ロビン、ロビン……あーはいはい、ロビンね。
「――え、なんか反応薄くない? ロビンさんだよ。あ、の、ロビンさんなんだよ!」
「や、まぁ……」
「わかってないなぁ。銀河の歌姫ロビンといえば、彗星のごとく現れて、シングル4連続でチャート1位という前代未聞の偉業を成しとげ、大衆に鮮烈な印象を与えたと思ったら今度は、前人未踏な3枚のアルバムまで発表したスーパースター。ほんと度肝を抜かれるよね! 特に2ndに収録された『傷つく誰かの心を守ることができたなら』、『最高の一日』なんかは――」
っベー、なんかメンドくさいオタクに絡まれてます。
「わーったわーった、そうだね、ロビンいいよね。めっちゃいいと思ってたー」
「は? じゃあどこがいいか言ってみて」
クソメンドくさい厄介オタクに修正させてください。うっぜ。
「……び、ビジュ?」
鼻で笑われた。なんだこいつ、人がせっかく当たり障りのないとこを選んでやれば。ジェイドお姉様にいじめられたってチクったろか。
「あー……意外と子供っぽいところ?」
「は? たしかに好物がベリーアイスとかギャップあるけど。ゼイン君さ、ニワカなのに君はロビンさんの何を知ってるってわけ?」
やー……だって知っとるしな……シングさん。
あいつ本人はうまく隠せてたつもりだったのか知らんけど、もとからなんか浮世離れしてたし、明らかに業界人ぽいこと話してたしな。
もちろん”ロビン氏、特定しますた!”なんてことこそ、思っても口にしなかったけど。そういう線引きがあるからこそ信頼も生まれて、話せることもあっただろうし。俺も他のヤツらも話せたわけで。
なんか色々思い出してきたな。もはや懐かしいわ。
アイスと言えば、たしかあいつ、マネジに隠れて時々アイス食ってたら、SNSで最近太ったよねとかディスられたことに対し、すげー怒ってたこともあった。
一般人はSNSでディスられねーだろという至極当然なツッコミは飲み込んで、色々有名人ってストレス溜まって大変なんだろうなと当時は思ってたものの、そもそもなんで俺がゲームしながら、愚痴聞かされなきゃなんねーんだ。そういや時々俺とシングの2人しかインしてなかった時に相談みたいなこともされた気がする。
あとは~と、なんか面白そうなネタあっかな……あ、
「……実はブラコンなとこ、とか?」
「それ――なんで知ってる?」
急に冷えた声のトーンに結露がついている。あり、なんか変なスイッチ押しちった?
「どこまで知ってるの」
「あ、や、そのロビン、さん、に兄貴がいるってことぐらいしか……あー、前、噂で」
小声で俺の発言を
「……まぁ、ある程度事情に精通している人間たちにとっては、公然の秘密みたいなもんだし、ゼイン君にも知っといてもらわないといけないから言うと。ロビンさんの双子の兄は、”調和”の派閥である”ファミリー”の当主、サンデーさんなの」
へー、”ファミリー”のね。んじゃ、それ以外の家族にウェンズデーちゃんとかジャンプさんとかマガジンさんもいんの? つーか、やっぱいいとこのお嬢さんなんだなあいつ。一人称なんか”わたくし”だもんな。
「ほーん、紛うことなき
「もう1個つくでしょ。
「へぇへぇ。なんでそのVVIPがこんな厄介な星にいんだよ。芸能活動はどーした芸能活動は」
至極当然な疑問をぶつけてみるも、
「私が聞きたいよ、そんなの。仕事で来た先に、時の人が身を隠してたんだよ? 本当ならサインの1つや2つ――」
そうだ。
その点について聞きたかったんだ。俺もモニター上のマスク姿のロビンを指し示し、
「なんであのマスクでロビンって気づけたんだ?」
「ああ、それはたまたまだったんだけどね」
エレーナ曰く、俺に先んじてカンパニー本社からシロッカに到着した後、まず怪しいモノの動きがないか、
ログを一通りさらうと、いくつか不自然な取引が抽出できた。その内の1つは数週間ごとに定期的な取引が成立し、しかも医薬品――それも高額帯のカテゴリに
そこでエレーナは網を張った。統治軍の関係者に監査の名目で協力させ、該当する取引を行った人物が荷物受領の際にスマホで提示する「本人確認の電子札」――言ってみればデジタル身分証の詳細を一芝居打つ形でぶっこ抜いた。
その結果、発行元が”銀河一の娯楽街”や”夢の地”などと呼ばれているピノコニー。
つまり”ファミリー”の本拠地であることと、そもそも民間人に付与される一般IDではないことなどが芋づる式に判明し、最終的にたどり着いたのが、ロビンだったのだという。プライバシーとは……。
「え、えげつな……」
「褒め言葉どうもありがとう。ただ、どうして彼女がここにいるのかまでは時間が足りなくてわからなかった……なんか色々事情あるっぽいんだけどね」
「事情って?」
「さっき君もわかったでしょ。――彼女、何故か言葉を話さないの」
なるへそ。そのことか。
たしかにあのリフトで話しかけた時、わざわざスマホに文字を打ち込んで読み上げさせたことは違和感しかなかった。その口ぶりからするとエレーナも答えを持っているというわけではないらしい。
「なんかラジオで言ってたけど、一応公的には体調不良で
「まぁ、ね。それはそうなんだろうけど、……はたしてそれだけかなって。ま、とにかく気になるし、ほんとのところを本人に聞けるようなら聞いてみて」
YOUに任せたと言わんばかりの姿勢に思わず、
「え、俺が聞くんすか?」
「うん。これから仕事を分担するにあたって、ゼイン君には2つタスクをお願いしようと思ってたから」
ピースしながら人差し指と中指を前後に動かして、
「1つはシロッカにおいての不正の解明につながるような現場での証拠集め、2つめはロビンさんの監視と護衛」
「い”い”い”??」
え、前者はともかく、後者はなんなん。
「や、あの、なんで2つめはワテクシなんでしょうか」
「私は統治軍とか
彼女に護衛なんてリソースは割けない。でもロビンさんのようなVVIPの存在を知ってしまった手前、万が一があってはならないし。最悪の事態になれば、ファミリーも巻き込んだ全面抗争とかになりかねないからね。
こんなことを頼めるのなんて、ジェイド様直々にご推薦いただいたゼイン君じゃないと頼めないよ。だから、お願い~、あ、それとも逆にする? 分析とか得意? 私が現場やろっか?」
うっわ、こいつイイ性格しとるわー……さすがあの社員証の写真を撮るだけある。いや、あの、護衛対象、危険を
あー、なんかおねーさん成分、おねーさん成分が足りない。めまいがする。どっかで補給しないとやってらんねーわ。マジで。バックレたくなってきた。
「さて、あんま話し込むと怪しまれるね。あ、あとこれから連絡が取れるよう、さっき君のスマホに私の連絡先入れといたから。
で、できるやっちゃ。じゃねーわ。テキパキ進めすぎだ。スピード感もっとゆるめろ。ボールは拾わず、常に忙しいフリをして、半日で終わる仕事を今週いっぱいかけてやるんだよ。
「なんか言いたいコトありそうだね?」
あたりめーだ。いくらもあるっつの。
「でもダメ――
マスクを貫通するほどに、物凄いイイ笑顔で言われた。これ完全にブラック企業の洗脳術だろ……、朝一にみんなで絶叫するヤツ。
「はい、復唱」
「…………」
無言の抵抗を試みるも、詰め寄られ、至近距離で見上げられる。ま、マスクあるから平気だもん!
「カブ」
「キューーゥ!♡」
「やめやめ、けしかけんな、言う言う言いますから!」
鼻息荒くしたカブが俺の足にすり寄ってくる。ほんとこれ、ただちぇ~るがほしいだけだよな? お盛んな時期とかに入っちゃってないよな?? それとなく距離はとるけど、俺別にビビってねーかんな。
期待の眼差しで見つめられつつ、
「はい、復唱」
「えー……ボスノメイレイハ、ゼッタイ」
わざと
「よく出来ました。はい、じゃこれ」
すぐに俺から離れたエレーナは、壁際の引き出しから、フルフェイスじゃないハーフマスクとスプレーの入ったケース一式を投げてよこす。
「さっき言ってた予備のマスク。いくつかあるから全部あげる。あと目元はそのスプレーをかけとくと有害物質の影響を避けられるから、組み合わせて使って」
なんだこいつアメとムチの
「――それじゃ期待してるよ。インターン君」
こっちの返答すら待たず、俺の背中をぐいぐい片手で押しながら、廊下に出て、ロビ――いや、アリアの方がいいんだろうな。アリアとターニャを待たせていた部屋のロックを解除する。
「お待たせしました。それじゃターニャちゃんについては
ちらっとエレーナが俺の方を向いたので、全力で首を横に振る。連れてけ言われても無理あるぞ。こちとら知らん土地なんだからな。迷子のアナウンスしてもらうまで膝を抱えて泣いてる可能性ある。
「不要ですよね。――アリアさん?」
代わりに首を縦に振ったのはアリアだった。
前方を歩くアリアとターニャに、
その背中を見つめながら思う。
――しっかし、こんな
銀狼もシングといあいあが俺のことをだいぶ心配してくれてたみたいなことを言っていたが、その後、俺の生存についての口止めはちゃんと守ってくれてるんだろうか。
そこら辺はちゃんとしてると信じてるが、だとしたら、ここで会ったのも何かの縁だ。
「やっほー、シング氏元気してたー? 心配してくれてありがとー、リアルではお初な、
……うーん、今は考えても仕方ねーか。
別に伝えようと思えば、いつでも伝えられるしな。それよか、エレーナから言われたタスクのもう片方。
――”シロッカにおいての不正の解明につながるような現場での証拠集め”の方が悩ましい。
簡単にいやぁ、悪いことしてる物証を押さえろってことなんだろうが何をどうしろと。投げっぱなしジャーマン過ぎるだろ。新人ちゃんは丁寧に指導してあげないと簡単に辞めていっちゃう時代なんだぞ。
ゲートを通過したところで、エレーナからシロッカ用のマップアプリがスマホに送られてきた。それで現在位置を確認すれば、
パッと見回せば、
まぁこのエリアは”比較的”という
それらをサイドに挟んだメインと思われる”大通り”を俺たちは進んでいく。
あんまよくねーかもしんないけど、ついつい住民たちの様子を歩きながら見てしまう。
床に石で白線を引いて、子供が数人、靴底で線の外を踏まぬようジャンプして遊んでいて、周りの大人は邪魔だと怒ることはない。
生活感ただよう洗濯物は、家と家の配管の下に通したロープに並んでいる。タオル、幼児用の小さな服、作業着。陽が当たらないため、それらの下で扇風機が文字通りフル回転している。
と思えば、路地の隅では炊き出しが行われていて、密封パウチをしこため煮詰めている大鍋の前には長蛇の列ができている。その列の横で机を1つ置いて、修理屋が拾ってきた
まったく。
人間て、たくましいもんだよな。
なんか得した気分で視線をスライドしていく。他にも、壁には比較的新しそうなポスターが貼られており、そこにはカフカさん、SAM、フードのペン画が印刷されていて――、
ん?
猛ダッシュでポスターの前に戻る。
――”星核ハンター”のカフカ、SAM、フード。
カフカさん←知ってる。かわいい。
SAM←知ってる。かっこいい。
フード←知らない子。
「え、誰、どちらさん?」
あ、詳細書いてあるわ。カフカさんは……、あーそういやたしか言ってたな。
グラモスの騒動の裏で脚本に従ってスターピースカンパニーの本拠地であるピアポイントにカチ込み、引っかき回しつつ、その後に俺が消し炭になる件が発生するからルアン姉ちゃんに話をつけに行ってたとか。
マージで頭上がんねぇわ、カフカさんとルアン姉ちゃんには。
いや、さておき、その時の罪によりカフカさんは手配されたっぽい。
――で、SAMとフードさん(笑)、グラモス消失事件の主犯ですってよ奥さん。記憶にございますわ~、このフードさん(笑)、
「だっせぇ~~~~……」
まんま過ぎるだろ。食いもんかよ。担当者早く帰りたくて2秒で考えたろ。じゃなけりゃ、なんすか、俺がもしも
え、てかこんな
今からスタピ(略)に電話して、「もしもし、フードですけど」ってクレーム入れたほうがいい? 電話番させられてる新人吹き出しちゃうだろ。「ごwwwごめん、なさいwwwお昼休みはもう終わっwwててwww出前は結構です」
ちゅーか、かかってる賞金よ。ゼロがひーふーみー……う、げ、に、20億? これってさ、自首した時にも、もちろんもらえるんだよね? ごめんな、みんな、俺、南の星でカフカさんと暮らすからさ。付き合ってらんないわ。
いや、でも、これ手配書自体はよく出来てんな……カフカさんの絵はやっぱどの角度から見てもビジュ良すぎるし、SAMも相変わらずカッコいいわ、誰か立体化してくれねーかな。
――よし、
俺は周囲を窺いつつ、記念にカフカさんとSAMの手配書を壁から引っぺがす。フード? ああ、あれね、
でもあれだな、べ、別に、アンタのことなんか気になんかしてないけど!
一応、俺もローブは脱いで腰巻きにして、手配書は念のためビリビリに
くるくると手配書を巻いて懐に入れたとき、
視界の端――壁にもたれかかっている何かが引っかかる。
次いで、ゴホッゲホッゴホッと気の毒になるほどの強さで
そしてその拍子に、俺の足下まで転がってきたのは――今よりどちらかといえば、前世で見覚えのある、
――赤い、和傘で。
執筆時BGM:「Even...if」山田タマル