「――ほんとに心配したんだからね!!」
「わーってるよ、だからごめんて、何度も言ってんじゃねーか」
銀狼にとりあえずの生存報告を入れたら、あまりにも小うるさかった。やっぱ「生きてるなう」って一報入れたのがまずかったのかもしれない。
銀狼なりにも、俺が炭になっている間にカフカさんに状況の引継ぎ等をしてくれたらしい。いやー今回の一連の流れはマジで銀狼様々だったからな。
「ちゃんとお礼すっからさ。ほんとありがとな。いったん切るわ」
「あ、ちょっ――――」
通話終了し、着替えを続ける。
おそらく
そんなこんなでがっかりしてたら、ちゃんと俺の横たわっていたベッドのそばに新しいのが肉球マーク付きのカードともに
かくして、お顔と、前からそれなりに絞れてたし鍛えていたハズだったんだが、シックスパックとか三角筋・大胸筋などなど、なんかすげぇバッキバキかつ2回り以上デカくなってる身体を除けば、おおむね元通りになった。いや、どこが元通りなんだよ。元は服だけじゃねーか。
おニューのローブに袖を通し、腰のベルトにバルサーエッジを差し、懐にノヴァイレイザーを入れる。残りの燃料カートリッジは3発か。まぁ使うことが当分というか
どこまであの猫知ってんだかわからないが、空恐ろしいことにちゃんとサイズも新調されてるっぽい。サンキューエリオ。
「っし、おまた~行くべ」
外で待ってもらっていた
時折、俺の方を振り返りつつスキップする様子は、いかにも私ご機嫌ですと言わんばかりだ。やれやれ、言うて、お子ちゃまよな。
「なぁ、
「ん――?」
「そういやさ、AR-26710は大丈夫か?」
大丈夫だと信じてるが、安否を知りたかった。
ひょっとしたら俺と同じくどえらいことになっている可能性もかなり高いだろう。まぁ、俺は生身で、向こうは鎧があった分、そうであったとしても軽傷だと思いたい。
しかし、俺がそのワードを出すなり、あんなに軽やかだった
むっす~~~と私不機嫌ですオーラを全身で発し始めて、ぷいっと顔を背ける。いやどこに反転スイッチあったん?
「
「はぁ……もういいわ……、どうせブリーフィングルームだろ?」
この先にはそれしかねーしと、俺が数歩あるきだすと、背後からガシッと腰の辺りに抱きつかれる感覚があった。
当然、その犯人など一人しかいないわけで、
「なんだよ……?」
返事はない。
ただ、ぐりぐりと頭をこすりつけてくるだけだった。
……はいはい、参りましたよ、とぼりぼり頭を掻くしかない。
俺こんな時、どんな
まぁわかんねーけど、想像することはできる。
カッコつけて出て行ったお兄さんが真っ黒焦げすけになって帰還したんだ。直接、目撃したのかまでは聞けないが、もしも俺のその時の姿を見てしまったのだとしたら、生涯レベルのトラウマなのは確定だ。俺だって見たかねぇもん、そんなグロ画像。
で、
嘆息して、ぽんぽんと後ろ手で頭を撫でる。
やむなしと判断して、
廊下を抜けて、ブリーフィングルームの扉の前まで来ると、さすがに
「なぁ、
もぞもぞと動く気配がして、希望の光を感じるが、
背後から右にずれただけで結局まとわりついてることに変わりなく、感じた光は一瞬で雲の向こうに消えた。
ためしに振り払おうと試みるも、イヤイヤと頭をぐりぐりこすりつけてくる。
がっくり来てると、
扉の方が先に開き、そこには――
「――おかえり。ポチくん」
「カ、カフ――――!!」
2トーンほど上がりかけた俺の声をかき消すように、
「――だって、ぜったいに、はなれんなっていった!」
スッと、カフカさんの目が細まる。やべ、これお仕事モードの時の目つき。ハイライトなくなるやつ。
ギギギと俺は油の切れた歯車のような動きで、満面の笑みをおチビに向ける。
「こらこら、
「……ゼイン、カッコよかった。わたしのこと、……しんでもまもるっていってくれた……」
「へぇ~…………そう……」
あれ、なんか違う。
てか、ん? えらく寒いな? 氷河期到来してない?
「へぇ~……そうなんだ。……へぇ~……いいなぁ、私も守ってほしいなぁ~……」
「も、もももも、もちろん喜んで
どこからともなく糸が伸びてきて耳をかすめていった。大丈夫ですかね、鏡見たとき少し欠けてたりしませんかね!?
てか、ヤバい、どうしよ。氷河期に加えて、なんかビリビリ来てる。
ね、猫、助けて、猫、と
――ブリーフィングルームの卓前の席に行儀よく座り、こちらを見て、目を丸くしているAR-26710の姿。
「あ”ぁーーーーーッ! お前!」
わざとらしく大声を上げながら、カフカさんの脇をすり抜けてブリーフィングルームへ入り、一目散に向かっていく――とは言ってるが、たぶん
「え――?」
「無事だったんだな、よかったわ~~~! なんか印象変わるな! 服替わると! こっちは顔かたち変わってるけどね!」
困惑するAR-26710の両肩をパシパシ叩きながらも、俺は冷や汗が止まらない。勢い。勢いでごまかさないと、やられる。
以前一度だけ見かけた際のボディスーツの時と異なり、AR-26710は淡い緑色のスカートにロングソックス、白ブラウスの上に黒ジャケットという出で立ちになっていた。
たぶん服好きなカフカさんプロデュースによるものなのだろう。流石です。
「絶対、グラモスのあの服より、そっちのが似合ってる、うんうん」
「っ、――君、なの?」
「あん? そうだよ、見た目だいぶ違うと思うけど俺おれ。ゼインだ、よろしくな」
違うってレベルじゃないと思うし、スゲー詐欺っぽい言い回しになったが、勢い。全ては勢い。
「君に会えたら、言いたかったことが、あって……」
スカートの
なんだ、金ないから、貸してくれ的なやつか? 3,000信用ポイントくらいなら、別に構わないですよ。利子なんてケチなことも言わん。
「よしわかった! どーんと言え!!」
「一度は断っちゃったし、今更厚かましいのもわかってる……でも、
あたしも、仲間として、君たちと一緒に働きたい。もう戻る所もないし……」
おおーーーーーーウェルカム、ついに!
いや~~、身体張った
「――それに、 」
あん、まだ何か続くの?
「――奪われちゃったから、君に。あたしは」
★ ★ ★
「――奪われちゃったから、君に。あたしは」
そうあたしが言うと、ゼインの顔から血の気が引いて真っ白になっていた。なにかおかしなこと言っちゃったのかな?
仲間にするために、お前を奪いに来たんだって言ってたから、仲間になったら本当に奪われちゃったようなもんだねって思って、口にしたんだけど。
あたしがおろおろしてる間にカフカに引きずられてどっか行っちゃった……両の手をすりあわせながら、なにかおまじないみたいなことを言ってたけど大丈夫かな……ほーれんげ? のーまくさん? とかおかしなこと唱えてたけど。
とりあえず、あたしが先に断った誘いだったから、同じように却下されなくて本当によかった。たとえ断られても、……あたしは受け入れるしかないんだけど。
ゼインとカフカがいなくなって、ゼインと一緒に来た女の子――いつも一緒にいるのかな?――と二人だけ残される。
こう言うときにどう話しかければいいんだろう。
「あ、あの……」
それでも勇気を出して、話題がなくても、話しかけてみようとしたんだけど、
「…………っべぇー!」
女の子はあたしに舌を出して、目の下を人差し指で引っ張るジェスチャーをして、ゼインが引っ張られていった方へ追いかけていってしまった。
「失敗、しちゃった……」
失敗してばっかりだ。あたし……。
それから、しばらく待ったけど、誰も戻ってこなくて、あたしはブリーフィングルームと呼ばれていた部屋を出た。
ルートがわかってるわけじゃないから、ひたすら廊下を歩き回っているうちに、ある場所にたどり着く。
そこはブリッジ……でいいのかな。円形の天井と両脇にはコントロールパネルの卓があって、現在の航行状況などを示す凄い情報量の文字やグラフィックで表面が青白い輝きで埋め尽くされている。
左右を見回しながら、ゆっくり歩みを進めていて、不意に、
――あたしは立ち尽くす。
目の前には全面窓が据えられていて、黒から青に変わっていく過程の紫や藍のグラデーションがとにかく綺麗で、指先1つ分くらいはありそうな光から髪の毛の先くらいの光まで大小様々な星の光が数え切れないくらい転がっている。
見たこともない壮大な光景だった。
息をすることすら忘れて、できるだけ近づいてみたくて、窓の淵ギリギリまで進んでいた。
そして、自然と腰を下ろして、窓に寄り添うように身体を預けて、目を閉じる。そうしてみるとまるで、星の海に浮かんで、そして沈んでいくみたいで、
どのくらいそうしてたかはわからないけど、次に目を開いたときには、
「――よう。こんなとこで居眠りか」
ゼインがそばに立っていた。
「……大丈夫、だったの?」
「”カフカさんが銀河1です”って、感謝の1万回詠唱でお許しいただいたわ……」
恨みがましい目つきであたしにそう言うと、ゼインもまた腰を下ろして、頭を窓側にして大の字に寝転がった。
「……カフカから聞いたんだ。 グラモス鉄騎兵団、女皇陛下、あたしたちが信じて……信じさせられていたものは全部嘘だったんだって」
「……そっか」
ゼインが問い返すことはなかった。
だから、一方的にあたしは話し続ける。
「戦うために生まれて。死ぬために戦って。でも、全部ニセモノで。――なんだろう。なんにもないよね」
プラスもマイナスも。
あってもなくても変わらない。だから、そこにいたとしても何の意味もない。
「ロストエントロピー症候群……って、知ってる?」
「いや知らん。なんだそれ」
率直な反応に、あたしは少しだけ笑ってしまう。
だから、ごめんねって伝えたんだ。
たとえ戦って死ねなくても、あたしには寿命が定められている。段々と満足な動きができなくなって、感覚が
せっかく仲間にしてもらったけど、あたしに残された時間はそんなに多くないと思う。
「……なんだよ、それ」
「あはは、だよね。あたしもそう思う……」
本当に徹頭徹尾、何も残らない。
「昔ね。同じグラモス鉄騎兵団の仲間にこう尋ねられたことがあったんだ。『きみにとって最も辛く悲しいこと、それは何――?』って」
ああ、とゼインの相づちを待ってから、答えを口にする。
「あたしはね、
そう、ただ、それが一番恐くて、いやなこと。
「君たちを初めて助けたときもそう。君たちが死なずに生きていてくれれば、それだけであたしが”生きた意味”になる。そして、ただあたしのことを覚えていてくれたら、……こんなに嬉しいことはないなって」
「……それがあんとき、お前が言いかけてた言葉、か?」
頷きを返す。
「――”忘れないで。あたしを”、って言いたかったのに、」
自分でも笑っちゃうけど、
「結局、次に出た言葉は”忘れて”だったね……」
少しだけにじんでしまった世界をクリアにして、
――ガバッと、ゼインが起き上がる。
そして、取り出したのは、
――たしかスマホって言うデバイスで、
「知ってっか、スマホって壊れんだぜ? 撃たれたりすると」
「え……あ、うん」
いったい、何を言ってるんだろう。
スマホをしまうと、
「——だから、モノは壊れる。人も死ぬ。俺だって100年経つ頃には死んでる。なんなら、ついこないだすら死にかけて、こんなイケてるおニューの顔カラダになってるし」
ここ笑うとこな、と付け加えるけど、とてもじゃないけど笑えなかった。
あたしがもっと強くて、ちゃんと守れていたら、こんなことにはならなかったかもしれないから。
暗い顔になっていたと思う、あたしを鼻で笑って、
「あー……」
星の海を見ながら、何かを探し始める。
「あれにすっか。たぶん、誰も手ぇつけてねーだろ」
と言って、
「お前さ、名前なんにすんだ?」
「――え?」
「え、じゃねーよ。AR-26710なんてただの数字だろうが。味気なさ過ぎだろ。呼ぶのも結構だりーし。名前ねーなら、つけりゃいいだろ、今」
それは、そんなことは、
まったく考えたことがなくて、
あたしは考える力を失う。
「……や、そんな悩まんでも。お前なんか、好きなもんとかねーの?」
すき、な、もの?
不思議と、脳裏によぎったのは、
どんなときも、忘れられなかった、あの時の景色にある――――
「――ホタ、ル」
「あん? ホタル?」
何度も、
「うん、ホタル。うん。――ホタル」
口にして、あたしが頷けば、ゼインは、
ひときわ輝いていた星の隣にある、
ささやかだけど、
たしかに輝いている星を指差して、
「――星ってな、最初に見っけた人が名前つけていいんだぜ?」
こつこつと窓を指で叩きながら、
「あの星は俺がたった今初めて見っけた。だから命名権は俺にある――」
――生まれた理由は、戦うためだったんだ。
――死ぬ意義は、女皇陛下とグラモスのためだったんだ。
――あたしの生きる意味は――
なに、を、
――言って、くれるの?
「――ホタル。それがあの星の名前だ」
「あの星があーやって輝いてる限り、モノが壊れ、ヒトが忘れても、お前のことは絶対に
ほ、し、が、
「これまで何もなかったかもしれねぇし、
時間もそんなにねぇかもしんねぇけど、
おしゃれのために気に入った服を爆買いして、
身体にわりぃけど美味いもんいっぱい食ってさ、
見たこともねぇ綺麗な景色見て、
友達とゲームしながらバカ話で徹夜して、
なんなら大切な人と恋とかもしちゃったりしてさ、
詰め込めるだけ、詰め込もうぜ。
だから、もう”わかんない”はやめにして、
その言葉が極めつけで、
ただでさえにじんでいた世界は、
もうどうしようもないくらいにじんでしまって、
――あたしはもうこぼれ落ちる涙を止められなかったんだ。
……ようやくあたしが落ち着いたころに、ゼインが口を開いた。
「あ。つーかさ、お前、
そういえば、生き残ったら教えてほしいって言っていたことを尋ねられる。
あたしは人の子宮ではなく、
たぶん、これくらいかなって感じなのは否めないけど、その数字を伝えれば、
「――わっか!? マジで? 成長スピードとか違うっつーこと? あー……ほぼ
ゼインは口をあんぐりと開けてから、
「
その言葉と共に振り返ったゼインにつられて、あたしも背後を確認する。
さっきからなんとなく視線のようなものを感じるなとは思ったけど、その正体って――
コントロールパネルの陰からひょこっと頭を出すと、
「……なんでわかったの。ゼイン、わたしのことすきすぎる」
女の子の発言にゼインが隣で吹き出す。
「待て待て。ざけんなお前、ねつ造すんな」
「ちがわない。いままでのはつげんとこうどうてきにかんがえてる」
「やめろ、ガキンチョに対して人聞きが悪すぎる」
「すぐおおきくなるもん!」
うぐ、やば、一理ありそうな気がする……という顔をしていたゼインは、その考えを捨てるように頭を振るってから、
「お前さ、何に怒ってるか知らねーけど、俺が死にかけたのはコイツのせいじゃねーからな。そりゃお
女の子とあたしを交互に指差しながら言い放つ。
「俺が好き勝手したケツを自分で
ぷっくーーーーと顔をかわいらしく膨らませて、女の子はこっちに駆け寄ってくる。
そしてゼインに指をビシッと突きつけて、
「やっぱすきすぎるじゃん」
それだけ言い捨てると、面白いくらいゼインの顔がゆがんで、
……さっきから頑張ってたんだけど、とうとうあたしは我慢できなくなって、思いっきり笑ってしまった。
お腹を押さえて笑うあたしに、ゼインと女の子は顔を見合わせて、
ゼインが頷いて、女の子の背中をぽんと押す。
おずおずと前に出た女の子は、
「……ごめんなさい、さっき」
頭を下げてくれる。
「ううん、大丈夫。気にしてないから、 」
さっきは無理くりだったけど、
今度は口にしたい言葉がちゃんとできたから、
自然と顔がほころぶのを感じて、
「はじめまして、あたしは――ホタル」
――それは、あたしがまだ戦場に出たての頃。
まだ慣れていなかったSAMで、必死に
暗い夜の中、帰投するときに飛行ユニットの操作を誤って不時着して、たまたま見つけた場所。
その水場にたどり着いた瞬間、
見たことのない、光る虫たちが飛び交い始めた。
ビデオ資料でしか見たことのなかったそれを見て、
あたしは、思ったんだ。
綺麗とはいえないあたしの世界の
こんな暗い夜に、まるで、
「ねぇ、
君は、知ってる?
ホタルってね、
どんなに暗い夜でも光を照らしてくれる、
そんな存在なんだよ」
――星より、明るい光みたいだって
~ 2. Episode of "Astra" ~
Fin
「ブラックボックスの解析が終わりました」
「報告しろ」
「はっ。やはりグラモス消失事件は、協議会を襲撃したフードをかぶった男による仕業の1つと推察されます」
「……ピアポイントへ侵入してきた例の殺し屋の女。逃げたグラモスの
「承知いたしました。で、その金額は、」
「――20億信用ポイント、だ」
「男については名前が不明ですが、いかがしますか」
「お前に一任する」
「承知しました。では、直ちに手配を」
EDテーマ「六等星の夜」by Aimer
この曲を流したいがために頑張った笑
10万字も書いてしまいました。
冷静に文庫1冊と考えると、ここまで読んでくれた読者諸賢はマジで誇っていただきたい。
皆さんがやってくれたことはすげーことです。
ありがとう。