正直に言う。
『君も今日からソルジャー採用! 黒猫式ブラックリクルーティング交渉術』に基づく提案は、
完全に空気を読み間違えたのだと思う。
……とは思いますけれども、
「えへへ、はいそうでつね^^」というほど俺は人間仕上がっちゃいねーし、そもそもお互いの認識に
「はい? ……よくわかんねーけど、あー……その
「……? 女皇陛下は、女皇陛下だよ。あたしたちのグラモスを統治する愛すべき
「あっはい」
え、なにこのヤバい感じ。てんじょー……天井のシミと勘違いしてる説とかない? それもそれでヤバいことに変わりないが。
「えーあー、そのー、なに、おめーはあれか? その女皇陛下さんのためにあの
物凄い歯切れ悪く、そして物凄く言葉を選んで問い返す。
どうにもこの
そうやって俺が考えあぐねている所に、
「うん。そうだよ。
――あたしたちは、戦うために生まれて、死ぬために戦ってる」
さも当たり前のように、まるで春のうららかな昼下がりに、今日は晴れてて温かいですねとでも言うかのように、目を見つめて言われた。
吐くべき言葉がすぐには見つからず、というか見渡す限り転がっておらず、頭を
ようやっと見つけたのは、
「…………おたくらも、……そうなワケ?」
他の2体の鎧への問いかけ。
しばし
『私たちは、
――蒼穹帝国グラモス。ご大層な名前だ。AR - 26710。まるで
なんなんだ、胃の底に溜まるような、この気持ち悪さは。
『肯定。私たちが戦わなければ、愛しきグラモスの大地も民も、憎き蟲共によって食い荒らされるでしょう。それを防ぐために
シュータータイプの声も同様。
言ってることはご立派なのに……、
それに、どれもこれも決められたスクリプトを読み上げているようで、薄気味悪さすらある。
眉をひそめれば、俺の手を握る
――だが本当にいいのか? とも思う。いいのなら、とっとと「了解でーす。おつかれっしたー」とやる気のないバイトくんのように立ち去った方がよっぽど楽だ。
だから、
「……最後にもっかいだけ聞かせてくれ。おたくらにも事情があんのはわかった。それでも、
――俺たちと仲間になって、一緒に働かないか」
ラストチャンスと思って、再度オファーを出す。
水質がキレイなのか、蛍が足下を舞っている。物騒な話をしていなければ、よほど風流な思いができたに違いない。
鎧たちを代表するように、AR - 26710と呼ばれた女子は、
――やはり、
「ううん。それはできない。ただ……君が言っていることは、よくわからなかったけど、」
一拍、間を置いて、
「……それでも今の。あたしたちを心配してくれたことはわかったよ。ありがとう」
別に、そこまで心配しているわけじゃない。
お礼なんか言われても困るんだ。
ただ、そう、ただ、そんなふわりと笑いながら言うのが……あまりにも痛々しく見えただけだ。
「助けたのが、君たちでよかった」
そう言って、その先に何があるわけでもなさそうな遠い方角を見つめて、
「――
悲壮感を込めずに、明後日は少し郊外に出かけてのんびり過ごすんだ。
そんな他愛もないことを伝えるかのような口調で言ってのける。
……なんでそんなことができるんだ。
「鉄騎兵団の総力をぶつけるから……、これまでにない激しい戦いになると思う。
――だから、できる限り遠くまで逃げて?」
他人の心配をしてる場合なのか。そんなほぼ確実に死ぬであろう戦いを前にして。
「それ、と、」
ちら、とだけ俺を見て、喉元まで出かかっていたように開きかけた口からは、
「……ううん……いいや、忘れて。じゃあね。最後に見せるよ。これがあたしの、
――――ファイアフライ-
次の瞬間には、思わず
――俺たちと蛍を残して。
――宇宙艇まで戻ってきて、操縦ボードの上に足を組んだまま、もう30分以上はこうして天井の一点を見つめていた。
あぁ~とか、うぅ~とか
ったく、ほんとお子ちゃま。そんなに菓子ばっか食ったら晩ご飯食べられなくなるぞ。
と、思っていたらすたすたとこっちにやってきて、
そして、膝の上に勝手に乗ってきて、俺を背もたれ代わりにしながら、頭だけ振り返る。
――聞いてあげるから、話してみなよ。
目だけで、そう訴えてくる。
まぁ頭ん中でぐるぐるとモヤモヤをお手玉しているより、たとえチビでも吐き出した方がなんぼかマシか。
「なんだろうな……とにかくなーんか気持ちわりぃんだ」
あの鎧たちと会話し始めて以来、ずっとだ。胃の中がヘドロまみれになっている気分が続いている。
「戦うために生まれて、死ぬために戦ってる――なに、どゆこと? シラフで言えるか? そんなんフツー」
だが冷静に考えても、異常極まりない。
「蒼穹帝国グラモス? ティタニア女皇陛下? 愛すべき天上の花? グラモス軍規うんたらかんたらで、すべては女皇陛下のためにぃ?」
へそで茶でもコーヒーでもしばけそうだ。
――1つ忘れてる。
人差し指を立てる
「そうだ。
――んなもん、
別に誰が好きこのんでなんもない荒野に着陸したと思ってんだ。さんざ地表に街や集落がねーか、探し回ったっつーの。それでもなかったんだ。なのに軍? 帝国? 皆さんどこいったんだよ。
まだある。
女皇陛下なんつー大層な肩書き持ったお偉いさんがいるなら、城だの宮殿だのさぞかしでっかいお家に住んで権力を
まだまだある。
生体反応だってそうだ。人が密集して住んでんならポポポポーンって赤点が表示されるわ。階級構造が
疑問が尽きない。
違う、尽きなすぎるんだ。
「あの鎧たちもなんで生体反応にヒットしなかったんだ……? なんなんだ、この何もかもが
――あいつらは、
――いったい、何のために戦ってるんだ……?
「だぁもう、くっそ、わっかんねー!」
頭がフットーしそうになり、俺は後ろにひっくり返る勢いでのけぞる。
あーもー、天才になりてーわー、楽しくクラブ活動してーわー。すんげー美人とかいないのかなぁ。天才クラブって噂はよく聞くけど。
そんな俺の顔に、
ふぁさっと紙束が乗っけられる。
思わずその紙を引っ掴み、いたずらの犯人である
「なにすんだ……あ? これ、 」
――エリオの脚本だった。
なんかヒントでも書かれてなかったかと、今一度、目を通してみる。
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あなたの道中にハプニングはつきもの。
決して、振り返ってはいけない。
活路は常に前にしかない。
多く、と出会いがある。
しかし、誤るな。
本当の出会いは一つだ。
嘘と偽り。
誰もが幸せを夢見て絶望する。
その手に握るのが希望だと
気づくことなく。
闇は深い。
夜明け前は特にだ。
だからこそ、その果てで
あなたは、星よりまばゆい光を得る。
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「……ハプニングだらけで、蟲含めて出会いありまくりだっちゅーの」
思わず丸めてくずかごにポイしたくなったが、流石にやりすぎかと適当な台に置いておく。
「あんだよ? ……へぇへぇ、わーりましたよ」
じっと俺を見つめる
言わずもがな、問うている。
――このまま帰るのか。
――それとも帰らないのか。
そんなんは、
「――愚問だな。うちのヌッコ様いわく、
”活路は常に前しかない”。
こんなハテナばっか放置して、はいダメでしたーって手ぶらで帰れるかよ。
俺たちは星核”
どだい最初から許可求めるなんざ、まじめな俺らしいけど、ずいぶんとアホな話だった。
――欲しいもんは力ずくで奪いに行く。なっ?」
むふーと満足げな顔をしている
「――しっ!!」
自分の両頬を叩いて気合いを入れる。
――タイムリミットは明後日。
こりゃ
はたしてどこまで行けるのか。やれんのかも未知数。
だが、それでも限界までオツムと手と足を使って、
この
「あーったく、こんな時、スーパーハカーでもいりゃあ――――」
その時、
ケツポケットに入れたスマホから音がして、
わぁい、いとしのカフカすわぁんからかしらとトキメキ全開で通知欄を確かめれば、
『呼んだ?』
それはまったく追加した覚えのないアカウントからのメッセージで、
アカウント名すら『unknown』で表示されている。
――は? スパム? と、
『――やあやあ、恩知らずのアネモネくん。
――お久しぶり』
執筆時BGM:「蛍」鬼束ちひろ