ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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#47.1 ”I wanna play a game”

 

 

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<チュリ男>

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チュリ男*:やあ、調子はどうかな?

禪院是印(ぜんいんぜいん):よくない

チュリ男*:え

チュリ男*:どうかしたのかい?

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):今、踏ん張ってるなう

チュリ男*:??

禪院是印(ぜんいんぜいん): ヒント お腹の調子 

禪院是印(ぜんいんぜいん): もしかして:トイレ

 

チュリ男*:凄い知りたくなかったなそれ!

禪院是印(ぜんいんぜいん):お前はほんとにウンがいい男だよ

チュリ男*:勝手にカタカナで意味を広げないでもらっていいかい?

 

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):で、なによ

 

 

チュリ男*:彼女、昇進したよ

禪院是印(ぜんいんぜいん):え、誰

 

チュリ男*:ほ

チュリ男*:本気で言ってる?

禪院是印(ぜんいんぜいん):エレーナだろ?

チュリ男*:……

チュリ男*:わかってるならいいさ

 

チュリ男*:”十の石心”となったことで、今や彼女はエレーナじゃなく

チュリ男*:”トパーズ”だ

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):お前らってさ、

禪院是印(ぜんいんぜいん):みんな本名と別にそれ名乗ってんの?

 

チュリ男*:そうだけど

チュリ男*:なんだい?

チュリ男*:もしかして僕の本名が知りたいのかな

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):いや別に

禪院是印(ぜんいんぜいん):チュリ男言いやすいし

 

チュリ男*:……

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):俺も石心になれば、名前もらえんのかなー

 

チュリ男*:ち

チュリ男*:ちなみに

チュリ男*:それ、彼女にも言ったかい?

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):エレーナにか? 報告してきたから言ったけど?

チュリ男*:彼女、なんて?

禪院是印(ぜんいんぜいん):あーなんつってたっけ

禪院是印(ぜんいんぜいん):確認する

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):シトリンとかどう? って

チュリ男*:……

チュリ男*:それ

チュリ男*:それで君は?

 

禪院是印(ぜんいんぜいん):ヤだよ

禪院是印(ぜんいんぜいん):マイナーだし

 

 

チュリ男*:……彼女がこないだめちゃくちゃ荒れていた原因がわかったよ

 

 

 

*名前変更済

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「——あ”~~~、う、生まれる”~~~~」

 

 

 便所で気張りながら、アベンチュリンとチャットしてたところに、

 

 ——それは突然きた。

 

 

 買い換えたばかりの、しんどい日でも安心なゴツいケースに守られて、もはや鈍器(どんき)に近い外見をしているマイスマホから、やたら軽やかな通知音が狭い個室に響き渡る。

 

「ふいーーー、難産(なんざん)でしたわぁ」

 

 とスッキリした気持ちのままケツを拭き、画面を覗き込めば。

 

 

 

 

 『まだ?』

 

 

 

 

 一言。

 

 

 

 送り主は——銀狼だ。

 

 

 

 用件なし。前後の文脈なし。句読点すらなし。疑問符ひとつで全てを言い切るという実にエコな文面だった。

 

 

 うん、

 

 

 ——エコじゃないね、()()ですね。これ。

 

 

「っべー……完ッ全に、忘れてたな——」

 

 

 いやわかるよ。わかるんですけど。

 

 おそらく、このメッセージが意味するところは、これに尽きるだろう。

 

 

 

 ——『"まだ"なの、いつ返すの?』

 

 

 

 俺はスマホを裏返してトイレットペーパーホルダーの上にいったん置く。

 

 

「どう考えても、例の”貸し”のことだよなぁ……」

 

 

 グラモスん時スーパーハカーである銀狼さんに世話になったのは事実で、その恩を返す暇がシロッカだのなんだので、ハイパー忙しい毎日を送っていたせいで忘れちゃってたのだ。ゼインのうっかりさん。

 

 舌打ちをし、

 

 

「どうすっかな……」

 

 

 問題は返すにしても——返し方だ。

 

 どうやって返すかになるわけで。アイツが喜びそうなことねぇ……なんかゲームの課金アイテムなり電子マネーなり送るか? いやいざとなりゃ、あいつ普通にハッキングでやりたい放題できそうだし、

 

 

 

 そんなことをぼんやり考えていた矢先だった。

 

 

 

「——ゼイン~」

 

 便所の個室の扉をバシバシ叩きながら向こう側から(せい)の声がした。え、なに、と一瞬俺の脳が混乱するものの、

 

「……(せい)、ここどこかわかってっか?」

「トイレ」

「男子、トイレな」

 

 何、勝手に入ってきてんだ。子供だから許されるってわけじゃねーからな。

 

「——? 女子トイレうまってるときは私こっちも使ってるよ?」

「はァ——!!??」

 

 思わず水を流し、扉を開けて叫ぶ。

 

「いや待て待て、なに勝手に使ってんだ!?」

「だって、早くしたいんだもん」

「そういうことじゃねーんだよ……」

 

 ため息をこぼさざるを得ない。たしかに女人率激高(にょにんりつげきたか)な我らが星核ハンターであるが、別にこの”ねぐら”自体トイレが不足してるわけじゃない。ちょっと歩いて別のフロアに行きゃあいい話なのだ。

 

 どうするよ……将来、このまま育ち、自分が顔の良い女子であるという自覚なし、いやひょっとしたら自覚ありで、距離感バグったムーブをかまし周りの男子連中の脳を焼いて回るとしたら、(せい)……恐ろしい子ッ!! 

 

 じゃねーわ、俺しーらね。絶対責任問われてもバックれよ。

 

「むー、もういいから、早く来て。エリオ呼んでる」

「待て待て……手を洗うから外で待ってろ」

 

 お説教タイムに突入したいところだったが、()かす(せい)に引っ張られるままにブリーフィングルームに向かうと既にカフカさんもホタルもそこにいた。

 

 卓を囲むように、カフカさんが紅茶を(たしな)みつつ脚を組んで座り、ホタルはその横の椅子にお行儀良(ぎょうぎよ)くちょこんと腰掛けてノートを書いている。

 

 そして、卓上に視線をずらせばエリオが前肢(ぜんし)で顔を洗っているという、銘々(めいめい)が好き勝手にリラックスしていた。

 

 

「——揃ったね」

 

 

 顔を洗い終えて、エリオが淡く透き通った目を開く。

 

「んで、みんな集めて、新しい”脚本”の話か?」

 

 (せい)はまだ足が届かないため椅子に腰掛けてブラつかせ、俺は俺で立ったままエリオに問いかける。

 

 ……さて、お次はどんなめんどい”脚本”を渡されるのかと身構えたら、

 

 

「いや——まずは、最近みんな星核の回収をよく頑張ってくれてるからね。ありがとうと伝えたい」

 

 

 意外な言葉だった。

 

 エリオがこういう言い方をすることは珍しい。こいつは基本、脚本を経由して「次はこう」だの「ここへ行け」だの「この人物と接触しろ」だの、指示と情報しか口にしない猫だ。ねぎらいの類は——記憶にある限り、ほとんどない。

 

 エリオの尻尾がゆっくり揺れる。ブルーの目がテーブルの上を一巡(いちじゅん)して、カフカさん、俺、ホタル、星を順に見た。

 

「率直に言って、素晴らしいメンバーが揃ったと思うよ」

 

 ……へぇ。

 

 そらおまえ、素直に言うなよな、照れるじゃんか。

 

 と思ったのは俺だけじゃなかったらしく、ホタルはノートに早速褒められたことを書き留めてるし、星は「私がそだてた」と笑っている、いやお前そだてられてる側だから……カフカさんですらも、小さく微笑を浮かべている。

 

 やれやれ、でも、まぁ……不自然だな。

 

 (やぶ)から(ぼう)に選挙前の政治家みてーなことを言い出すってことは、まぁ本当にそう思ってもいるのかもしんねーが、同時に前フリ——

 

 

 

「——その上で、提案がある」

 

 

 

 ほーれ、来た。

 

「今の僕たちには、足りないものがあると思うんだ」

 

 エリオの声のトーンが少し強張る。

 

「……ボーナス? 休日? ……福利厚生?」

「ゼインちょっと黙ってくれるかな」

 

 小声で合いの手を入れてやったというのに、エリオからぴしゃりと怒られてしまう。(せい)が、”私はいまのひょうかするけどね” みたいな顔して頷いているのが腹立つ。

 

「カフカくん、何かわかるかい?」

 

「そうね、少し思ってたけど……戦力に(かたよ)りがあるとか?」

 

 どちらかというと、性別に(かたよ)りがあるんじゃないですかねと思ったがそんなことはおくびにも出さない。カフカさんに悪い虫がつかないようにせにゃならん。

 

「うん、正解だ」

 

「さっすがカフカさん!!」

 

 シンバルを叩くサルのおもちゃ並に拍手していると、それをじっと見ていたホタルが口を開き、

 

「た、たしかに、ここにいるみんな、前衛(ぜんえい)が得意だと思うから。後方支援(こうほうしえん)のメンバーとかいてくれたらなって感じるときが時々あるよ……っ!」

 

「その通りだよ、ホタル」

 

「やるじゃねーか、ホタル」

 

 ぱぁ~~と背後に花が咲き誇っている幻覚が見える程に、ホタルは顔をほころばせる。ついでにペンもめっちゃ走っていた。わぁ……また溜まったら報告会数時間コースだなあれ……。

 

 ぐい、と(そで)を引っ張られると、(せい)も自分も褒めろと指差していた。

 

「いや、お前何も発言してねーだろ」

「生きてるだけでえらい!」

「はいはい、偉い偉い」

 

「つまり?」

 

 笑って俺たちのやりとりを眺めていたカフカさんが先を促す。

 

 

 

 

 

「——メンバーを増やそう」

 

 

 

 

 

 カフカさんの目が、スッと細まり、ホタルが小さく息を吸い込むのが聞こえて、星はきょとんとしている。

 

「——私たちだけじゃ、足りないと」

 

 最初に声を上げたのは、カフカさんだった。

 

 腕を組んだまま、静かに——日本刀じみた切れ味の問い方で。

 

 数秒。

 

 ピリッとした空気の中、猫の呼吸だけがテーブルの上に転がる。

 

 やがて目を開けた時、ブルーの瞳にはさっきまでとは違う光があった。

 

「ああ、ハッキリ言うとそうだ。これから先の”脚本”は複雑さを増すし、力技(ちからわざ)だけじゃなく、巧妙(こうみょう)根回(ねまわ)しが発生する。だからこそ、絶対にそういったことに()けた演者(えんじゃ)が必要になる。——ね、ゼイン?

 

 みんなの視線が一斉にこちらを向く。

 

 

 

 ……え、……俺?

 

 

 

 待って待って、何それ聞いてない。無茶ブリが過ぎるだろ。せめてカンペないと困んだけど。

 

 

「そうだな……たしかに……」

 

 

 間をたっぷり使った言葉を吐きつつ時間を稼ぐ。首から下は滝汗出てるが、まぁ落ち着け、ゼイン。

 

 この思わせぶりな言動がいつものエリオで、さすがにもう身に染みてきてるだろうが。本当に腹ん中で何を考えてるのかは一向にわかんねーが、こいつの発言は大体何かしらの意図があり、かつタイミングを見計らっているフシがある……というより、フシしかねぇもんな。

 

 だとするならだ。今、このタイミングで俺に持ちかけてきたということは……何かしらきっかけがあって、そんでもって、後方、支援…………え、マジ、そういうこと? しかも、俺から言えってこと? 勘弁(かんべん)しろよ……。

 

 

「そういったことに抜群な能力を持った……すげぇいい……人材なら、ちょうど心当たりがあり、まして」

 

 

 人差し指を突き合わせながら、俺は覚悟を決める。

 

 

「——誰? 使えるのその人」

 

 心なしか、トゲトゲしさを感じるカフカさんに、

 

「銀狼っつー、その……グラモスん時に結構俺をサポートしてくれたヤツで、まぁ凄腕ハッカーなんですけど」

 

「あー」

 

 と、反応したのは、(せい)だ。こんなかだとまともにその時のことを知っているのはこいつくらいしかいない。

 

「カフカ、ぎんろーはチート」

 

 雑すぎる紹介だったが、一応、俺の援護射撃のつもりなんだろう。くそ、後で(あめ)ちゃんをやろう。

 

「チートね……、まぁいいけれど」

 

 スンとしてしまったカフカさん。おい、ご機嫌損ねちまったじゃねーか……泣きたい。後で靴なめて許してもらえることを願うしかない。

 

 こうなった以上、話を進めざるを得ず、

 

「——けどよ、エリオ。採用活動(リクルート)するにしても、俺、あいつの実際の居所(いどころ)、知んねーぞ?」

 

「聞いてみればいいさ」

 

 エリオに言われるままに、俺は『まだ?』に、対して『お前、今、どこいんの?』と返信すると、

 

 2秒と経たずして、

 

 ——(ほし)の座標と思われるコードが送られてきた。

 

 それをスターピース・マップに打ち込むと、惑星名が表示される。

 

「パンク……ロード?」

 

「——ということだ、行こうか」

 

 尻尾を立てて、卓から飛び降りようとするテンポ良すぎなエリオに俺は待ったをかける。

 

「え、行こうかってお前も来んの?」

 

「たまにはね、みんなで行こうじゃないか」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくしてファミリアみんなで、パンクロードなる惑星に移動中の船内でーす。

 

 カフカさんが操縦席(そうじゅうせき)に座り、残りは俺含めて後部座席群(こうぶざせきぐん)に散らばっている。もちろん俺が操縦し、カフカさんにはくつろいでいてもらうつもりだったのだが、「そういう気分なの」ということでカフカさんが操縦桿(そうじゅうかん)(ゆず)らなかったため、このような形と相成ってしまった。

 

 エリオがわざわざ同行するということ自体がレアなわけだが、当の黒猫はなんか背もたれの上を悠々と歩いて最高地点を確保していた。猫って、なんでか高いとこ好きだよな。

 

 ちなみに、カフカさん。まだ様子を窺う限り、スンとしたまんまだ。やばいよやばいよ。

 

 一応出発前に「カフカさん、あの、銀狼はほんとに腕は確かなんで——」とフォローを(こころ)みたところ、

 

「ふぅん」の3文字で片付けられた。ふぅんて。俺のマインドがクラッシュするかと思ったわ。

 

 それもこれも、エリオのやつ、絶対わかっててあの場で俺に振りやがったな。自分の口から言えば提案で済むものを、俺に言わせることで「ゼインの推薦」という形にした。結果——つまりカフカさんのご機嫌斜めの矛先が俺に向いてしまった。

 

 あのクソ猫……。

 

 と、恨めしい目で背もたれの上を(にら)んでいたら、当のエリオはホタルの隣まで歩いてきて、ぴょんと横に座る。

 

 

「——ホタルくん」

 

「は、はいっ」

 

 背筋がピンと伸びる。鬼軍曹(おにぐんそう)に対する新兵の対応みてーになってら。

 

「力を抜いて。別にぼくはあなたの敵じゃないよ」

 

「……はい」

 

 力を抜こうとして、逆にぎこちなくなっている。典型的なやつだ。エリオが小さく喉を鳴らした。

 

「さっきの——よくわかったね」

 

「え……?」

 

「後方支援が必要だって気づいてたこと。自分の言葉で言えたこと。——あれは、ゼインでもカフカくんでもなく、ホタルくん自身の経験から出た言葉だろう?」

 

 ホタルの目が丸くなった。おなじみのノートをぎゅっと握る。

 

「あ……あたしは、その、ただ、思ったこと言っただけで……」

 

「うん。それがいいんだよ」

 

 エリオは目を細める。

 

「あなたは、楽しい?」

 

「……え?」

 

「この毎日が」

 

 予想外の角度の問い。ホタルが口をぱくぱくさせて、しばらく黙り込んだ。膝の上のノートを両手で握ったまま、何かを探すみたいに視線が泳ぐ。

 

「……楽しい、と思う。たぶん」

 

「たぶん?」

 

「まだ、よくわかんないことが多くて……でも、わかんないことがあるのが、楽しい……のかも、しれないって」

 

 でも、とそこで言葉を一度止めて、

 

「グラモスにいたら、あのまま真蟄虫(スウォーム)たちと戦い続けてていたら、そのわかんないこともわからなかった。だから、」

 

「——いい答えだね」

 

 今度はエリオが言葉を止める番で、

 

「大丈夫さ。あなたは、今、しっかりと生きているよ」

 

 ホタルの耳が赤くなるとこまで確認して、俺はエリオが上司ムーブを続けるのを目で追う。

 

 ホタルから離れたエリオは背もたれの上をてくてく歩いて、今度は(せい)の前へと向かう。

 

 星は窓の外をぼーっと眺めていたが、エリオの気配に気づいてくるっと振り向く。

 

「なに?」

 

「やぁ、(せい)

 

「ねーねー、エリオさ、ぎんろーがもしもなかまになったらさ」

 

「うん」

 

「——”ねぐら”、せまくならないかな?」

 

 ……なんとなくだが、その(せい)の問いかけはただ単純に、物理的に狭くなるのが嫌だと言ってるんじゃないんだと思った。

 

 そういうことじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういうことを問うているんだと思った。

 

 エリオの尻尾がゆらりと揺れる。

 

「——大丈夫だよ。"ねぐら"は、思ってるより広いから」

 

「それなら、たのしみ!」

 

 (せい)は「むふー」と鼻を鳴らして、またあいつの自慢の目のように輝きが散りばめられた窓の外に顔の向きを戻した。

 

 ふと、操縦席のカフカさんの背中が目に入った。

 

 背筋がすっと伸びて、肩の力は抜けていて、操縦桿を片手で軽く握っている。いつまでも眺めていたくなるような完璧なシルエット——なのに。

 

 気のせいじゃなければ、耳はきっとこっちの会話を拾っている。

 

 と考えている途中で、エリオが猫にあるまじき(どん)くさい動きで操縦席の横まで飛び移っていく。

 

「カフカくん」

 

「——最後は私?」

 

「うん——あなたの危惧(きぐ)ももっともだ」

 

「…………」

 

「この場所に新しい誰かを入れることの重みは、わかっているつもりだよ。だからこそ——ぼくは保証する」

 

 カフカさんの操縦桿(そうじゅうかん)を握る指が、一瞬、離れる。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、誰だよ。

 

「……エリオ」

 

「うん?」

 

「保証するのは勝手だけど、——私が見て、ダメだと思ったら連れて帰らないわよ」

 

「もちろん」

 

 エリオが即答した。

 

 カフカさんが小さく——本当に小さく息を吐いて、操縦桿を握り直した。

 

「……到着まで少しあるわ。誰かさんの相手でもしてあげたらどう?」

 

 あ、これスン期、終了じゃないですか。よくやったぞエリオ!

 

「——ありがとう、カフカくん」

 

 そうして、俺は胸をなで下ろしつつ、窓の外に目をやった。

 

 (ほし)の光が細い筋となって後方へと()流れていく。

 

 船内では、カフカさんがコントロールパネルを操作する音、(せい)の足がシートの脚にこつこつ当たる音、ホタルがノートにペンを走らせる音、エリオの喉がゴロゴロ鳴る音、そのどれもが混ざり合って、ひとつの空気を作っている。

 

 俺含めて4人と1匹。

 

 シロッカで出会ったビョルンとソニア姉弟(きょうだい)のように、血の(つな)がりがあるわけでも、同じ故郷出身というわけでも、ない。

 

 なのにどんな因果(いんが)かエリオと出会い、こうして集まっちまった、”星核ハンター”なんつー看板(かんばん)(かか)げた寄せ集め。

 

 前の人生でもロクでもねー環境、こっちの人生でもスタート地点から1人だったわけで、本物なんてものがわかるわけじゃない。

 

 

 

 

 それでも——この船の中の空気は、悪くない。

 

 

 

 

 窓に映る自分の口端(くちは)が上がっていることに気付く頃に、

 

 ポケットの中でスマホが震えた。

 

 浮かぶメッセージは、

 

 

 

 

 『おそい』

 

 

 

 

 『まだ?』から『おそい』に進化してる。イラおこゲージは時間経過と共に着実に上昇しているようだった。

 

 俺は『全速前進中』とだけ返信して、スマホをしまうと同時に膝の上に乗ってきやがった黒猫を()でる。

 

 そして空いてる手は、(ふところ)にあるはずの『ちぇ~る』を探っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

    ★    ★    ★

 

 

 

 

 

 

 

 惑星パンクロード。

 

 着陸して船を降りた瞬間、極彩色(ごくさいしき)にブン殴られた。

 

 

 

 視界を埋め尽くす——

 

 ネオン、ネオン、ネオン。

 

 

 見上げれば空なんてものはとっくに看板とケーブルの密林に食い潰されていて、代わりにこの星の"空"を務めているのは、ビルの壁面にべったり貼り付いた巨大立体視(ほろぐらむ)広告と、路地の隙間から漏れ出す極彩色(ごくさいしき)のネオンサインだった。赤、青、紫、黄緑、——目に刺さる色ばかりが層になって降り注いでくる。

 

 足元を見れば、()がれかけた金属プレートの隙間からケーブルがのたくっていて、そのケーブルの上を平気な顔で小型のスクラップ回収ドローンが走り回っている。道端にはジャンクパーツの山。壊れたモニターの上に誰かが花を生けていた。

 

 そこかしこから飛んでくる音。重低音のビートが地面を這い、頭上のスピーカーからは聞いたことのない音階(おんかい)のメロディと広告が絶え間なく降ってきて、路肩(ろかた)の屋台からは相当劣化している揚げ物の油が()ぜる音と、何語かわからねぇ怒鳴り声。

 

 

 全部が同時に鳴っていて、全部が全部を()き消し合っている。

 

 

 一言を重ねて言えば——うるさくて、明るくて、汚くて、最高にクールな——要するにサイバーでパンクな星ってわけだ。

 

「へぇ……」

 

 マップで確認した際に上がっていた口コミは読んだが、百聞は一見にしかず。想像の300倍はカオスだ。

 

「ゼイン、(せい)、口あいてるよ?」

 

 ホタルに指摘された。やべ、まるで自覚がなかったわ。しかも(せい)と同レベルのリアクションをしてしまうとは……。

 

「すごいね……」

 

 かく言うホタルも圧倒された様子で周囲をせわしなく見回していた。

 

 唯一カフカさんは——涼しい顔だ。ネオンの光が紫色の髪に反射して、なんかもう、えらいことになっている。美しすぎてこのケバい星といえどちゃんと背景にされてしまってますよ、ほほほ。

 

 エリオはカフカさんの足元あたりを歩いているが、この星に対して特に思うところはないらしい。

 

 さて、ここから銀狼に連絡して、合流——

 

 

 スマホが着信を()げる。

 

 

 手間が(はぶ)けたとばかりに通話ボタンをタップし、スピーカーに切り替えると、

 

 

 

 

 

 

 「着いたんだ。じゃあ早速始めよう、ゲーム」

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 ゲーム?

 

 今から会うんじゃねーのかよ。合流ポイントとか、待ち合わせ場所とか、そういう段取りの話でしょ、まず。これだから年下って困るわ~。

 

「ゲームって何だよ。つかわざわざやってきたんだぞ、会おうぜ普通に」

 

「やだ」

 

 やだときた。

 

「お前な……こっちは貸しを返しに——」

 

「知ってるよ。だからその貸し3つをかけたゲーム」

 

「意味わかんねーよ……つーか水増しすんな、貸しは2つな?」

 

「3つ」

 

「2つだろ。星穹列車離脱(せいきゅうれっしゃりだつ)の時と、グラモスの時」

 

「3つ!」

 

「だから何が3つ目なんだよ。教えろって」

 

「だが、断る」

 

 なんだこいつ。怒ってんのか? 理不尽にも程があるだろ。

 

 うんざりとした気分を隠さないままに、

 

「あのなぁ……ゲームって何すんだよ」

 

 数秒の間。

 

 いつもなら即レスしてくる銀狼にしては珍しいタメだった。

 

 やがて——声の代わりにデータが送られてくる。

 

 テキストじゃない。

 

 マップだ。

 

 パンクロード全域を映した3Dマップが送られてきて、再びスピーカーが音を発する。

 

 

 

 

 

 「かくれんぼ。鬼はそっち。フィールドはこの星全部。制限時間あり」

 

 

 

 

 

 かくれんぼだぁ?

 

 こいつ……本気で言ってんのか。星ひとつ使って、かくれんぼだ?。範囲広すぎるだろ。

 

 呆れるのと感心するのが同時に来て、返す言葉を探していると、

 

 

 ——頭上で、何かが弾けた。

 

 

 見上げる。

 

 街の中心にそびえるビルの壁面。さっきまで意味不明な広告が流れていた巨大ディスプレイが、一瞬ブラックアウトした後——

 

 

 

 画面いっぱいに、カウントダウンが刻まれた。

 

 

 

 120:00

 

 

 

 まだ動いていない。開始前の表示だ。つか、短けぇ!?

 

 その下に、添えられているのは、

 

 

 『劇場版 銀狼 vs 星核ハンター

  ——かくれんぼ in パンクロード』

 

 

 街を歩いていた人間たちが足を止めて、ディスプレイを見上げている。何事だ、イベントか、と声が飛び交う。

 

 あのバカ——街のインフラをハッキングしやがった。

 

 スマホから再び声。

 

 

「あ、言い忘れてた。この街のカメラもドローンも電光掲示板も全部私が使うから。そっちは好きにしていいよ。時間内に私を見つけられればそっちの勝ち、パーティメンバーになってあげる——そして」

 

 

 付け足すように、

 

 

 

『もし時間切れになったらそっちの負け

 

 ——ゼインさ、その人たちから乗り換えて、私とパーティー組んで、面白いもの探しに行こうよ』

 

 

 

 画面を見つめたまま、俺の思考が一瞬止まった。

 

 勝てば、「銀狼が仲間になる」。

 

 負ければ、「俺が仲間にさせられる」。

 

 ——つまり、見つけられなかったら、銀狼が俺を連れていく。とんだ逆勧誘だ。

 

 

 ほへーなるほど、と理解が追いついた瞬間——背中がゾワッとした。

 

 

 

 

「——へぇ」

 

 

 

 

 振り返らなくても、わかった。

 

 カフカさんの声だ。お仕置きブリザードモードの……これ、一番やばいやつ。

 

 

「見つけられなかったら、うちのポチくんを連れていく、って

 ——そういうこと?

 

 

「い、いや、あのですね、これは銀狼が勝手に——」

 

「ゼイン」

 

 ホタルの声。こっちも——いつものどこか遠慮のあるおずおずした感じが、()せていた。

 

 

「あたしたちのゼインを、

 ——連れていくって言ってるの? その人」

 

 

 あたしたちの、ゼイン。って何事、急にシェアリングサービス化しないでもらっていい?

 

「——ゼイン」

 

 星もまた、

 

 いつの間にか俺の真横に立ち、ビジョンを見上げており、

 

 

 

「——負けたらゼインいなくなるの?」

 

 

 

 目が、笑ってない。

 

 こいつが笑ってない真剣な目をするのは——かなり、珍しいことで。

 

 どこからともなく俺のあげたバットを抜き取ると地面にバウンドさせ、手元で1回転させてからキャッチする。なに今の(トリック)、いつの間にか扱い方が巧みになってるよこの子。

 

 

「——それはやだ。やだったら、やだ!」

 

 

「い、いやいやいや、みなさーん。かくれんぼだぞ? ただのゲームだろ? な? エリオもなんか言ってくれ——」

 

 

 助けを求めてボス猫を探す。

 

 が、

 

 エリオは近くのベンチの上にちょこんと座って、くぁとあくびをしていた。

 

 

「相変わらず、面白い子だね」

 

 

 それだけ言って、目を閉じてしまう。

 

 

 おい。

 

 

「ぼくはここで待ってるよ。——がんばれ、みんな」

 

 

 はい、動く気、ゼーロー。

 

 こんにゃろ最初から知ってたな。銀狼がこういう仕掛けをしてくることも、俺たちに提示しなかったがおそらく——全部、脚本の中だ。

 

 俺以外の3人が3人とも、静かに——でも確実に、スイッチが入っていた。

 

 カフカさんは刀を抜き、ハイライトオフの目だけがネオンの街を走査(そうさ)している。見敵必殺(サーチアンドデストロイ)ですよこれ。

 

 ホタルは既にエリオによって作られたデバイス型の起動キーをスライドし、SAMを展開している。

 

 (せい)は——ホームランバッター顔負けのフォームで素振りをし、ディスプレイのカウントダウンを見上げていた。

 

 

「…………なんでみんなそんなやる気出してんの?」

 

 

 いや再三言うけど、かくれんぼだよね? 戦争(クリーク)じゃねーぞ?

 

 そんな何故か俺だけが泡を食っている状況をよそに、

 

 カフカさんが、急にサブマシンガンを抜き放ち、街灯の上でこちらを見つめていたカラスを撃ち落とす。ものの見事に火花をあげながら墜落(ついらく)したそれは、地面に当たり飛散する。

 

 

 ばら()かれたのは肉や骨といったものではなく、ネジやチップ——つまり、カラス型のロボットだった。

 

 どうやら、俺たちはそれでもって見られていたらしい。

 

 そんな哀れなカラス君をわざわざ踏みにじってカフカさんは、

 

 

「——あまりナメたことを抜かさないで。

 ——おチビちゃん?」

 

「——へぇ、面白くなってきたじゃん、

 ——おばさん?」

 

 

 ——おま、なんつぅことを言うんじゃ——

 

 

 ビルの巨大ディスプレイから爆音が響き、そちらに目をやった瞬間——

 

 

 

 カウントダウンが、動き始めた。

 

 

 

 119:59

 

 

 119:58

 

 

 119:57——

 

 

 

 

 








てなわけで、各位お待ちかねのスーパーハカータイムです

⇒出力65%



執筆時BGM:「RPG」School Food Punishment



■作者注
えー本話には宇宙船で移動するシーンがありますが、
こちらはスウェットにク□ックススタイルでイオ○や、ら○ぽに、ヴェル○ァイアまたはアル○ァードでペット連れて向かっているわけではありません。
読んでてひょっとしてこいつらは……と思うことがあってもです。

幻視しても、読者諸賢のPCスマホは正常です。



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