「うっぷ……まだなんか、出そうなんだけど……っぷ」
俺はこむら返りが多発するよう呪詛の言葉を吐いていた。
「いいじゃん、まぁなんとか着いたし。ちゃんと残機1キープしたし」
「なんとかついじゃ……っぷ! ……今のセーフ! っぶねぇ……ぶちまけるとこだった……」
今にも残機消えそうなんですけど。この有様を見て、もしも無事というやつがいたらケツからパルサーエッジを突き立ててやるわ。
俺は
――ああ、地べたくん、君にずっと会いたかったの。今、思いは通じたんだね。もう絶対に離さないから。
しかしながら、俺にはカフカさんというマイプレシャス女神がいることを思い出して、口に入った砂利を
――ごろんと仰向けに横たわり、気分を落ち着かせながら、目だけで周囲を確認する。
どうにかこうにか宇宙船を
まず、砂塵とはまた異なるスモッグのような紫色のもやが大地を覆っていて、俺の「あれ、”見るからに”なんだけど、大丈夫なん?」という問いに端的にシルヴァが「あー有毒」と答えたので、地表の着陸を断念せざるを得なかった。夏休みみたいに言うな。
そこから更に飛行していたところ、俺たちは白い巨大なドームを発見した。
まぁ実際には半球だが、さながら紫の海に浮かぶ白亜の城といった印象で、足下の部分こそ紫に
まさに口からスプラッシュする限界ギリギリだったので、マジで停止してくれて助かった。
もう後2、3分でも飛行していたら、しばらくキレイな景色をご覧くださいってテロップとビーチでくつろぐカフカさんの特別映像が流れてたぞ。なにそれ見たい。
まぁ結局、とっさにダストシュートにスプラッシュートしちゃったんだけどね。限界ってそういうことだから。
グラモスBの環境汚染に責任を感じています。
さておき、
俺がよろよろと立ち上がるのと同時に、トイレにこもりきりだった
「あ”ー……だいじょぶかぁ。
半目になって親指を立てたので、一瞬胸をなで下ろすが、次の瞬間には親指が下に向けられたのを見て、あっ……と察する。
――ああ、おめでとう、これで君も立派なゲロインの仲間入りだ。
心の内でホロリと涙をこぼしていれば、
「よし、それじゃ行きますか。ダンジョンへゴーゴー」
「シルヴァ先生、なぁに勝手に仕切り始めてくれちゃってんの? これゲームだったら、ダンジョン入る前にいきなりHP残り1割の状態からスタートしてっかんね?」
なにそのセルフハンディ・マストダイ&ルナティック。やってられっか。
「――だって、行かないと、向こうからやってくるし」
「もういいってそういうのマジで…………」
物音がした方向を見れば、掃除や整備で使うと思われる作業員用のエアロックから、銃を構えたドローンたちがわらわらと出てくるところだった。
「結局こうなんのかよ……」
ため息をつき、ローブのフードをかぶる。パルサーエッジを抜き放ち、
「
★ ★ ★
――そこには、円卓がある。
『時間がない』
『売上の状況はどうか』
『流石だ。最終戦となると、みなこれまでの負けを取り戻したいと推察する』
『侵入者の件について検討を進めたい』
『問題ない。すでに処理に向かわせている』
『正当な対処だ。他方で更に買いを煽るべきか。終了の時間は近い』
『演出としてもう1つギミックがほしい。アイデアを求む』
『感動の出撃スピーチなどはいかがか』
『良い考えだ。士気の向上が見込まれる』
『トレンド数も前例がないほど盛り上がっている』
『botを混ぜよう。さらに刺激が必要だ』
『我々には時間がない。急げ』
――そこには、円卓がある。
★ ★ ★
とりあえず叩き切ったドローンたちが通ってきたエアロックから侵入すると、ドームの内部は、不気味なほどしんとしていた。
「……悪の要塞っつーか、人類滅亡後の最終施設だな」
青白い無機質な廊下がひたすら続いていて、何もなしだったら確実に迷子のアナウンスをしてもらわなきゃならなかっただろう。
とはいえ、ひたすら走る。いやだって、次から次にドローンがわいてくんだもん。
ここに来て、俺もさすがに片手なりが
最初こそ心配したもののちゃんと俺の速度にも遅れずついてきていた。エリオの言っていた、身体能力は高いというのは間違いじゃなかったっつーことだ。
シルヴァの
「シルヴァ、ちなみにさ、これ俺たちどこ向かってんの?」
「一応マップの解析進めてるけど、中心部に管制室? 司令室? みたいのがあるっぽいからそこ目指してる」
ま、定番だな。
シルヴァとはこういう共通言語というか、お約束というか、セオリーの理解がゲーマー同士一致しているので話が早くて助かる。
「――待って、そこなんかない?」
急ブレーキをかけると、後続していた
む~と、鼻の頭を赤くしてポカポカ殴ってくるが効かない。大人だから。
「扉っつーか、ゲートはあっけど……、どした?」
「――中に生体反応がある。人の」
「……マジか」
たしかに、SFらしい六角形のゲートがそこにはあった。左右からスライドし、真ん中でぴったり合わさり、中心で円形の近未来的な謎ロックがかかっている。ゲート脇を見れば、操作パネルがあるものの……、
「……シルヴァ先生」
「もうやってる。しかもそれ以外も色々と」
「がーさす。愛してる」
「はいはい。ちなみに君、いつか刺されると思うよ」
「へぇへぇ。ちなみに俺、今、激烈にふくらはぎのあたりに痛みあるよ」
程なくして、ロックが回転し、ゲートが開く。
もうどの勇者もパーティにシルヴァ先生入れた方が良いよ。文句なしの
大感謝とシルヴァ先生に告げて、中に誰かいることを予期しつつ、パルサーエッジを構えながらゆっくりと踏み込んでいき――
――それを見つける。
★ ★ ★
――そこには、円卓がある。
『売上推移順調に推移。900万、320万、……4160万の大口投票を確認。なおも、継続』
『侵入者が速度を上げて、こちらに向かっている』
『ドローンの追加投入は』
『既に実施済みだ。だが仕留めきれていないようだ』
『カンパニーの担当者に連絡しろ』
『既に実施済みだ。だがおかしい。連絡が取れない』
『ピアポイントで何が起こっている』
『不明。現在調査中だ』
『侵入者の現在位置を報告しろ』
『現在――この部屋の前だ』
――そこには、円卓がある。
――そして、今まさにゲートが開こうとしていた。
★ ★ ★
――ゲートが開こうとしている。
その先に、全ての事情を知っているはずの誰かがいるはずだった。
――円卓がある。
ただ、そこにあるだけだ。周りには誰も何もない。
ただ、その向こうには、見渡す限りといって過言ではないほど巨大なスクリーンがある。
そこに。
いくつか見覚えのある光景や、例の鎧や、その鎧に変身しようとする推定10代前半くらいの少年少女が映っていることに気づき、俺はそれらの映像がグラモスAの映像――おそらくリアルタイムの映像であることを悟る。
そして、俺が真っ白な円卓の前まで歩みを進めれば、全てのウィンドウが一斉に明滅し始め、
切り替わるように、巨大な文字が投影される。
『侵入者。何者だ』
「――そりゃこっちの台詞だ、タコ」
――グラモスAとグラモスB。
――
――蒼穹帝国グラモス。
――ティタニア女皇陛下。
――グラモス鉄騎兵団と鎧。
――待ち伏せ。あるいはあらかじめ配置されていた宇宙船。
――こちらの認識との食い違い。
――細工されていた星図とカンパニー
何もかもが、ちぐはぐで、全容の見えないこのグラモスという星の秘密。
俺は円卓の上にポケットから取り出した
それ――タグプレートはカンという硬質な音を立ててやがて卓の真ん中で止まる。
表面に刻まれているのは、――『Titania』。
「ここまでに来る途中で、ティタニア女皇陛下に謁見してきたけどよ。そいつはそんとき頂いてきたもんだ」
スクリーン上の文字が更新されないので、勝手に語ることにする。
「さっすが女皇陛下だよな。そのタグのついた医療ポットの中で――ほぼミイラみてぇな、バイザーかけられた、よぼよぼのバアさんが延命措置を施されてた。えげつねぇ数の管につながれてな」
――そう、シルヴァが「生命反応がある」と呼び止めた部屋の中にいたのは、確かに人だった。
医療ポットに表示された
「んで、近づいてみたら腰抜かしそうになったわ。声が聞こえてくんのな、『戦いなさい~、グラモスのために~、ティタニア女皇のために~』って、あれが、今あなたの脳内に直接語りかけていますってやつ? 女皇陛下サマ、
――あんなん仮にずーっと繰り返し聞かされたら、洗脳されるわな?」
『
お、ようやく表示が更新。
「今、面倒な作業お願いしちまってっから、
『確認中......侵入者の発言が事実である事を確認。ただちに修正する』
おーおー頑張れ頑張れ。シルヴァ先生とのフリースタイルハックバトル。俺だったら、やっぱコイツ強ぇわもうダメだで即降りるけど。
「続けるぞ。この世には光と闇があるように、表と裏もありまして、この広大な銀河には”ダークウェブ”っつーもんがあんだけどさ」
そこはまさにこの世全ての悪を詰め込んだような何でもありの無法地帯。
偽造の
「まぁこれもスーパーハッカーさまさまの功績で、俺なんもやってねぇんだけどさ。そのダークウェブで、ある
いったん、言葉を止めて、
「そいでその名前は――『蒼穹戦線グラモス』だそうで?」
ようやくスクリーンの表示が更新される。
『侵入者よ、何が言いたい』
「べっつにぃ、俺の手持ちの情報と仮説で真実全部がめくれるとも思ってねーし」
『ならば、そこで見ているといい。もうじき全てが終わる』
途端にウィンドウが二つに分かれ、片方が数万体規模と思われる謎のポットに浮かべられた素っ裸かつ、どいつもこいつもベースとなる
もう片方がまさに蜂の巣の中に小型カメラを容赦なく突っ込んだような数える気すらなくす
とりわけ
再び、文字が映る。
『なんなら投票していくことを推奨する。シンプルな
あっそ、もう隠す気もないっつうわけね。
「――しねーよ。茶番に賭けて、挙句にてめーら胴元に
何も知らず勝手にポットの中で生み出され、
中学生の妄想みたいな設定と、
戦うことを至上命題として洗脳され、
ろくすっぽ楽しみなどなく、
鎧というただ戦う術のみ与えられ、
そして、極めつけにそれは悪いヤツらの賭けの対象。
――これを茶番という名の悪夢と言わず、なんと言やあいいのか俺にはわかんねぇ。
『残念だ。安全な場所で見る、危険なショウほど人に甘美なことはない』
「抜かせよ。俺の口ん中は苦い味で満ち満ちてるわ」
――あたしたちは、戦うために生まれて、死ぬために戦ってる。
あいつのあの時の顔を見せてやりたい。
できるもんなら、今にでも、ツバ吹きかけてやりたい気分だよ。
「……つうかここまで来たんだ。サービスで3つ聞かせろ。1つは今その文字を出力しているてめーは何者なのか。2つめ、カンパニーはどういうつながりだ。
そして最後に――グラモスは最初からこうだったのか」
俺の発言の後、しばし間が空き、舌打ちの1つもぶつけてやろうかとしたとき、
スクリーンに動きがあった。
『我々は、かつてグラモス
「執政議会……?」
『かつては、”繁殖”の運命に飲み込まれそうになったあの星をどうにかしようと、もがいた者たちがいたのだよ。とうてい人の時間軸でどうこうできる問題ではなかったが』
それがどうして今の茶番につながる? という疑問が顔に出ていたんだろう。
文字は続く。
『戦い続けたいのならば、金がいるのだ。侵入者よ。先ほどの映像を見ただろう。
首を横に振る。
『1体につき、306信用ポイントだ。作れば作るほど低減するといえど。故に我々は
そして莫大な賭博収益をもたらす代わりに、
要するに、
「てめーらは今も昔も変わらず――戦い続けていると?」
『肯定』
次の文字が、一瞬理解出来ず、
『しかし、時間切れだ』
「あ?」
声をあげてしまう。
『つい今しがた、
その文字列を読み終わると同時に脳裏によぎる。
さっき見た医療ポットの
「……そうかい」
『すなわち、
我々は敗北した。もはやグラモスは存在しない。
口惜しい。
あの憎き蟲共に、
あと、もう一歩。
我らが天上の花に再び、蒼穹を見せ、た――』
それを最後にスクリーンはなんの反応も示さなくなった。
「どいつもこいつも……勝手しやがって」
舌打ちをこぼし、燃え上がった怒りや、わずかにだけど湧いてしまった同情心。
そんなやり場のない気持ちと振り下ろす先を失った
俺のスマホを差し出す
スピーカーからシルヴァの声で、
「――爆破準備できたけど、どうする?」
「……決まってら。義理もなんもねぇけど……このドームごと吹き飛ばす。
それが女皇陛下さんとそれを支えようとした議会の
そんでもって、
――全力で戻るぞ。茶番はもう沢山だ。全部終わらせる」
執筆時BGM:『THE ANSWER』from 86 -eighty six- OST