「——やあ、お待たせ。派手にやってるね。僕も混ぜてもらっていいかな?」
死を覚悟した直後に、そんな声が聞こえた。
……え、どちらさん?
なんなん、見たとこ、俺とそんな歳の変わらなそうなイケメンは。
迷い込んじゃったの? トイレこっちじゃないですよって親切に教えてあげた方が良い感じ?
しかしイケメンは片手をポケットに突っ込んで、もう片方の手でコインをいじっている。無意識でもこなせそうなくらい、よどみなく指の間をくるくると踊る金属が、場違いなくらいチャリチャリと音を立てていた。
攻撃の手が——止まっている。
どうであれ、
混ぜてくれというなら、
「——飛び入り参加大歓迎だよ。
「ははっ、そうこなくちゃ。僕はアベンチュリン。スターピースカンパニー、
俺は
——十の石心。噂には聞いたことがある。スタピの
じゃねーわ……ジェイドからの贈りモノって何だよ、なに勝手に呼び捨てにしてんだ、ノヴァイレイザーふぅふぅして冷ますからそこに居直れ、とツッコみたいが後回しだ。
「"贈りモノ"、って……あーエレーナがなんか言ってたやつか」
そういうことね。シャレた真似してくれますわ。さすおね。
「
「おーよ、全然足んなかったのよ。
言って、猛烈に咳き込む。胸を叩く。……あんま余裕ねーかも。軽口を返す体力すら怪しかった。
アベンチュリンの目が、一瞬だけ俺を見た。ボロボロの身体と、かろうじて立っている足を。何かを読み取ったように、わずかに目を細める。
ただ、何も言わず——代わりにコインを
「——あなたは、……”
穏やかで、丁寧で、底知れない、星嘯の声。
「——人の心の
「それで、あなたは何が出来るというのですか」
「——
肩をすくめながらアベンチュリンが俺の前に出た。さりげなく、俺と
——かばってるつもりかよ。
わかった瞬間、少しだけ——ほんの少しだけ、息がしやすくなった。めっちゃ助かりますはい。
「……アベンチュリンさんよ」
「さん付けはいらないよ。男同士なんだ、
「じゃあこっちはゼインさんでいいぞ。——チュリ
「君は随分とピーキーだなぁ!」
思わずといった形でこっちを振り返る。
「えー、なんかなげーんだもん。バトってる
俺の言い草にあきれた顔で苦笑しつつ、コインを親指で弾く。くるくる回って、手の甲に落ちる。
「僕の武器は——少しばかりの幸運さ」
「わーすごーい……」
”賭け”と”幸運”っつったよ。この状況で。棒読みで反応するしかなかった。ミサイルとか持って来いよ。
だがそれ以上聞いている暇はなかった。
金爪が光を帯び——
「下がれ!」
叫ぶのと同時に散開する。
粉塵の中で、アベンチュリンがコインを宙に弾く。
コインが——光った。
半透明の
「——バリアかよ!」
「雑だなぁ。チップと言ってくれ。僕がもらってる”存護”の権能は——”運命”を賭けて、結果を”守り”や”攻撃”に変えるんだ」
「そんなら。防御はチュリ男、頼んだ。——俺が仕掛ける!」
「いい
走る。
アベンチュリンのコイン——いやチップが射線上に防壁を展開し、星嘯の攻撃を逸らす。その隙に俺が回り込み、パルサーエッジを上段から振る。
——
金爪が見もせずに受け、腕ごと押し返された。後退しながら体勢を立て直す。
「——無駄ですよ」
構わない。もう一度仕掛ける。防壁の展開に合わせて死角に飛び込み、斬り——やっぱり弾かれる。
それでも繰り返す。
ぼっちで戦っていた時とは違う。防壁のおかげで致命打を避けられる分、攻めに出られる。2人いるだけで負担が
3度目の突撃も弾かれて着地した瞬間、アベンチュリンが横に並んだ。
「——どういうことだい?」
「何が!?」
息を切らしながら、コインを弾く。
「君の近くだと、運の流れが乱れる。いつもと何かがおかしい」
「知らねーよ、んなの。困んのか?」
「困りはしないさ。ただ——」
「——変だ、ってだけ」
冗談、ってわけじゃなさそうだった。アベンチュリンの声には本当に
連携を重ねる。アベンチュリンの防壁展開のリズムが少しずつ読めてきた。コインを弾くタイミング、防壁が展開される位置、持続時間。それを予測し動くと、無駄な動きが減っていく。
息が合ってきている——実感があった。
合間に、ふと天井を見上げる。
さっき俺がノヴァイレイザーで消し飛ばした
最大火力が封じられている。天罰レーザーが来ないなら——まだ、やれる。
再び、アベンチュリンの横に並んだタイミングで、
「チュリ
「おっと、
「言ってろ!」
瞬時にお互いが駆けだし、いったん俺は距離を取りつつ、アベンチュリンが突破口を開くのを待つ。
ただ、どうにかさえしてくれれば、天罰レーザーの
——スン、と消灯した。
刃を出力する部分に息を吹きかけても、高速で振っても、
つかない。
……えー、誠に
血に飢えた妖刀ではなく死に絶えた本当のゴミです。対戦ありがとうございました。
「…………」
えー、あ、はい、これはRPGで言うところのラスボス戦で
アベンチュリンが防壁で
——それじゃ、いくよ?
いやいやいやダメダメダメ全然よかない、いかないで!!
「待————ってチュリ
全力で叫んだ。
アベンチュリンが、ちらりとこちらを見た。余裕なんかないはずなのに、サングラスの奥の虹色がちょっと楽しそうなのが腹立つ。
「——おいおい! そりゃないよ?」
「見てコレ!! だめ待ってムリしんどい!!」
これ見よがしにパルサーエッジのスイッチを連打して見せて、ゴミアピールをする。そのまま腕をクロスさせ
さすがに俺の尋常ならざる
「フォールドじゃなくて
「どうするって——」
見回す。手元にはパルサーエッジの
視線が冷却中のノヴァイレイザーに向く。
撃てない。冷却フィンがフル回転中でまだ終わってない。だが——この展開されたでかい銃身は、物理的にはそこそこの重さの
どうすんべ……いや、
——待て。
ひとつだけ、方法がある。
つーかもはや、それしかない。
パルサーエッジの
ノヴァイレイザーの銃身。重い。太い。金爪の一撃を受け流すには十分そうな質量がある。
右手に柄。左手に銃身。
……二刀流だ。
撃てない銃と光らない剣の
「——チュリ男」
「うん?」
「
アベンチュリンが目を見開いた。
「……正気? 武器もないのに前に出るの?」
「武器ならある」
パルサーエッジの柄を振ってみせる。ノヴァイレイザーの銃身を構える。
「……それ2つとも死んでない?」
「機能はな。でも棒と鈍器でまだ現役だ。”ワシャ、まだまだやれるぞい”って俺にはこいつらの声が聞こえる」
「息すらしてなさそうだし、それを二刀流とは言わないと思うけどなぁ……」
「うっせぇ。お前は後ろから存分にチップぶつけてこい。防壁を攻撃に回せるだろ」
アベンチュリンが一瞬、黙った。
俺の目を見ている。何を考えているのかわからない。コインが指の間で止まっている。
やがて——口の端が、わずかに持ち上がった。
「……まったくとんだ
「へぇへぇ、せいぜい
「
走る。
金爪が振り下ろされる。
ノヴァイレイザーの銃身を斜めに構えて、受け流す。金属同士がぶつかる重い衝撃が、左腕を伝って肩まで響いた。
だが——止めた。
完全に受けたわけじゃない。角度をつけて力の方向をどうにかずらしただけだ。でも、なます切りにされなかっただけ十分だろ——
「——今だ、チュリ男!」
背後からコインが飛ぶ。防壁ではなく——直接、
アベンチュリンの攻撃。守りに回していた分のリソースを、そのまま攻撃に叩き込む。光るコインが拡大し、
そんな
すり抜けた。
「「……は?」」
アベンチュリンの声と俺の声がハモった。
コインは
弾かれたんじゃない。防がれたんでもない。
「も……もう一発!」
俺が金爪を受け流している間に、アベンチュリンがコインを立て続けに撃ち込む。2枚、3枚、4枚——
全部、すり抜けた。
「…………」
いつの間にかアベンチュリンの顔から軽さが消えていた。
俺も動揺を隠せず、すぐに
「——全部すり抜けてる。最初から、僕たちは触れてすらいない」
「防壁を張ってた時は気づかなかったのか?」
「守りに使ってる時は、
たしかにこっちの攻撃は当たらないとしたらずっこいなんてもんじゃ——いや、
「……でもよ、チュリ男。
「確かに。身体はすり抜けるのに、爪だけ実体がある——か」
アベンチュリンがコインを
「推測に過ぎないけど、あの爪から感じる力の質が、本体と違う。あの爪だけが——何か別のエネルギーで構成されてる」
別のエネルギー——。
その言葉に引っかかって、
何十回も攻撃して、コインをぶつけて。
——おかしい。どう考えてもおかしいんだよ。
なら、もしかして、間違っているのは——
アベンチュリンと目が合った。
「……ミスリードされてたかもしれないね、僕らは」
「だな——」
普通、人型であれば、頭とか胴体が本体だと思いがちだ。
だからこそ、俺たちも
そうだしたら、
「狙うべき本当のターゲットは、」
俺たちの声が重なる。
「「——金爪だ」」
理屈はわからないが、
だが、それ以外の部位は
……つまり、金爪以外のどこを殴っても意味がない、ってことだ。
「——ようやく気づきましたか」
俺たちの推測を裏付けるような発言とともに、
アベンチュリンがコインを弾く。防壁に戻して俺の横から援護に入る。
攻撃が通じないなら、せめて前衛の俺が潰れないように守る——自然とそういう判断に切り替わっていた。ナイスカバー。言葉にしなくても動きで伝わる。
「それで、どうしますか? ——わかったところで、あなたたちは何かできるのですか?」
……最悪なことに
俺たちの希望は
本当に壊すべきターゲットである金爪も、これまで打ち合ってきてダメージを与えられていない。
そう……狙いの認識が変わったところで、
——戦況は変わらない。
こっちの攻撃は効かず、全部すり抜ける。
向こうの攻撃だけが、確実にこっちを削っていく。
これが本当のチートってやつだぞ……銀狼。
「……なぁ、チュリ男ッ!」
金爪を受け流しながら呼ぶ。
「なんだい、マイフレンド!」
鳥肌立ちそうだから、その呼び方やめてほしいんだけど。
「ダメもとで
「僕が出し惜しみしてるって言いたいのかい?」
「……うんにゃ、ダメもとつってんだろ」
金爪を
汗が一筋、頬を伝い、
何か、何か、他に手立てはねーのかと、
——考える暇を、
「!?」
金爪の連撃が
——容赦のない
嵐のような猛攻をノヴァイレイザーの銃身で受ける。一発一発が重い、重すぎる。腕と脇腹が悲鳴を上げる。完全に防ぎきれず、
——
あ。と思った。
体勢が崩れる。
金爪の一振りを、ノヴァイレイザーで受け損ねた——やっべ——
「——ゼイン!!」
アベンチュリン、なんか叫んでんな。
——直後、銃身ごと金爪を横薙ぎに振るわれ、
ダンプカーに
右半身が
な。
そこは白い空間で、そいつはいつも体育座りをして背中を向けている。
どこまでも白。
上も下も右も左も。
またいつもの白い空間。
体育座りの姿勢は変わりなく。
「おい、いい加減、こっ——」
「…………〜……〜……」
……声、出ねぇや……。
あ〜あ〜あ〜。視界欠けてら。右目完全に見えねーし、全体的に”右”の感覚ねーでやんの。
ドジったなぁ……こりゃ死んだか? いや、ナチュラルに死んだかって出るあたり生きてるか。意識、あるし、
——だから、セーフってことでいいか、エレーナ?
……いやぁ、もう反則だろ、”
——星系滅ぼす、か。
俺を殺して、そしたら
ここまで随分と頑張ったつもりだけどなぁ、カフカさん
そう……、だな。
褒めてもらうにゃ、帰んねーと。
でも、みんな、
生きてるよ。
だからまだ、
もうちょっと、ほんのちょーっと、先っちょだけくらいちょーっと、
足んねぇよな。
——
立てっかなぁ、でも立ち上がんねぇと、チュリ
あ〜……休みてぇ、な……はぁ……クソ、マイフレンドなんて軽々しく言ってくんじゃねーよ……ダチになったら助けねーといけねぇだろうが、ただでさえ助けに来てくれちまってんだからよ。
とりあえ、ず、だ。
やって、……みるだけ、……やってみっか、左手に力込めて、ウケる。超震える。上体起こして、
おえっ、血ゲロ出た。わー、すっげー出た。
やり直しだ。左手すべるなぁ。そういうヌルヌルプレイじゃねーんだけど。
左足をカエル足スタイルにして、少しずつ持ち上げて、
立ち上がる。
……あれ?
いけんじゃん。
立てた。
今ので
なんだこれ、脳内麻薬ドバドバってこと? それともあれか、かの有名な火事場のクソ
きっとそれだ。今は動けるならそれでいい、とにかく、動かねーと、急げ。
散乱する
おーおー、やっぱアベンチュリンも
視界の端から何かのろのろしたのが動いてくるのを認識したアベンチュリンは、その宝石みてーな瞳を見開いて、
「ゼ————」
言葉は続かなかった。
「ゼで止めんなよ……マジで絶句してる感パないから」
人をゾンビみてーに見んな。
一応、ピースしてやる。右手も指も変な方向、向いてるけど。
「あなた……本当に何者なのですか」
どうやら完全に始末完了したと思ってったぽい、
だから、ピースを星嘯にも向けて、言ってやる。
「年上好きの年下の男の子でーす。……ちなみにしぶてーのも美点みたいよ。いいだろ、好きになれる要素、いっぱいありますよ、おねーさん。おひとついかがでしょーか」
「——いいでしょう。しぶといのなら
「ちぇっ、つれねーなぁ」
誘い文句をガンスルーした
——最も明るい。
間違いなく、かつてない一撃が来る。
「——チュリ男、壁、たのまぁ……」
「……それは1枚が限界だ」
「なら1枚でいい。
「……ふふっ、ははっ、つくづく気が合うなぁ、僕らは」
アベンチュリンが
さらに俺は左手でノヴァイレイザーを防壁の手前に構えた。二重の壁。のつもり。気休めだ。気休めでも、やれることは全部やる。
——その時、
「金爪:
——場違いなほど軽快なメロディが響き渡る。
止まった世界の中で、
おもむろにアベンチュリンが「僕のだ」といってスマホを取り出し、あろうことか電話に出てしまった。
おい、緊張感……、
固く引き結んだ口元から、何かを警戒しているかのように——俺には思えた。
「——はい、もしもし、うん、お互いまだ生きてるよ。だいぶ雲行きがあや——あーはいはい、」
この
それは、
なんでか明らかに
エレーナの声で、
『もしもし、そこにいるはずのバカ
——なんか知らない女がそっち向かってったんだけど?』
カツン。
革靴の音じゃない。アベンチュリンの呑気な足音でもない。
もっと硬い。もっと重い。
まるで。
刀の鞘が床を打つ、乾いた音。
入口の階段から、
再び黒い影が降りてくる。
その人は藍色の長髪をたなびかせ、
薄闇にぼんやり浮かぶ白い顔を持ち、
右手に
「遅れてすまない。どうやら私はいつも、
思いも寄らない
——居合わせてしまう、運命らしい」
そう言って、
困ったような笑みを浮かべる。
執筆時BGM:「1coma」from 甲鉄城のカバネリ COMPLETE SOUNDTRACK
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