら、一言一句、ちゃんと伝えないと。

 

 

 

「――危険な仕事?

 ――なんで? 戦うことは当たり前だよ?」

 

 

 

「――賃金?

 ――どうして、お金の話になるんだろう?」

 

 

 

「――休み?

 ――いつだって、蟲はやって来るよ?」

 

 

 

「――楽しい?

 ――楽しいって、なに?」

 

 

 

「――やりがい? ああ、

 ――それはあるかな、

 

 

 ――グラモス軍規 第22条:

 ――騎士たるもの、死を含む己の一切を女皇陛下(じょこうへいか)に捧げるべし」

 

 

 

 

 

 

 

 ――そう、全てはティタニア女皇陛下のために。

 

 

 

 

 

 ――あたしたちは、在るんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お調子者が気づかず地雷を踏み抜く構図

執筆時BGM:「Avid」SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki
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