ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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#15 ”Horrible Hacking”

 

 

 

 

 届いたばかりのメッセを読み、

 

 やだもー、また俺の個人情報流出してる……!? と思った瞬間、電話がかかってきた。

 

 マジで出たくなかったが、いつまでもコールが切れないため、仕方なく応答する。

 

「もしもし。おかけになったアカウントは現在使われて――」

「いや、もしもし言ってるし」

 

 

 うんげ、聞き覚えのあるその声は――

 

 

「ご、ご無沙汰しております……シルヴァさん」

「よかった。とっくに忘れ去られてるかと思った」

「えー忘れるわけないじゃないですかぁ。

 一緒にあんなにモンスター退治した仲ですしーおすしーおいしー」

 

 かたわらで、(せい)が知らない女の声……と憮然(ぶぜん)とした顔をしているが、いったんスルーする。

 

「それで? まずは私に何か言うことあるんじゃない?

 元気そうじゃん。()きとかゴキゲンに歌うたってたし」

「おいバカやめろ。人がひとりだと思ってやってる行動に対してイジろうとするのは犯罪なんだぞ!!

 はいー死刑ー」

 

 え、てか、なに、その口ぶりだといつから俺のスマホに取り()いてたワケ?

 

 俺はそんなもの見たことがないから大丈夫だけど、いかがわしいサイトの閲覧履歴とかまで不正アクセスされてたりしたら開示請求します。

 

 まぁ見たことないから全然大丈夫だけどね。せいぜい年齢制限のある青少年向けサイトぐらいかな。

 

「あーそれね。迂闊(うかつ)だったね。死んだはずの自分の銀行アカウントにアクセスしたのは」

「いえぇ! あれ? ……そっから? こっわ……」

 

 カフカさんの誕プレ買うときかよ。

 

 自己申告だから()うてスーパーハカー(笑)だと思ってたら、スーパーハッカー(神)だった。恐ろしい、震えが止まらん。

 

「いっこうに『星穹列車離脱プラン』の結果の連絡来ないし、そもそもゲームにログインすらしない。

 ……いあいあもシングも心配し出すし、てか、いあいあとか特別捜索部隊を組むとか言い始めてたからね……止めたけど。

 まったく、しょうがないからハッキングして、なんか君が足跡を残しそうなとこ、ライフライン系とか一通りにウィルス仕込んで網を張ったわけ。そしたらモノの見事にヒット。

 まぁ全部悪いのはアネモネ――いや、ゼインって言おうか?」

「いえ、もういいっす。結構です……」

 

 完全に本名バレしとるがな。あとしょうがないからーでハッキングしてんじゃねーよ。普通に思い出とともに生きていけや。

 

 かくなる上は、

 

「ほんっと、すんませんでしたァ!! 今スマホに向けて土下座してます! マジで、これホント、映像でお見せできないのが申し訳ないくらい」

 

 俺は鼻をほじりながら、声だけ迫真の演技で謝っておく。

 

「へぇ、それは見たいな。カメラオンにしてあげようか?」

「勘弁しておくれやす。ほんとすんませんっした。色々事情があったんです……ほんとは連絡したくてたまらなかったんです……ううっ……」

 

 ううっのあたりで、へその下の丹田(たんでん)に力を込めるとリアルさが増すのでおすすめ。

 

「はぁ……まぁいいや。それで、事情や流れは一応聞いてたけど、

 

 ――ずいぶんと面白そうなことしてるじゃん」

 

 思わずスマホを落としそうになった。

 

 シルヴァの乗り気としか思えないその口調に、ほじった鼻くそをピンとあさっての方向に飛ばして(せい)にわりとマジ蹴りされながらも、前のめりになる。

 

「なぬっ、え、もしかして、なに、手伝ってくれんの?」

「どうしよっかな。でも最近退屈だったからなぁ」

 

 なんだもぉこいつぅ、絶対チラチラこっちの反応うかがってるやつじゃんか。欲しがりの寂しがり屋さんめ。

 

「や、ほんと悪かったって。事情わかってんなら手ぇ貸してくれ。今度、必ず埋め合わせすっからさ~、なっなっ頼むよ。スーパーハッカーのシルヴァさんがいなきゃ、俺たちほんとダメでゴミでカスなんですって」

 

 ”たち”って、勝手にカウントすなと(せい)からチョップも入っているが、耐えろ。ここは大人の忍耐力が肝心だ。

 

「……これで貸し2だからね」

 

 ちょれー笑。おっとダメだ、笑うな。まだだ、まだこらえるんだ。

 

「おー、もうそこはちゃんと2として数えていただいて。大好きだぜ、シルヴァ!」

「なんだかなぁ……」

 

 ぼやきつつも、スマホを宇宙艇のメインビジョンに接続するようシルヴァから指示され、俺はそれに従う。

 

 そして程なくメインビジョンに投影されたのは、現在俺たちのいるグラモスを中心に据えつつ周辺の宙域(ちゅういき)を3Dで表現した星図(せいず)だった。

 

 いやもう当たり前のように遠隔(リモート)でうちの船(あやつ)ってるんですけど、こいつ。

 

「実は、もうさっきから調べ始めてたんだけどさ」

「マジかよ。お前有能過ぎるだろ」

「……はいはい。続けるよ」

 

 そうして、まずグラモスが拡大される。次いで、赤茶けた地表を持つ球体をこねくりまわすように回転させると、

 

「まず生体反応は、――ないね。グルッと探索(サーチ)かけたけど大規模な集落とか、さっきゼインが言ってた通りでないみたい」

 

 ただし、と付け加えるように、

 

「人の生体反応は、ね。真蟄虫(スウォーム)に関しては、開けてびっくりこんな感じ」

「うっげぇ……」

 

 シルヴァの言葉と共に、おびただしい数の赤い点が星を覆った瞬間、

 

 (せい)と二人でベロ出して吐きそうなリアクションを取っていた。おい、まねっこすんな。

 

「あ、ちょっと待ってくれ。さっき俺たち、鎧に変身できるこの星の住人ぽい女子たちと会話してたんだ。ありゃ人間に見えたぞ?」

「それね。音声はこっちでも聞こえたけど、センサーには反応がなかった……なんらかの方法で妨害(ジャミング)してるのかな。だとしたら、たぶんだけど……何か体内に埋め込まれてるのかも」

「ああ、そういうパティーン……?」

 

 まぁベルトも何もなしで変身できるってワケじゃないんだろうが、こればっかりは仮説で、検証する(すべ)がないので置いておく。

 

 それよりもシルヴァが裏を取ってくれた今の情報とあの女子の発言をつなぎ合わせると、

 

「つまりこの星には、あの女子たち――『グラモスてっきへーだん』だっけか、その『てっきへーだん』と真蟄虫(スウォーム)の大群しかいないってことか。……んじゃ、そうすっと、あの『蒼穹帝国』と『女皇陛下』ってのは……、」

「――あ、 」

 

 何かに気づいたように声を発したシルヴァが、

 

「やられたな……この星図。細工されてる痕跡(ログ)がある」

「は?」

「ちょっと待ってて!!」

 

 テンション上がった様子で言うと、キーボードの打鍵音(だけんおん)がマシンガンのごとく響き渡り、それが最後のターンッ! というキメと共に、

 

 メインビジョンの星図上に、わざとシルヴァが目立たせたのか蛍光色のピンクで発行する球体、

 ――グラモスを周回しているおそらく()()が増える。イメージでたとえるなら、地球と月って感じか。

 

「あ? なんだべ、これ?」

「わかんない。でもまぁ手こずったわけじゃないけど、そこそこ腕の良いエンジニアがドヤ顔でやったんだろうね。頑張った感は伝わるかんじで隠されてた」

 

 どっかのエンジニアには合掌するとして、隠されてた……って事はだ。

 

「これ星図のデータ自体はスターピースカンパニー様のご提供でお送りしてるよな? てこたぁ、それやったのカンパニーってことか?」

「確証はないけどー。ほぼほぼ何かしらは知ってると思うよ」

 

 やっべー、こりゃ漆黒の闇深(やみふか)案件だぞ。マスコミにたれ込んだら、駅のホームで突き落とされるヤツ。さっきの真蟄虫(スウォーム)の数といい、さすがに冷や汗が出てくる。

 

 そんな俺の繊細な心中を察せないのかシルヴァは、

 

「でも……なんで隠してたんだろ?」

「んなん、くっそ簡単だ。隠してたっつーことは、やましいことがある」

「あーね、誰かさんが言うと説得力あるね」

「アイタタタ、うるへーわ!」

 

 スマホに向けて中指を立てながらも、俺の視線は一点に注がれる――蛍光ピンク球体。

 

 なんだかピンクの悪魔に見えてきたわ。疲れ目かもしれん。今度目薬買お。

 

「しゃーねぇ……行ってみるか。まだ行って帰ってこれる距離みてぇだし」

「ダメ。待って」

 

 その言葉を待っていた。ちゃんと止めてくんないと困る。ほんとに行っちゃうから。

 

「どした? だよな。やっぱやめといた方がいいよ――」

「そこの、グラモス……だっけ? 今、周りに何隻(なんせき)か、所属不明の宇宙船、隠れてるっぽい。……しかも、結構重武装かも」

 

 星図が拡大され、別ウィンドウでリアルタイムと(おぼ)しき映像が映る。そこには、確かにいつでも戦えそうな宇宙船が(ただよ)っていた。わーお。

 

 え、もうさーそろそろ、テッテレーでドッキリ大成功のプラカード持って誰か出てきてもよくない?

 

 いやあの、(せい)さん、横でシュッシュッて、シャドウボクシングしてっけど、無理だから。やる気でどうこうの問題じゃねぇから。

 

 こっちがボートだとしたら、向こうは駆逐艦(くちくかん)だっての。

 

「これ、たぶん君たちそのまま呑気(のんき)に家に戻ろうとしてたら、狙われてたかもね」

「はぁ? なんじゃそら……詰んでんじゃねーか」

 

 マジでなんなんだこの星。次から次になめやがって。逆に段々腹が立ってきたわ。見とけよ、カフカさんに言いつけてやるからな。震えて待ってろ。

 

 しかし、だ。

 

 冗談じゃなく、どうすんだこれ。最悪また俺が(おとり)になって(せい)を逃がすしかないが、そもそも移動手段が今乗ってる宇宙艇しかない。

 

 せめて、もう一隻……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かもねー。

 ――まっ、私がいなかったらの話だけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (せい)と一緒にシャドウボクシングを始めた俺の黄金の右の動きが止まる。

 

 万感込めて言うしかない。

 

「シ、シルヴァさん、頼りになるぅ……」

 

 年下でなければ、危うく惚れていた。

 

 てか、チートかつぐう有能過ぎて、俺いらない子説出てきたな。もうしんどい思いして働くのやめて、シルヴァさんに養ってもらおう。そんでカフカさんと幸せになろう。飼うのも猫じゃなくて犬にしよう。

 

 ヨシッ、もうここは俺の出る幕じゃあないな。

 

「わりぃなシルヴァ……頼めるか」

 

「うん、()()()()()()()()シューティングゲーム(シューゲー)は得意なんだ」

 

「待って待って待って」

 

 違う、そうじゃない。どっちかっていうと無事お(うち)に帰してくれた方が遙かに嬉しい。

 

 だが宇宙艇は既に離陸を始め、エンジンは確実にフルスロットルに向けて出力をあげていっている。

 

 嫌な気がしてならなく、俺はたまらず問う。

 

「ち、ちなみにどんなシューゲー?」

 

「弾幕系!」

 

「最悪だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 と叫びつつ、俺は(せい)(かか)えて、シートベルトをキツめに巻きつけるのだった。

 

 

 

 無茶な軌道でリバらないことを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






アウトレイルビヨンド
ゼイン「シルヴァ(木村)! もういいよ、帰ろう」

執筆時BGM:『TararaTaTa』Kohta Yamamoto
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