アベンチュリンの宣言の後、地下空間は一変していた。
二色の光が地面から天井まで飲み込み、ひとつの空間を丸ごと塗り替えている。壁も天井もない。あるのは、琥珀の大地と淡く青緑色の空で構成される光の膜——それが戦場全体を
スターピースカンパニー 戦略投資部の十傑である”十の石心”は、その
これは”十の石心”の長であり、かつ”存護”の使令でもあるダイヤモンドによって、
そんな基石の一つ、
——その能力とは、
そして、その
そう、アベンチュリンの
言わば、——
いや待ってほしい、そんな賭場にカメラを向ければ気づくだろう——何やら異物がある。
空間の中央に、
球体。
大人1人が入れそうな大きさで、砂金石と同じ色の光を放ちながら、ゆっくりと回転している。その表面には無数の面が刻まれていて——仮に
だが、アベンチュリンはその
百の面を持つ
そして更に目を
「——さて」
シルクハットの怪人が、仮面の奥で笑った。宙に浮いたまま、
「——何をするかと思えば。
「ルールを説明しよう。
伸びた爪の先で、浮遊する
「あの
何を言っているのか、本当にゲームをするのかと
「倍率……ですか」
「そう。×1なら等倍。×2なら威力が倍。
アベンチュリンは、人差し指を立て、
「リスク等価。——同じ倍率が、自分にも返ってくる。×4の攻撃を叩き込めば、×4のダメージが自分にも。フェアだろう?」
星嘯は答えない。怪人の説明を静かに受け止めている——ように見えた。しかしその金色の爪が
「それと、一度出た目の面は消える。使い切りだ。百面のうち、使った面はひとつずつ暗くなっていく」
「……この不毛も百回で終わる、と」
「その通り。そしてもうひとつ——この空間にいる
「今は僕と君の2人。だから
アベンチュリンは両手を広げた。怪人の爪が琥珀色の光を反射する。
「
星嘯は沈黙を返した。その瞳が一瞬
「……”存護”の基石の持ち主にしては、ずいぶんと好戦的な
「人によるんじゃないかな? 守るためには賭けないといけない。僕はそう思ってる」
仮面は実に愉快そうに、
「——さぁ、ゲーム
先に動いたのは
アベンチュリンの発言を確認するように、金の爪が弧を描いて薙ぎ払う。その瞬間——百面体が回転を早めた。面がめまぐるしく入れ替わり、やがてひとつの面が頂点で止まる。
——×1。
等倍。
リスク等価。本当に——宣言通りだ。
「——なるほど」
二撃目。ダイスが回る。——×1。
三撃目。——×2。アベンチュリンの身体が
四撃目。——×1。
五撃目。——×1。
星嘯は止まらなかった。低倍率の面が多いうちに叩き潰す——そう判断したのだ。
攻撃を繰り出せば、
アベンチュリンは防戦一方だった。仮面に走るひび、シルクハットの端が焦げ、怪人の姿が少しずつ崩れていく。それでも浮遊する足元は揺るがない。
もの数分で——15面が消えた。
「——ははっ」
六撃目を放とうとした星嘯の爪が、笑い声で止まった。
理由は単純だ。
「賢明な判断だね」
アベンチュリンが血を
「でも、攻撃を止めたら君は後悔するかもしれないよ。——ねぇ、使令?」
その声に応えたのは、足音だった。
琥珀色の
「——参加しよう。私は初心者だ、お手柔らかに頼む」
その発言をした瞬間、
——×8。
3人目の参加。
——
「
「見ていただろう?」
「ああ……おおよそは」
黄泉は刀に手を添えたまま、
「私は
「もちろんさ、これはどうなるか楽しみだな」
黄泉が踏み込む。髪が端から白に染まり、鞘から刀を抜き放つ動作と、袈裟に斬り下ろす動作がほぼ同時に見えるほどの凄まじい速度——
——既に暗くなったはずの面で止まった。
「さすが——”虚無”。
アベンチュリンが短くこぼす。
リスク等価——等倍の反動は、"虚無"にも返る。ただし倍率は乗らない。×1のまま。
どうやら、この場において——”虚無”とはそういうことのようだ。
「……それは、ずるいのでは」
星嘯の声が、すとんと落ちる。
「イカサマじゃないさ。彼女の肩、見てごらん。ルールは破っていない。彼女はどこまでいっても
アベンチュリンが問いかける。まず選択肢は二つ。
攻撃すれば——高倍率を引くリスクを負う。もし×8が出れば、自分の身体も8倍の衝撃を受ける。
攻撃しなければ——
どちらも実にいやらしい二択だ。
——この
——であれば、二択ではない。
——三択目、耐えるという選択。
当然、黄泉の身体にも等倍の傷は返ってきている。露出している肌からは痛ましい切り傷が
だが、
「……やれやれ」
そう上手くはいかないか——とアベンチュリンは肩をすくめた。こうなると長期戦になる。
一方で、
アベンチュリンの仮面に、また一筋のひびが走った。
黄泉の刃が四度、五度と
だが、アベンチュリン自身の消耗は——確実に、蓄積していた。
★ ★ ★
……どれくらい経ったのか、わからない。
体育座りマンは相変わらず動かない。背中だけがそこにある。
俺はさっきから——さっきっつってもどのくらいがさっきなのかもわかんねーけど——ずっと、こいつの斜め後ろに座って、白い
……
…………
暇だ。
致命的に、暇だ。
死ぬほど暇。いや、死んでるのかもしれないけど。
楽器庫待機でもう俺の暇つぶしネタほぼ尽きてるんですけどぉ。
あーやばい、なんかテンションおかしくなってくるわ。人ってこうやって発狂してくんすね、ははっ。
ここまで何もすることがねぇとなると……、いやもうなんでもいいから考えよう。仕事のこととか、昨日の飯のこととか、カフカさんのバストとヒップははたしてどちらがデカいのかとか、あれれー今度は時間がいくらあっても足りなくなっちゃったぞ???
……
…………
いやぁ……しっかし、
——思えば、ゲームやってるときが一番平和だった説あるな。ダメージ受けんの俺じゃなくてゲームのキャラだし。
あの頃はよかった。毎晩ログインして、チームでダンジョン回して、終わったらだらだらボイチャして。時にシルヴァが
シング——シング、シング、アリア、シング、シング、ロビン、シング——
そこで思考が引っかかる。釣り針に引っかかった魚みたいに、するっと流れていた意識が急に止まる。
そいや……前、シングが話してくれた、なんか話がなかったっけ?
たしか、たまたま俺とあいつの2人だけがログインした時があって——しゃーなしに、2人パでクエスト行って、その帰りだったっけかな。シングがぽつぽつと語り始めたんよな。
なんつってったっけなぁ、結構前だしなぁ、……あーんと、あー……はいはいはい、そだそだ、
たしか
——鳥かごと、空と、どっちが正解だったのかってやつだ。
あんとき、俺が答える前にシング落ちちまったんだよな。
——いつか、答えを聞かせてね。アネモネさん。
シングの声が、妙にはっきり再生される。
答え、か。
今なら出せるかって言われると——
…………。
どう、だろうな……。
ビョルンとソニアのことを思い出すと、余計にわからなくなる。あの二人がやったことは——正しかったのか。間違ってたのか。救いたかっただけなのか。壊したかっただけなのか。
ぐるぐる回って、答えが……出ねーや。ん?
なんだ、なんだ?
——なんか、あたたかい。
……はい?
唐突だった。白い空間で何の前触れもなく、温度……が生まれた。今まで感覚がぼんやりしてたのに、そこだけやけにはっきりしている。あたたかくて、それでいて……少し、しめって、いる?
ん……しめ……
あたたかくて、湿っている。
え、ちょっと待って。
え、待って待って。
ある非常に勘弁していただきたい、1つの可能性が思い当たり、
下半身を確認する。——確認しようとする。感覚がぼんやりしてるから自信がねーけど、たぶん大丈夫。たぶん。いや、頼むから大丈夫であってくれ。人生最後の記憶がそれは嫌すぎる。にょにょにょ、そんなのやだにょ〜〜〜。
落ち着け。場所を特定しろ。
あたたかいのは——下じゃない。顔だ。
よ、よし——って、あ?
何かが、その頬を伝って流れている。
——なみ、だ。
涙?
いや、俺は泣いてない。泣いてないはずだ。泣く理由がない。泣いてなんかないもん!! つーか、このあたたかさはどうやら俺のもんじゃない。外から来てるっぽい。
——誰かが、泣いてる?
——でも誰が?
ここには俺と体育座りマンしかいない。あいつが泣いてるのか? いや、そりゃねーな……あいつは背中を向けたまま微動だにしてない。それに、あいつからこの距離で涙が飛んでくるのは物理的におかしい。どんだけ飛び散ってんだ。しかもホーミング式かよ。
じゃあ、外、なのか?
この白い空間の外にいる誰かの涙が、ここまで届いている、とか?
そんなことがあるのか。わからない。でも頬のあたたかさは嘘じゃない。ここに来てから初めて感じる、確かな
——ロビン。
根拠はない。証拠もない。ただ、そう思った。
その瞬間だった。
白の中に、初めて——色が生まれた。
青。儚く、淡い、透き通るような青。
最初は光の粒なのかと思った。白い空間の中で、ぽつんとひとつだけ色を持った何かが浮かんでいる。
それが動く——いや、二つの何かが新芽のように生えていて、
羽ばたいた。
小さな翼が白い空間を叩いて、ふわりと宙を
鳥。
小鳥だ。
なんで。どうして。ここに?
混乱した。シングの話を思い出したばかりだ。タイミングが出来すぎている。俺の脳がおかしくなって、マッチ売りの少女的な、幸せな幻覚を最後に見せてくれているのか。
それとも——この空間が、何かに反応したのか。
小鳥は迷子みたいにふらふらと飛んでいた。白い空間の中で、自分がどこにいるのか、わかっていない感じだ。
そいつが俺の近くまで来て、ぱたぱたと翼を動かしながら——俺の頬のあたりを通り過ぎた。
通り過ぎた瞬間、また温かさを感じた。さっきと同じ温度。
——あぁ、そうか。
この小鳥が運んできたのか。外の誰かの——たぶんロビンの——何かを、この空間まで運んできたのか。
理屈はわからない。でも、そうとしか思えなかった。
——白が、濃くなった。
気のせいかと思った。でも違う。空間の白が、明らかに濃度を増している。目が痛いくらいの白。白いLED光を直視したときみたいな、圧のある白さだ。
そんな光に、小鳥が押されていた。
見えない力が、青い小鳥を空間の外に押し出そうとしている。小鳥はぱたぱたと必死に翼を動かしているけど、少しずつ後ろに下がっている。白い圧が、異物を排除しようとしていた。
体育座りマンは動かない。こいつがやってるわけじゃない。
——たぶん。これはこの空間そのものの性質だ。
ここは”解放”の場所だと、なんとなく感じていた。あらゆるものを手放す場所。何かが入り込むことを、空間そのものが
小鳥が押し戻される。青い羽根が白に飲まれそうになる。
——身体が動いた。
考える前に、そっちへ。
小鳥の前に出た。両手を広げて——広げた感覚がして——白い圧に向かって立ち塞がった。
「——やめろ」
声が出た。出た気がする。
だめだ。こいつを追い出すな。こいつは——こいつを寄越したやつは——たぶん泣いてんだ。だけど、泣きながら、想いだけはここに手を伸ばしてる。うぬぼれじゃなければ、俺に対して、手を伸ばしている。
それを追い返していいわけがない。
白い圧が、俺を押した。
——押した、はずだった。
何も、感じない。空気のカーテンのように素通りした。圧は俺を認識していない。まるで対象じゃないと言わんばかりに。
俺はこの空間の住人だから——この白の中にいることを、どういう訳だか、許されている側だから。
だったら、なおのこと、どくわけにはいかねぇ。
俺が立ってるだけで、小鳥はその影に入れる。圧は俺を透過するけど、俺が前にいるかぎり、小鳥への圧力は弱まる。壁にはなってやれなくても、風よけくらいにはなれるはずだ。
足を踏ん張った。踏ん張った気がする。ここには地面もねぇんだけどさ。
「
小鳥がぱたぱたと俺の背中のあたりに
白い圧が、さらに増した。
いよいよもって空間全体が
ただの”反応”なんだ。
”解放”の場に、入ってはいけない異物が入り込んだ。人体が得体の知れないモノを飲み込んだら
でも俺はどかない。どく理由がない。
さっきの戦闘で、ロビンをかばったときと同じだ。身体が先に動いて、理由なんてのは後から頭が作る。それしかできねぇし、それでいいと思ってる。もうちょっとデキの良い頭してたらまた別かもしれねぇけど、どう背伸びしたって、逆立ちしたって、変わることのできない、
——それが俺なんだから。
あるがままにあろうとすることを、誰であろうと、何であろうと否定されたくない。そう生きたいんだ。だってよ、それが——
——背中に、視線を感じた。
視、線。
初めてだった。この空間に来てから、あの体育座りマンが俺に反応したことは一度もなかった。声をかけても無視。近づこうとしても距離が縮まらない。存在を認知されているかすら怪しかった。
それが、
今、確実に——見られている。
背中が焼けるような感覚。
ゆっくりと、振り返——る。
体育座りマンが——顔を上げていた。
こっちを向いている。膝を抱えたまま、首だけをこちらに捻って。
顔は、見えなかった。砂嵐みたいなノイズがかかっていて、
でも——目が、合った。
顔が見えないのに、目が合ったと確信した。ノイズの奥に何かがある。こっちを見ている何かが、確かにある。
世界に
白い空間に、ヒビが走る。ぱきん、と乾いた音がして——ヒビの隙間から、光が漏れた。ちゃんと色のついた。白じゃない光。琥珀色の、温かい光。
音が聞こえる。
遠くから、何かが回る音。金属がぶつかる音。誰かの声。
現実の、音だ。
亀裂がどんどん広がっていく。白い空間が割れていく。隙間から漏れる光と音が、
振り返ると、体育座りマンはもう顔を伏せていた。さっきまでの視線が嘘みたいに、またあの動かない背中に戻っている。
背中にいた小鳥はもぞもぞ出てくると、お礼のように俺の眼前までぱたぱたと飛び上がって一周して、光の中に消えていった。
その後を追うように身体が引っ張られる。
どこかへ、引き戻される。
最後に振り返ったとき、見えたのは——白い空間に広がる亀裂の模様と、その中で座り続ける、ひとりぼっちの背中だった。
——音が聞こえる。
最初はひどく遠かった。水の中に沈んでいて、水面の上で誰かが叫んでいるのを聞いているみたいな——くぐもった、音だ。
それが急速に近づいてくる。
金属の
そして——回転する音。何かが硬い何かの上を転がっている。なんの音だ……わかんね。
重力。身体に重さがある。背中の下に地面がある。どうやら寝ている、仰向けで。
温度が戻ってきた。空気が肌に触れる。生温い。
あと、もう一つ。
胸が——うごめいていた。
うごめく、としか表現できない。胸の中心あたりが引っ張られるような、
薄く目を開けた。
胸の穴が——塞がりかけていた。
人間の身体がやっていい動きじゃない。
——いやいやいやキモいキモいキモい!!!!
キモいって!!!
ゼイン、心からの感想だった。
何がどうなってこうなってんのかは知らない。知らないが、自分の胸の穴が勝手にうねうねニョキニョキ
生ゴミとか山の中で
そんな中でも、意識がはっきりしてくる。身体の感覚が戻ってくる。指先に力が入る。
若干というかだいぶパニクってたが、次に思ったのは、
頬が——まだ、少し湿っていた。
——ロビン。
あいつだ。あいつが泣いてたんだ。やっぱり。白い空間で感じたあたたかさはこれだったんだ。
目を開ける。視界がぼやけて、それから——
やっぱ……泣いてんじゃねーか。
最初に見えたのは、天井でも
あたたかくて、湿っている。
それは——白い空間で感じた、あの温度だった。
頭の下にやわらかい感触がある。どうやら膝だ。ロビンの膝。いつからこうしてたのか知らんけど、俺はこいつの
俺が目を開けたことにも、まだ気づいていない。涙でまともに前が見えてないんだろう。
「……また、助けられちまったな」
ロビンの身体が
涙で濡れた目が見開かれて、こっちをようやく認識する。
「——よぉ、ロビン」
口がぱくぱく動いてるけど声は出ない。それよりも、
「いやぁ、いったん泣くの……止めね? なんか——生きてるわ。俺」
「——、——!!!」
だめだった。泣き止むどころか、余計ロビンの目からぽろぽろ涙が溢れて、俺の頬にぼたぼた落ちてくる。おい勘弁しろ。今度は
と思ったら、物凄い速度で
思わず背中をタップすると、ようやく離れてくれる。
そんでもってロビン、ただでさえ顔面ぐっちゃで真っ赤なのに、一層顔赤くしてるし、忙しいやっちゃなお前……、
目だけを動かし、胸の傷を再確認する。穴はほぼ
まだ完全じゃないものの、致命傷だったはずのそれは、ぐちゅりとうごめきながら閉じ続けている。キモすぎなのは変わらねーけど、ま、まぁもう直視できるくらいにはなっている。
ってか、ロビンにももう少し事情を説明したいところだが、すまん俺が全くわかってない。
「……ほんと何がどうなってんだこれ」
身体を起こす。膝枕の姿勢から上半身をもぎ取るようにして起こすと、胸の中でまだ
「——ひぎィッ!?」
変な声出た。びっくりした……下のお口が拡張されたかと思った……。
どうにかこうにか、こらえつつ、周囲を見回す。
——何だこれ。
琥珀と淡い青緑色の光が空間全体を包んでいる。壁や天井の代わりに、光の膜みたいなものが広がっていて——その中央に、でっかい球体が浮いている。
表面に数え切れないほどの面が刻まれた、あんま見たことのない形状の球。その一部は灰色に暗くなっていて、残りが光を帯びている。
そして、そんな空間の中で——シルクハットに仮面の怪……変態が、宙に浮いていた。
「……は? まだ夢ん中?」
寝てる間に何があったんよコレ。ていうか何だあの変態怪人。仮面にシルクハットて。爪が伸びてるし、普通に宙に浮いてる。意味わかんね。
しかし、その変態怪人だが、
そう、どうやら現在進行形で、ねーちんと怪人が、星嘯とバトっていた。
怪人の仮面にはヒビが入っていて、ところどころ欠けているし、ねーちんもかなりの切り傷と共に血が流れている。2人ともかなり消耗しているのは見て取れた。
つかあの怪人、よく見りゃ服装的に——
目が合った。
怪人の仮面のヒビの奥から、虹色の光が覗いた。クジャクの羽根みたいな——
「————チュリ
俺の声が届いたのかそうでないのかがわからないが、とにかく、黄泉のねーちんが更に前に出て、星嘯に刀を打ち込み始めたタイミングでそばに降り立ってくる。
「——おはよう、マイフレンド。死ぬほど疲れて眠ってたみたいだけど、目覚めの気分はどうだい?」
「最悪ですぅ。目覚めて早々グロ画像。つーか何なん、この状況……何がどうなってんのか三行で説明してくんない?」
「——僕の能力でギャンブルゲームを仕掛けた。この場においては、特殊な
「なるほど、わからん」
でも、なにその面白バトル。ゲーマー的に楽しそう。俺がいねーとこで勝手に始めんな。
「大事なことをもう一つ。
アベンチュリンの仮面に、新しいヒビが1本走った。……よくわかんねーけど、こいつが場を維持するだけで精一杯なのが見てわかる。ねーちんもねーちんで攻撃を繰り出す度に、暗くなった
どう見ても静観している場合じゃなさそうだ。
しかし、立ち上がれんのかよ?——と己に問いかける。
胸の傷は塞がりかけ。身体はくっそダルい。パルサーエッジはどっかいったし、ノヴァイレイザーもロビンを受け止めるために走ったとき、捨てちまって手元にない。
手ぶらも手ぶらな、笑える状態だ。
「——武器ねぇんだけど?」
「君にはその立派で便利な身体があるだろう?
ひでーこと言いやがるわ。でもま、
……サボってた分のカバーはしてもらっちまってたみたいだ……やるしかねぇ。
立った。
膝が震えたけど、立てちゃった。
「……これか」
ようやく理解する。
何度も死ぬほど痛い目みてんのに、こうして立てちゃったのも、この様子のおかしいハイパーぼでーのお陰ってワケだ。……思い当たる
——私が治療に加えて、貴重な実験サンプルとしてあなたの身体の最適化等を含めて再建も担当したので、基本的に私の感性? 好み? センス? いえ、どちらにしても変わりませんね、――が反映されています。
いや何してくれちゃってんの!?
俺はマウスなの、ラットなの、モルモットなの???
てか、こんなのが好みなの、センスなの!? やったー!! じゃねーわ!! ルアンねーちゃんじゃなかったらブチ切れ案件だろこれ。
今すぐに質問攻めに行きたい。行きたすぎる。
——くそっ、やること山積みじゃねーか。
そのためにも、何より先にこの状況を生きて、乗り越えねーといけない。
「やりゃあいいんだろ、やりゃあ……インしてやんよ」
「そうこなくっちゃ——マイフレンド」
アベンチュリンの声にほんの少しだけ余裕が戻った。
その瞬間——百面体のダイスが反応した。
残っている面のうち3つ。×1だった数字が塗り替えられていく。
——×16。
俺で——ひぃふぅみぃ、4人目の参加であれが最高倍率らしい。16倍か……想像つかねーな。
面が変化したのをきっかけに——星嘯がこちらを見た。
これまでとは全く違う、ゾッとするような冷たい声で、
「——目覚めて、しまったようですね」
「おはようございまーすーどーもー。——胸に風穴開けてくれた礼を返しに地獄の底から戻ってまいりましたっと」
拳を握る。ぎし、と指の関節が鳴った。いつの間にか右手も復活してんじゃねーかよ。最悪だけど、
——今は最高だ。
武器はない。普通なら頭おかしい。
だけど、不思議だ。
なんとかなる気がしてならねーんだ。
——背後で、動く気配がした。
立ち上がっていたのは、——ロビン。
涙はまだ
「——お、おい……?」
じっと俺を見つめ——頷く。
唇だけが動く。
——もうこんな思いはたくさん。
——最後まで、一緒がいい。
「——ったく、どいつもこいつも覚悟完了した
そして、ロビンは、言葉の代わりに、手を挙げる。
——自分も加わるとばかりに。
残った面のうち2つ——×1が、×32に書き換わる。
——五人目。
「……歌姫まで参加とは、このゲームの
アベンチュリンがおかしくてたまらない様子で笑う。もう元気になったのか、それとも
「——さぁ、まだまだ踊ろうか」
いや、気持ちはわかるんだけどな。俺もとっくに——頭が
「おーよ、こっから——
■執筆時BGM
「バクチ・ダンサー」DOES
「Gamble Rumble」move
「ゴールデンタイムラバー」スキマスイッチ