ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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#4 ”Bad Communication”

 

 

 

 

 耳をかすめた銃弾。

 

 感じた熱。咄嗟(とっさ)に手で押さえる。

 

 そのまま、身体を折り、転がり込むようにがれきに身を隠す。コンマ秒前に俺がいた場所に複数の穴が穿(うが)たれる。

 

 冷や汗が頬を伝う。

 

「——ヤッベぇ……」

 

 銃弾の雨が一旦止むと、砂利(じゃり)を踏む足音が一歩また一歩と近づいてくる。 

 

 おそらくこのまま身を隠していたとしてもジリ貧だ。となれば、イチかバチか打って出るしかない。

 

 腰に下げていたパルサーエッジを起動させる。

 

 以前に「ナグラクバラク」という星での冒険で、過去の世界に行った際にちょろまかしてきたこいつは、天才クラブとかいう、ほぼガイキチ揃いの連中の一人が作った代物らしい。

 

 パッと見、ほぼライ●セイバーな光の剣でいろいろ大丈夫かと思うが、普段は軽いし、ほぼなんでも焼き切れるうえに、ビーム系の攻撃を(はじ)けたりする、超使いやすい俺のメイン近接武器ちゃんである。振るとちゃんとブゥンブゥンと唸るし。

 

「——あら、鬼ごっこはもうおしまい?」

 

 聞こえてきた死神さんの声に、思わず生唾を飲み込む。息を整える。腹をくくるまでのカウントダウン開始。

 

 ガチのマジで、今回は、

 

 

「——もっぺん死ぬかもな……ッ」

 

 

 どうしてこうなった。 

 

 

 

 

 

    ★   ★   ★

 

 

 

 

 

 シルヴァの考えた作戦はこうだった。

 

 曰く、自分はハッキングに自信ネキである(意訳)。

 

 詳細は俺が理解できなかったのであれなのだが、エーテルが云々(うんぬん)とか言っていた。それをハックすることによって、現実を改変するとかかんぬん。いや、なんなんそれ、魔法使いかよ。固有結界でも使うの?

 

 言ってしまえば、だ。

 

 冒険の最中にシルヴァのサポートで何らかのトラブルをあえて起こしてもらい、その際に事故を装うことで消息不明という名のダイナミック離脱を図るというものだ。

 

 「そんな上手くいくんかいな?」という至極当然の疑問も、「私に任せといて。なんか楽しくなってきた」と返されれば、とりあえず任せてみるかという気にもなる。うーん、俺ってば上司の素質、抜群すぎる。

 

 まぁ元はといえば、俺から持ちかけた話なわけだし。いや別にもう考えるのが面倒くさくなったなんてことは全然ない。全くもってないからね。

 

 いやー、やっぱり持つべきものはスーパーハカーの友達だわ。未来的なガジェットもいつかシルヴァに作ってもらうとしよう。

 

 さて、事故を装う、となると比較的安全そうな星よりも、訪れる前からクソヤバそうで普段の俺なら絶対お断りするような星にトライすべきということになるわけで、色々候補を挙げて検討し、最終的に選定したのが例のプテルゲス-(ファイブ)というわけだ。

 

 行き先さえ当てがつけば、残るは跳躍会議で合意形成をするのみ。

 

 ヴェルトはまだ事情がよくわかってないはずだから、ごねればなんとかなるはず。問題は姫子だった。

 

 だが、乗車してからというもの、「ナビゲーター」としてナナシビトの規範を体現することを心がけているあいつのことだ。

 

「誰かを助けるのに、理由がいるかい?(キリッ」とか言っとけば、同意してくれるだろう。

 

 はたして作ったのか、それともどこかで拾ってきたのかわからない、シルヴァからもらった原住民の悲痛な叫びデータを再生すれば、意外なほど上手く事は運んだ。ってかアレ大丈夫なのか。迫真過ぎてゼインさん少しビビっちゃったぞ。

 

 姫子とヴェルトとともにプテルゲス-(ファイブ)の中央市街と思われる街『アウロステルダム』に降り立った。だいたいどの星でも最初の印象がほぼほぼ終わりまで続くもんなのだが、このプテルゲスの場合、感じたのは、

 

 「陰鬱」だ。

 

 日中だというのに空は雲で覆われ薄暗く、気が滅入(めい)りそうな雨が降り続いている。

 

 それでいて、煌々(こうこう)とともるのは歓楽街の明かりである。酒場、娼館、賭博場、人の快楽に根ざしたような建物ばかりが(のき)を連ねている。

 

 治安的にも相当よろしくなさそうだった。ヤク中じみた目つきのやばい浮浪者、身寄りがなく盗みで生計を立てる孤児、己の春を売る女たちはしなを作って酔っ払いの男たちに声をかけている。

 

 

 ——やーばいところ、来ちまった。

 

 

 もう1つおまけと言わんばかりに黒猫がこちらをジッと見ながら横切りやがった。幸先がよすぎる。

 

 身の危険しか感じない。早くも列車に帰りたくなってきた。

 

「さて、まずはどうする」

「おいメンタル激強(げきつよ)か?」

 

 思わずツッコんでしまったが、頼りになるヴェルトに先輩風を吹かしておくことにする。

 

「『開拓』にも工程があんだよ。まずは未知の領域に踏み入ったら『探索』し、次にその星の文化や歴史、住人たちを『理解』し、交流することで関係や時には銀軌(ぎんき)を『構築』し、最後に星と星、人と人、思いと思い、絆と絆を『連携』することでつないでいく。それが『開拓』ってやつだ」

「ふふっ、ゼンが教える側に回るなんてね」

 

 隣で姫子が嬉しそうな顔をしているが、おチビの頃から何遍(なんべん)も何遍も講義されてみろ。耳タコにもなる。

 

「……なるほどな。ゼイン、ありがとう。そうすると、まずは——」

「ああ、とりあえず探索と理解開始ってとこかね」

 

 

 

 

 

 

 

 いったん別れて、各自が情報収集に励むことになった。

 

 いくつかの星での冒険を経て、俺もある程度ノウハウが溜まっている。

 

 色々住民から話を聞かせてもらうにあたり一番効率がいいのは、結局酒場だ。多種多様な人が集まる、酒や食事で口が軽くなりやすい、なんならそもそも事情通の情報屋がいたりする。

 

 街で一番大きく繁盛(はんじょう)してそうな店を見つけると、そのまま入り口をくぐる。

 

 いかにもアングラというか、タバコの煙とアルコールのにおい、そしてロクでもなさそうな単語ばかりが飛び交っている。

 

 そんな喧噪の中、フロアの一角にこしらえられたステージで、ピアノとヴァイオリンの二重奏(デュオ)が生演奏を披露していた。

 

 スポットライトで照らされ、暗がりにぽっかりと浮かんだそれをぼんやり横目で眺めながら、カウンターまで足を運ぶ。

 

 そして、バーテンに1杯注文してから、タイミングを見計らって、隣で1人で飲んでいる客に話しかけた。

 

「なぁ、ちょっといいか。最近この星に来たばかりなんだけど、少し話を聞かせてくんねーかな」

「……あんた、ナナシビトかい」

「え? ……ああ、まぁ、まぁまぁ、そんな感じ? かもしんない感じ?」

 

 嫌な予感がよぎる。こちらから身分を明かすより先にナナシビトと見当をつけられることはよくあるが、大体においてその後の展開はろくでもないことばっかだったからだ。

 

 なかば(にら)みつけるような眼差しとともに、

 

「悪いことは言わんさ。俺も若い頃からナナシビトの噂はいくつか聞いてきたが、プテルゲスは完結している星だ。開拓の余地なんざねぇよ。それに、」

 

 それを決めるのは誰でもねぇだろ、俺たちの勝手だ。と喉元まで出かかって、

 

「なんだか知らないが……あんたは、よくない雰囲気だ。近くに来られると、なんてんだ……酔いが、覚める」

 

 は? なに言ってんだこいつ。喧嘩上等で詰めたろか。

 

 黒猫のせいか、本当に幸先が悪そうだ。と、ちょうどバーテンがステアしたカクテルグラスをこちらに置く。

 

 少し気持ちを落ち着けるかと一口だけ酒を口に含んだところで、何か違和感を覚える。

 

 

 —— 耳障(みみざわ)りだった喧噪がピタリと止んでいた。そのせいではっきりヴァイオリンとピアノの演奏だけが響く。どっかで耳にしたことのある夜想曲(クラシック)

 

 

 酒場という雰囲気には明らかにそぐわない曲調。

 

 ごく自然と、その空間に視線が吸い込まれる。

 

 瞑目(めいもく)し、音の波にたゆたうように揺れながらヴァイオリンを弾いている女——むちゃくちゃ美人だった。

 

 いや、そりゃもう、むちゃくちゃだった。

 

 時が止まったかと思うほど、呼吸を忘れてもいいほど、目に焼き付けようと本能が勝手に誤動作するほど。

 

 やがて弓の動きが止まり音の余韻が引いていく。ゆっくりと彼女のまぶたが上がり、客の影越し、十数メートルの距離を隔てているというのに、

 

 

 目が合った。確実に。

 

 ――浮かぶ微笑。

 

 その場に()い止められたかのように錯覚する。だが、第六感が今すぐ逃げろとレッドアラートを鳴らしている。

 

 他の客たちも沈黙を示すように口を引き結んでいるが、気づけば一様に黒目がこちらを映している。

 

 

 ……うん。

 非常に(やく)い。

 

 

 さすがに色ボケしてるわけにはいかねーな。あーもう、ちっきしょー、あの女の連絡先聞けないことに血の涙が出そうだ。なんのために生きてんだろ俺。

 

 腰にぶら下げた得物(パルサーエッジ)にそっと手をかける。もう片方の手でスマホをいじり銀河共通決済通貨である信用ポイントを酒代として店に送金しておく。こう見えて食い逃げとかはしない系マンだから。

 

 ただ下手すると力ずくで逃げねーとまずいかもな。生唾を飲み込み、ゆっくりと席から腰を浮かし——

 

 

 

 

 

 

 

「——で、収穫はゼロってわけね」

「う、うぐぅ、そんなどストレートに言わんでも……」

 

 これがほんとのゼンゼロ♪ じゃねーわ。

 

 結論から言うと、明らかに襲撃されそうな空気だったが、なんとかそのまま無傷で脱出することができた。日頃の行いの大切さがよくわかるでござる。その後、すぐさまスマホで緊急招集をかけ、姫子とヴェルトと合流したのが今し方の話だ。

 

「ゼインの件も含めて、俺と姫子さんの情報を一度整理しよう」

「お前、出来るやっちゃな……」

 

 ヴェルトさんにはもう先輩風吹かせられなくなっちゃったかもしれない。後輩の成長っぷりに感動するってのはこういうことなんだろうね。ふっ、ヴェルトくぅん免許皆伝だ。もう俺の役目はここにはな——、

 

「そうね……私が得た情報だと、やはりこの星はかなり特殊かつ深刻な状況みたい」

 

 辺りを見回しながら、ヴェルトが声をひそめつつ、

 

「——ああ。まさか人が本来持っているはずの『恐怖』という感情が存在しないとはな……」

「はぁ? そうなの?」

 

 こいつら実はジモティーだったとかじゃないの。情報収集上手すぎじゃない?

 

 俺の無邪気でかわいらしい反応を無視して、姫子が会話を続ける。

 

「ええ。たぶん星核による汚染の影響じゃないかと思うんだけど。『恐怖』がないことでここの人々は行動や思考に歯止めが効かなくなり、本能のおもむくままに行動してしまう。その結果が見ての通り、今のこの星の有様につながってるんじゃないかしら」

 

 この治安の悪さと雰囲気から、なんとなくは理解できる。怖いモノが世の中に何もなければ、そりゃ無敵の人が誕生するのは道理だろう。前世でもいくらでもその手のやつはニュースに登場していた。……今となっては懐かしい限りだ。

 

「そうだな。俺の方でも似たような話を聞いた。付け足すなら、その欲望に取り憑かれて堕ちた人間は最終的に『悪魔』になるらしい。おそらく例のデータの女性が言っていた『悪魔』というのはこのことだろう。それと、どうやらその悪魔を退治する職業『デーモンハンター』と統括する組織『新バビロン』というのがこの辺りでは権力を握っているらしい」

「ふ、ふーん……」

 

 あ、……あれ、これ想像以上にヴェルトさん有能でガチで俺いらない子パターン?

 

「ゼイン。とはいえ、その酒場で何かおかしなことはなかったか?」

「いっやぁ……そうだな」

 

 しかもなんかフォローっぽい感じで回してくれるし、ヴェルト、今度ジュースおごってやるからな。

 

 ただ、ほぼなんもないのよな……詳しい話を聞く前に、

 

「あー……()いてなんかあるとすりゃ、なんか酒場にいたおっさんと一緒に()もうとしたら『お前がいると、酔いが覚める』とか喧嘩売られたのと……めちゃくちゃ綺麗な女の人がいてさぁ……」

「——は?」

 

 うっかり口走ってから己のミステイクを悟る。もうちょっとこう、話の持っていきかたがあったはずだった。

 

「私たちが、一生懸命話を聞いて回ってたのに、ゼン、あんた、お酒飲みながら、鼻の下を伸ばしてたの?」

 

 ぴ、ぴえ、なんか幼馴染さまの地雷を踏んでしまったっぽい。でも全く仰る通りでぐうの音も出ない、と思うのはまだ早い。

 

 どうどう、となだめるジェスチャーを繰り出して、

 

「お前はもっと落ち着きとか余裕を持て。そういうとこだぞ、年下っぽいの」と火にガソリンをぶっかけていたところに、

 

 何かを思案していた様子だったヴェルトが助け船を出してくれた。

 

「……姫子さん。気持ちはわからないでもないが、そこまでにしておこう。とりあえず時間も時間だ。今日中に宿のあてはつけておきたい」

 

 ヴェルトに対する俺の好感度がどんどん上がっていく。男でなければ確実に惚れていた。お前ならワシも姫子のドロ汁コーヒー担当と食事当番も任せられる。頑張れ、検討を祈る。今度、おやつ1個分けてやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

「あ”ーっ、ぢかれたわ……」

 

 探しに探し回った挙げ句、夜更け過ぎにようやく俺たちは場末(ばすえ)の宿屋を見つけた。

 

 ただし、さすが恐れを知らない星とだけあって、半分娼館に片足を突っ込んだ、はたして宿屋というべきか迷う建物しかなく、姫子がずっと渋い顔をしていたが背に腹は変えられないだろとヴェルトと2人がかりでどうにか説得して、ようやくのチェックインだった。

 

 不幸中の幸いは、()()に及ぶ前用なのか知らんが、客室に備え付けの浴室があったことだ。いやはや、たとえ湯が出るだけでもマジでありがてぇわ。

 

 毎度毎度、新しい星に降り立った初日はどえらい目に合うからな。なんとか無事にこうして風呂につかれる幸せは何にも代えがたい。これも元日本人の血だなぁ。

 

 風呂は命の洗濯と先人はほんとよく言ったもんだ。調子に乗って、浴槽のフチをバシバシ叩きながら全力歌唱しちゃうもんね。

 

 気分爽快となったところで、寝室に戻ってくる。

 

 無意味に踊ってしまうのはやはり誰もいない環境のなせるわざだ。惜しむらくは風呂上がりのコーヒー牛乳がないことだが、まぁ言ったところでないものは仕方ない。

 

 パンツ一丁(パンイチ)のままベッドに腰掛けそのまま倒れ込む。あーもうこのまま寝てぇ、

 

 

 

 ――ノックの音。

 

 

 

「…… あんだ……ヴェルトか姫子か……?」

 

 いやさすがに2人とも疲れた様子だったし、緊急で話すこともないはずだ。……そこで気づく。気づきましたよ、名探偵ゼイン。

 

 え、待って、ま、まさか、ここは半分娼館のお宿。

 

 ということは、ワンチャン秘密のルームサービス♡ってコト!? 気が利きすぎるだろ、あとで支配人に特大チップをやらないといけないかもしれん。

 

 もう一度、ノックの音。

 

 おっと、これはお待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。慌てて身体を起こし、光の速さで扉を開ければ、

 

 

 

 

 

「ハーイ、こんばんは——いい夜ね?」

 

 そこには、いつぞやの美人が立っていた。

 

 

 

 




※パンイチです
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