ルキンフォー・エム   作:來馬らんぶ

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#6 ” 'M'eaning ”

 

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()

 

 ――そうして、こう考えた。

 

 もしかして。

 

 いや、ただの気まぐれ。

 

 ほんの些細な気まぐれだ。

 

 この星で生まれ、

 この星で育ってしまった自分とは違う、

 外から来た『ナナシビト』なら、

 最期の瞬間に何を考えるのか。

 

 きっと自分の知らない、理解出来ない、

 最初から欠けてしまっている、

 けれど、本当はとても大事な何かを持っているんじゃないか。

 

 だから、自ら賭けを提案しておきながら、口が滑ってしまった。

 

 相手に暗示をかけ、意のままに操る言霊(ことだま)能力(ちから)を無駄に使ってしまった。

 

 ただ別に期待していたわけではないし、慈悲を与えたというわけでもない。

 

 今際(いまわ)(きわ)のお願いなんて惹句(じゃっく)と絶好の機会を目の前に(かか)げられて、賭けには負けたくせに、答えを持ったまま勝ち逃げされるなんてコトが許せなかっただけなのだ。

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 キョウフ。

 オソレ。

 コワサ。

 

 

 いったいそれはなんなのだろう。

 

 いつ死んだっていいじゃないか。

 夜寝るときに明かりを落とすのと何が違うのか。

 終わりは何も変わらないのだから。

 

 お気に入りのお皿があって、

 とても大切にしていたとしても、

 ちょっとした拍子に割れてしまうこともある。

 そしたら捨てるしかないじゃないか。

 

 お互い一生変わらないでいようねと、

 大好きな友人と誓い合っても、

 事故に()って歩けなくなることもある。

 そしたら変わるしかないじゃないか。

 

 日は昇る。日は落ちる。

 月は照らす。月は隠れる。

 

 どんなに素晴らしい時も、

 やがて過ぎ去ってしまうのだから。

 

 だから、そこに意味なんてなくて、

 

 意味なんかないのに、

 

 だったら何故、生きるんだろうか。

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――どこかで、猫が鳴いている。

 

 

 

 

 

 

    ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

 

「——そこまでにしようか」

 

 マジでKILLされる0.1秒前の状況下で、刃先が喉の表皮に食い込んでいる状況下で、

 

 

 

 しゃべる猫。

 

 そう、ぬこ様の降臨だった。

 

 普通ならテンション爆上げだったかもしれないが、あいにくのこの状況下。

 

 まぁこの銀河も広いし、色んな星があるからねー、まぁそういうのもいるかもなー。なんて冷めた思考しか浮かばない。

 

 しかし、

 

 俺のシラけた頭の中など知らず、女――いや、お姉さんは、あいている方の手で銃を抜くとあっさりぬこ様を撃ちやがった。

 

 すわ、動物虐待現場とドン引いていれば、

 

 猫は無残に顔の下から半分が吹き飛んだ聖母様の頭上で微動だにしていない。

 

 むしろ、

 

「――ぼくも1ついいかな?」

 

 何も特別なことなど起こってないですよと言わんばかりに、うろたえた様子など微塵もない。ヒューッ! トンデモねぇ、ただのしゃべる猫なんかじゃないですぜぇ、コイツ出来――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――降りられないんだ。手を貸してほしいな」

「…………」

 

 

 

 

 

 反射的に床にゴンと頭をぶつけてから、つい思わずといった感じで刃を外してしまったお姉さんともさすがに顔を見合わせてしまった。思わず、

 

「や、お前、……猫だろ? ヒョイヒョイヒョイって華麗に降りろよ」

「やれやれ。見た目でしか判断できないんだね。かわいそうに。ぼくは運動オンチなんだ」

 

 やばい、ピキッて青筋立っちゃったかもしれない。チミ、ネコ科動物の分際だよね? 俺、霊長目ヒト科なんだけど? 万物の霊長ぞ? 助けてほしい態度じゃねぇだろ。

 

「いきなり挨拶もなしに、君、何者なの?」

「しがない黒猫さ」

 

 クソネコの間違いだろと、ボソッと小声で補足しておく。そんな俺のプリティでキュアキュアな茶々(ちゃちゃ)をフルシカトし、しばし見つめ合うお姉さんと猫。

 

 やがて(らち)が明かないと判断したのか。突きつけられていた刀を(ひるがえ)す。とっさに頭を引いてなければ、鼻をごっそり持ってかれていた。

 

 一難去ったかと思えば、ブーツでこめかみから踏み倒される。ちなみにヒール刺さってる。あひん。

 

 うーん、この俺なんていつでも殺せるって感じの余裕っぷりシビれるぅ。

 

 ――そしたらお姉さんはなァ、サブマシンガンを水平にぶっ放して、神の家を()端微塵(ぱみじん)にしてもうたんじゃ。

 

 じゃねえわ、

 

 なぎ払うかのごとく連射すると、聖母像のつま先は蜂の巣状態に変わる。

 

 はみ出した銃弾はステンドグラスを盛大に割っていく。うん、普通に飛び散ってくるし、破片刺さってる。

 

 次いで、もう片方の手から伸びた糸は聖母像の首に絡みつき、お姉さんが力を込めると徐々にこちらに身を乗り出してくる。スーパー嫌な予感。

 

 そして、ある角度を超えた瞬間、こちらに向けて紐なしバンジーするに相成った。

 

 なんか既視感あるなと思えば、社会主義国家が崩壊し民衆が独裁者の立像を引き倒す図みたいになってるわ。

 

 わぁ、すごいスローモーションに感じる。きっと走馬灯が走る瞬間てこんなんなんだろうね。

 

 わりいおれ死んだ。

 

 刺殺じゃなくて、圧殺かー、いずれにしても痛いのは勘弁だなぁ――と辞世のコメントを残そうとした刹那、銃から糸に持ち替えたもう片方の手もお姉さんはひねりあげ、

 

 

 

 宙空の聖母像が十七分割された。

 

 

 

 解体された元聖母様の部位が流星雨のように降り注ぎ、この世の終わりかと思う衝撃と鈍い音とホコリが舞い上がる。

 

 すでに目を閉じ覚悟していた俺もたまらず盛大に咳き込む。

 口の中と鼻と喉奥に確実に身体に良くないものが飛び込んでくるのを感じる。

 

 脊髄反射的(せきずいはんしゃてき)にえずき、涙目になりながら、それでも生を実感する。

 

「……ッェ! ……い、生ぎ、で……」

 

 焦点(しょうてん)の合わなかった視界がようやく輪郭(りんかく)を成し、

 

 わずか10センチくらいの距離で、聖母様の鼻から下のえぐれた生首と対面した。

 

 俺の頭とほぼ変わらんサイズの石製。ヘルメットがなければ即死だったというレベルじゃない。三途の川に肩までつかりかけていた気分だった。

 

 ことここに至り、顔を押さえつけていたお姉さんのおみ足がどく。胸のあたりのむかつきを叩きつつ、おっかなびっくりに身体を起こした。

 

 

「――君、意外と運がいいのね?」

 

 

 いや運が良かったらコイントス当ててるし、そもそもこんな目にあってねぇっちゅうに。忘れてたように体中が悲鳴を上げはじめる。

 

「……あだででで……いったいどうなって、」

 

 俺がここの神父さんなら、目を覆って「オーマイゴッド!」と憤死(ふんし)待ったなしの惨状の中で、周囲を見渡せば、

 

 

 肝心の猫が――、数メートル離れた所で物の見事にひっくり返っていた。

 

 

 今の『聖母様、希望の未来へ フル・ダイブ!』の流れで、当然のように投げ出された挙句、どうやら着地に失敗したらしい。

 

 とはいえ無事ではあったらしく、起き上がると”ニャーニャー……”とこちらの気を引くような鳴き声を出しながら、全身を震わせる。やがて、こちらに近づいてくると、

 

「……やれやれ。物騒なやりかただ」

「あら。手伝ってあげただけ感謝してもらいたいけれど」

 

 俺の部屋に不法侵入してきたときと同様の悪びれないトーンだった。このお姉さん、ひょっとして無敵すか。

 

「死んだらどうするのさ」

「その時はその時よ。ここなら隣がお墓だし、色々手間が省けるわ」

「ぼくが、じゃない。ゼインが、さ」

「ええ。その時はその時よ。私の手間が省けるわ」

「ちょちょちょ、なに、あなたたち仲良くなったの?? 一戦終わると友情成立パターン見せられてる??」

 

 つうか、俺の個人情報(なまえ)、流出しとるがな。猫界隈どうなってんだよ。

 

「それを言うなら君の方じゃない? 名前を知ってるみたいだし」

「いやいや全然まったくミリもナノもこんなクソ猫知らないっすよ。犬派ですし!」

 

 こんなん知ってたら、速攻『しゃべるぬこ日記チャンネル~』を立ち上げて、銀河中に癒やしをお届けしつつ広告と案件で死ぬほど儲けてるわ。いいねと良かったらチャンネル登録よろしくお願いしまーす。ではなく、

 

「おいてめこのクソ猫、なんで俺ん名前知ってんだよ!」

演者(キャスト)の名前くらい、脚本家として理解してるさ」

 

 毛づくろいしつつ、ワケのわかんねぇことを言う猫は、

 

「カフカくんもね」

「――へぇ、私もいつのまにか有名になったのね。悪くない気分」

 

 へぇー、お姉さんカフカって言うんだ。ふ、ふーん、べ、べっつにぃ名前なんて気になんかしてなかったけど。カフカ、ね。えーお姉さんのビジュとめっちゃ似合うくないですかぁ? カフカカフカカフカカフカ、ふつくしい。い~い響きです。声に出して言いたくなる。カフカ、さ、ん、なーんちゃって、ウフフ。

 

 だが、俺がうっとりしているのをよそに剣呑(けんのん)さを帯びていく周囲の空気。っかしーな、誰か、冷房つけた?

 

「――もう一度繰り返すけど。そこまでにしよう。カフカくんもゼインをここで殺したところで、得することは何もない。むしろ、取り返しのつかないことになる」

「待て待て待て、なんでナチュラルに俺だけ呼び捨てなんだよ」

「別に。ぼくは対等なモノに対し、敬称はつけないよ」

 

 こ、こんにゃろ。俺を畜生と同レベル扱いだと。怒りのあまり、血圧が上がってしまう。ただでさえ鼓動が早くなるくらいときめいてるというのに。もーこんなんいつ死んでもおかしくないぢゃ――

 

 うなじの辺りに冷たい感触。はい、一歩間違うとこっちが冷たくなるやつ。

 

「何をすれば、取り返しがつかなくなるの?」

 

 あ、(あね)さん、僕ちんなんも言ってねぇっす。

 

「猫さん、なんか言ったげて、お願いマジで」

 

 てか、そうよね。てっきり流れで許された感あった気がしたけど、しただけだったわ。ははっ、ゼインてば、うっかりさん。

 

 猫は俺氏の懇願(こんがん)にすっと正面まで来ると、前肢を揃えていわゆるエジプト座りをする。

 

 全身漆黒の身体に、クリッとした水色の瞳が俺と背後で刀を構えるカフカさんを見据える。

 

 

 

「あと数ミリ。その刃を動かせば、カフカくん。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()」 

 

 

 

 刀越しだったからか、それとも間合いに入っていたからかはわからない。

 

 ただ、カフカさんがこれまでいくら追いかけっこをしても決して乱れなかった、バケモノじみているほど規則正しかった呼吸が、ほんの少しだけ、乱れたように、俺は感じた。

 

 もちろん、振り返ることは許されないんだけど。

 

 

 

「ぼくも知っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そこのゼインは、

 ――あなたの欠けたピースの1つになれる存在だ」

 

 

 

 もう一度、呼吸が乱れる。いや違う。止まったという方が、正確かもしれない。

 

 悔しかった。さっきからとっくに頭の中は(はてな)で埋め尽されている。

 まったく、猫の言っていることも、それを聞いたカフカさんの心の内もわからない。

 

 でも、それは今だ。

 いつか、絶対にわかるようになりたいと思った。

 

 殺されかけてなんだそりゃって言われるかもしれないけど、そう簡単に何もかもを理性が綺麗に割り切れないのが、人間で、黒もあれば、白もあって、へたすりゃドロドロに混じり合った(グレー)もある世界で、ああでもないこうでもないってのたうち回りながら進んでいくのが生きるってことだと思う。

 

 そこに、付け加えるように、

 

 

 

「――()()()。と最初にいうべきだったかな」

 

 

 

 ……あれ、気のせい? なんか刃が震えてない? 心なしか鉄くせぇし、うなじから血出てる気すんだけど。わかったわかった、心の内少しわかっちゃった。怒ってるやつ、これイラってしてるやつ‼

 

 なんでこのドシリアスな空気の中で、ちょっとモノマネぶっ込んでんだクソネコ。

 

「ちょちょちょカフカさん!? よくわかんないけど俺、えー、ピース? ピスピースって感じで、その頑張りますんで! ここはちっと刀をですね、へへっ、1つ収める方向で、」

「…………」

「や、あの、その、えっと、」

 

 なんか、なんかあるだろ、絞り出せ、俺!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――俺、生きたいんす。見つけたんで、生きる意味」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……リアクションはなかった。

 

 どんだけ時間が経ったのか。

 あるいはひょっとしたら、一瞬だったのか。

 

 そんな無限に思えた時間の中で、

 

 彼女の止まっていた呼吸。長く、深い、色んな感情がこめられてそうな息が吐き出される。

 

 

「――――それ、 」

 

 まず、うなじから冷たい感触が失せた。

 

 

 文字通り首がつながった瞬間だった。ゼインくん、セーーーーーーーフ。脳内でアンパイアが水平に両腕を繰り返し広げている。喜びの余り、後ろを振り返れば、

 

 

 

 刀を持った手はおろされ、

 

 唇はわななき、

 

 表情という表情はないのに、

 

 ただ静かに目元から流れる(しずく)があって、

 

 自分自身が何よりも信じられていないように、

 

 そんなことより。何よりも、

 

 すがるかの、ようで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――見つかるかな。私も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中は全部、吹っ飛んだ。

 

 別に、聞いて、と命令されたわけじゃない。

 

 

 そんなんじゃねーんだよ。

 

 

 言いたいから、

 

 伝えなきゃいけないと、

 

 そう思ったから、口に出しただけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、俺と、

 

 ――探しに行きましょう(ルキンフォー)生きる意味を(ミーニング)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









体験版だったら、この辺りで終わるの巻
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