もはや懐かしい記憶。
今日も今日とてせっせと星穹列車の復元作業に従事していた俺と姫子であったが、腰と背中に限界がきたので休憩中だった。
「——そうね。今日はこないだ、”運命の
はい、始まりました、姫子先生の今日の授業。
頼んでもないのに毎度始まるんだけど、こいつ普通に人に教えんの好きなんだろうな。もう教師にでもなったほうがいいんじゃねーの。どう考えてもナナシビトって安定した職業じゃないだろ。
自分で
ほんといつ見ても衝撃映像だ、これ。ひょっとして毒が効かない体質なのかこいつ。
「まずはこないだの復習。ゼン、さっきの三者の力関係を言ってみて」
「お前な、年上を試すな……我を敬え……」
そういうとこだぞ、そういうとこ。
とはいえ、長年の付き合いということもあり、講師ごっこに乗っかってあげちゃう俺である。うーん、この健気さ。お買い得ですよ、まだ見ぬおねーさま。どうぞ買ってってくださいよ。安くしときますから。
「あー……えっと、まず”運命”があるわな。こりゃこの宇宙にある、言ってみりゃ”生き方のテーマやルール”だ。んでまぁ有名なものからどマイナーなもんまで色んな種類の”運命”があるけど、各運命のてっぺんには
これが運命を完全に掌握する存在として異能の力でたとえるなら最高位の”レベル3”。そして、その下の”レベル2”が、
引き出せる力の量を仮に水で例えるなら、”運命の行人”がコップ1杯の水、”使令”が川、”星神”が海ってぐらいケタが違う。
ってなことをずらずらと並べる。
「うん正解。じゃあ、”運命の行人”はいくらもいるとして、具体的に”使令”は誰か知ってる?」
あ、これ続くのね。シレイっつったら、イカリ……って伝わんねーな。頭の中をさらうようにして、
「え〜、スターピースカンパニーのなんか偉いおっさんと、天才クラブの創始者のなんかおっさん?と、——天才クラブ会員番号#83にしてブルー星系で最もIQが高い万能の天才かつ絶世の美女おねーさんと称されているヘルタ様くらいしか知らねーぞ」
「後半から
露骨に引いた顔をされるが、仕方ねーわ。おっさんはおっさんだし、それ以上でも以下でもないから。
ため息を隠しもしないで、姫子は、
「はぁ……まぁいいわ。最後は一応合ってるから。正確にはスターピースカンパニー、つまり”存護”の使令、”ダイヤモンド”と”タラファン・キーン”はどちらも重役クラスとして勤めているわ。あと”知恵”の使令である天才クラブの創始者は”ザンダー・ワン・クワバラ”ね」
1人ひとり正式名を教えてくれるが、覚えられる自信ねー。なんだっけ天才クラブの”サーティーワン・クワガタ”だっけ?
「——でも、大事なの忘れてるのは減点ね」
「は? どれだよ」
「”壊滅”の使令——
指折り、数えるように。姫子は続けた。
「
「
「
「
「
「
その他にもいるらしいが、それぞれが
「でも、この宇宙だぜ? 災害みてぇなもんだろ。
この広大すぎるようでいて、案外狭そうな宇宙のことだ。そんなんに出くわすくらいならカジノでジャックポットを当ててぇもんだけど、確率はゼロってわけじゃない。
肩をすくめる俺に、姫子は冗談抜きの
「その時は、逃げて」
実に、実に端的な教えだった。
「——私は、あんたに死んでほしくないから」
★ ★ ★
そして現在、
見ているか姫子。”お前の言ってた存在がここにいるのだ……!” と脳内でメタボ
そう、目の前に
「——くっそ」
白いストールの
いや、何よりムカつくのは、
……なんで絶滅大君なんだよ!!!!!
クソデカボイスで言いたい。”絶滅大君”でさえなければ、見た目とか声とかスタイルとか、ありよりのアリアリアリアリ、アリーヴェデルチ(何度でも会いたいです)だ。何がとはもう言わなくてもわかるべき。
そんな神聖なるおねーさんが掲げていた、
「——
右手を振り下ろす。
「——ッ!!??」
触れてすらいない。
振った、だけ。
それだけで、大理石じみた床が——地盤ごと
「——ッ、ぐ、あぁ……ッ!」
とっさに飛び退いた俺も、余波で吹っ飛ばされた。何メートル飛んだかわからない。背中から
何が起こったのかワケもわからないまま、とにかくパルサーエッジを——
ないんでしたわ……そりゃそうだ。さっき投げたまんまだ。
「…………ちょっと待てって、はは」
乾いた笑いが
たった一撃。
ビョルンとソニアが
「キャーッ!!」
エレーナの悲鳴が遠くから飛んでくる。どうやらカブと一緒にどこかへ吹き飛ばされたらしい。アリアは——見えない。どこだ……あ、いた。どうやら今の攻撃の範囲外にいたらしく、子どもたちを
「……づッ!?」
”ふふ、ポチくん、ラクにしてあげる”。脳内カフカさんのおかげで、あーなんか痛くなくなってきた気する。
とにもかくにも——パルサーエッジを回収しなきゃ話にならない。
視界の中を片っ端から
駆ける。足がもつれる。だが止まったら死ぬ。それだけは本能が叫んでいる。
パルサーエッジを引き抜いた瞬間、背後の空気が
振り向きざまに
「——?」
星嘯が首を
「
「どーも……それが俺の長所なん、だよ……ッ!」
押し返そうとする。だが、腕が
片手で受けてやがる。こっちは両手かつ全力も全力で奥歯砕け散りそうなのに。
ちっく、しょ、押し負——ける前に、俺は踏ん張りを解消し、
間一髪で、胸のあたりを爪がかすめ、服が裂けた。
だが、これでなんとか——
「——
何か、——来る。
「
「——ッッ!!」
既に全力で横に
頭上をあおぐ、
天井付近に、
そこから今の攻撃が射出されたのだとしたら、
さしずめ、
——なにあれ。なにあれ。なにあれ。
脳が
だが、立ち止まってもいられない、慌てて、片膝をついた体勢から走り出す。
そこにエレーナが
「あれ……なんとかなると思う?」
語尾が弱々しい。
「……やー、まいったなぁ」
力なく、あちゃーといった感じで笑う。
が、次の瞬間には改まった顔になると、
「逃げて——アリアさんと子どもたち、それからカブをお願い」
「は? おまっ、何言ってんの?」
その口ぶりはまるで、
「……こんなことになるとはさ、さすがにジェイド様も予想してなかったと思う。でも、私は……ここの現場を預かる責任者として逃げられない。でも、君は違うからさ」
最後の、お願いのようで。
「いやぁ、これが会社員のツラいとこだよね。でも仕方ない! そういう契約しちゃってるし! ……頼める、かな?」
無理矢理、
……はぁ……、ほんっと、ったくよぉ、あ〜〜〜〜〜〜〜〜、まったく、
——これだから年下は、
「ヤだね。そりゃ、お前がやれ」
実に——傑作な
「なんのために俺がシロッカに来たと思ってんだ。アホなこと抜かすな。そんなことしたら俺がジェイドお姉様に嫌われちゃうだろうが、逆だ逆、
——偉くて年下のお前はふんぞり返って、こう言うだけで良いんだよ」
「——ゼイン、なんとかしてって」
まばたきを3回して、口がわななく。
「で、でもっ、なんとかって?」
「そりゃお前、アレだよ……どうにかすんだよ」
「……どうにかって?」
「うるへーわ! 詰めんじゃねーよ! たかが、打つ手ないで諦めんな。ないなら、そこからどうすればいいかを考えんだよ!」
まるで、そんなことを言われたのは人生で2度目だとでも言わんばかりのような顔をする。
なんかその顔が、ムカついたのでわしゃわしゃっと、エレーナの頭を乱暴に撫でる。
不思議と振り払われることはなかった。だから、続ける。
「——こっちは任せろ。だから言葉返すぞ、アリアと子どもたち頼むわ」
「……ぁぅ……うん、……こっちも任せて」
一瞬のためらいを振り切るように、うつむいていた顔を上げて、
「——ゼインくん、なんとかして。でも、お願い……死な、ないでよ」
「わーってるよ。
そんじゃ行け、と背中をぽんと叩き、俺はエレーナと反対方向に駆け出す。
すなわち
……さーて、とはいったものの、いいアイデアなんかまだ思い浮かんでねーんだよな。
けど、エレーナたちがいったん退却するまで、注意をこっちに引かねーといけない。
とくれば、いいアイデアなんかなくても、やることは1つだ。
——あのおねーさんに、俺がもっとも注目すべき脅威だと思わせる。
パルサーエッジを構え直す。
「——ヘイヘーイ! そこの綺麗なおねーさん!!!」
叫ぶ。声を張り上げる。破壊で
「さっきの、金の爪のアレ。ヒュムノス・スタッフだっけ。正直、ちょっとカッコよかったでーす!。——もっかい見せてほしいでーす!」
挑発。
早速、死にたいのかと言われたら、ぐうの音も出ない。が、まるっきり考えなしじゃない。
中には問答無用なタイプも絶滅大君にはいるらしいが、さっき一瞬のやり取りが出来た通り、まだ比較的
会話ができるなら、時間が稼げる。
「——不思議な方です。恐怖はないのですか」
「あるに決まってんだろ。これでも膝、爆笑中なんですけど?」
「ふふ。正直な方ですね」
笑った。いやマジで笑ったよこの人。
……やべやべ、見惚れてる場合じゃない。
背後で
あとは——こっちだ。
「1つ聞いていいか」
時間を稼げ。何でもいい。話を続けろ。
「なんでしょう」
「あんた、自分のやってることを"救済"って呼ぶんだろ。ビョルンもそう言ってた。でもさ、見た限りじゃただの”破壊”だ。——それのどこが救いなんだ」
「苦しみのない世界。争いのない世界。悲しみが生まれない世界。——それを実現する最も確実な方法は、苦しむ者そのものをなくすことです」
「……最悪の回答だな」
「そうでしょうか。あなたの瞳にも、その苦しみは宿っているように見えますが」
そりゃ行く先、行く先でこんな目にばっか合ってたら、目に悲しみと苦しみが一族レベルで居つくだろ。だが、認めてやる義理もない。
「——ッ!」
来るぞ。
横に跳ぶ。
金色の爪が空を裂く。五本の光の軌跡が地面に叩きつけられ、さっきまで俺がいた場所が五条の溝に変わる。
「——がッ!」
衝撃波で吹き飛ばされ、無様に床や壁や柱だった破片の上を転がる。口の中に鉄の味が広がる。立て。立て。止まったら終わりだ。
パルサーエッジをオフり、杖がわりにして身体を起こす。視界がぐらつく。今の転倒でどこかぶつけたらしい、こめかみから血が垂れて左目に入ってくる。
だが——立てた。
「まだ……立つのですね」
「しつこいのも、取り柄でさ……っ」
駆ける。まっすぐ
馬鹿だと思うだろ。俺もそう思う。だけど、距離を取ったら天罰レーザーが飛んでくる。さっきは奇跡的に避けれたが、またあれを放たれたら回避もクソもない。だったら近づくしかない。懐に入れば——少なくとも撃てないはずだ。……たぶん。希望的観測全開だけど。
パルサーエッジをオンにし、振りかぶる。
金色の爪がそれを受けた。片手で。また片手だ。
「……ッッ、くっ、そ……!」
押し負ける。腕が、身体が、足が、全部が限界を訴えている。パルサーエッジの警告音が鳴りっぱなしだ。こいつ、出力上げすぎてエネルギー残量がもう底をつきかけてるっぽい。
だけど——離すな。刃を合わせている間は、少なくとも
「本当に——健気ですね」
また言われた。さっきと同じ言葉。だが、声のトーンが微妙に違う。感嘆ではなく——哀れみだ。
「その闘志は賞賛に値します。ですが、——もう十分でしょう」
もう片方の手が持ち上がる。
やばい。もしかしてこの距離でもいけんのか!?
あの指が天を差したら終わりだ。天罰レーザーを食らったら、回避どころか認識する前に消し飛ぶ。
——考えろ。
考えろ考えろ考えろ。
打つ手がないなら、そこからどうすればいいかを考えろ。さっき自分で言ったばっかだろうが。
もう切るしかねぇか。
即座に背後を確認する。……いったん、エレーナたちはここから脱出してくれたらしい。
燃料カートリッジは既に
あとは——使用だけなら、俺の覚悟次第。
とはいえ使ったらどうなるか。この閉鎖環境でぶっ放したら、逃げ切る間に威力と反動とでこの地下空間全体が崩壊+火の海になる。
そんな状況を経たら、……何も残んねーよ。
さすがにそっから
でも、一番の問題は——
——考えろ。
——考えんだよ。
——わかってる。
——わかってんだよ。
情けない話だが、よぎってしまう。視界がぼんやりとし、お手上げとばかりに頭上へ自然に視線が向いていく。
——もう、ダ——
「——は、ははは、はははは」
「……
「——ざまねぇわ。こりゃ勝手に諦めんなってケツ叩かれちまうな」
パルサーエッジで
空を切った爪に、
そのまま連続バク転の要領でできるだけ、
逆さになった視界の中、片手でノヴァイレイザーを取り出す。
「——
砲身が展開する。
「
「——解き放てッ」
——今だ。
銃口を向けるは、
「
「
頭上に浮かぶ。——
閃光
力の
衝撃の
「——どっかの天才、負けたら承知しねーぞ!!」
「——ッ!?」
こっちの光が徐々に飲み込んでいく。
反動で腕が
だが、それでいい——、
——入口まで吹き飛ばすッ!!
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺が絶叫と共に入口脇の壁に叩きつけられると同時に、ノヴァイレイザーは完全に
そして、まるで自らを飲み込んでいくようにどんどんその
それによって直撃に至らなかった天井は——辛うじて崩れていない。
とはいえ、本当に辛うじてだろう。俺は乱れた息を整える暇もないまま、粉塵の中を這いつくばったまま、とにかく
「は、……はぁ……はぁ……」
倒せないなら逃げる。さすがに無茶だった。全身が痛え。どっかは確実に折れてる。特に左腕がノヴァイレイザーの反動でまともに動かない。こめかみの血は固まったのかもう何も感じない。パルサーエッジのエネルギー残量は——見なくてもわかる。もう何回も打ち合える状態じゃない。
ノヴァイレイザーも、急速冷却中でしばらく再使用は無理だ。
——時間は稼いだ。どれくらいだ。1分? 2分? 体感では永遠だったけど、実際はそんなもんだろう。エレーナたちはどこまで逃げられたか。わからない。でも、信じるしかない。
おそらく、こっちは時間切れだから。
粉塵が晴れていく。
——傷ひとつない。
「……はは、そりゃねーわ」
白いストールに
「……ふふ」
「面白い方ですね。あのような手段に出るとは」
「……どーも」
「ですが——もう限界でしょう?」
否定できない。身体は正直すぎる。立ち上がろうとして、膝が折れた。
それまで浮遊していた
急ぐ必要がないとわかっているから。
「あなたの抵抗は、美しいものでした」
右手の金色の爪が、淡い光を帯びる。
「——安らかに」
……ああ、これ、マジでやばいやつだ。
立て。立てよ。まだだ。まだ終わってない。
右腕に力を入れる。肘が震える。膝が笑っている。パルサーエッジを杖にして、もう一度——
立った。
自分でも驚いた。……立てた、立てちゃったけど。刃を構えるので精一杯だ。ただパルサーエッジも切れかけの懐中電灯みてーになってる。振れるかどうかも怪しい。
「——まだ、立つのですか」
驚き、だけじゃない。もっと静かな何か。
「何が……あなたをそこまで駆り立てるのです」
「さあ、な……もう自分でもよくわかんねえや。ただ、頼まれちまったんだよ。”なんとかして”って。んでもって——、」
カフカさんの、
そして、ビョルンとソニアの、最後の姿がよぎる。
——姉様や……あなたのような存在がいても、この銀河の”運命”は一向に変わらない。
エリオの言葉がよみがえる。
——この宇宙を”
「俺思うんだよね。この宇宙に色んな”運命”あっけど……もしクソみてぇな”運命”にとらわれて、それで苦しんで、もがいてるヤツらがいんならさ、
——俺がそんな”運命”から”解放”してやりてぇんだ」
こんなボロボロの状態で、なんとかもクソもあるかって話だけど。いいだろ、別に言ったって、タダなんだからさ。
でもま、約束したしな。上司の命令は絶対だし、星核ハンターファミリアの食料事情もこの背にかかってる。
要するに、
「まだまだこんなとこで死ぬワケにゃいかねーのよ」
「……そうですか、」
穏やかな口調は、そこまでだった。
「——あなたの”運命”は、これ以上は危険と判断します。これは救済ではなく、”壊滅”の使令として、
——来いよ。
次が来たら、たぶん、もう避けられない。
上等だよ。避けられないなら避けねーよ。倒れるときは前のめりさ。
——その時、
背後から、硬いものが何かに当たる音がした。
カツン、コツン、チャリン、カツン、コツン、チャリン——。
ソニアではない、そんな訳がない。
革靴の足音と、そして、軽い、金属音。
それも、やけに
着実に、階段の奥から、1つの影が近づいてくる。
そいつは——、
細身。趣味の悪いサングラスと趣味の悪いシャツと趣味の悪いファー付きのジャケットを羽織り、女でもうらやみそうなさらさらとした金髪が揺れていた。
片手をポケットに突っ込んで、もう片方の手で何かを弄んでいる。小さな、コイン。実に器用に指の間をくるくると踊っている。
やがて闇から姿を現したその男は、戦場のど真ん中に立っているとは思えないくらい涼しい顔で——
そこにはまるでクジャクの羽根のような、虹模様の瞳が姿を表し、
「——やあ、お待たせ。派手にやってるね。僕も混ぜてもらっていいかな?」
腹立つくらいのイケメンはそう言った。
(-□д□-)「話は聞かせてもらった!!
つまり、ルキンフォー・エムはSF少年バトルノベルだったんだよ!!」
ΩΩΩΩΩ「「「「な…、なんだって——!!!」」」」